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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻3号

2002年03月発行

雑誌目次

医学教育における脳神経外科の立場

著者: 板倉徹

ページ範囲:P.237 - P.238

 近年,脳神経外科の社会的立場の脆弱性が指摘されている.脳神経外科医が救急の現場や脳卒中の医療で活躍しているにもかかわらず,社会的にこの点が十分認識されているとはいえない.例えば,救命救急センター長は「救急指導医など…」とされ,脳神経外科医がセンター長となることを排除している.また,今年度から発足した厚生労働省指定のstroke care unitの設置条件に「常勤の神経内科医が必須」とされているが脳神経外科医はそうではない(最近,脳神経外科医も含まれるようになったと聞く).当大学附属病院救命センターにおける救急の実態を考えてみても,その約半数が脳神経疾患であり,脳血管障害と頭部外傷がそのほとんどを占めている.しかもその多くの症例を脳神経外科医が治療しているのが現状である.にもかかわらず,脳神経外科医が救命センター長になれなかったり,SCUのスタッフとして必須ではないというのは納得がゆかない.
 同じことを教育の現場でも痛切に感じている.日本の卒前教育にコアカリキュラムの導入が計画されている.重要な分野だけを徹底的に教育し,その他は各大学の自主性に任せるというものだ.その中で臨床実習などはコアの科目だけを必須とし他の分野は選択性になるという.このコアカリキュラムが日本の医学教育にとって適切なものであるかどうか,はなはだ疑問が残る.

集中連載 21世紀の脳神経外科

脊椎脊髄外科領域における現状と展望

著者: 花北順哉

ページ範囲:P.241 - P.244

Ⅰ.はじめに
 本稿は第60回日本脳神経外科学会総会において,各分野における展望を述べることを目的に持たれた特別企画における発表をもとにしたものである.企画の主旨からは,将来展望について論じることも必要であるとは考えた.しかしながら,脊椎・脊髄外科領域においては,長年にわたる実績がある整形外科医という強力なライバルを有している.将来の夢について語ることも重要であるが,わが国の脳神経外科医が直面している様々な今日的問題点を掲げ,これへの対策を確実に講じることがなによりも重要であると考えて以下の考察を行った.

神経外傷領域の現状と展望

著者: 阿部俊昭 ,   沢内聡 ,   村上成之 ,   奥野憲司

ページ範囲:P.247 - P.251

I.はじめに
 神経外傷の研究は,脳神経外科学のあらゆる分野の中でも最も古い歴史をもつとされる.神経外傷の治療は,脳神経外科手術の原点ともいうべき,血腫を除去することから始まった.その後,画像診断の進歩に伴って,頭部外傷の原因として血腫のみではなく,びまん性軸索損傷,びまん性脳損傷と呼称される非出血性病変の存在が明らかになった1,4).びまん性脳損傷と血腫が共存した病態をより理解しやすいように作成されたのが,1991年にMarshallらの報告したTraumatic ComaData BankによるCT分類である16).さらには,脳実質損傷および血腫など一次性損傷としての病態を,低酸素,低血圧など二次性損傷が修飾していることがChesnutらにより報告され,頭部外傷の病態生理はより複雑なものとなっている3)
 病態生理21世紀の神経外傷研究の主軸は,1)神経損傷のメカニズムと病態の解明,2)急性期の神経保護療法の確立,そして3)損傷された神経組織の再構築,修復の3つであると考える.

総説

神経内視鏡手術の現況と展望

著者: 上川秀士 ,   瀧本洋司

ページ範囲:P.253 - P.272

Ⅰ.はじめに
 20世紀初頭に始まった神経内視鏡手術3)(Fig.1)は1990年代に優れた脳室ファイバースコープが相次いで開発されるとともに15,40),広く注目されるようになった.低侵襲医療の概念はギリシャ・ローマ時代からすでにあったとされる.約2000年前の紀元79年のベスビオ火山の大噴火の際に,火山灰に埋もれた古代ローマの都市ポンペイの遺跡から肛門鏡・子宮鏡の原型と思われるものが発見されたのである.したがって内視鏡は約2000年もの歴史があることになる.
 21世紀に入った現在,内視鏡手術は内科,外科,整形外科,耳鼻咽喉科などの領域のみならず脳神経外科領域においてもに一般化しており,広く行われ始めてきた.1994年に発足した日本神経内視鏡研究会もこれまで8回を数え,本年より「学会」に昇格した(Table 1).これまで保険点数としては認められず,まだまだこの分野はマニアックな世界と思われている向きもあったが,本年の診療報酬改正に伴いようやく認められることになった.この時期に神経内視鏡手術の現況を整理し展望を述べることは時宜を得たことと思われる.

