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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻1号

2002年01月発行

雑誌目次

教育の難しさ

著者: 嘉山孝正

ページ範囲:P.3 - P.4

 教育という単純には最善の答えがでにくいテーマに関して,未だ修行中の自分ではあるが,現時点で感じたり考えていることを書き記してみたい.教育するための教育を受けている訳ではないので独断と偏見も混じりながらの感想文をお許し願いたい.是非とも経験豊富な先輩諸先生方には色々な御意見を教えて頂きたい.
 奉職している大学の医学部教務委員長に指名され,昨年の4月から教育の種々に責任がある係わりを持つようになった.それまでの学生教育との接点は,脳神経外科の講義を年数回することと臨床修練で回ってきた学生の相手をするくらいであった.教育方法や内容に関しては自分が受けてきた経験(教育学の講義をわれわれは受けていない)に則り教えていた.自分が教わってきた教育法や内容で十分に教育内容が伝達されると考えていた.しかし,知識は伝達することができても,知識を実際に応用したり理解できてはいないなどとは,何の疑問も持たず過してきた.従来の教育をすれば,ある事物を目の前にした時にわれわれと同様に感じ,考え,それに則って行動できると思っていた.違いがあるとしても,その差は十年くらい先輩からわれわれが新人類と言われたくらいの差しかないと考えていた.表現が異なっているくらいで,根本の価値観や事物への対処の仕方はおおよそ同じだと考えていた.勿論着るものや髪型が異なることに異を唱えるつもりはないし,世代間の社会的な価値観の相違を論じるつもりもない.

集中連載 21世紀の脳神経外科

連載にあたって

著者: 大本堯史

ページ範囲:P.7 - P.11

Ⅰ.はじめに
 脳神経外科は約100年の歴史をもつが,顕微鏡手術が開始されてから現在までの約30年間は急速な進歩と発展を遂げてきた.CT,MRIを中心とした画像診断,脳の循環・代謝や局所脳機能の検査法など,あらゆる分野の進歩に加えて手術機器が次々と開発され,脳神経外科手術は著しく進歩してきた.
 最近は,脳機能の確実な温存を目的として,術中モニタリングの併用やナビゲーション手術が普遍的となり,顕微鏡手術も完成の域に達しつつある.近年,低侵襲手術の有用性が強調され,最小の侵襲で最大の効果をあげるために手術法の改良や神経内視鏡の開発も進んでいる.脳血管性疾患に対しては,血管内手術が急速に進歩し,その適応を拡大しつつある.一方,定位的放射線治療も腫瘍,血管性疾患を問わず治療成績からみた適応は固まりつつある.

ポストシークエンス時代における脳腫瘍の研究と治療

著者: 田渕和雄 ,   白石哲也

ページ範囲:P.13 - P.21

Ⅰ.はじめに
 膠芽腫glioblastoma患者の生命予後は,過去数十年間に有意に改善したとはいえず,現在も5年生存率が10%以下と,極めて悲惨である.過去10年間,膠芽腫の発生,増殖,浸潤などに関与するさまざまな遺伝子が同定され,Rb経路とp53経路のそれぞれにおける細胞シグナル伝達系に,何らかの異常が必須であるらしいことが判明してきた.しかし,膠芽腫をめぐるこのような基礎的知見が直接日常の診療に役立つまでには至っていない.
 最近,DNAマイクロアレイ技術の進歩によって,gene expression profilingの解析が容易となりつつあるが,やがて膠芽腫に関してもgenotypeの詳細な全容が解明されると思われる.

