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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科3巻10号

1975年10月発行

雑誌目次

LogosとErgonの間

著者: 山本信二郎

ページ範囲:P.795 - P.796

 われわれを取りまく,専門科目を横文字にした場合,最後に-ologyのつくものとつかぬものがある.前者は,anesthesiology,dermatology,ophthalmology,oto-laryn-gology,urologyなどであり,後者には,medicine,orthopedy,pediatrics,surgeryなどがある.これらを一見して気付くことは,-ologyすなわちlogosのつくのは,新しい部門,すなわち内科あるいは外科から,さらに専門分野として派生した領域のものであり,これを欠くのは,古くからある医療部門であることである.
 Neurosurgeryの中核をなす,surgeryの語源をたどるとsurgery→surgerie→cirurgerie→chirurgeryとなり遂にchirurgia=χειρο〓ργα=χερ+ργονに帰する.これは手の仕事hand workである.外科という言葉の由来も,これは,「内」に対する「外」ではなく,むしろ漢方の「本道」に対応するものである.したがって,外科の起源は洋の東西を問わず,work=ergonの面が強調され,logosとの結びつきが薄かったといえる.外科が真に近代医学の仲間に入れるようになったのは,Listerによる無菌手術に幕を開け,無痛法が確立されて以来のことで,手術治療に対する理論的体系が出来てからである.

総説

レーザの脳・神経外科領域への応用

著者: 渥美和彦 ,   西坂剛

ページ範囲:P.797 - P.803

Ⅰ.はしがき
 レーザは,1)単色性,2)指向性,3)集束性,4)高輝度などの点において,すぐれたコーヒーレント(coherent)な光線であり,従来の非コーヒーレントな光線では考えられない多くの特色をもっている.
 宇宙におけるレーザ通信や計測,プラズマ発光や微小点の溶接加工などとレーザの工学分野での応用はきわめて広い.最近,医学の分野1)においても,レーザドプラー法による血流計測2),あるいはホログラフィによる立体画像3),ダブルパルスホログラフィ法による微小変位の計測4)などの新しい計測方法が開発されている.また,微小点へ集中された高エネルギーを利用して,細胞外科5),レーザ発光分光分析法6),レーザメス7),などの応用が研究されているが,レーザの光としての特殊効果を利用して,網膜剥離に対する光凝固(laser photocoagulation)8)やがんへの破壊効果9)などが検討されている.

手術手技

頭蓋形成手術の進歩—頭皮大欠損の修復とcranio-facial surgeryについて

著者: 福田修

ページ範囲:P.805 - P.811

Ⅰ.序
 形成外科では,体表面の組織欠損,ないし変形の修復が,主目標として取り扱われるが,脳神経外科領域にあっても,頭皮の欠損,前頭骨,酷骨,頬骨等,顔面骨の骨折や欠損,あるいはhypertelorismの如き奇形等で,共同作業を行なうことが多くなりつつあり,一層緊密な関係を保つことによって,大きな進歩を遂げ得るものと期待している.ここでは,大きな頭皮欠損修復の方法と,最近,世界の注目を集め出したcranio-orbito-facial surgeryの二項目について紹介してみたい.

追悼文

中田瑞穂先生のご逝去をいたむ

著者: 植木幸明

ページ範囲:P.812 - P.813

 中田瑞穂先生は,去る8月18日,82年の生涯を閉じられた.50年住みなれた西大畑の,晩秋さいかちの実がかさかさと音をたてて落ち,四季の草花の咲く古い借家の御自宅で,奥様の手厚い看護のもと,その稀にみる一生を終えられた.暑い日であった.胆石症と,それによる肝障害および膵炎が原因であったが,脳は22年前のWallenberg症侯群発症に一致して,左椎骨動脈に限局性のアテローム硬化がみられた以外,動脈硬化はなく,あたかも壮年の脳を思わせるものであった.
 古語に「所謂師は鐘の如しと,大鳴り小鳴りはその撞く人の力に由るまでなり」という.またとない釣鐘にめぐまれながら,弟子の一人として果して力一杯撞いてきたかと思うと,とりかえしのつかぬことをしてしまったような気がして,悔まれてならない.

研究

Glioblastomaの長期生存例と化学療法

著者: 竹内一夫

ページ範囲:P.815 - P.820

Ⅰ.はじめに
 Glioblastoma multiformeを主とするいわゆる悪性神経膠腫(highly malignant glioma)に対する治療成績は今なお貧しく,手術および種々の補助療法にもかかわらず,大部分の症例は術後1年以内に死亡している.この点では最近まで脳神経外科医がほとんど手をつけなかった転移性脳腫瘍にほぼ匹敵するほどの予後不良な腫瘍である.ただ多くの研究によって術後の放射線療法は短期間ながら延命効果をもたらすことが確認されている(Taveras et al.14),Hitchcock & Sato4),Jelsma & Bucy5,6),Weir15),Stage et al.10).筆者は従来より補助療法として更に化学療法を追加することにより,治療成績の一層の向上を期してきたが,その"上乗せ効果"について検討してみたいと思う.

頭蓋内圧亢進時における脳血流障害の研究—(第3報)霊長類を用いた追試実験

著者: 中川翼 ,   都留美都雄 ,   矢田賢三

ページ範囲:P.821 - P.825

Ⅰ.緒言
 種々の頭蓋内病変により,頭蓋内圧がある程度以上に上昇すると,脳血流量の減少をきたすことは,すでによく知られた事実である。しかしながら脳血流量の減少が頭蓋内血流路の,どの部位の,どのような機序により生じるのかという問題は,近年迄,全く体系的な検討がなされていなかったといっても過言ではあるまい2,11).この問題に関して,著者らはすでに第1報5,13),第2報6,8)にてその成績を発表してきた.
 しかしながら,これら既報の実験対象は,すべて成犬であり,ヒトへの適用を考える際,頭蓋の解剖学的構造の類似した霊長類を用いた追試実験が急務と思われた.

