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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科3巻5号

1975年05月発行

雑誌目次

死よ 驕るなかれ

著者: 永井政勝

ページ範囲:P.361 - P.362

 アメリカの有名なジャーナリスト,ジョン・ガンサーの著した「死よ,驕るなかれ」という本は,その日本語訳が,昭和25年に岩波新書に収められ,現在30刷を重ねているので,おそらく大多数の方が一度は読んで居られることと思う.17歳でglioblastoma multiformeのため夭折した自分の息子の罹患から死に至る迄の経過を克明に綴ったこの文章は,この悪性脳腫瘍の怖ろしさをまざまざと描き出したものであり,脳神経外科学的にも極めて貴重な記録と言えるものである.息子のジョニーが病苦をおして高校の試験を突破し,敢然としてその卒業式に臨むくだりは,幾度読んでも涙を禁じ得ないものがあり,感動的な場面である.「死よ,驕るなかれ.死よ,死すべきは汝なれば!」と叫ぶ親,ガンサーの痛切さがひしひしと読むものの胸にひびき理解できるのである.私は幼なくして,または若くしてこの病気のため亡くなって行く患者さんの両親や家族に,この本を読むことをすすめている.この本によって何か救われることが,少しでもあるのではないかという願いからである.それにしても,ジョニーが亡くなったのは1947年である.この30年近くの間にglioblastomaの治療に対して医学は何をなし得たであろうか?この書に書かれた数多くの治療法と比べて,現在の治療法に何等本質的な進歩のないことに吾々は今更のように驚き,そして一瞬,絶望的になるのである.

総説

脳血管のバイオメカニクス的研究

著者: 半田肇

ページ範囲:P.363 - P.373

はじめに
 動脈硬化,動脈瘤などの発生と動脈壁の力学的性質ならびにその局所の血行動態の変化の間には密接な関係がある.この観点に立って,血管系の問題を材料力学や流体力学などの面から解明しようとした試みは古くからなされている.Poiseuilleの法則などもこれらの研究の過程で明らかにされたものである.
 近年,米国を中心としてBiomechanicsあるいはBiorheologyと称される領域が急速な発展をとげてきた.これは生体を医学と力学の夫々専門的な知識を融合した立場から研究しようとするもので,もっとも多くの研究がなされているのが,血液循環系の分野(HemodynamicsあるいはHemorheology)である.私たちは数年前から,脳動脈瘤の成因ならびに破裂機序をBiomechanicsの立場から解明しようとして研究にとりくんでいる.ここでは脳血管の特異性を中心に,その一端を述べる.

手術手技

脊髄血管腫の手術

著者: 斉藤勇

ページ範囲:P.375 - P.380

 脊髄血管腫は,病変よりの出血,圧迫あるいは,血流のsteal現象による正常脊髄の虚血などにより,突発性あるいは進行性に脊髄の横断症候を呈するに至る疾患である.
 このような疾患に対する治療の日的は,進行性に,あるいは発作を繰り返すうちに,脊髄の横断状態に陥ることを防止することである.一度び悪化した神経症候を回復させることは,中枢神経系の血管障害の性質上,困難なことが多く,治療の主要な目的とはならない.この意味から,Svienら19)は,手術治療の適応を,1)進行性の症候を呈する例,2)intractable painを訴える例,3)髄内血腫が存在する例などに限定している.病変よりの出血で,血腫を作らなくも重篤な症候を呈するものであり,その症候が軽度であれば,再出血防止の意味で,治療の適応になろう.Pia14)は,本症による神経症候の程度を3段階に分け,Ⅰ:初期(一過性の症候を呈する時期),Ⅱ:中期(痙性麻痺と感覚低下を呈する時期),Ⅲ:末期(弛緩性麻痺と脊髄の完全横断症候を呈する時期)に分けているが,著者らの経験でも,症候がこの末期の状態で固定してしまった症例では,治療効果がないと考えられる.

