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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻12号

2002年12月発行

雑誌目次

施設基準,包括評価導入調査と脳神経外科医

著者: 金彪

ページ範囲:P.1269 - P.1270

 現在進行中の医療制度改革において,脳神経外科は急性期医療,高度医療の代表格として,その前線に立たされている感がある.診療報酬改定・施設基準導入にとどまらず,来春開始計画である特定機能病院の包括払い制度導入とそれに向けて現在行われているデータ収集(「特定機能病院の医療機関別包括評価導入に関する調査」以下,「包括評価導入調査」),2004年導入予定の総合研修制度など,めまぐるしい変革にさらされている.後二者はとりあえず今は大学病院だけの問題であるが,早晩,われわれのコミュニティ全体に大きい影響を及ぼすものである.
 包括払いは,DRG(Diagnosis Related Group)/PPS(Prospective Payment System)の国内版であるが,現在の厚労省の計画は,個別の疾患について特定機能病院ごとに定めた日ごとの一定額を支払うというものである.準備調査として,7月から10月の4カ月間,全国82の特定機能病院(80医科大学医学部+2国立センター)を対象に,全入院患者の診断情報(入院経路,退院先,転帰,傷病名,併存症,合併症など),手術情報(種類・保険コード,回数,麻酔など),関連情報(意識障害,妊娠),補助療法(化学・放射線療法,中心静脈,人工呼吸器,高圧酸素療法)などの詳細なカルテ情報に加えて,全レセプト情報,施設全体の稼働率,在院日数,救急患者数情報,退院者リストに及ぶ膨大なデータ収集を行っている.

総説

脳虚血に対する低体温療法

著者: 河井信行 ,   中村丈洋 ,   長尾省吾

ページ範囲:P.1273 - P.1283

Ⅰ.はじめに
 全脳梗塞入院患者の10〜15%と推定される重症脳梗塞の予後は非常に悲観的であり,多くの症例が寝たきりで全面要介護状態となる.脳梗塞患者の予後に影響する因子は多数報告されているが,長期予後を決定する最大の要素は脳梗塞の重症度である6).脳梗塞急性期の病態解明が進むとともに急性期の治療が極めて重要であることが認識されるようになり,なかでも血栓溶解療法と脳保護療法が注目をあびている.急性期脳梗塞症に用いられる血栓溶解療法は脳梗塞患者の予後を明らかに改善したが,血栓溶解剤を急性期に投与しても重篤な出血性病変を起こし著明な脳浮腫を生じる例も少なからずみられ7,23),ほとんどの重症脳梗塞患者の予後は依然として不良である1,12)
 低体温が強力な脳保護作用を有することは古くから知られており,1945年Fayらは重症頭部外傷患者に対し直腸温24℃,3日間の管理を行ったところ全例が生存したことから,低体温環境は障害に陥った神経細胞に対して何らかの保護作用があるのではないかとの可能性を報告した.その後1950年代における低体温療法は,過度の体温低下(30℃以下)による不整脈,循環機能抑制,重症肺炎,敗血症などが高率に発生し,その臨床成績は決して良好なものではなかった.一部の症例には好転をもたらす画期的な治療法であったが,合併症があまりにも高率に生じたため,次第に臨床の場から姿を消していった.

研究

男性プロラクチン産生腺腫の治療成績

著者: 岩井謙育 ,   山中一浩 ,   石黒友也 ,   森川俊枝 ,   松阪康弘 ,   小宮山雅樹 ,   安井敏裕

ページ範囲:P.1285 - P.1292

Ⅰ.はじめに
 プロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)は,女性では月経周期の異常や乳汁漏出を主症状とし,microadenomaで診断されることが多い.しかし,男性例では,高プロラクチン(PRL)血症の主症状は射精障害や性欲の低下であり,早期の診断が難しく腫瘍が非常に大きくなってから診断される症例が多い7).プロラクチノーマに対するドーパミン(DA)作動薬の投与は,血清PRL値の低下と腫瘍縮小効果の両面で有効であり,現在ではプロラクチノーマの治療の第一選択は,腫瘍の大きさにかかわらず手術摘出からDA作動薬になっている3,9,22,25).今回われわれは,薬物治療を第1選択として治療を行ってきた男性プロラクチノーマについて,その治療成績を検討した.

