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総説
脳虚血に対する低体温療法
著者: 河井信行1 中村丈洋1 長尾省吾1
所属機関: 1香川医科大学脳神経外科
ページ範囲:P.1273 - P.1283
文献購入ページに移動全脳梗塞入院患者の10〜15%と推定される重症脳梗塞の予後は非常に悲観的であり,多くの症例が寝たきりで全面要介護状態となる.脳梗塞患者の予後に影響する因子は多数報告されているが,長期予後を決定する最大の要素は脳梗塞の重症度である6).脳梗塞急性期の病態解明が進むとともに急性期の治療が極めて重要であることが認識されるようになり,なかでも血栓溶解療法と脳保護療法が注目をあびている.急性期脳梗塞症に用いられる血栓溶解療法は脳梗塞患者の予後を明らかに改善したが,血栓溶解剤を急性期に投与しても重篤な出血性病変を起こし著明な脳浮腫を生じる例も少なからずみられ7,23),ほとんどの重症脳梗塞患者の予後は依然として不良である1,12).
低体温が強力な脳保護作用を有することは古くから知られており,1945年Fayらは重症頭部外傷患者に対し直腸温24℃,3日間の管理を行ったところ全例が生存したことから,低体温環境は障害に陥った神経細胞に対して何らかの保護作用があるのではないかとの可能性を報告した.その後1950年代における低体温療法は,過度の体温低下(30℃以下)による不整脈,循環機能抑制,重症肺炎,敗血症などが高率に発生し,その臨床成績は決して良好なものではなかった.一部の症例には好転をもたらす画期的な治療法であったが,合併症があまりにも高率に生じたため,次第に臨床の場から姿を消していった.
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