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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻2号

2002年02月発行

雑誌目次

医学教育改革と脳神経外科

著者: 福島武雄

ページ範囲:P.119 - P.120

 二十一世紀も,はや一年を経過し,新たな脳の世紀としての学問の進歩はめざましいが,近頃物騒なことが多々ある.ちょうど十年前の湾岸戦争はSF小説そのもので,ブラウン管を通してみる光景に,世紀末の様相が感じられ背筋が寒くなったことを思い出す.またしても人類は世界を戦慄させた同時多発テロ事件,炭疽菌による無差別テロ,パレスチナ・イスラエル問題と,貧困,宗教,人種を基礎とした新たな不協和音に直面している.現実ではとても考えられないことを綿密な計画のもとに実行していく人間の恐ろしさを考えるとき,文明の進歩に対する恐怖さえ感じる.これらのことが,ためらいもなく行われる根底には何があるのであろうか.
 同じようなことが医学界にも起きるとすれば,果たして飽くなき文明の追求と称する学問の進歩が,個人の,国家の,世界の,人類の幸せにつながるであろうか.

集中連載 21世紀の脳神経外科

脳神経疾患における血管内治療の現況と展望

著者: 小池哲雄

ページ範囲:P.123 - P.128

Ⅰ.はじめに
 日本で脳神経領域の疾患に対して,血管内治療という概念で治療がなされるようになったのは,ほんの20年余であり,1982年に当時の名古屋大学脳神経外科教授景山直樹先生により名古屋で開催された第1回の日本脳神経血管内手術研究会が,この領域の最初の全国集会で,この時の演題数は20,参加者は120名余であった.それが2001年11月新潟で迎えた第17回日本脳神経血管内治療学会では演題数は約300,参加者は約1,000名にのぼるようになった.これらは脳卒中を中心とする脳疾患に対する血管内治療の比重がさらに高まっているからと思われる.このようななかで2001年から日本脳神経外科学会や関連諸学会の援助・協力により日本脳神経血管内治療学会において認定医制度が発足し,2002年1月に最初の専門医試験が実施された.
 本稿ではそれらを踏まえ,脳神経領域の主たる疾患に対する血管内治療の現況と問題点,さらにその将来について簡単に述べるが,血管内治療がfirst choiceとなり,ほぼその手技も確定した硬膜動静脈痩については今回言及しない.

小児神経外科領域の現状と展望

著者: 程塚明 ,   田中達也

ページ範囲:P.131 - P.141

Ⅰ.はじめに
 小児神経外科領域においては,水頭症に代表される中枢神経系先天奇形を始め,脳腫瘍,頭部外傷,脳血管障害など,ほぼ脳神経外科全般にわたる疾患群を含んでいる.しかし,成人と異なり,小児ならではの病因・病態があり,その診断や治療においても特殊性を有している.また,小児神経外科領域においても他の分野同様,基礎研究や臨床研究において著明な進歩が認められた.一方,21世紀に向けての課題や展望も明らかとなってきた.以下に主要な各分野における現状と展望につき概説する.

総説

脊髄動静脈奇形

著者: 宮本享 ,   片岡大治

ページ範囲:P.143 - P.153

Ⅰ.はじめに
 脊髄動静脈奇形という疾患の概念は,選択的脊髄血管造影法の発達とともに大きく進歩して理解されるようになった.その後,血管内治療という治療手段の進歩に伴い超選択catheterizationによってさらに詳細な解剖学的構築が分かるようになった.また,MRIの画像診断能力の改良に伴い,病態生理学的な情報をも得ることができるようになり,さらに本疾患への理解が深まってきている.
 しかしながら,本疾患は稀な疾患で病理組織学的検討がなされることは比較的少ない.さらに脊髄は脳におけるSPECTやPETのように循環動態を測定する手段をもたないため,放射線学的所見のみで疾患分類が類推判断され体系化されてきた可能性があり,当然実際の術中所見との間に微妙な差異があり得る.脊髄動静脈奇形についての多くの分類がこれまで提唱され,学会発表でも成書においても疾患分類に力点がおかれすぎてきたのはこのためである.したがって,放射線学的手法のみによる診断の限界を念頭におく必要がある.病態理解のためには,脊髄動静脈奇形だけが特殊な疾患概念をもっというよりは,本疾患を脳における動静脈奇形あるいは硬膜動静脈瘻に類似した類似の病態であると捉え,そのうえで脊髄血管系の特殊性を考えるのが妥当であろうと考えている.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頭蓋骨早期癒合症の治療—形成外科的手技

