icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科3巻2号

1975年02月発行

雑誌目次

広い裾野

著者: 竹内一夫

ページ範囲:P.89 - P.90

 わが国において脳神経外科が独立した診療科目に公認されてからはや10年になる,その後認定医制度も発足し,今では卒後すぐに脳神経外科医としての訓練がはじまった人々も少なくない.昭和23年に日本脳神経外科学会が発足したころと比らべるとまさに隔世の感がある.当時は独立した脳神経外科の教室や診療科は皆無で,もちろんフルタイムの専門医も見当らなかった.その後多くは外科医の中から脳神経外科を専攻する入々が輩出し,今日では独立した講座も診療科も決して珍しくない.
 今日のように学問が細分化し,専門化すると,昔は一般の外科医がすべて受け持っていた頭蓋腔・胸腔・腹腔内の手術も,それぞれ専門家達の手によって行われるようになった.もちろん質においてははるかに高度の診療が行われていることも事実である.したがって医科大学の新卒業生が脳神経外科を志す場合,修練中に脳神経外科以外の領域の知識を吸収する機会に恵まれなくなる傾向が出てきた.また若い人達もできるだけ早く専門的な知識や技術を身につけるべく急ぐあまり,直接関係のないような領域にあまり興味をもたず,ただひたすら専門領城にのみ注目し,先を急いでいる傾向がある,そしてすでに少し前までは広い外科学の中ではきわめて狭い専門的な部門とされていた脳神経外科の中で,さらに限られた特殊なテーマのみに興味をもっている入も見受けられる.

総説

ウイルスと脳腫瘍

著者: 向井紀二

ページ範囲:P.91 - P.112

Ⅰ.はじめに
 すでに制限の紙面もつきているため,最後に簡単にヒトの脳腫瘍の研究からウイルスとの因果関係を暗示した2,3の重要な知見を要約し,結びの章に代えたい.Albert-Reid(1972-1974)は,reverse transcriptase(Temin,水谷,Baltimoreら)が,ヒトの胎生型神経腫瘍にかなりの高率で証明されることから,これらの特有な未分化型腫瘍とウイルスとの関係を強調した(Table 5).Hellströmら(1969,1970)は,TSTA交叉反応陽性のヒトの髄芽細胞腫の症例からウイルスが発癌の引き金となることを予測した.一方,C型粒子を化学物質(I,5-BUdR, Doerfler,1968)あるいは起合胞性ウイルスで誘発,直視下で証明すること.そのほかあらかじめ動物のoncorna virusで作った腫瘍から抽出した70S-RNAに対応する3H-DNAを合成しておき,これを用いてヒトの癌細胞遺伝子中に発癌ウイルスの核酸が組み込まれているかを核酸間の相補的結合によって証明する方法などが現在進捗中の研究方向である(Table6).

手術手技

Craniostenosisの手術

著者: 堀浩 ,   上島治

ページ範囲:P.113 - P.121

Ⅰ.はじめに
 狭頭症すなわちcraniostenosisあるいは頭蓋早期癒合症craniosynostosisに対する手術はずいぶん古くから試みられている.要するに,いずれも頭蓋骨に溝を掘ったり,穴をあけたりするわけだから,その手技はあまりむずかしいものでもなく,込み入ったものでもない.それでも若干のコツはあるが,むしろ溝や穴を掘る位置にちょっとした工夫を要する.さらに真性の狭頭症ではなくて,二次的に発生してきた狭頭症や,小頭症的な病態を含む症例に手術を施す場合には,手術手技そのものよりも,これらの病態に対する深い理解が大切なのである.このような意味から,まず狭頭症・小頭症群の病態を,手術適応の考察という立場から述べてみたい.

