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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科3巻9号

1975年09月発行

雑誌目次

研究の醍醐味

著者: 岡益尚

ページ範囲:P.709 - P.710

 実験や手術にわれを忘れているときほど,楽しいときはありません.思いかえしてみると,そのようなときはそう多くはありません.戦後,荒廃の中で測定器具もまだほとんどないときでした.ふるいキモグラフイオンや水銀寒暖計ぐらいしかありませんでしたが,どこかに電気検温計があるはずだから,それをつかって顔の皮膚温度をはかって真性三叉神経痛の患者の一側性顔面紅潮について考えてみろ,との指示をうけました.しかたなく熱電対からつくりはじめました.温度較正や増幅器などの苦労もありましたが,それよりもこの温度計測,なにがほんとの値なのか,やればやる程むつかしくて情なくなる程でした.しかしその勉強と観察によって生物学的計測の基本と技術とが徹底的に私に叩きこまれたのでした.測定装置をセットして,刻々のデータを記録してゆく途中でその測定値が予測した方向から次第にはなれてくると,心は次第にたかぶり,動物の眼をみ,鼻毛をみ,部屋の温度をみ,湿度をはかり,実験台のまわりを歩きまわり,実験内容や条件のこと,作業仮説の反省やこれからの実験の組立てなど,めまぐるしく頭のなかを去来して,睡気などフッ飛んだことを楽しくおもいおこします.

総説

ウィリス輪閉塞症

著者: 工藤達之

ページ範囲:P.711 - P.724

Ⅰ.いとぐち
 本症は筆者が最初の報告(1956)をした当時は外国文献に該当する症例をみず,また,しばらくは外国からの報告をみなかったので,わが国に特発するものと思われた119).しかし,現在では世界各地からの症例報告が相つぎ,開発途上諸国を除き全世界に発見されているといってよい.ために本症に対する関心は世界的に高まりをみせている.工藤は第25回日本脳神経外科学会総会(1966)を主宰した折に本症をシンポジウムの一つとして取りあげた.この時期に工藤が行った全国調査では146例が集められ,統計調査が行われ,その輪廓がほぼ明らかとなった.この成績を演説内容及び過去の文献を集めて一書115,S1)に纒めておいた.その後9年が経過したが,本症についての疑問はなお数多く残され,数次のシンポジウムS2,S3)を通じて多くの討論が行われている.
 本稿では1966年以来の本症に対する思潮の変遷をたどり,今なお不明の域にある諸問題をとりあげて解説を加え,将来の展望についても触れてみたいと思う.なお,本邦および諸外国の文献をできる限り集めて稿尾にのせておいた.

手術手技

硬膜外血腫の手術

著者: 山本信二郎 ,   伊藤治英 ,   埴生知則

ページ範囲:P.725 - P.730

Ⅰ.はじめに
 硬膜外血腫の典型的なものは,硬膜外バルーン実験の場合に類似し,その症状の推移は脳偏移と,頭蓋内圧の亢進による.この場合,症状がcriticalなレベルに達する前,あるいは尚,可逆的な状態において血腫除去がなされるならば,全ての症例が完全に治癒されうるといってもよい.従ってこの疾患の治療の本質は,いかに速やかに診断され,かっ適確な手術がなされるかにある.もし,術後に脳浮腫の発生が予測されるならば,その対策が問題となる.
 われわれが最近約10年間に経験した外傷性硬膜外血腫は57例で,これは入院治療した頭部外傷の7.9%,外傷性頭蓋内血腫の26.5%にあたる,しかし実際は,硬膜外血腫として取扱われるものでも,多少に拘らず,外力に直接起因する脳挫傷その他の損傷を合併するのが常である.例えば典型的症状の1つとしてあげられる,lucid intervalの前駆をなす脳震盪症状さえ,器質的な変化として証明し得ないとしても,脳に何らかの損傷が生じたことに間違ない.

研究

同側大脳半球萎縮を来たした小児脳腫瘍—自験4例を含む6例の検討

著者: 郭隆燦 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.731 - P.738

Ⅰ.緒言
 一側大脳半球萎縮は,一般に二次性脳萎縮と考えられ8),その原因は炎症,外傷,血管障害,脳腫瘍など様々である.このうち脳腫瘍と同側の一側大脳半球萎縮を来たす症例は比較的稀であるが,これまで我々が報告した3例2,3,7)を含め文献上5例の症例報告4,5)がみられる.ここに同様な1例を追加すると共に追加例を含めた自験4例と文献報告2例を検討して多くの共通な特徴を有することが判明したので報告する.