著者: 栗原邦弘

ページ範囲:P.155 - P.162

Ⅰ.はじめに
 頭蓋骨早期癒合症はsimple craniosynostosisに加えCrouzon症候群,Apert症候群,Peiffer症候群,Capenter症候群に代表されるcomplex cranio-synostosisとに分けられる.頭蓋内圧亢進に対する減圧術に加え,complex craniosynostosisは眼窩,上顎の形成障害による形態,機能障害が加わり,チーム医療の対象疾患として治療が行われている.この頭蓋・顔面骨骨切り術は軟鋼線による骨締結,骨移植術から,チタン製のミニプレートによる強固な固定を行う方法に移り,さらに創外(内)骨延長・固定器が開発された.これにより重篤な術後合併症である感染症は極めて少なくなった.内固定延長器を用いた最近のmonoblockでの頭蓋・顔面一体移動術を中心に現在行っている治療・手技・解剖の一部を紹介する.

研究

冷凍保存した自家骨片を用いた頭蓋形成術—術後感染率についての検討

著者: 永山和樹 ,   吉河学史 ,   染川堅 ,   河野道広 ,   瀬川弘 ,   佐野圭司 ,   塩川芳昭 ,   齋藤勇

ページ範囲:P.165 - P.169

Ⅰ.はじめに
 過去に様々な手法および材質を用いて減圧開頭術後の頭蓋形成術が行われてきた.その中には,減圧開頭術時に生じた頭蓋骨片を用いたり,腸骨や肋骨などの自家骨を用いての頭蓋形成20)や,tita-nium11,21)などの金属を用いるもの,celluloidやceramics8),acrylic resin,そしてhydroxyapatite4)など,非金属を用いた人工骨使用頭蓋形成がある.しかし人工骨を用いた頭蓋形成術は,感染や強度,装着感,美容的側面,費用などの面で未だ満足すべき水準とはいえない.
 当施設では冷凍保存した頭蓋骨片を用いて頭蓋形成術を行っている.この手法は過去にも報告されており14,16),手技が簡便で美容的効果にも優れているが,保存方法には一定の見解が得られていない.今回われわれは,冷凍保存した自家頭蓋骨片を用いた頭蓋形成術の長期経過を追跡し,その後の感染率について検討したので報告する.

先取り鎮痛による脳神経外科手術後の疼痛予防

著者: 本間敏美 ,   今泉俊雄 ,   千葉昌彦 ,   丹羽潤

ページ範囲:P.171 - P.174

Ⅰ.はじめに
 脳神経外科領域の手術後には,2/3の患者が中等度から重度の痙痛を訴える1).術後疼痛に鎮痛剤の効果が不十分であったり,鎮痛剤が血圧低下や消化器症状などの副作用を起こすこともあり,使用に戸惑うことがある.また,術後急性期の疼痛は,ときに慢性疼痛の原因となる可能性もあり,術後疼痛を十分抑制することが望まれている3,4,6,9,12)
 術後疼痛予防のため,われわれは皮切前に行う局所麻酔剤の皮膚,皮下注入の他,閉創時に局所麻酔剤の術創部への散布などを行ってきたが2,5,6,8,10),経験上十分な効果があったとは思えない.術後疼痛に対して術前より痛覚神経をブロックする先取り鎮痛(preemptive analgesia)が考案されているが3,4,6,9,11,12),われわれは前頭側頭開頭を行った未破裂脳動脈瘤の手術症例において,先取り鎮痛による脳神経外科手術後の疼痛予防を行い6),結果が良好であったので報告する.

