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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科3巻8号

1975年08月発行

雑誌目次

小エジプトからの教訓

著者: 岩田金治郎

ページ範囲:P.619 - P.620

 "UP FROM LITTLE EGYPT"(Bailey教授の自叙伝──little Egyptはイリノイ州の南端部,ヒルビリーと呼ばれる人が住むOzark地方の一角)を読んで,甚だ感銘を深くした.確に近代脳神経外科学はHarvey Cushingにより開幕され,彼は,その父として伝記にも書かれ医学史上の英雄である.
 科学史上では,或時期に同分野で数入の天才が時を同じくして俄かに輩出し,飛躍的な進歩を遂げる事は屡々見られ,これは歴史的には,素地の実りという見方で,又,生物学的には一種のmutationとも言えるが,しかし実際には,それらの先人の並々ならぬ努力の結晶である事に間違いはない.

総説

大孔部骨奇形の臨床(Ⅱ)

著者: 朝長正道

ページ範囲:P.621 - P.630

Ⅳ.臨床症状
 大孔部骨奇形をもつすべての人がこの奇形に基因する愁訴を有するわけではない.Klaus36)は170例中119例,70%が有症状,McRae42)は62%が有症状であったと報告している.他方,Moreton44)は有症状率20%と低い値を発表している.九州大学および福岡大学脳神経外科の入院患者中に,42例の本奇形を発見し,そのうち35例が本奇形に基因する神経症状を有しており,83%であった.これは入院患者のみを対象としており,他の報告もその抽出母体に問題があるので,より正確な有症状率は今後の検討にまたねばならない.外来患者の中に無症状の本奇形が発見されることもあり,有症状率はおそらく50%前後であろうかと考えている.そして無症状のものは骨奇形の程度も軽いようである.de Barros4)は本奇形の発生頻度に人種差があるとのべている.
 有症状患者の性比は,どの報告も男性に多い.本報告例も19:16で男性に多い.年齢は20-60歳台に多く,30,40歳台にピークがある.20歳以下,とくに10歳以下には少ないことは,すべての報告が一致している.このことは本疾患が先天奇形であることからすれば一見不思議である.その原因として,中枢神経系の発育と奇形化した骨の発育のアンバランス,骨奇形の進行,荷重の増加による異常発育の促進,中枢神経系への軽微な外傷のくりかえし,長期間の循環不全,さらに加齢による骨やその支持組織,血管系,神経系の変化などがあげられる.

手術手技

慢性硬膜下血腫の手術—大骨ボタン骨窓法について

著者: 橋場輝芳 ,   高松秀彦

ページ範囲:P.631 - P.637

はじめに
 慢性硬膜下血腫は脳神経外科臨床においてきわめて日常的に遭遇する疾患の一つであり,診断・治療の面においてはもはや確立されたかの観すらある.
 被膜を有する本血腫の発生機序に関してはいまだに未解決の問題であるが,本血腫の進行性の増大は血腫被膜内へ反復して生ずる岸血,液体成分の滲出によると考えられている24,26,36).慢性硬膜下血腫はかくのごとくして臨床的に発症してくる.このさい血腫下の脳実質の浮腫も症状発現に関与するのである7).しかし血腫は成長するにつれてむしろ血腫被膜の線維化が進行し,血腫内への出血,滲出は減少し血腫は消退期に向いついには器質化するのみならず場合によっては石灰化すらする20,29)

