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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻11号

2002年11月発行

雑誌目次

医療問題

著者: 渡邉一夫

ページ範囲:P.1155 - P.1156

 戦後,1948年に医療の基本を規定した「医療法」が制定され,1961年世界に冠たる「国民皆保険」制度がスタート,日本は所得倍増の高度経済成長の道をひた走ってきた.その間,1966年に国民健康保険法改正により患者の自己負担率が5割から3割に,1973年には老人医療費の無料化がなされたが,高齢化率が上がるとともに老人医療費が高騰し,1982年に老人医療費を全国民で負担する老人保健法が制定された.
 その後少子超高齢化時代が一段と加速したが,国民皆保険の根幹をなす診療報酬制度の根本的改革を先送りしてきた結果,財政的に危機的状況に陥り,2000年4月1日より介護保険制度が導入された.そして今国会(2002年5月)でサラリーマンの受診負担額の3割負担が決まり約4,000億円の財源を得ようとしている.また低所得者を含めた高齢者の窓口負担も大幅に増加を強いられ2,000億円を,さらに保険料もボーナスを含めてアップし5,700億円を捻出しようとしている.その他,差額ベッド料や,180日以上入院したときには毎月4〜5万円以上の保険外負担を求めるなどの医療改革法案が通過した.

総説

錐体斜台部髄膜腫

著者: 大畑建治 ,   原充弘

ページ範囲:P.1159 - P.1171

Ⅰ.はじめに
 後頭蓋窩髄膜腫は頭蓋内髄膜腫の10%を占め,その中の5〜38%が錐体斜台部髄膜腫である15).外科切除がもっとも困難な髄膜腫の1つであり,過去半世紀にわたってその治療方法が論議されてきた.
 錐体斜台部に発生する髄膜腫の特長は,天幕,メッケル腔,中頭蓋窩,海綿静脈洞,大後頭孔,ついには頭蓋外にまで進展することである22).第Ⅴ—ⅩⅠ脳神経の内側で,しばしば脳底動脈とその穿通枝さらに頸動脈やWillis動脈輪を巻き込みながら,また脳幹部を圧迫しながら発育する.頭蓋底深部での重要な神経血管系を巻き込んだ解剖学的局在と,さらに発見時にはすでに大きくなっている例が多く,1950年代まではほとんど手術不可能と考えられていた6,7).1970年までにわずかに26例の手術例が報告されているが,そのmor-talityは16例(61%)であり,全摘できたのはわずかに1例のみであった5,7,9,29,41,56)マイクロサージェリーでの外科切除は1977年のHakubaの全摘出6例の報告に始まり,1980年にYasagil,1986年にMaybergの報告が続いた15,29,56).以後,頭蓋底外科と微小外科手術手技の進歩とともに,さまざまな手術方法が報告され,1990年代では腫瘍の全摘出率は70%台へと向上しmortalityも0%近くになってきている1,23,30,41,45)

研究

管腔壁を透視したthree-dimensional MRA transluminal flow imagingによる脳動脈瘤内血流の可視化

著者: 佐藤透

ページ範囲:P.1173 - P.1178

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤の発生,成長,破裂には,血液の流れによる血行力学的負荷が深く関わっていると考えられ,脳動脈瘤内の流れの解明には,これまで多くの実験的,臨床的検討が行われてきた2,3,8,14,16).しかしながら,脳動脈瘤内血流と脳動脈瘤形態との関連を個々の症例において臨床評価することは,これまで困難とされてきた.
 近年,ワークステーションでの画像再構成技術の革新により,CT・MRIなどで得られた生体3次元情報(volume data)から,関心領域を可視化するcomputer visualizationが急速に発展している6,9).MR angiography(MRA)では,血流に関連した情報が一括してvolume dataとして取得されるため,そのなかから関心領域を選択的に抽出し,MR信号強度で示される血流情報を可視化することは技術的に可能である11,12).脳動脈瘤血管構築の微細形態と可視化血流情報を3次元画像上で同時に描出することにより,脳動脈瘤内血流と脳動脈瘤形態との関連を臨床例において3次元的に解析することが可能になるものと思われる.

