icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科3巻7号

1975年07月発行

雑誌目次

お茶の精神

著者: 桑原武夫

ページ範囲:P.529 - P.530

 「手術というのは,お茶のようでなくては……,お茶の精神が大切なのだよ」と,筆者は教室の若い人々と雑談している折に煙に巻くことがある.大抵は,キョトンとした顔がもどってくる.そこで以下に述べるような説明を始めることになる.
 「お茶といっても,そこらで呑むお茶のことではないんだ.裏千家とか表千家とか言っているお茶の作法,御点前のことを言っているのだ.あのお点前の一連の動作は,何も知らないでぼんやり眺めていればなんとまどろっこしい無駄なことのように見えるかも知れない.しかし,よくよく観察すれば,一連の動作はきわめて順序よく組立てられており,一つ一つの動作の終止と次の動作への準備がうまく結びついており,お点前は個々の手順についても,全体としても,スムーズな水の流れのように進行するものだということがわかる.能率的であり無駄な動作はない.手術というのは,このお点前のように,スムーズな流れであってよどみがあったり無駄があってはならない.手術の各ステップを慎重・確実に進める,止血はその都度丹念に行ない,常に手術野をclearに保ち,orientationをはっきりさせておく.

総説

大孔部骨奇形の臨床(Ⅰ)

著者: 朝長正道

ページ範囲:P.531 - P.540

Ⅰ.いとぐち
 大孔部あるいは頭蓋頸椎移行部には,種々な骨奇形があり,臨床的に多彩な神経症状を伴うことも多い.このような骨奇形の存在は,すでに4世紀頃より知られていたといわれている.その後近世までは主に人類学の立場より興味がもたれてきた.basilar impression(頭蓋底陥入症,以下BIと略す)についてはAckermann1)が1790年はじめて記載し,くる病,クレチン病との関係について論じている.そのほか,老人性萎縮,慢性水頭症,骨軟化症などと関連づけた論文が散見され,Berg & Retzius6)は1855年,その機械的発生要因を強調し,impressio baseos craniiと名づけている.
 1857年Virchow62)は,このような症例で頭底角が大きいことに気づき,これをplatybasiaと名づけ,またBIとクレチン病との関係に否定的な考えを述べている.1865年Boogaard9)は現在でもBoogaard's angle, Boogaard's lineとして知られている頭蓋底の計測法を発表している.しかし,basilar impressionという名称が広く知られるようになったのは,1876年のVirchow63)の論文以後のことであり,この頃より生前の臨床症状との関連についても言及されるようになった.すなわち前記Boogaard9)が運動,言語障害のあった症例を示し,Solbergは,てんかんとの関係について論じている.

手術手技

側脳室内腫瘍

著者: 森安信雄

ページ範囲:P.541 - P.546

 側脳室腫瘍は本来,脳室上衣あるいは脈絡叢から発生して脳室内に発育する腫瘍をいうが,一方脳室壁周辺のglia組織から発生した腫瘍が,抵抗の弱い脳室内に突出発育して脳室腔を占拠するような場合もまた側脳室腫瘍として扱われる,Koosは前者を固有側脳室腫瘍Eigenventrikeltumor,後者を考側脳室腫瘍Paraventrikeltumorと呼んで分けているが,固有側脳室腫瘍としてはchoroid plexus papilloma,ependymoma,meningioma,epidermoid,teratomaなどがあり,旁側脳室腫瘍としてはglioma系のastrocytoma,oligodendroglioma,glioblastoma multiformeなどが多い.
 側脳室腫瘍の発生頻度は,Koosによれば全脳腫瘍の4.17%にあたり,さらに固有側脳室腫瘍は2.9%とされ,全脳腫瘍に対する比率は多いものではない.固有側脳室腫瘍のうち,chroid plexus papillomaは大部分10歳以下の小児期に発生し,ことに1-2歳の乳幼児期に多くみられる.meningiomaは成人に発生するが,男女比では女性にわずかに多いとされている.