もやもや病における後大脳動脈狭窄性病変の臨床的意義

著者: 黒田敏 ,   石川達哉 ,   宝金清博 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.1295 - P.1300

Ⅰ.はじめに
 もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)は両側内頸動脈終末部に進行性の狭窄が生じるために大脳基底核などに拡張した血管陰影が側副血行路として出現する特異な疾患である2,11).また,本疾患では,後大脳動脈(posterior cerebral artery;PCA)も内頸動脈系への重要な側副血行路として機能している6-8,10,12,13).そのルートは,1)pial anastomo-sisを介する側頭葉,頭頂葉へのルート,2)後傍脳梁動脈(posterior pericallosal artery)を介する前大脳動脈へのルート,3)拡張した視床穿通動脈(thalamo-perforating artery)や後脈絡動脈(pos-terior choroidal artery)によるposterior moyamoya vesselsを介するルートに大きく分類することができる.しかし,もやもや病の病期が進行すると,PCAの近位部にも狭窄性病変が出現してくることが以前より知られており,これが脳循環全体に及ぼす影響はきわめて大きいと考えられる.

CEA後の再狭窄—発生要因と治療

著者: 木暮修治 ,   坂井信幸 ,   村尾健一 ,   飯原弘二 ,   酒井秀樹 ,   東登志夫 ,   高橋淳 ,   林克彦 ,   由谷親夫 ,   植田初江 ,   永田泉

ページ範囲:P.1303 - P.1312

Ⅰ.はじめに
 本邦における脳梗塞の臨床病型の主体は,そのライフスタイルの変化とともに穿通枝梗塞からアテローム血栓性梗塞に移行しつつある10).この病態の先進国とも言うべき欧米ではNASCET,ECST,ACASなどのrandomized control studyにより頸部頸動脈の高度狭窄症における脳梗塞の発生予防にcarotid endarterectomy(CEA)が有効とされ7,8,19),近年日本においても盛んに行われるようになってきた.CEAの有効性は周術期合併症が低率であることが必要条件であり,手術手技の確立が大切であるが,これとならび治療後慢性期に一定の確率で出現する再狭窄も重要な問題であり,狭窄の程度や症状により再治療の対象となっている3,15)
 本邦においては,CEA後の再狭窄の報告は未だ散見される程度であり23),日本人特有の再狭窄の原因および治療方法について,ほとんど検討がなされていないのが現状である.当センターでは90年代前半より,頸部頸動脈狭窄症に対しCEAを施行してきた.この経過観察期間中に認められた再狭窄症例につき,その発生原因および治療方法につき検討を行ったので報告する.

症例

Primary intracerebral malignant fibrous histiocytomaの1例

著者: 東山巨樹 ,   笹嶋寿郎 ,   木内博之 ,   桑原直行 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.1315 - P.1322

Ⅰ.はじめに
 Malignant fibrous histiocytoma(MFH)は,四肢あるいは後腹膜といった軟部組織に好発する悪性腫瘍で,頭蓋内原発MFHは,1976年にGonzalez-Vitaleら9)が初めて報告して以来,現在までに33例1-3,5,8,11,13,18,20,22,23,25,26)が報告されている.そのうちで,脳内に発生したMFHは今回文献を渉猟した限りでは8例2,3,8,13,18,20,22,23)にすぎず,組織学的に悪性転化が確認された報告はみられない.
 最近,再発時に悪性転化を来したintracerebral MFHの1手術例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

小児小脳膠芽腫の1例

著者: 遠藤英徳 ,   隈部俊宏 ,   昆博之 ,   吉本高志 ,   中里洋一

ページ範囲:P.1325 - P.1329

Ⅰ.はじめに
 小児小脳原発膠芽腫は極めて稀で,過去に19例の報告があるに過ぎない2-12,14).今回われわれは10カ月の経過で死亡した7歳の小脳から脳幹部にかけての膠芽腫症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

微小血管減圧術後にアレルギー反応に起因した無菌性髄膜炎を合併した2例

著者: 若本寛起 ,   宮崎宏道 ,   折居麻綾 ,   石山直巳 ,   秋山克徳 ,   木花いづみ

ページ範囲:P.1331 - P.1335

Ⅰ.はじめに
 われわれは微小血管減圧術(microvascular de-compression:MVD)後に無菌性髄膜炎を合併した2症例を経験した.両者とも類似した臨床経過をとり,その病態を検討したところアレルギー反応に起因する髄膜炎が考えられたので,若干の文献的考察を加え報告する.