脳腫瘍術中皮質マッピングにおけるBIS(Bispectral Index)モニタリングの有用性

著者: 山口文雄 ,   大井良之 ,   青木亘 ,   中村利枝 ,   五十嵐亜希 ,   久保田稔 ,   澤田恵子 ,   志村俊郎 ,   高橋弘 ,   小林士郎 ,   寺本明

ページ範囲:P.1181 - P.1188

Ⅰ.はじめに
 大脳1次運動野近傍腫瘍摘出時の運動野皮質マッピングは近年一般的に行われるようになってきた.われわれの施設でも1999年より皮質電気刺激による誘発筋電図記録を行っている.安定した記録を得るために,筋弛緩をまねく薬剤の使用を避けることや患者体温を35.5℃以上に保つことなどを行ってきたが,症例によっては誘発筋電図が得られないことがあり,さらにその原因を検討してきた.術中に投与する麻酔薬は一般的に大脳皮質錐体細胞や軸索,さらに脊髄前角細胞の刺激閾値を上昇させるため31),運動誘発電位に悪影響を与える可能性がある.
 そこで今回,マッピングに影響する因子として麻酔深度に着目した.麻酔深度を測定する方法としてBIS(Bispectral Index)21)が麻酔科領域で普及してきており,心臓手術における患者の意識レベルをモニター24)したり,一般麻酔時でも麻酔薬の投与量の指標に有効とされている11,15,25).BISは脳波の多因子情報を1つの数値に変換し麻酔深度を表現する方法で,100が全覚醒,0が脳の電気的活動がない状態となる.一般的にBISが70以下であれば麻酔中の記憶がなく,60以下であれば意識がない状態であると言われている7,15,16)

症例

前大脳動脈水平部前頭極動脈分岐部脳動脈瘤の1例

著者: 瀧波賢治 ,   長谷川健 ,   宮森正郎 ,   松本哲哉

ページ範囲:P.1191 - P.1194

Ⅰ.はじめに
 前大脳動脈領域の脳動脈瘤の好発部位は,前交通動脈と前大脳動脈遠位部(A2)である.しかし,比較的稀ではあるが前大脳動脈水平部(A1)にも発生することが報告されている.その中でも,前大脳動脈水平部皮質枝分岐部動脈瘤は今まで4例しか報告がない.今回われわれは前大脳動脈水平部前頭極動脈分岐部動脈瘤の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

シルビウス裂内ruptured dermoid cystの1例

著者: 篠山瑞也 ,   梶原浩司 ,   原田克己 ,   出口誠 ,   秋村龍夫 ,   西崎隆文 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.1197 - P.1201

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内dermoidは稀な腫瘍で全頭蓋内腫瘍の約0.2〜0.3%を占める1).胎性期外胚葉の迷入によるものと考えられ,通常嚢胞変性を来しているためdermoid cystとも呼ばれる.時に髄液腔内にcystがruptureし画像上多発性病変を呈することが知られている.今回,われわれは画像上くも膜下腔内に多発性病変を認め,主病変摘出により良好な経過をたどった頭蓋内ruptured dermoid cystの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

著明な骨破壊と脊柱管内上方進展を認めた巨大仙骨部神経鞘腫の1例

著者: 北村淳 ,   飛騨一利 ,   関俊隆 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.1203 - P.1208

Ⅰ.はじめに
 脊髄腫瘍の中で神経鞘腫は最も頻度の高い疾患であるが,仙骨および腸骨の著明な骨破壊を来したという報告は少なく,さらに脊柱管内を上方に進展したものは極めて稀である.文献上,広範な骨破壊を認めた仙骨部巨大神経鞘腫は自験例を含め過去30例報告されており,そのうち,腰椎の脊柱管内への上方進展したものは5例のみであった12,16,17,25)
 今回われわれは,L4レベルまで上方進展した仙骨部巨大神経鞘腫の1例を経験したので報告する.