研究

側頭部骨折の実験的研究

著者: 松井孝嘉 ,   紀平正知 ,   小林肇

ページ範囲:P.123 - P.129

Ⅰ.はじめに
 頭蓋骨々折は種々の原因で起こるが,その原因によって,起こる頭部外傷は,ある一定のパターンをとることが多い.
 たとえば,交通事故もそうであるが,自動車の正面衝突でおこる頭蓋骨々折は,前頭部打撲によるものが大部分であり,これに関しては,当教室の益沢によって研究され,その結果は,既に,発表されている11)

頭部外傷における過換気療法—Ⅰ.自発的過換気現象と補助呼吸

著者: 桂田菊嗣 ,   小川道雄 ,   南卓男

ページ範囲:P.131 - P.138

Ⅰ.はじめに
 最近,頭部外傷に対する過換気療法が一部の人たちによって推奨されている.本療法を支持する根拠としては脳血管床の減少による頭蓋内圧下降作用のみならず,inversed stealによる病巣部の脳血流増加5),呼吸性アルカローシスによる脳組織アシドーシスの補正4)などがあげられているようである.
 しかし,われわれが実際に臨床例をよく観察していると,過換気療法を試みるまえに,いろいろな問題点や疑惑に当面する,どのような患者に,何を指標として,どの程度の換気を行なうべきかということがまだ解決されていない問題である.過換気によるアルカローシスの悪影響や脳血流減少も懸念される点である.人工陽圧呼吸による胸腔内圧や心循環系などへの影響も心配される.そしてまた,たとえ過換気の目標が定まったとしても,その目的達成のためには技術的に多大の困難を伴うのが常である.

クモ膜下出血後の脳脊髄液循環動態に関する研究

著者: 平塚秀雄 ,   菅沼康雄 ,   露無松平 ,   大畑正大 ,   稲葉穣

ページ範囲:P.139 - P.144

Ⅰ.はじめに
 クモ膜下出血(SAH)後に起こるcommunicating hydroeephalusに基づく種々の精神・神経症状に対して,shunt手術が有効でありたとのFoltzらの報告8)にはじまり,Adamsらの,いわゆるnormal-pressure hydro-cephalus(NPH)に関する報告2)により,SAH後の脳脊髄液(CSF)循環動態の異常が,近年新たな注目を集めている.一方,脳神経外科領域における脳動脈瘤手術の進歩に伴い,手術死亡率は著しく減少してきたが,術後の精神神経症状を残すものがあり,それら症状の発現に循環動態の異常が重要な要因の1つとなっているものと,思われる.
 われわれは,主として脳動脈瘤破裂によるSAH後に生ずるCSF循環動態の変化を明らかにするために,isotope cisternographyを行ない,その所見の分析と,臨床症状,病変の位置,種類,出血回数,手術の効果等との相関関係について検討を加えた.

くも膜下出血剖検症例の臨床病理学的研究(第2報)—剖検脳に認められる鉄顆粒細胞の意義について

著者: 榊三郎 ,   尾藤昭二

ページ範囲:P.145 - P.151

Ⅰ.緒言
 くも膜下出血剖検脳に認められる病理所見のうち脳軟化巣と脳実質内出血巣は主要な所見であり1,2,15,17,19,20),またこれら病理所見がくも膜出血の続発性変化であることは今日異論がない.
 一方,くも膜下出血症例の臨床的観察4,12-14,22)や実験的くも膜下出血例の成績より3,8,9),くも膜下腔に出た血液が容易に脳血管を攣縮せしめるというきわめて興味深い事実がある,脳血管攣縮というこの臨床的現象は前述のくも膜下出血剖検脳に認められる脳軟化巣や脳実質内出血の発生機序を説明するのに重要な所見である.

実験的水頭症における脈絡叢の電顕的検索

著者: 中村三郎 ,   大井美行 ,   森安信雄

ページ範囲:P.153 - P.162

Ⅰ.緒言
 Dandy4)(1918)の実験以来,脈絡叢は髄液産生のmajor sourceとして注目されてきたがBering & Sato1)(1963)の検索で,"Extrachoroidal source of the cerebrospinal fluid"が証明され,髄液産生の場に関して新たに検討が加えられている.
 一方,水頭症における脈絡叢の変化についてても,従来より種々な検討が行なわれている.Hassin6)は12例の水頭症患者における脈絡叢の組織学的検索で,脈絡叢は萎縮,硬化を示しており,この形態学的変化は髄液の産生亢進を示すものではなく,むしろ髄液の吸収に関与していることを示唆するものとして注目した.その後も脈絡叢に吸収作用のあることを支持する報告2,8)がみられる.また,水頭症における髄液産生,吸収動態の検索では,その慢性期において髄液の産生が減少しているという報告7,10)がみられる.