総説

脳神経外科領域における術中MRIの現状

著者: 椎野顯彦 ,   松田昌之

ページ範囲:P.23 - P.40

Ⅰ.はじめに
 脳のように機能局在があり再生が困難な組織では,病巣へのアプローチやその摘出に伴う侵襲を最小限にする必要がある.特に脳深部に位置する病巣や肉眼では境界が判別しにくい病巣,脳表付近であってもeloquent areaに隣接する病巣の場合には正確なナビゲーションが必要となる.術前に得られた脳の3次元情報をもとに行う従来のナビゲーションシステムでは,髄液の排液や占拠性病変の摘出による脳の変形に伴う位置ズレ(brain shift)に対処できないという欠点があり,適応可能な症例に限界があった.これに対し手術中にMRIを行う術中MRIは,brain shiftの問題を気にしなくてもよく,生検針やカテーテルの先端の位置を術中に確認したり,病巣の摘出状況を把握することが可能であり,optical trackingと組み合わせることにより従来よりも進んだナビゲーションが可能である.
 MRIの利点は,繰り返し検査してもCTのように放射線被曝を考慮しなくてすむことと,組織のコントラストが良いことである.良性の神経膠腫のように肉眼や手術操作時の感触でも境界がわかりにくい病巣であっても,MRIでモニターすれば取り残す危険性は確実に低下する.MRIの空間分解能は少なくとも1〜2mmであり,3D vol-ume imaging後のリスライスは問題とならない.

研究

脳血管内治療に合併する虚血性病変のMR拡散強調画像による評価とその病態

著者: 酒井秀樹 ,   坂井信幸 ,   東登志夫 ,   飯原弘二 ,   高橋淳 ,   木暮修治 ,   安栄良悟 ,   山田直明 ,   今北哲 ,   永田泉

ページ範囲:P.43 - P.49

Ⅰ.はじめに
 近年,カテーテルなどの治療器材や画像診断機器のめざましい進歩により,脳神経外科領域においても血管内治療が急速に普及しつつある.脳神経疾患に対する血管内治療は,直達手術に比較してより低侵襲的な治療法であることが大きな利点ではあるが,脳塞栓症という宿命とも言うべき合併症の危険性を常にはらんでいる.すなわち,この脳塞栓症をいかに回避するかが,血管内治療という新しい治療法の臨床成績をより向上させる重要なkeyとなっている.
 従来の報告では,血管内治療に伴う塞栓症発生の有無は,主に神経症状の有無と術後CTにより評価されることが多かった8-10,16,18,25).ところが,数mmの小梗塞巣や術前から虚血性病変が多発しているような症例では,CTのみで新しい虚血病変を同定することは困難であった.さらに,磁気共鳴画像(MRI)を用いて評価しても,T1・T2強調画像といった従来の撮影法のみでは新旧の梗塞巣を鑑別することが不確実であったため,描出された梗塞巣が術操作に起因して発生したものかどうかを推測することも困難であった.

症例

呼吸障害で発症し大後頭孔の減圧術により症状の改善を認めたachondroplasiaの1例

著者: 矢野俊介 ,   関俊隆 ,   飛騨一利 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.51 - P.55

Ⅰ.はじめに
 Achondroplasiaは軟骨内の化骨異常による四肢短縮型の骨系統疾患である.常染色体優性遺伝形式をとるが,80%は突然変異である.
 Achondroplasiaの患児は時として呼吸障害を呈することがあり,乳幼児の突然死の原因となることが多い.われわれは,大後頭孔の狭窄により軽度の呼吸障害を認め,大後頭孔減圧術を施行することにより改善した,乳幼児の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

副腎皮質ステロイド減量中に発症した良性頭蓋内圧亢進症の1例

著者: 三枝邦康 ,   武井秀憲 ,   宍戸恒郎 ,   大木純 ,   直江伸行 ,   大野喜久郎

ページ範囲:P.57 - P.62

Ⅰ.はじめに
 良性頭蓋内圧亢進症(benign intracranial hyper-tension;BIH)は,頭蓋内圧亢進症状があるにもかかわらず頭蓋内占拠性病変を認めず,一般に良好な経過をたどる疾患群とされる.しかし,視力障害等が後遺症として残る場合もあり,必ずしも良性とは言い切れない2).今回われわれは,副腎皮質ステロイド長期服用後の減量中に発症し,視力障害を来した良性頭蓋内圧亢進症の1例を経験した.BIHの原因は多様性に富むが,副腎皮質ステロイド減量が原因と考えられる報告は,検索し得た限りでは,9例しかないため,若干の文献的考察を加え報告する.