急性硬膜下血腫と脳内血腫をほぼ同時に形成し発症したと思われる細菌性脳動脈瘤の1例

著者: 杉野敏之 ,   山本一夫 ,   木戸岡実 ,   大塚信一

ページ範囲:P.1211 - P.1215

Ⅰ.はじめに
 細菌性脳動脈瘤は比較的稀な疾患であり,その発症様式は一般にくも膜下出血や脳内出血が多い.末梢性脳動脈瘤による急性硬膜下血腫の報告は少なく,その中でも細菌性脳動脈瘤によるものは,われわれが渉猟し得た限りでは,過去に7例の報告3,4,11,13,16,18,26)があるのみである.
 われわれは,細菌性と考えられる末梢性中大脳動脈瘤からの出血による急性硬膜下血腫と脳内出血の合併例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

血管内治療による親血管閉塞後にDejerine-Roussy症候群を来した未破裂後大脳動脈瘤(P2部)の1例

著者: 石黒友也 ,   小宮山雅樹 ,   松阪康弘 ,   森川俊枝 ,   山中一浩 ,   岩井謙育 ,   安井敏裕

ページ範囲:P.1217 - P.1221

Ⅰ.はじめに
 Neck clippingが困難な巨大動脈瘤や紡錘状動脈瘤に対する治療としてtrappingや親動脈遮断術が行われているが2,6-8),近年では血管内治療による親動脈閉塞でも良好な成績が報告されている1,3,4).Balloon occlusion test(BOT)により親動脈閉塞後の虚血の予測を行うが,その判定が困難な場合もある1,4).今回,後大脳動脈P2部の未破裂紡錘状動脈瘤に対してBOTにより虚血症状の出現がないことを確認後にGuglielmi detachable coil(GDC)を用い瘤内塞栓および親血管閉塞術を施行したところ,術後数時間してDejerine-Roussy症候群を来した症例を経験したので報告する.

感染経路が不明な孤発性脳有鉤嚢虫症の1手術例

著者: 松永成生 ,   浅田裕幸 ,   周藤高 ,   濱田幸一 ,   猪森茂雄 ,   河村俊治 ,   濱田篤郎 ,   奥沢英一

ページ範囲:P.1223 - P.1228

Ⅰ.はじめに
 脳有鉤嚢虫症は本邦では稀であるが12),ヒト中枢神経系への寄生虫感染症としては最もよくみられる疾患である1,2).臨床症状では痙攣発作や頭蓋内圧亢進症状を認めるが特異的なものはなく,また画像所見においてもCT,MRIでは石灰化像や造影効果を伴った嚢胞性病変を呈するのみで5,8,13),診断は必ずしも容易ではない2).今回われわれは脳実質内の弧発性脳有鉤嚢虫症の1例を経験したので,その画像の経時的変化および感染経路に関し文献的考察を加えて報告する.

特別寄稿

脳血管内治療のトレーニングについて

著者: 杉生憲志 ,   徳永浩司 ,   伊達勲 ,   大本堯史

ページ範囲:P.1231 - P.1237

Ⅰ.はじめに
 脳神経血管内治療はその低侵襲性に加え,近年のカテーテル・塞栓物質等手術機器の開発・改良等に伴ってその安全性・有効性が高まり,急速に発展してきた.本治療は開頭術に比して低侵襲であるが,それゆえに術者には高度な知識・技術・経験が要求される.しかし,本治療はいまだ新しい分野であり,特に本邦では欧米に比べて施設あたりの症例数が少ない傾向にあることから,安易な適応拡大や術者の経験不足からくる合併症の増加も懸念され,適切なトレーニングが望まれている.このような事情をふまえ,本年より脳神経血管内治療学会認定医制度が発足し,全国で48名の指導医が選出され,試験を経て約100名の専門医が認定される見込みである.
 岡山大学脳神経外科では国内でもいち早く本治療に取り組み実績をあげてきた.今回当科で行っている脳血管内手術トレーニングの実際について報告する.本稿が血管内手術を志す,特に若い脳神経外科医の一助となれば幸いである.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・5