脳膿瘍に関する研究(第2報)—被膜外全摘出術の適応と限界

著者: 篠原豊明 ,   小川信子 ,   加川瑞夫 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.163 - P.169

Ⅰ.緒言
 脳膿瘍の外科的治療に関しては,古くから多くの議論がある.脳膿瘍の治療成績が抗生物質の導入前後で格段の差があることは,今や誰も疑う者はいない1,2,5,10,11,13,16,19,21).しかしながら,近年諸家の報告にみられるように,多種多様の抗生物質が存在するにもかかわらず,脳膿瘍の治療成績は30-40%という高い死亡率を示し,必ずしも満足すべきものではない4,6,9,19,26).この事実は,脳膿瘍の治療方法,特に手術方法および手術時期に,まだ多くの問題点があることを示唆しているものと考えられる.著者らは,脳膿瘍に関して一連の研究を行ってきたが,今回,当教室で行われた脳膿瘍の手術成績を検討し,治療方法いかんによってmortality, morbidityが大いに異なることを見い出した.そこで,脳膿瘍の外科的治療特に被膜外全摘出術の適応と限界について,自験例を中心に若干の知見を述べてみたい(Fig.1).

症例

血栓化した巨大前交通動脈瘤

著者: 伊藤治英 ,   島利夫 ,   山本信二郎

ページ範囲:P.171 - P.176

Ⅰ.はじめに
 巨大脳動脈瘤には一般に直径が25mm以上(MorleyとBarr)18),あるいは,20mm以上(Stehbens)のものが含められるが,その大きさの最小限に関しては一定の見解をえていない.小さな嚢状動脈瘤はクモ膜下出血を初発症状とし,反覆出血を繰り返す.これとは対照的に巨大脳動脈瘤は脳神経障害,または,脳圧亢進のごとき場所占拠性障害を病像の主体とする.このような巨大脳動脈瘤は内頸動脈,とくに,海綿静脈洞の部位に発生頻度が高く,前交通動脈に発生したものは1959年吉村ら38)の1例をはじめとして,Heiskanen10)Pctondi22),Dvorak7),Bull3),Morley18)らの報告をみるにとどまる.
 最近,われわれは17歳のとき視力障害を初発症状とし,約2年で黒内障になり,さらに,10年後に間脳発作をきたし,頸動脈写と手術所見から診断された巨大前交通動脈動脈瘤を経験したので,文献的考察を加え報告する.

硬膜下液貯溜治療中に現われた乳児外傷性前大脳動脈瘤—発生機序と文献的考察

著者: 丸林徹 ,   賀来素之 ,   吉田顕正 ,   松角康彦

ページ範囲:P.177 - P.183

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内動脈瘤発生の原因としては,1)先天性,2)mycotic, 3)動脈硬化性,4)解離性あるいは5)外傷性などがあげられている20,37).このうち外傷性脳動脈瘤として報告された症例には,硬膜内外の内頸動脈などの基幹動脈と4,38,39,41),脳内の小血管群7,21),さらには硬膜動脈28,47)などに発生したものなどがあるが,いずれもまれな報告であり,かつまた動脈瘤発生と外傷との因果関係について疑問視する意見も免れない.
 われわれは最近5カ月半の女児で,閉鎖性頭部外傷により起った硬膜下液貯溜に対する治療中,突然大量の脳室内出血をきたし手術的に出血源として外傷直後の血管撮影には認められなかった動脈瘤によるものであることが判明した症例を経験した.これは従来外傷性動脈瘤として報告されている症例の基準と合致するものであり,動脈瘤に対する根治手術前の再三にわたる血管造影により経過を観察する機会を得,手術により治癒せしめえた.外傷性動脈瘤の発生機序さらにはこれと外傷性晩発性脳卒中5,11,26)との関係について,文献的考察を加え報告する.

--------------------

キーワード基準例

著者: 編集部

ページ範囲:P.185 - P.185

 本誌ではキーワードの統一のために下記の基準例を設けました.投稿されるかたはこれを中心にキーワードをおつけ下さい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?