実験的上矢状静脈洞閉塞の病態(第1報)—実験的上矢状静脈洞閉塞時の髄液循環について

著者: 宮上光祐 ,   中村三郎 ,   森安信雄

ページ範囲:P.739 - P.745

Ⅰ.緒言
 髄液の吸収経路についてはWeed(1914)22)以来,Arachnoid villiを経た上矢状静脈洞内への吸収経路が主要経路とされている.これ以外に脈絡叢,脳室壁ependyma,Pia-arachnoidの血管,神経鞘,リンパ系などが考えられているが確立された定説はない.
 主要な髄液吸収経路と考えられているarachnoid villiを経た上矢状静脈洞への吸収経路が閉鎖された場合に,いかなる髄液循環動態を示し,いかなる吸収経路を経るか,さらにこの上矢状洞閉塞の際に静脈血の還流障害とともに,araclmojd villiを経た上矢状静脈洞への髄液流出障害のため頭蓋内圧亢進が生ずるが,これらは臨床上非常に興味ある課題である.

脳血管攣縮に関する実験的研究—脳血管攣縮に対する薬剤の効果及び交感神経の関与について

著者: 野田哲

ページ範囲:P.747 - P.755

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤破裂後の脳血管撮影でしばしば脳動脈攣縮が見られる.この脳動脈攣縮は脳動脈瘤破裂後数日から数週間にわたって認められ,患者の病状,予後に重要な影響を及ぼす.この様な脳動脈攣縮の病態を解明する為に多くの研究かなされたが,最近脳動脈瘤破裂後の血管攣縮は二相性に変動することがBrawley2),杉浦31),鈴木32),Echlin4)等により実験的に証明された.
 即ちBrawley2)は犬を用い前大脳動脈破裂後の内径動脈径の変動をstrain gaugeにより追究し,脳動脈攣縮を血管破裂後数分で出現し60分間続く急性期と3-4時間後に始まり数日間続く慢性期に分類した.

症例

内頸動脈海綿静脈洞瘻に対するelectrothrombosisの試み

著者: 桜田修 ,   今井洋輔 ,   池谷不律 ,   千ケ崎裕夫 ,   石井昌三

ページ範囲:P.757 - P.761

Ⅰ.はじめに
 内頸動脈海綿静脈洞瘻とは,主に外傷性機転,時に動脈瘤破裂あるいは,不明の原因で海綿静脈洞と内頸動脈との間に,異常な交通が出来た状態を呼ぶ.今回,片眼の視力を既に失い,他眼に特発性内頸動脈海綿静脈洞瘻が発生し,その治療方針は患眼の視力保存を第1と考えるべき症例を経験した.我々はこの症例に対し,網膜循環を保存する必要があるため,眼動脈圧低下をもたらすような関連動脈の血流遮断を行なうことなしに,直接海綿静脈洞部のelectrotllrombosisを行ない,視力障害等の合併症を起す事なく,瘻の完全消失を見たので,若干の考察を加えて報告する.

Foramen Magnum Meningioma自験例及びその診断学的考察—特にForamen Magnum Syndromeについて

著者: 藤田勝三 ,   松本悟

ページ範囲:P.763 - P.768

Ⅰ.緒言
 foramen magnum meningiomaはその初期の段階では,外科的治療が不可能な他の変性疾患と鑑別することが非常に困難な臨床症状を呈することがある.発病初期においては,頸部神経叢上部と延髄下部のいわゆる"silent area"に位置すること,さらにforamen Inagnum近辺では,他の脊髄腔に比べて比較的広い空間を有しているために腫瘍がかなり大きくなるまで臨床症状の発現をみないので,初期の段階で適確な診断を下すことは非常に困難である.Love,J.G.9)らの報告ではforamen magnumの近辺に発生する腫瘍の内30%は良性,髄外腫瘍で,全摘開が可能であるが,その解剖学的位置により患者の予後は腫瘍の大きさと症状の期間に大きく左右される.従って外科的治療が比較的簡単な早期の段階で診断をつけ治療することが非常に重要である.

急性後頭蓋窩硬膜下水腫—後頭蓋窩骨折と血腫形成について

著者: 三浦史彦 ,   淵之上徳郎 ,   町山信義 ,   佐藤邦夫 ,   設楽信行 ,   北条俊太郎 ,   斉藤利重 ,   氷室博 ,   矢作保治

ページ範囲:P.769 - P.776

Ⅰ.はじめに
 外傷性後頭蓋窩硬膜下水腫の報告は散見されるが,いずれも亜急性および慢性の症例が主で,急性の経過をとる症例は本邦では報告をみない様である.我々は後頭部外傷後,急性の経過をとり,重篤なる症状を呈したが,手術により救命に成功した3症例を経験したので,この疾患の存在と臨床的意義について報告する.また後頭下に骨折を有する患者に着目する事が後頭蓋窩血腫の診断,ひいては本症の発見にも結び付く密なる関係を有することを認めたので,後頭蓋窩骨折と血腫発生の面よりみた統計結果を加え報告する.
 統計を試みた1972,6.1-1973,5.31の1年間は,軽症から重症まで比較的無差別に担送されてきた頭部外傷患者を対象とした結果であり,急性期症例が多い.