感染症・プリオン病

著者: 岩城徹

ページ範囲:P.1239 - P.1246

Ⅰ.はじめに
 中枢神経系の感染症は原因別には細菌・ウイルス・真菌・寄生虫・プリオンと様々な病原因子があり,また病型により,髄膜の感染(髄膜炎・硬膜下蓄膿・硬膜外膿瘍)と脳実質の感染(脳炎・脳膿瘍・肉芽腫)に大きく分けられる.ここではこれらを網羅することはせず,致死性,または激症な経過をたどる感染症を主に取り上げ,さらにプリオン病などトピック的な疾患についても言及する.

医療保険制度の問題と改革への提言・9

現場からの実例・提言—同日施行手術の保険請求制約について

著者: 志村俊郎 ,   清水鴻一郎 ,   真柳佳昭 ,   山浦晶 ,   安達直人

ページ範囲:P.1249 - P.1253

Ⅰ.はじめに
 平成14年度に社会保険診療報酬の抜本的改正がなされ,施設基準などが話題になっている.今回の改定の概要は,既に本連載の総説にて述べられているので5),筆者は,常日頃臨床診療と保険診療のギャップとして感じている医療技術の適正評価,特に同日施行した手術料の請求規制につき撤廃を要望する実例を挙げながら問題を提起する.

読者からの手紙

脳血管造影における,造影剤自動注入装置The AcistTM Injection Systemの有用性

著者: 須賀俊博 ,   木下弘志 ,   佐藤昇一 ,   須田良孝

ページ範囲:P.1255 - P.1255

 最近われわれは,心臓カテーテル検査用に開発され,高い評価を得ている造影剤自動注入装置The AcistTM Injection System(DVx Japan社)(Fig.1)を,脳血管造影においても使用しており,極めて有用であったので報告する.本装置は,造影剤や生理食塩水のボトルよりのシリンジへの自動充填機能,自動エアー抜き機能,エアー混入などを素早く感知し停止させる超音波式エアー検出機能,トランスジューサを介した圧波形のモニター,滅菌されたハンドコントローラーの術者による造影剤の注入量・流速の容易なコントロール性などを備えた最新のパワーインジェクターである.スタッフが,造影剤や生理食塩水のボトルをセットし回路を組み立てて,その後,術者が滅菌したハンドコントローラーをセットするだけで準備が完了する.このハンドコントローラー(Fig.2)は2連のボタン式で,術者が押し込む空気圧にて,一方のボタンで生理食塩水を,他方で造影剤を注入する.造影時の1回ごとの造影剤の注入量や流速その他はあらかじめ本体のタッチパネルで設定するがハンドコントローラーで流速や注入量の微調整が可能である.シリンジの造影剤が少なくなれば,自動エアー抜き機能を使いながら自動充填機能にて充填される.

報告記

2nd International Symposium on Neurosurgical Re-engineering of the Damaged Brain and Spinal Cord—(2002年7月10日〜12日)

著者: 山本隆充

ページ範囲:P.1257 - P.1257

 国際機能再建脳神経外科シンポジウム(Interna-tional Symposium on Neurosurgical Re-engineer-ing of the Damaged Brain and Spinal Cord)は,世界脳神経外科学会連合(WFNS)のNeurorehabil-itation委員会が主催するシンポジウムです.第1回は,2000年にドイツのミュンスターでフォン・ビルト教授を会長として開催され,プロシーディングがActa Neurochirurgicaのsupplementとして発刊されています.去る2002年7月10日(水)から12日(金)までの3日間,第2回が日本大学脳神経外科の片山容一教授を会長としてTokyo Disney Resortのホテルオークラ東京ベイで開催されました.
 これに先立って,pre-symposium round table discussionを千葉療護センターで開催しました.実際の患者を参加者が診察したうえで,各種の治療や手術についてのビデオプレゼンテーションを行い,さらに総合討論を行いました.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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