外頸動脈欠損症の3症例

著者: 中岡勤 ,   松浦浩

ページ範囲:P.1337 - P.1342

Ⅰ.はじめに
 先天的な外頸動脈欠損症は珍しく,文献を渉猟できたかぎりではFranklinら4)の1例のみで,その発生要因においては症例も少なく十分に検討されているとはいえない.
 最近,外頸動脈欠損症の3症例を経験し,その内の2症例については,脳梗塞との関連をうかがわせる頸動脈病変として,特徴的な内膜の肥厚thickening of intima-media complex(以後intima-media complexをIMC)と潰瘍形成を超音波検査から認めたため,同部位の内膜剥離術を施行し,術野にて病変部位を観察することができた.それらの所見を含め,発生要因について若干の文献考察を加え,報告する.

末梢性上小脳動脈解離性動脈瘤破裂によるくも膜下出血の1例

著者: 荒木朋浩 ,   藤原浩章 ,   村田浩人 ,   三平剛志 ,   滝和郎

ページ範囲:P.1345 - P.1351

Ⅰ.はじめに
 近年,解離性脳動脈瘤(以下DA)は,本疾患に対して関心が高まったことと診断技術の進歩により,その報告数は増加している7,27).しかし,治療方針は確立されていない.後頭蓋窩において椎骨・脳底動脈以外の末梢部に発生したDAの報告は少なく,特に上小脳動脈(以下SCA)に限局した報告は本例を含め4例のみで極めて稀である4,6,14).今回,われわれはくも膜下出血で発症し脳血管撮影上特異な経時的変化を示したSCA ante—rior pontine segmentに限局するDAの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・6

脱髄性疾患

著者: 今野秀彦

ページ範囲:P.1353 - P.1359

Ⅰ.概念・定義
 脱髄性神経疾患(demyelinating disease)とは,中枢および末梢神経組織において,神経線維の髄鞘およびその構成細胞であるオリゴデンドログリアやシュワン細胞が特異的に脱落するもので,後天的に発症する原因不明の疾患群の総称である.中枢神経組織に生じる疾患のなかで最も多い多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は,臨床的には再発と緩解を繰り返す時間的な多発性と中枢神経組織の様々な部位に病巣(脱髄斑:demyeli—nating plaque)が多発するという空間的な多巣性を示す特徴がある.脱髄斑とは,高度な髄鞘の脱落に比して軸索の変化が軽度である特徴を示す限局性病変のことで,多くは反応性アストログリアの増生を伴う.本稿では,このMSについて述べる.

医療保険制度の問題と改革への提言・10

現場からの実例・提言—脳神経外科の立場からの保険診療の矛盾

著者: 岡芳久 ,   貞本和彦 ,   寺本明 ,   島健 ,   安達直人

ページ範囲:P.1361 - P.1365

 われわれ脳神経外科医は,患者のquality of life(QOL)を改善するべく,日常診療を行っているが,脳神経外科の日常診療を行っていて,保険診療に対しては多くの疑問が生じてくる.今回はその一部の実例を挙げてみる.

報告記

“Island of God”—バリでのICRAN 2002に参加して—(2002年8月1日〜4日)

著者: 三木保

ページ範囲:P.1367 - P.1368

 1965年World Federation of Neurosurgical Socie-tiesの神経外傷を取り扱うAffiliated CommitteeとしてThe International Neurotraumatology Commit-teeが組織された.1970年に第1回の学術会議が開かれ,1982年にその会議の名称は,現在のIn-ternational Conference on Recent Advance on Nu-erotraumatology(ICRAN)に変更された.第1回のICRANが1982年にEdinburghにてPhillip Harris教授のもと開催された.したがって脳神経外科関連学会として極めて歴史ある学会といえよう.本邦では慈恵会医科大学名誉教授の中村紀夫先生が1992年にアジアで最初にICRANを軽井沢で主宰された.この軽井沢の学会では従来の外傷の諸問題に加えてdiffuse axonal injuryについての熱いdiscussionがなされていた.小生,これがICRANの最初の強烈な印象として残り,以後,何かに惹かれるように毎回ICRANに参加させていただくようになった.
 今回のICRAN 2002は2002年8月1〜4日に,インドネシアのBeny A.Wirjomartani教授の主宰によりバリ島で開催された.参加者は世界45カ国から約400名が集った.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第30巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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