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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科3巻11号

1975年11月発行

雑誌目次

小手先だけの脳神経外科医

著者: 最上平太郎

ページ範囲:P.877 - P.878

 「頭がきれて手先のきれる外科医が最も良い.頭はきれるが,どうにも手先のきれないのはまだ見込がある.しかし,小手先だけのきれる外科医は最も始末が悪い.」と.これは私が阪大医学部第二外科教室の新入医員であった当時,岩永仁男教授の言われた言葉である.何でもないような言葉であるが,どのようにも解釈できる意味深長な言葉である.手術というものは別に本を読まなくても見様見真似で或る程度のレベルには達するものである.しかし,それ以後は各症例についての十分な観察と反省,それらをもとにしての研究がその人の進歩を左右することになる.どんな手術にっいてもいえることであるが,脳神経外科の手術はとくに術前の手術についての検討が極めて重大である.手術時の患者の体位,開頭部位とその範囲がまずその手術の成否を運命づけることになる.最初の頃は開頭部位がどちらかに偏したり,大きすぎたり,小さすぎたりして中々うまくいかないことが多く,開頭創をみると初心者か,なれた人かよく判るものである.ついでapproach,手順によって手術を成功にも不成功にも導く.疾患によっておよそ手術方法の基準といったものはあるが,各症例について差があり,画一的な方法でやれるものではなく,それなりの対策をたててのぞまなければならない.

総説

脳炎

著者: 岩田伊保子 ,   堀川楊 ,   椿忠雄

ページ範囲:P.879 - P.887

Ⅰ.はじめに
 臨床的に"脳炎"と診断することは比較的容易でありかつ稀ではない.しかし特異な臨床像をとるもの以外は,ウイルス抗体価お.よびその他の検査を駆使しても,その病因を確認することはしばしば困難である.したがって従来,病変の主座あるいは病理学的特徴をとらえて分類することが多く,種々の脳炎の名称が生じたが,近年のウイルスおよび免疫学的進歩,なかでもSlow Virus Infectionの概念1,2,3,4,5)が導入されるにつれ,特にウイルス感染症の概念は変化してきている.現在ではSubacute sclerosing panencephalitis(SSPE)やProgressive multifocal leukoencephalopathy(PML)など長くウイルスが疑われながら病因の不明であった脳炎で,それぞれ麻疹ウイルス,Papovaウィルスの遷延感染であることが確立されている.今後も更に新しく病因が解明される脳炎のあることが期待される.本稿では新潟大学脳研神経内科で入院治療した脳炎の患者41名の症例を中心に,臨床の立場から脳炎について概説する.

手術手技

Microvascular surgeryの基本手技

著者: 波利井清紀

ページ範囲:P.889 - P.901

Ⅰ.はじめに
 脳神経外科領域においては,Jacobson & Donaghy(1962)1),Kurze(1964)2),Pool(1966)13),Jannetta(1968)4)らにより,手術用顕微鏡によるInicrosurgical techniqueを用いた新しい手術手技が導入された.我が国においても,数年来,盛んにmicrosurgeryによる脳神経外科手術が行われ,今や脳神経外科領域において必須の手技となりつっある5)
 一般にmicrosurgeryは手術用顕微鏡(又は手術用ルーペ)を利用した拡大視野下に行う手術を総称しており,細分するとmicrosurgical dissection(脳神経外科においては,脳動脈瘤のクリッピングやある種の脳腫瘍の剔出において最も多用されている顕微鏡下における剥離手技),microneurosurgery(神経のmicrosurgery),および細小血管を扱うmicrovascular surgeryがあり,その手技を習得することは容易ではない.