研究

Neuroaxisに発生するEpithelial cystの電子顕微鏡学的考察—いわゆるEpendymal cystの再検討

著者: 平野朝雄 ,   松井孝嘉 ,  

ページ範囲:P.639 - P.646

Ⅰ.はじめに
 クモ膜下腔に発生するcystic tumorは通常,脳外科的に極めて良い治療成績をあげ,それに関する文献もかなりある7,11,12).一般によく知られているのはarachnoidcystであり,その壁はarachnoid cellで構成されている3,11).その他に,上皮細胞がcyst壁を形成する場合がある,この上皮細胞よりなるcystic tumorを,cystwallの構成より分類すると,多層のものと単層のものがあり,前者ではepidermoidやdermoid cystが知られている.又,後者の大部分は,光顕上ependymal cystと診断されている事が多い.このcystの起源については様々の説があり,ependymal,teratomatous,enterogenous cyst9,13)などと呼ばれている.しかし,正確な起源及び,cystを構成する上皮細胞の構造の詳細については明白でない.電子顕微鏡により微細構造が解明されてきたので,その見地から中枢神経系に発生する単層のcystic tumor,いわゆるependymal cystと,それに関連したcystic tumorについて,その起源を検討してみたい.

脳動脈瘤の再破裂に関する研究—手術待機期間中の再破裂,その対策および手術時期について

著者: 玉木紀彦 ,   楠忠樹 ,   大井静雄 ,   垰本勝司 ,   松本悟

ページ範囲:P.647 - P.654

Ⅰ.緒言
 破裂脳動脈瘤の治療上問題となるのは,破裂直後のクモ膜下出血,脳圧亢進および血管攣縮等による初期脳損傷,次いで一旦止血された後に生じる再破裂,および血管攣縮による脳循環障害等である.初期脳損傷が軽い軽症例では問題なく早期手術により再破裂を防止することが可能であり,最善の方法である.
 しかし破裂直後の脳損傷のひどい,重症脳動脈瘤の治療方針と手術時期の問題即ち初期脳損傷による高い罹患率および死亡率を無視してでも早期手術を行うべきであるか,あるいは致命的な再出血の可能性はあるが,全身状態の改善を待って手術を行う方がよいかという問題は現在なお異論のあるところである.

実験的動脈瘤におけるelectric thrombosisの研究

著者: 宮崎正毅 ,   石川進 ,   日比野弘道 ,   島健 ,   児玉安紀 ,   桑原敏 ,   桑原倖利 ,   石原博文

ページ範囲:P.655 - P.662

Ⅰ.はじめに
 近年microsurgeryの導入により脳動脈瘤のclipping,ligation或いは瘤切除が確実かつ安全に行えるようになった.しかし,その発生部位,形状の複雑さからmicrosurgical techniqueを駆使してもこれらの手術が出来ず,従来行われて来たcoating法やwrapping法によらなければならない症例も皆無ではない.このような動脈瘤に対して瘤内に人為的に血栓を作成し再出血を防ぐ方法として従来からpilojection,electricthrombosis, magnetically induced metalic thrombosis, intraluninal plastics等の方法が開発されているが,未だ一般化されていない.我々はこれ等の中から血栓作成の部位,程度を制禦しやすいelectrically induced thrombosis法をとり上げ基礎的検討を加えた.

末梢型外傷性脳動脈瘤の増悪型と自然治癒型—とくにそれらの特徴と診断,治療上の問題

著者: 坪川孝志 ,   小谷昭夫 ,   菅原武仁 ,   森安信雄

ページ範囲:P.663 - P.672

Ⅰ.はじめに
 外傷性脳動脈瘤は内頸動脈および外頸動脈領域に発生するものが多く(Birley 1928),脳動脈末梢型の外傷性動脈瘤はKarlandis (1949)の前大脳動脈末梢型の報告以来,Hirnrindenaneurysma(Eichlerら1969),cerebral cortical aneurysm(Overtonら1969,Rulnbaughら1970)といわれ,比較的稀で,遠藤らは(1974)自験1例と,文献的に31例を報告している.
 その発生頻度は頭蓋内動脈瘤症例のうち,0.5%以下が外傷に山来するものとされ(Benoitら1973),Ferryら,(1972)の穿通性戦傷例でさえも,末梢型の外傷性脳動脈瘤は0.09%に発生するにすぎないと報告されている.ところが末梢型外傷性動脈瘤では,外傷後の臨床症状の改善と関係なく,動脈瘤が増大し,血腫を伴う破裂を招来したり(Cressmanら1966),Bollinger(1891)のいうlate apoplexyの原因となる増悪型と,一方では動脈瘤の内容が完全に器質化して治癒する自然治癒型(Brenner 1962,Rumbaughら1970)が存在するのである.Burton(1968)が本症の死亡率が58%と高率であることが示されていても,この両型間には大差があるので,今日最も望まれるのはこの両型間の鑑別と治療方針の決定の根拠を明確にすることである.