松果体部出血による水頭症で発症したpineoblastomaの1例

著者: 秦暢宏 ,   稲村孝紀 ,   松島俊夫 ,   吉本幸司 ,   池﨑清信 ,   中溝玲 ,   伊野波諭 ,   福井仁士

ページ範囲:P.65 - P.70

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内出血の原因は多くは血管病変によるが,腫瘍からの出血も鑑別として重要である1).今回われわれは松果体出血による閉塞性水頭症で発症した松果体芽腫症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

急性硬膜下血腫にて発症した多発細菌性脳動脈瘤の1例

著者: 松田剛 ,   清末一路 ,   山下正憲 ,   田上秀一 ,   岡原美香 ,   永冨裕文 ,   河野義久

ページ範囲:P.73 - P.78

Ⅰ.はじめに
 細菌性脳動脈瘤は比較的稀な疾患であり,その発症様式としてはseptic emboliによる脳梗塞発症もみられるが一般的にくも膜下出血や脳内出血にて発症することが多いとされる2,3,5,6,8,9,15,16).今回われわれは,硬膜下出血にて発症し,経カテーテル塞栓術および化学療法にて治癒した多発性細菌性脳動脈瘤の1例を経験した.その発症様式,治療法および経過観察について文献的考察を加えて報告する.

水頭症にて発症した四丘体部海綿状血管腫の1手術例

著者: 藤原聡 ,   大田正博 ,   武田哲二 ,   河野兼久 ,   武智昭彦 ,   河田泰実 ,   篠原直樹 ,   佐々木潮

ページ範囲:P.81 - P.85

Ⅰ.はじめに
 海綿状血管腫は中枢神経系のいずれの部位にも認められる血管奇形であり,近年MRIの普及によりその報告例は増加傾向にある.脳幹部海綿状血管腫の正確なnatural historyはいまだ明らかにされていないが,他の部位のものに比べ出血率は高いといわれており4,15),致命的な出血となることもある.
 今回われわれは水頭症で発症し,手術療法を行った四丘体部海綿状血管腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

下髄帆AVMの手術—小脳扁桃可動性を得る工夫—Uvulotonsillar Approach

著者: 茂野卓 ,   熊井純一郎 ,   遠藤賢 ,   堀田信二

ページ範囲:P.87 - P.92

Ⅰ.はじめに
 脳幹部脳動静脈奇形(AVM)も主たるnidusがextrapial planeに存在する場合は摘出術が考慮されるべきことを,Drakeは25年以上前に提唱している1).小脳下髄帆(inferior medullary velum)は第4脳室脈絡組織(tela chroidea)とつながって第4脳室の下面を構成する.この部に存在したAVMの手術を呈示する.基本はSeeger5)が20年前に記載した“Lateral Operations in the Fourth Ventricle”を用い,小脳扁桃と延髄の間から下髄帆に達する方法である.小脳扁桃を外側に十分偏位させ,側方はcerebellomedullary fissureを開放して下髄帆に至り,上方正中はuvulotonsillar spaceを経て脈絡組織に至り,決して小脳虫部を切らない.最近telovelar approach4)あるいはtranscerebellomedul—lary fissure approach3)と発表されたが,基本はSeeger5)に負う.最も大切なことは小脳扁桃の可動性を十分に得ることで,これにより小脳扁桃あるいは小脳虫部の圧排を避ける.体位,皮切,開頭,くも膜切開の工夫を呈示する.