研究

小脳橋角部腫瘍摘出における聴力の術中モニタリング—ABRとCNAPの比較検討

著者: 山上岩男 ,   牛久保修 ,   内野福生 ,   小林英一 ,   佐伯直勝 ,   山浦晶 ,   岡信男

ページ範囲:P.275 - P.282

Ⅰ.はじめに
 診断機器・手術手技の進歩により聴力を温存した小脳橋角部腫瘍の摘出が可能となっている.聴力の術中モニタリングは聴力温存率の向上に有用と考えられるが,術中モニタリングと聴力温存率の有意な関係は認めないとの報告もある9).聴力の術中モニタリングに用いる聴覚誘発反応には,ABR:auditory brainstem response,ECoG:electro-cochleography,CNAP:cochlear nerve compoundaction potentialがある.
 ABRは最も普及した術中モニタリングであるが,頭皮上電極から得られるfar-field potentialで電位が1μV以下と小さく,加算解析が必要であり,real-timeとなり得ないという欠点がある2).ECoGでは,電極を鼓膜穿刺し中耳内壁の岬角promontoryに留置することにより,蝸牛の電気活動をABRに比べsignal/noise(S/N)の良好な電位として,ほぼreal-timeに記録できる10,15,17,20,22).CNAPでは蝸牛神経上を伝導する誘発電位を,蝸牛神経上に置いた電極からほぼreal-timeに記録できる.CNAPは1980年代に聴力の術中モニタリングとして報告されたが12,23),その後あまり普及しなかった.

Pterional approachによる前交通動脈瘤手術の開頭側選択基準

著者: 岡本新一郎 ,   伊藤昌広

ページ範囲:P.285 - P.291

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤の直達手術では,安全かっ確実な頸部クリッピングが最大の目標で,そのためには,親動脈の確保,動脈瘤頸部の確認と,穿通枝の確実な温存が必須である.前交通動脈瘤の場合,頭蓋内の深部で術野が狭く,しかも関係する動脈が多いため,その達成が困難なこともある.手術法としてはpterional approachが最も一般的である8)が,正中に存在する前交通動脈瘤に対して左右どちら側を開頭するかについては,様々な意見がある.これまで開頭側を決める際に考慮すべき条件として,動脈瘤の向き1,5),左右の前大脳動脈A2部の前後関係2,3),A1部の血管径の左右差2,6),優位半球の側8),術者の利き手8)などが挙げられている.複数の条件の下で選択すべき側が互いに異なる場合,どの条件を優先すべきかという点については必ずしも一致しているとは言えず,また,それぞれの選択基準で実際にどの程度安全かっ確実なクリッピングが達成されているかを評価したものは少ない.評価が明確でない一因として,多くの報告では「安全性・確実性」や手術の「困難さ」の定義が曖昧であるためと思われる.

内頸動脈瘤に対するThree-dimensional computed tomographic angiographyの多方向再構成画像の有用性

著者: 西尾明正 ,   原充弘 ,   中村一仁 ,   山内滋 ,   土田和幸 ,   井上佑一 ,   大黒谷日出男

ページ範囲:P.293 - P.299

Ⅰ.はじめに
 Guglielmi detachable coil(GDC)の導入以後2,3),脳動脈瘤に対する治療として,血管内手術による塞栓術が徐々に増加してきている.しかし,その適応を決定するにあたり,動脈瘤の形状,局在および動脈瘤頸部の大きさを十分に知ることが以前にも増して重要となってきている.今回われわれは内頸動脈瘤に対し,three-dimensional computedtomographic angiography(3D-CTA)のデータを基に多方向再構成(MPR)画像を作製し,その有用性について,3D-CTA, maggetic resonance angio-graphy(MRA),digital subtraction angiography(DSA)と比較検討した.