症例

急性硬膜下血腫で発症した細菌性脳動脈瘤と思われる末梢性脳動脈瘤の1例

著者: 坪井雅弘 ,   芦立久

ページ範囲:P.177 - P.181

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤破裂による急性硬膜下血腫の報告は散見されるが,末梢性脳動脈瘤による急性硬膜下血腫の報告は少ない11).中でも細菌性脳動脈瘤によるものは極めて稀である.
 われわれは,細菌性と思われる末梢性中大脳動脈瘤からの出血による急性硬膜下血腫の1例を経験したので報告する.

後側方到達法(Transverso-arthropediculectomy)により治療した若年者上位胸部脊椎症の1例

著者: 藤原昌治 ,   井須豊彦

ページ範囲:P.183 - P.186

Ⅰ.はじめに
 胸部脊椎症は頸部あるいは腰部脊椎症と比して稀なものである.手術治療としては前方到達法と後方到達法,後側方到達法に大別される.今回われわれは胸部脊椎症に対し,後側方到達法(transverso-arthropediculectomy)を用いて病変部を除去し得た1症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

転移性脊髄髄内腫瘍の2症例

著者: 矢野俊介 ,   飛騨一利 ,   関俊隆 ,   岩﨑喜信 ,   蝶野吉美 ,   杉本信志 ,   藤本真 ,   布村充

ページ範囲:P.189 - P.196

Ⅰ.はじめに
 悪性腫瘍の脊椎や脊髄硬膜外・硬膜下腔への転移は比較的よくみられるが,脊髄髄内への転移は稀とされている.しかし,近年の画像診断の進歩や悪性腫瘍に対する治療技術の向上に伴い転移性脊髄髄内腫瘍を経験する機会が増すことが予想される.今回われわれは,悪性腫瘍の脊髄髄内転移を来した2症例を経験したので報告する.

下垂体卒中が疑われた破裂前大脳動脈瘤とラトケ嚢胞の1合併例

著者: 坂本繁幸 ,   井川房夫 ,   川本仁志 ,   大林直彦 ,   迫田英一郎 ,   日高敏和 ,   鮄川哲二

ページ範囲:P.199 - P.203

Ⅰ.はじめに
 突然の激しい頭痛とくも膜下出血で発症する疾患として,破裂脳動脈瘤と下垂体卒中がある.軽症例では両者の緊急性は対照的であるが,鑑別が困難な場合もある.下垂体卒中の頻度は全下垂体腺腫の0.6〜17%1)で,そのうち,くも膜下出血の頻度は5%とされる1),一方,ラトケ嚢胞の多くは無症候性であり,剖検で発見される頻度は11〜33%とされる5,15),ラトケ嚢胞に脳動脈瘤を合併した症例の報告は極めて少なく,特に破裂脳動脈瘤を合併した報告は1例にすぎない14).今回われわれは,発症当初は下垂体卒中が疑われたが,緊急magnetic resonance imaging(以下MRI)にて破裂前大脳動脈瘤とラトケ嚢胞の合併と診断した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

ガラス片の穿通によって発生した頸部椎骨動静脈瘻の1例

著者: 原田淳 ,   美野善紀 ,   長谷川真作 ,   久保道也 ,   桑山直也 ,   遠藤俊郎

ページ範囲:P.205 - P.208

Ⅰ.はじめに
 外傷性椎骨動静脈瘻は稀な疾患で,文献的には頸部血管損傷の約3〜19%6,7)であるといわれているが,外傷性椎骨動脈瘤とならんで遅発性出血の原因となり,致命的な予後をもたらす危険な疾患である.今回われわれは,ガラス片の穿通による頸部切刺創を契機として発生した椎骨動静脈瘻症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

水様透明の内容液を有し診断に難渋した頭皮類皮腫の1例

著者: 岩室康司 ,   白畑充章 ,   地藤純哉 ,   時女知生 ,   細谷和生 ,   徳力康彦

ページ範囲:P.211 - P.214

Ⅰ.はじめに
 頭部の嚢胞性疾患には外傷による帽状腱膜下血腫など頭蓋外の軟部組織の損傷3),頭蓋骨膜洞,偽性髄膜瘤4,5),先天性疾患である二分頭蓋5),類表皮腫7),類皮腫1,6)などがあるが,個々の疾患により治療方針が異なり,これらの鑑別は重要である.今回われわれは生後7カ月の女児に発症した嚢胞性疾患で,鑑別に難渋した症例を経験したので報告する.