研究

脳血管撮影におけるAutotomographyの新しい方法

著者: 清水弘之 ,   佐藤仁一 ,   佐藤修 ,   小林正敏

ページ範囲:P.903 - P.908

Ⅰ.はじめに
 断層撮影の簡便法として,患者の頭を左右に回転させながら正中面の断層像を得る方法は,autotomographyとして広く知られている。本法はZekles cles Plantesにより発案されたもので,特殊な装置を必要とせず極めて便利な方法である.従来までは,気脳撮影や脳室撮影の際,第四脳室やトルコ鞍周辺部の診断に主として本法が用いられてきた.
 近年,脳血管撮影の領域において,種々の診断技術が工夫開発されるに連れて.脳血管断層撮影(angio-tomography)の有用性も着目されてきた.特に深部の動静脈の走行や,脳動脈瘤等の血管病変の診断には,きわめて有力なことが認められている2,3,4,5).このように,脳血管断層撮影が普及するに連れ,この分野においてもautotomographyが用いられることが多くなった1)

In vitroにおけるBleomycinの脳腫瘍細胞に及ぼす影響

著者: 原田廉 ,   梶川博 ,   原田康夫 ,   岡田泰二

ページ範囲:P.909 - P.915

Ⅰ.はじめに
 グリオーマに対する手術療法には限界があり,そのため,放射線療法を主体とし,化学療法,ステロイド療法免疫療法等の補助療法が試みられてきた.しかしながら,いずれもまだ,確立された方法となるに到っていない.今回,我々は.ヒト脳腫瘍培養細胞,Ehrlich ascites cascinoma cell, HeLa cellおよびMouse-Foot-Pad cellに対するBleomycinの影響を,細胞増殖抑制効果,細胞の形態変化(光顕,位相差像および走査電顕像)の面から比較検討したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

後交通動脈におけるjunctional dilatationについて

著者: 渡辺光夫 ,   尹清市 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.917 - P.924

Ⅰ.はじめに
後交通動脈が内頸動脈のサイフォン部から分岐する部で,その起始部がわずかに拡大を示す場合があり,これを一般にjunctional dilatation of the Posterior communicating arteryと呼んでいる.なお,別名infundibular widening, infundibulum or infundibular dilata tion of the posterior communicating arteryとも言われている.
我々はTaveras & Wood13)に従い,junctional dilatation of the Posterior communicating artery (以下junctional dilatationと略す)と呼んでいる.

外減圧術における頭蓋骨弁保存の1方法(第1報)

著者: 中島孝之 ,   田中衛 ,   染田邦幸 ,   松村浩

ページ範囲:P.925 - P.927

Ⅰ.はじめに
 急性頭蓋内圧亢進に対する手段は,観血的,非観血的を含め,いくつかの方法が知られているが,外減圧術5,8)は,常に最良最適とはいえないまでも,その減圧効果の大であるのに対し,手術浸襲は比較的小さいことから,しばしば試みられて有効な手段の1つである.この場合,一般的にいって,除去する骨弁は,可及的大きなものとすることが望ましいが,減圧術施行の甲斐あって救命,更に社会復帰も可能となった時,骨弁除去部の大きな頭蓋欠損の修復に頭を脳ますことになるのが常である.
 このような場合,非生体補填材料として,現在Tantalurn, Stainless steel,Titan,Acryl plate, Resin plate等が,一方,生体材料としては,肋骨や腸骨よりの新鮮自家骨,更に同種骨,等も用いられるが10),所謂Kielbone graftのように,脱灰,脱蛋白した材料では骨新生誘導力も弱く2),形態上も,満足出来る外見を形成することに困難を覚える.これらの条件を満足するには,一度除去した自家骨弁を再移植することが最も望ましいことには,説明の余地は無いであろう.

脳底正中部病巣のシンチグラムの臨床診断的意義

著者: 池田卓也 ,   戴礼忠 ,   堀部邦夫 ,   近藤孝 ,   魚住徹 ,   神川喜代男 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.929 - P.937

Ⅰ.はじめに
 脳シンチグラフィーは,我国においても脳神経疾患のスクリーニング検査として急速な普及を示しつつある.脳腫瘍などに対しても80-90%の検品率が報告されているが,その疾患の種類,部位による特徴や診断的価値については,たとえば甲状腺疾患に対するシンチグラフィーなどに比較すると未だ充分認識されているとはいえない.
 大脳半球ことに凸部の髄膜腫や転移腫瘍に対する100%近い診断率に比べると後頭蓋窩を含めた脳底部病変に対する診断率は低く,脳シンチグラフィーの弱点の1つともいわれている6,8).脳底正中部つまり,トルコ鞍周辺の病巣についてその原因を考えると.