脳膿瘍に関する研究(第3報)—脳膿瘍形成過程と脳波

著者: 門田紘輝 ,   小川信子 ,   三原忠紘 ,   朝倉哲彦 ,   加川瑞夫 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.673 - P.680

Ⅰ.緒言
 脳膿瘍の診断に,脳波が極めて有意義であることは,古くからよく知られている.
 Schwab12)は1942年に,15例の脳膿瘍について脳波検索を行っているが,その結果1例の小脳膿瘍を除いて全例が異常脳波所見を呈し,うち半数の7例においては正しい局在を示したと報告している.また,脳膿瘍形成過程の早期で,未だ局所神経症状を欠く時期においても,脳波の所見は脳血管写,気脳写に先んじて,その局在の指針となり得るとの報告も見られる5)

蝶形骨洞および後部篩骨洞粘液嚢腫(mucocele)12症例についての検討

著者: 小野陽二 ,   小野豪一 ,   千ケ崎裕夫 ,   石井昌三

ページ範囲:P.681 - P.689

Ⅰ.はじめに
 臨床的にparasellarあるいはsuperior orbital fissure近辺の病変が疑われるにもかかわらず,確定診断がつかぬまま経過し,高度の視力障害をのこす症例をしばしば経験するが,この中には蝶形骨洞及び後部篩骨洞のmucoele又はpyocele(以下mucceleと一括する)に起因するものが少なくない.
 しかし,従来これら蝶形骨洞及び後部篩骨洞のmucoceleは解剖学的位置関係の複雑さと,鼻症状が軽微などのために診断が困難であることもあって,極めて頻度の少ないものと考えられており,前頭洞に発生するmucoceleと比較すると約1/10の発生頻度にすぎぬといわれている.

症例

視束上部の奇形腫による中枢性高ナトリウム血症について

著者: 伊藤治英 ,   島利夫 ,   杉野実 ,   山本信二郎 ,   黒田満彦

ページ範囲:P.691 - P.696

 Allott(1939)1)は,はじめて,高Na血症,高Cl血症,および,尿中へのK排泄減少を示した症例において胃に異常がなく,これに対し中枢神経系に障害のあるものを観察し,症状が腎の神経性,またはホルモン性調節異常に基因すると推定した.それ以来,種々の脳疾患で高Na血症の報告がみられ,その発生機転が論議されてきた7,12,18).自験例のうち,高Na血症,高Cl血症が第Ⅲ脳室前部に発生した奇形腫による視床下部破壊に基因すると考えられる症例について報告する.

急性脊髄硬膜外膿瘍の手術治験例

著者: 小林達也 ,   岡村和彦 ,   杉浦満男 ,   中根藤七 ,   飯田光男

ページ範囲:P.697 - P.702

Ⅰ.序
 急性脊髄硬膜外膿瘍は,比較的稀な疾患であり,近年抗生物質の発達と共に,その頻度は,更に減少したといわれている2).しかし,適切な治療が行われなければ,重篤な神経症状を遺す点,その早期診断,早期治療が重要である.
 治療の原則は4),早期予術による排膿と脊髄の減圧であり,これに加えて有効な抗生物質の投与である.本邦では著者らの知る限り,かかる急性例の手術による完全治癒の報告はみられない.最近著者らは外傷に続発し,典型的な症状を呈した急性胸髄硬膜外膿瘍の1例を経験し,推弓切除術と強力なで化学療法により全治せしめたので,文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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