外傷性sinus pericraniiの1例

著者: 天野敏之 ,   稲村孝紀 ,   森岡隆人 ,   詠田眞治 ,   中溝玲 ,   伊野波諭 ,   福井仁士

ページ範囲:P.217 - P.221

Ⅰ.はじめに
 1850年にStromeyerが,頭蓋内静脈系と頭皮下静脈系の交通による頭皮下静脈性腫瘤をsinus pericraniiと報告して以来,報告が散見される.今回われわれは,左前頭部の陥没骨折後に発生した外傷性sinus pericraniiを経験したので報告する.

読者からの手紙

「橋出血に対する治療とその機能的予後—保存的療法と手術的療法の比較—」1)の論文について

著者: 高野尚治

ページ範囲:P.223 - P.223

 2001年9月号に掲載された研究論文1)について,橋出血症例を単一施設の通年でまとめ,定位的血腫除去術施行群と不施行群で,意識レベルと麻痺の改善度を比較していますが,疑問点が浮かびましたので質問します.まず橋出血が高血圧性脳出血のなかでは少ないために,論文内で比較している症例の各母集団が有意差の検討をするには小さいと思います.また有意差検定をしておいて,「有意ではないものの……の傾向が認められた」との記載は適当ではないと考えます.有意差があるかないかを検定しているのであるから,「有意差を認めなかった」とすべきです.著者の記載方法では有意差検定をした意味がありません.ネガティブデータもりっぱな報告です.
 次に,検討症例を「発症後2週間以上生存した症例について行う」ことで,ここで予後の悪い大型の血腫例は除くというバイアスをかけていることになり,意識レベル,麻痺レベルの改善度の比較は入院時とではなく,術直前と術後を比較すべきです.入院後は高張減圧剤などの内科的治療を両群に行っているわけで,内科的治療継続群と発症後2週間ほどで手術を行った手術施行群の比較では,純粋に手術が寄与した改善度はさらに低くなる可能性が十分考えられます.この点の検討結果はどうなったでしょうか.

高野尚治先生への返答

著者: 原貴行

ページ範囲:P.224 - P.224

 この度は私どもの論文に貴重なご意見をいただきましてありがとうございました.いただいたご質問にそれぞれお答えしたいと思います.
 まず,統計学的考察のところで「有意ではないものの……という傾向が認められた」という表現ですが確かに誤解を招く表記であったと思います.ただ,単純にパーセントのみで言いますと,手術群で13/18(72%),非手術群で8/19(42%)と手術群で改善率が高いのは確かであり,表記としては「手術群で高い傾向があるが,症例数が少ないために統計学的な有意差には至らなかった」とすべきであったと思います.

報告記

第6回アジア・オセアニア国際頭蓋底外科学会—(2001年 11月12日〜15日)

著者: 大畑建治

ページ範囲:P.225 - P.226

 2001年11月12日から15日に幕張のホテルニューオータニで,第6回アジア・オセアニア国際頭蓋底外科学会(The 6th Asian-Oceanian Inter-national Congress on Skull Base Surgery)が,高倉公朋先生,白馬明先生,Madjid Samii先生を名誉会長として,慶應義塾大学医学部脳神経外科河瀬 斌教授の会長の下に開催された.本会は,1991年より2年ごとに開催され,初代会長の高倉公朋先生以降,Cheng-Chung Wang先生(北京),Kil Soo Choi先生(ソウル),Ali Raja先生(イスラムバード),Turel先生(ムンバイ)がそれぞれ歴代の会長を務められている.私自身はパキスタンの学会以外は毎回出席しているが,とにかく熱い討議が交わされる学会としての印象が強い.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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