ラトケ嚢胞の破裂により生じた二次性汎下垂体炎の1例

著者: 湯山隆次 ,   小島英明 ,   水谷徹 ,   鈴木佳宣 ,   三木啓全

ページ範囲:P.95 - P.99

Ⅰ.はじめに
 一般的にリンパ球性下垂体炎はリンパ球浸潤を主体とする下垂体の慢性炎症疾患で,主として妊娠・分娩を契機に発症するといわれている.
 今回われわれは,ラトケ嚢胞の破裂によって生じ,臨床的に興味深い経過をたどった下垂体炎を経験したので報告する.

読者からの手紙

「治療に難渋したガンマナイフ照射後聴神経鞘腫の1例」1)に対して

著者: 山本昌昭

ページ範囲:P.101 - P.101

 本論文1)に関して以下に述べる3つの問題があると思われるので私見を述べさせていただく.
 まず,腫瘍の大きさに関しては最大径32mmでやや大きめであるが,ガンマナイフ治療が選択されたことに問題はない.急速に進行する神経症状がなければ,最大径35mm程度であれば今日では十分治療可能である.ただ,選択された照射線量,peripheral doseが19 Gyというのは,治療されたのが1999年とすればきわめて高い線量である.1990年代初頭まではperipheral dose 18 Gyが広く選択されていたが,この線量では顔面神経障害が高率に発生したため,1992年頃からは低線量での治療が主流となった.1993〜94年頃までには,多少情報の遅れたガンマナイフ施設でもperipheral dose 12 Gyというのがstandardとなって現在に至っている.

報告記

第20回国際脳循環代謝学会—(台北,2001年6月9日〜13日)

著者: 斉藤延人

ページ範囲:P.103 - P.104

 2001年6月9日より13日まで台湾は台北において,第20回国際脳循環代謝学会(XXth Interna-tional Symposium on Cerebral Blood Flow,Metabo-lism and Function;Brain '01)が開催された.この学会は前回のCopenhagenより踏襲して,第5回International Conference on Quantification of BrainFunction With PET(BrainPET '01)と同時開催されており,幅広い層の研究者たちが一堂に会することができるようになっている.学会長のTony J-FLee教授の学会抄録巻頭言によると,24カ国より546件の演題応募があり,20セッション86題の口演と32セッション496題のポスター演題が発表された.これに加え招待演者4名によるPle-nary sessionが開かれた.その内容は実験脳虚血から臨床脳循環代謝まで幅広く取り上げられていた.印象としてはアポトーシス関連の演題は減少し,次のトピックスになるであろう幹細胞関連の演題はまだ少ないという感じを受けた.また,MRIをはじめとする画像診断の演題の数が増えている印象を受けた.

—第41回 韓国脳神経外科学会—(ソウル,2001年10月10日〜13日)

著者: 波出石弘

ページ範囲:P.105 - P.106

■大韓神経外科學會第41次學術大會
 2001年10月10日より韓国ソウルで行われた第41回韓国脳神経外科学会に出席した.韓国では年2回の総会が行われるが,春は地方都市で,秋はソウルで開催されるとのこと.今回はソウル国立大学Byung-Kyu Cho教授が会長を務められ,ホテルグランドインターコンチネンタル—ソウルで4日間にわたり行われた.内外から多数が参加し盛大に挙行されたが,米国多発テロ事件の影響で欧米からの出席者が少なかったことが残念であった.この年次総会は韓国脳神経外科学会創立40周年を記念する会でもあった.その設立は朝鮮戦争休戦(1953年7月)から8年後の1961年3月11日であり,復興さなかの困難を伴ったものであったと想像される.
 ハンズオンの開催も含め学会の運営は米国流のスマートなものであった.発表はラップトップコンピューターか,Power Point(Windows)で用意されたCDを持参し行われた.外傷,脊椎疾患,脳腫瘍,脳血管障害,小児奇形や機能脳神経外科など全ての分野について幅広く報告と討議が行われた.ハングルで発表されるため正確な内容把握は困難であったが,3D-CTAのみによる脳動脈瘤手術の是非や重症くも膜下出血の手術適応など,われわれが日頃論議している内容が熱心に論じられていた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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