研究

外傷性気脳症(脳内脳室内)のRI-Cisternography

著者: 山口克彦 ,   坂井博 ,   比嘉恒治 ,   古川冨士弥 ,   遠藤辰一郎 ,   木田利之

ページ範囲:P.381 - P.387

Ⅰ.はじめに
 気脳症はCharie(1884)が剖検により初めて記載し,Luchett(1913)がX線検査で最初に認めた疾患である.頭部外傷の0.5-1.5%に発生するといわれ,North10)や茂木9)等の集計では約75%が前頭部に発生している.気体の局在部位により硬膜外,硬膜下,クモ膜下,脳内,脳室内気脳症の5型に分類され,X線写真でそれぞれ特徴があり鑑別できる4).最近我々は前頭洞及び篩板の骨折に伴って発生した脳内脳室内気脳症の3例を経験し,2例は手術的に他の1例は保存的に治癒させ131I-RISA cisternographyを施行する機会を得た,症例を報告するとともに術前後のcisternography所見を検討したので報告する.

脳scintigraphy施行時に静脈内投与された99mTcO-4の髄液内移行

著者: 竹山英二 ,   大久保正 ,   馬場元毅 ,   別府俊男 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.389 - P.397

Ⅰ.序論
 各種の器質的,機能的脳疾患において,脳血液関門(blood-brain-barrier以下BBBと略す)は,その透過性に変化をきたすことはよく知られている2,21).しかし現在日常行なわれている一般の臨床検査でその指標となるものは存在しないといってよいであろう.我々はBBBの状態を知る方法として,脳血管写,気脳写,脳波などと並んで,現在ひろく施行されている脳scintigraphyに注目し,その際,経静脈的に投与されるradio isotope(99mTcO-4:technetium pertechnetate)の脳脊髄液(cerebrospinal fluid:以下CSFと略す)への移行を各種脳疾患について検討した.その理由は,脳scintigraphyは上記諸検査と異なり,いわゆる"parenchymatography"としての要素が強く,その精度には限界があるにしても,BBBの崩壊度を視覚化するものであると考えたからである.その際全身的に投与されたradio isotope(以下RIと略す)が,BBB又は脈絡叢を主とする血液髄液関門(Blood csf-barrier;以下BCBと略す)を経てCSFへ移行する程度(静脈血中RI activity/CSF中RI activity)は,障害部位の機能的状態を反映するはずである4,6,7,11)

骨シンチグラフィーの脳神経外科領域における臨床的応用

著者: 半田譲二 ,   半田肇 ,   山本逸雄 ,   森田陸司 ,   高坂唯子 ,   藤田透

ページ範囲:P.399 - P.405

Ⅰ.はじめに
 骨シンチグラフィーが,原発性・転移性の骨腫瘍やそのほかの各種の骨疾患の診断にきわめて有効な検査法であることはすでに良く知られている.しかし,骨シンチグラフィーに関する報告のほとんどすべては,放射線医学・核医学領域においてなされており,多くの脳神経外科医にとって骨シンチグラフィーの日常の臨床における意義は充分認識されていたとはいい難い.
 われわれは1973年12月以降,各種の脳神経外科的疾患を有する患者に99mTc-diphosphonate,99mTc-polyphosphateによる骨シンチグラフィーを行ない,その臨床的意義を再確認したので,その成績を報告する.

ヒト神経芽腫細胞株NB-Iの形態学的分化—(But)2cAMP投与下

著者: 三宅清雄 ,   北村忠久 ,   下嘉孝

ページ範囲:P.407 - P.414

Ⅰ.いとぐち
 細胞が,どのようにして形質を維持し,その形質発現をするのかという機構が分子生物学的な手法のもとで,明かになるにつれて,ことに細胞の分化過程に内臓されるこの問題は,こうした事象を端的に代弁するものとして,ことこまかに追究されねばならない重要なものになってきた.高度の分化をとげたと考えられるヒトの神経細胞について,どうした光をあてた上で,さぐってゆくかという技法の問題には大きい弱点が残されたままだといってもよかろう.
 私どもは,この問題をin vitroという特殊な環境ではあるけれども,ヒトのneuroblastoma cellを素材にしてさぐろうとした.もちろん,この細胞は悪性神経芽腫細胞として小児の屍体の頸部リンパ節転移からえられた株細胞であるから,その分化像は,正常の生体のなかで発育・分化の過程をたどる神経細胞の分化とは,大きい差があって比較しきれないものがあるという指摘には承知の上での大胆な実験である.しかも,この株細胞は,すでに神経系統のものとしてmajor differentiatiom(藤田)1)をとげたものであるために,primitiveな外胚葉の細胞が神経管をつくりあげ神経芽細胞にいたる過程を大きく抜きにした分化--幅のせまい--を,さぐるものだということにも反省の必要があると考えられる.その点ではこの実験は,それなりの厳しい批判をうけて当然である.