研究

後頭部巨大血管腫に血小板減少,貧血,低フィブリノーゲン血症を伴ったKasabach-Merritt症候群—ならびに本症候群の病態生理についての考察

著者: 長島親男 ,   高浜素秀 ,   宮路太 ,   前田和一 ,   松浦黎子 ,   浅野孝雄

ページ範囲:P.547 - P.556

 新生児の後頭部正中線上に大きな腫瘤をみたとき,まず考えるのはEncephaloceleや,Encephalomeningoceleのたぐいであろう.ここに報告する症例は,そうではなくて巨大な血管腫であった.この血管腫は生後10日に紫色に変色した部分で現われ40日頃から比較的急速に増大するとともに,貧血,血小板減少,肝と脾の腫大などKasabach-Merritt症候群の第1期から第2期に進んできた.治療に対する諸家の見解は放射線とステロイド併用法が大勢をしめているが38,59,78),本例は次の3つの理由によって手術を行なった.(1)切除可能な部位であること,(2)血管撮影で多数の血管網があり,この乳児の循環血液量の相当な部分が巨大血管腫に奪われてHigh cardiac output syndrolne12,25)→心不全を来していると考えられたこと,(3)腫瘤血管に含まれる血小板数の方が末梢血の血小板数より多く,血管腫内に血小板の抑留と破壊(sequestration)が起っていると想定されたこと.手術報告例は現在までに12例があり,なかには大出血によって死亡したり6),術後に重篤な凝血障害を起した例もある11),そこで,慎重な前処置を行なって丹念な止血をし,全摘出に成功した.血小板数は術翌日より正常値に復し,さらに3カ月のFollow-upで正常な発育を示している.

Ependymomaの電子顕微鏡的考察

著者: 平野朝雄 ,   松井孝嘉 ,  

ページ範囲:P.557 - P.563

Ⅰ.はじめに
 先に,著者らは,正常のEpendyma組織電顕像について論じた3).今回は,その延長としてEpendyma cellの異常所見であるEpendymoma,Myxopapillary ependymomaに関して著者らが今までに得た知験を報告したいと思う.現在までに,Ependymomaの電顕所見は発表されているものが少く,且つ,その記載は特殊な変化に限られているか1,2,5,9),又は,Brain tumor全体の記載の一部として簡単に紹介されている4,6,7,8,10)

小脳腫瘍の血管内皮細胞における特異なOrganelleについて

著者: 川村純一郎 ,   上条純成

ページ範囲:P.565 - P.570

Ⅰ.はじめに
 近年,腫瘍が腫瘍細胞以外になぜ血管の新生増殖を生じるかに興味が持たれるようになり17,18,22),腫瘍細胞にTumor Angiogenesis Factor(TAF)が存在することが明らかとなってきた6).TAFは,血管の新生を促し血管内皮細胞内のDNA合成を高め内皮細胞にmitogenicに働くとされている3,4,6).しかしながら少くとも脳腫瘍の超微細構造の検索では,通常腫瘍細胞自体の形態に注目されるが腫瘍の一部を形成する"腫瘍血管"にはあまり注意が払われず,ことにその内皮細胞の形態はまだ明らかではない.
 1964年WeibelとPaladeは,正常ラット及びある種の蛙の血管内皮細胞にrod-shaped tubulated bodyと名付けられた新しいorganelleを発見した24).これは現在では,血管内皮細胞に特有のもので,種々の正常又は異常組織の血管内皮細胞内に存在することが知られており5,14,16,21),脳腫瘍血管内皮細胞にも観察されている8-10,12,13).その機能はまだ不明であるが,内皮細胞の代謝,成長あるいは細胞の機能それ自体に何らかの役割を果すのではないかと考えられる1,2,11,14,16,19,24)

老年者破裂脳動脈瘤の手術経験

著者: 金弘 ,   水上公宏 ,   荒木五郎 ,   美原博

ページ範囲:P.571 - P.576

Ⅰ.緒言
 脳動脈瘤に対する頭蓋内直達手術が一般化されるにしたがって,脳神経外科医が,老年者の破裂脳動脈瘤の治療を行なう機会が増大してきている.しかし,老年者に対する手術適応は,手術時期の選択を含めて,現在のところきわめて漠然としている.そのため,老年者の症例を目の前にして,手術の適否について苦慮することも多い.さいわい,われわれは現在まで,多くの新鮮な老年者破裂脳動脈瘤の症例をとり扱かっており,保存療法を含めた,われわれの治療成績を明らかにすることは,老年者の手術適応の決定に,きわめて重要な意義を有するものと考える.

実験的脳動脈攣縮に対するPhenoxybenzamineの効果

著者: 半田譲二 ,   小山素麿 ,   米田俊一 ,   松田昌之 ,   半田肇

ページ範囲:P.577 - P.584

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血に際して,脳動脈攣縮とそれによりもたらされる脳虚血,脳浮腫が患者の症状を悪化せしめ,予後を決定する重要な因子となることは周知の事実である,この脳動脈攣縮の成因,および治療法については多数の研究があるが,いまだにほとんど解明されていないといってよい.
 われわれも従来主としてネコの脳底動脈の実験的攣縮をモデルとして2,3の実験を行なってきたが,今回は新鮮自家血およびprostaglandins(PGs)の接触による実験的脳動脈攣縮に対するphenoxybenzamine(PBZ)の効果について報告する.