脳血管攣縮の実験的研究—特に視床下部及び脳幹部の微細循環について

著者: 勝又次夫

ページ範囲:P.939 - P.946

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤の破裂により発生するクモ膜下品血の際,脳血管攣縮がかなり高率に認められ,しかもこれがその患者の予後に重大な影響を及ぼす事が多くの研究者により報告され,注目をあびて来た1,25).Schneck等は23),臨床病理学的立場から53例の破裂動脈瘤患者の剖検所見と,その脳血正管撮影所見とを対比して,diffuse spasmと脳硬塞とは密接な関係にある事を認めた.又Robertson等は20),脳動脈瘤破裂症例の検討からSpasmに起因するischemic lesionが神経症状の主本をなす事が多いと報告した.この様に脳動脈破裂後に高頻度に認められる脳血管攣縮は,脳に広汎な乏血性変化をもたらし,軟化巣形成に関与し,これが神経症状を悪化させ重篤な意識障害に至らしめる事が明らかにされて来た.さらに脳動脈瘤はウィリス動脈輪,特にその前半部に多発する事が確かめられている27).ウィリス動脈輪は,脳底部に於いてこれから出る種々の太さの穿通枝により視床下部,中脳脳幹部等生命維持に極めて重要な意味をもつ部位に血液を供給している9).動脈瘤が破裂すると,破裂部位より逸脱した血液は,当然脳底槽に貯留し血塊を形成する.この血塊は,ウィルス動脈輪から出て視床下部中脳脳幹部を栄養する多数の穿通枝を圧迫し,この部の血流を高度に障害すると推定される.事実Cromptonは7),106例の破裂動脈瘤患者の剖検例中61%の症例に視床下部の出血性及び乏血性病変を認めたとのべている.

実験的上矢状静脈洞閉塞の病態(第2報)—実験的上矢状静脈洞閉塞に合併する脳室拡大—組織形態学的検索を中心として

著者: 宮上光祐 ,   中村三郎 ,   森安信雄

ページ範囲:P.947 - P.954

Ⅰ.緒言
 正常の髄液吸収経路については,Key and Retzius7).Weed20,21),Davson5),Shabo and Maxwell16,17)らにより髄液がArachnoid villiから上矢状洞へ吸収されている事実が確認され.現在このArachnoid villiを介する経路が髄液吸収の主要経路と考えられている.さらに実験的に上矢状静脈洞を閉塞させた場合,髄液循環障害が発生することも明白な事実である11)
 Symonds19)(1931,1937),Russell5)(1949),Bering and Salbi4)(1959)らによれば,正常の場合,静脈洞内圧は髄液圧より低いが,静脈血栓症の場合,静脈洞内圧の上昇とともにArachnoid villiからの髄液の吸収が障害され,脳室拡大が起るとしている.しかし,Beck and Russell3)(1946),Klosovsky8)(1968)らによる実験結果では,上矢状洞を閉塞してもHydrocephalusは発生しなかったと述べている.さらに,その後の臨床報告例を見ても脳室拡大のみられる症例とない場合があり,いまだ上矢状洞閉塞における病態は明らかにされていない.

症例

葡萄膜炎を伴った脳内原発性細網肉腫の1例

著者: 前川潔 ,   石田淳 ,   久保光伸 ,   栗山剛 ,   福田富司男 ,   中林正雄 ,   中谷俊生 ,   岡久雄 ,   小田冨雄

ページ範囲:P.955 - P.959

Ⅰ.はじめに
 脳内原発性肉腫は比較的まれなもので,諸家の報告によれば全脳腫瘍の1%内外を占めるにすぎないが1),なかでも細網肉腫(reticulum cell sarcoma)は少なく,本邦においても著者らの調べた範囲では30数例が報告されているだけである2-7,11)
 1972年,Neaultら9)は葡萄膜炎を伴った7例の脳内原発性細網肉腫を報告しているが,最近われわれも原因不明の葡萄膜炎で発症し,興味ある臨床経過を示した脳内原発性細網肉腫の1剖検例を経験したので報告し,若干の文献的考察を行なった.

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紹介

ページ範囲:P.924 - P.924

「精神医学」16巻1号より連載
「精神医学」誌「古典紹介」欄内容一覧

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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