Isocount Scanningによる脳血管障害の診断

著者: 山本昌昭 ,   門脇弘孝 ,   今永浩寿 ,   竹山英二 ,   神保実 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.827 - P.834

Ⅰ.緒言
 1964年Harper5)等によって99mTc pertechnetateが開発されて以来,脳scanningは脳腫瘍,脳血管障害等の脳疾患に,広く用いられる様になった.また一方では,scinticameraの発達もあいまって,脳疾患の補助診断法として,脳scintigraphyは重要な地位を占めるに至っており,脳血管障害のscintigraphyに関する報告も多い1,3,4,10,11,13-16,20,21).しかし,従来の方法に関する限り,scintiscanningにしろ,scinticameraによるものにしろ,その診断精度となると,必ずしも満足すべきものではなく,例えば脳硬塞症例における陽性率は,ほぼ40-60%程度であるといわれている(Table2)3,4,15,16,20)
 最近我々は,Isocount法という新しいscanning法を開発し6,7),既に200余例の脳疾患に臨床的に応用し,その結果は既に発表した8,17).従来の方法に比して,検出率は向上していると考えられるのであるが,ここでは脳硬塞症例を中心に,脳血管障害のscanning成績について述べる.

Gasser神経節原発神経鞘腫の神経放射線学的診断

著者: 奥寺利男 ,   高橋睦正 ,   三原桂吉 ,   副島徹 ,   福井仁士 ,   朝長正道 ,   北村勝俊

ページ範囲:P.835 - P.848

Ⅰ.はじめに
 三叉神経Gasser神経節(以下G神経節と略)から発生するneurinomaは頭蓋内腫瘍の中でも稀なものであり,たとえば,SchisanoおよびOlivecronaら15)の統計では,5727例の頭蓋内腫瘍中,G神経節,または三叉神経根原発のneurinomaは15例を数えるにすぎない.一方,本腫瘍は,症候学的にも,神経科,耳鼻咽喉科,眼科領域にまたがる腫瘍であり,診断が難しく,ために確診のつかぬまま症状が進行する例の多い疾患である.
 私どもは,九大脳研外科において,1962年7月から1972年6月までの10年間に組織診断の確定した脳腫瘍症例697例中3例のG神経節原発のneurinomaを経験したので,本疾患の神経放射線学的所見を中心に報告する.

Methylglucamine iocarmate(Dimer-X)による脳室造影—動物実験及び臨床応用

著者: 鈴木重晴 ,   川口進 ,   三田礼造 ,   伊藤建次郎 ,   岩淵隆

ページ範囲:P.849 - P.858

Ⅰ.はじめに
 水溶性造影剤による脳室撮影は,従来の油性造影剤あるいは陰性造影剤として空気等の気体を用いる方法に比べて利点も多く,近年主としてMeglumine iothalamate(Conray 60)を用いて広く行なわれるようになり,その報告も少なくない.しかし,造影鮮明度,髄液中における拡散性及び易吸収性の点では概ね満足し得るものの安全性という点に関しては未だ充分といえる造影剤を得るには至っていない.
 先に,我々はConray 60と化学構造式の良く似た水溶性造影剤であるMeglumine diatrizoate(Angiografin)の脳室造影応用の可否について検討を行なったところ,必らずしも脳室造影剤として使用に耐え得ないものではないが副作用がより高頻度に出現するという点でConray 60に優るものではないという結果であった10,17)

実験的中大脳動脈閉塞症に対するalphamethyltyrosineの効果

著者: 堀汎

ページ範囲:P.859 - P.865

Ⅰ.はじめに
 近年,頭蓋外脳動脈と共に頭蓋内脳主幹動脈閉塞症に対しても積極的に血流再建術が施行されるようになったが,血流再開後かえって出血性梗塞をきたして症状を増悪させる症例も知られ,あらためて手術適応について検討がせまられている.
 1967年Thompsonら16)は頸動脈の完全閉塞症100例に対するendarterectomyの結果を報告し,6時間以内に血流再建術をおこなった4例の全てに良好な結果を得,6時間から24時間以内に手術を施行した場合の成功率は63%であったと述べ,最も重要な因子は血管閉塞から手術(血流再開)までの時間であることを指摘し,早期手術の重要性を強調した.Crowellら1)は動物実験で脳血管の閉塞時間に比例して脳虚血性変化が進行することを示し,4時間以内に血流を再開させれば出血性梗塞の危険はさけられるのではないかと述べた.

症例

上位頸椎Osteochondromaの1治験例

著者: 三森研自 ,   大塚邦夫 ,   岩崎喜信 ,   矢田賢三

ページ範囲:P.867 - P.871

Ⅰ.はじめに
 Osteochondromaは最も普通にみられる骨の良性腫瘍の1つである.この腫瘍は長管骨に好発し,また肩甲骨,腸骨等の扁平骨にも発生する.Osteochondromaが脊椎に発生するのは,きわめて稀とされており,脊椎に発生した場合には,その発育方向により,脊髄,神経根を圧迫し,重篤な神経症状を生ぜしめる可能性がある.我々は,最近,上位頸椎に発生したOsteochondromaの1例を経験したので,これに若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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