症例

両側椎骨動脈閉塞を伴い,Os odontoideumを有するAtlanto-axial dislocationへのTransoral approachの1例

著者: 三森研自 ,   斉藤久寿 ,   本宮峯生 ,   矢田賢三

ページ範囲:P.585 - P.591

Ⅰ.はじめに
 Atlanto-axial dislocationは,その解剖学的性質上多彩な神経症状を呈すること,また外傷を起点として神経症状の発現あるいは増悪をきたすことは既に知られている.この疾患の治療は,その成因ならびに症状の発現の仕方から,環惟・軸惟の支持性を確保あるいは補強し,更に,必要に応じて除圧を行ない脊髄への影響を防止することにある.この目的のための手術法としては,前方到達法5,6,8,15,17,20)及び後方到達法2,4,10,13,16,18)が報告されている.しかし,固定方法,除圧方法を含めて,これらの適応に関しては,いまだ,明確な答えは得られていない8,14)
 我々は,外傷により著明な神経症状を呈した,両側椎骨動脈閉塞を伴い,Os odontoideumを有したAtlantoaxial dislocationの1例に前方到達手術を施行したのでその経験を報告し,あわせて若干の考察を加え,治療法選択の一助としたい.

脊椎管内くも膜下血腫の1例

著者: 大脇潔 ,   中沢省三 ,   矢嶋浩三 ,   杉浦和朗 ,   矢部熹憲 ,   樋口皓史

ページ範囲:P.593 - P.597

Ⅰ.はじめに
 脊髄損傷を伴わない脊惟管内血腫は極めて稀な疾患である.これを大別するとその部位により硬膜外,硬膜下,くも膜下に分ける事が出来る.この内くも膜下血腫は調べ得た範囲においては,Bouzarch(1968)6)の2例であった.
 最近我々の教室に於いて,脊部痛,両下肢麻痺,膀胱直腸障害を主訴とし,手術により脊椎管内くも膜下血腫と診断された1症例を経験したので報告する.

脳室炎後のSelf-cured hydrocephalus—自験例とその考察

著者: 森惟明 ,   村田高穂 ,   半田肇 ,  

ページ範囲:P.599 - P.605

Ⅰ.はじめに
 水頭症の病態は固定したものではなく,臨床的にもdynamicなものであることは知られている.たとえば,shunting operationの有無にかかわらず最初に交通性水頭症と診断されても,しばらくして再度検査してみると閉塞性水頭症となっていることがある.また,水頭症における脳脊髄液の産生から吸収にいたる循環動態は,shunting operationの有無にかかわらず変化するものと考えられる.たとえば水頭症児に手術を行なわず放置し自然の経過に委ねた場合,生存した患者の中で6-8歳までにその進行が停止する症例がこれまでに報告されている3,6-9,16).これがいわゆるspontaneous"arrested hydrocephalus"と呼ばれているものである.またshunting operationの後かなり長期間シャントの閉塞があったと考えられる小児が頭蓋内圧九進症状を呈することなく生活していることがある.このような場合にも水頭症がspontaneous arrestの状態になったものと考えられる).
 水頭症に対する治療法としてのshunting operationは根治的療法ではなく,脳脊髄液循環路の閉塞に対して新たな側副路を人為的に作ってやるに過ぎない.

特発性,両側性外頸動脈—海綿静脈洞瘻の3例

著者: 加藤誠 ,   牧豊 ,   中田義隆 ,   小野幸雄 ,   白井鎮夫 ,   牧野博安

ページ範囲:P.607 - P.613

はじめに
 内頸動脈—海綿静脈洞瘻はその原因の77%は外傷性であり,残りの大部分は動脈瘤の破裂によるものといわれ6),その報告例も多い.また,外頸動脈—頭蓋内静脈洞瘻は1951年Fincher4)が報告して以来,その報告例は数多く見られるようになった.一方特発性外頸動脈—海綿静脈洞瘻は今までその報告例は文献上20例未満しかなく1-3,5,8-11,13,14,17),稀な疾患である.ここに特発性かつ両側性外頸動脈—海綿静脈洞瘻を呈した3例を経験したので報告する.

--------------------

日本脳神経外科学会事務局ニュース

ページ範囲:P.576 - P.576

第4回日本脳神経外科学会 機関誌編集委員会報告
 第4回機関誌編集委員会は,昭和50年5月16日,大阪厚生年金会館にて開催された.従来,検討中であった機関誌の今後の編集方針について,石井委員長より以下の如く説明が行われ,委員会の了承するところとなった.
 日本脳神経外科学会の機関誌 Neurologia medico-chirurgicaは,和文誌の登場によって,名称が一部変更され,Neurol. med. −chir.,part Ⅰ(English edition)と呼ばれる.これは英文原著を主とし,学会の講演は,演題・所属・氏名のみが記載され,内容は掲載されなくなる.和文誌は学会が運営し,準機関誌としての性格を持つ商業誌であって,正式の名称はNeurol. med. −chir.,part Ⅱ(Japanese edition with English abstract)であるが,ニックネームは「神経外科」と呼ばれる.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?