症例

妊娠時に発症した頸髄黒色腫の1例

著者: 山本昌昭 ,   沖野光彦 ,   別府俊男 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.415 - P.422

Ⅰ.緒言
 原発性脊髄黒色腫は,極めて稀な疾患である.黒色腫がneural crest由来のmelanocyteを母地とするならば,中枢神経系にも発生するのは,むしろ当然と言わねばならない.しかしながら,皮膚以外の部位に発症する事は比較的稀であり,中枢神経系に原発した黒色腫は,文献上,現在まで百数十例を数えるに過ぎず,本邦では,20数例を見るに止まる.中でも,原発性脊髄黒色腫の報告は,更に少ない.
 我々は,妊娠後期に発症した,第2頸椎レベルの原発性脊髄黒色腫の1例を経験した.ここに本症例を報告すると共に,少しく文献的考察を加えて見たい.

慢性脊髄硬膜上膿瘍

著者: 深井博志 ,   藤野秀策 ,   玄貴雄

ページ範囲:P.423 - P.428

Ⅰ.はじめに
 脊髄硬膜上膿瘍は脊痛で始まり急性脊髄圧迫症を呈し,減圧手術が遅れると重篤な脊髄麻痺を貽し廃疾となるため,早くから早期診断・手術の重要性が強調7,10,13)されているが,実際は今日でも早期診断は遅れがち4,11,17,25)である.これは本症が比較的まれな疾患1,13,18,25)で,発症より.脊髄麻痺の完成までの経過期間が比較的に速かな症例が多く10,14),この期間は他疾患と誤診看過されることに由来する.
 吾々は最近,慢性経過の本症例の減圧手術を試み,上述の事実を更めて再認識したが,本邦における本症例の報告は極めて少い11,21)ので,茲に報告して諸賢の参考に供したい.

External Carotid-Basilar anastomosisの1例

著者: 伊藤建次郎 ,   川口進 ,   岩淵隆

ページ範囲:P.429 - P.434

Ⅰ.はじめに
 近年,脳血管撮影の普及に伴い,これまで極めてまれであると考えられ,多くは剖検により発見されていた先天性脳血管異常虫たは,脳側副循環路の報告が,臨床例においても,次第に多くみられるようになった2,8,9,13,14,16,17,19-23).external carotid-hasilar nastomosisも,その例外ではなく,これまで,胎生期動脈の遺残として,報告されているのは数例にすぎない3-5,12)
 しかし,二次的な筋枝吻合例は,比較的多くみられるという報告もあり,吻合が先天的なものか,後天的なものかの区別にも論議のある所である4,5,16)

脳血管撮影により誘発された脳動脈瘤破裂—1症例と文献的考察

著者: 大畑正大 ,   川沼清一 ,   稲葉穣

ページ範囲:P.435 - P.441

Ⅰ.はじめに
 脳血管撮影は,1927年Egas Monizによって,はじめて報告されて以来脳神経外科における最も重要な補助診断法となったが,とりわけ脳血管性病変の診断には欠くことができない.一方,種々の合併症が多数報告されているが,中でも最も危険なものに脳動脈瘤破裂がある.このものの発生頻度は極めて稀れであるが,事の重要性のため,報告は散見される.最近我々も,このような症例を経験したので報告するとともに,現在までの文献的考察を含め,その発生機序と問題点について考察した.

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日本脳神経外科学会事務局ニュース

ページ範囲:P.373 - P.373

第34回日本脳神経外科学会総会御案内
 第34回日本脳神経外科学会演題募集とその抄録原稿用紙,第14回日本定位脳手術研究会開催案内,演題採否判定用抄録用紙,プログラム印刷用抄録用紙,早朝セミナー申し込みハガキ,演題申し込みハガキ,宿泊観光案内2通を同封の上,御案内を4月12日までに各会員に発送致しましたので,もしその書類が届いていない方,あるいは不足の方は,学会当局宛に御連絡下さい.

キーワード基準例

著者: 編集部

ページ範囲:P.443 - P.443

 本誌ではキーワードの統一のために下記の基準例を設けました.投稿されるかたはこれを中心にキーワードをおつけ下さい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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