絨毛上皮腫脳転移による脳動脈瘤形成とくも膜下出血

著者: 中原荘 ,   野中信仁 ,   木下和夫 ,   松角康彦

ページ範囲:P.777 - P.782

Ⅰ.はじめに
 転移性脳腫瘍の中で,比較的東洋人に多く,若年の婦人に発生する絨毛上皮腫(以下絨腫と略)は特異的な血管親和性を有し,流動血に直接触れた環境の中で増殖するために,早期から広汎な転移を招く.約80-90%が転移するとみられるが,大半が血行性に骨盤外遠隔転移を形成し,脳転移頻度は肺についで高く,約20-25%に達すると考えられる2,21).悪性腫瘍の脳転移としては,肺癌,黒色腫とならび,高い脳転移率を示す絨腫の脳転移に関し,詳細な神経学的検討を加えた報告は数少なく,本邦では,成田13),藤原6),臼井20),深町5)らの例をみるのである.
 絨腫の脳転移による臨床像には,クモ膜下出血をはじめとする頭蓋内出血の急性症状で発現するものがあり,剖検で多くの症例に脳内血腫を認める点,他の転移性脳腫瘍に比べて特徴的といえる.脳血管撮影により,転移腫瘍細胞の血管侵蝕によると考えられる脳動脈瘤様変化や脳血管壁の不規則な変化をみた報告もみられる11,18)

巨大内頸動脈瘤の1直達手術治験例—海綿静脈洞と内頸動脈との解剖学的関係を背景に

著者: 中原明 ,   朝倉哲彦 ,   川畠弘子 ,   井上久司 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.783 - P.789

Ⅰ.はじめに
 内頸動脈は頸動脈管canalis caroticusより頭蓋内に入り,小翼突起processus alae ptrvaeの内方,視束管の下で硬膜内に入る.この内頸動脈の頭蓋内,硬膜外の部分は,pars intracanalicularis,pars ganglionalis,pars cavernosa,genu anteriusと区分されている.
 内頸動脈のpars cavernosa,genu anteriusの部分には動脈瘤が好発し,また海綿静脈洞との間にしばしば瘻を形成し,脳神経外科の臨床上関心のもたれるところである.しかし,内頸動脈と海綿静脈洞との解剖学的相互関係については,1964年Parkinson21)の報告したものがそのまま認められ,KrayenbühlらのCerebral Angiography14)をはじめ,多くの著者がそのまま引用して今日に至っている.

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第24回総合医学賞入賞論文 フリーアクセス

ページ範囲:P.746 - P.746

 第24回総合医学賞論文が下記14論文に決定した。この入賞論文は昭和19年1月号から12月号までの小社の原著収載雑誌からそれぞれの審査をへて最優秀論文が選定されたものである。各論文に対し賞牌・賞状・賞金10万円,および副賞が贈られる。
 総合医学賞は昭和24年いらい,中断もあつたが本年の贈呈をもつて24回を数えこの間の全入賞論文数は145編である。これらの入賞論文が研究の進展に寄与した点は高く評価されている。この間,審査・決定方法についてはさまざまの変遷がある。募集論文の中からだけ選定する方式,全原著を選考の対象とする方式,入選論文を誌上発表し,その中から入賞論文を選定する方式などがとられたが,最近では各誌で選定した原著論文をもつて入賞論文とする方式がとられて来た。その間,原著を収載しない雑誌が増加したことや,基礎・内科の原著雑誌を持たないようになつたことなどもあり,現在の「総合医学賞」の制度は第24回を最後に中止し,雑誌のあり方と併せて再考することになつた。この間格別の御支援を賜わつた寄稿者・審査委員・読者各位に深甚の謝意を表するとともに,今後とも雑誌への御援助をお願いする次第である。

日本脳神経外科学会事務局ニュース フリーアクセス

ページ範囲:P.761 - P.761

第10回日本脳神経外科学会認定医認定試験
 第10回日本脳神経外科学会認定医認定試験は,去る7月31,8月1,2日の3日間,東京で行われた.受験者は90名,合格者は62名で,合格率は68.9%である.これで我国の脳神経外科認定医の総数は680名(現存676名,死亡4名)となった.
 なお認定医認定委員会では,昭和51年恒例の認定試験を昭和51年7月31日(土)−8月2日(月)に行うことを予定している.その詳細は認定医訓練場所の長あてに,正式に通知される.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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