症例

頸部内頸動脈の線維筋性形成異常症に対する経皮的血管形成術の1例

著者: 滝上真良 ,   馬場雄大 ,   齋藤孝次

ページ範囲:P.301 - P.306

Ⅰ.はじめに
 線維筋性形成異常症(fibromuscular dysplasia;FMD)は,非動脈硬化性,非炎症性のsegmental angiopathyで,Mettingerの分析によると腎動脈に63%と最も多く発生し,次いで頭蓋外内頸・椎骨動脈が35%を占め,内頸動脈は椎骨動脈の約5.5倍の割合となっている14).FMDに起因する腎動脈狭窄は,若年者の腎血管性高血圧症の主因としてよく知られ,経皮的血管形成術(PTA)が治療法の第一選択として既に確立されているが25,26),一方,内頸動脈のFMDに関しては,中年女性に圧倒的に多く発生するbrain attackの原因疾患として近年関心が寄せられてきているものの,PTAによる治療の報告は極めて少なく,渉猟し得た中で詳細な記載があるものは現在まで意外にも12例を数えるに過ぎず1,2,5-7,11,16,27),本邦では1例もみられない.
 今回われわれは,minor strokeで発症した頸部内頸動脈のFMDに対してPTAを施行し良好な結果が得られ,また,興味ある所見も認められたので文献的考察を加え報告する.

血管内手術と外科手術の併用が有用であった後頭部皮下動静脈瘻を合併した神経線維腫症の1例

著者: 田中俊英 ,   長谷川譲 ,   神吉利典 ,   林淳也 ,   宇井啓人 ,   宇佐美信乃 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.309 - P.313

Ⅰ.はじめに
 Neurofibromatosis type I(NF−1)は第17染色体に異常のある常染色体優性遺伝性疾患であり,café—au-lait spotや多発性のneurofibromaなどの外胚葉系の異常のほか,稀に血管病変など中胚葉系の異常も合併することが知られている1,4,10).脳血管系に関してはこれまで閉塞性病変,動脈瘤,動静脈瘻(arteriovenous fistula:AVF)の合併例が報告されている1-6,8-12)
 今回,われわれは後頭部皮下の拍動性腫瘤を主訴とする頭蓋外椎骨動脈,外頸動脈のAVFを合併した神経線維腫症に対して,コイルと液体塞栓材(Eudragid)による血管内手術と外科的手術の併用が有用であった症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

後下小脳動脈末梢部から発生した偽性動脈瘤の1例

著者: 千葉昌彦 ,   今泉俊雄 ,   本間敏美 ,   丹羽潤

ページ範囲:P.315 - P.319

Ⅰ.はじめに
 後下小脳動脈posterior inferior cerebellar artery(PICA)の走行は小脳動脈の中でも最も変化に富み,種々の部位に動脈瘤が発生するといわれている.今回われわれは脳室内出血で発症した末梢性後下小脳動脈瘤の興味深い1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

くも膜下出血にて発症した両側性椎骨動脈解離性動脈瘤の治療方針

著者: 染川堅 ,   永田和哉 ,   河本俊介 ,   古屋一 ,   谷岡大輔 ,   磯尾綾子

ページ範囲:P.321 - P.325

Ⅰ.目的
 くも膜下出血の約80%は破裂脳動脈瘤を原因とするが,その中で解離性動脈瘤は稀である.また,脳動脈瘤の多くはanterior circulationに発生し,椎骨脳底動脈系に発生する頻度は5〜15%と低い.解離性動脈瘤の中でも椎骨脳底動脈系に発生するものに関しては,最近その報告症例数が増加しつつあるが,両側性の症例は少ない.最近われわれはくも膜下出血にて発症した両側性椎骨動脈解離性動脈瘤に対し,手術で両側に対して再出血予防の処置を施したにもかかわらず,慢性期に初回の出血源と反対側の動脈瘤の拡大ならび破裂により死亡するという治療に難渋した一例を経験した.本稿では文献的考察も含め,こうした治療抵抗性の疾患について,さらなる外科的治療の可能性を探ってみたい.

3D-CTAが有用であった重複中大脳動脈分岐部破裂動脈瘤の1例

著者: 田伏将尚 ,   若本寛起 ,   宮崎宏道 ,   石山直巳

ページ範囲:P.327 - P.331

Ⅰ.はじめに
 中大脳動脈の血管奇形として重複中大脳動脈の報告例は散見されるが4),さらに同血管の分岐部に動脈瘤を合併している例は稀である.今回われわれはくも膜下出血で発症し,脳血管撮影にて右内頸動脈に重複中大脳動脈を認めたが,破裂動脈瘤の確認が困難であり,3D-CTAにて同血管分岐部に動脈瘤を確認し得た症例を経験した.過去に報告された重複中大脳動脈分岐部動脈瘤はわれわれが渉猟し得た限りでは14例1-3,6-14)あり,今回の症例を含めて検討を加えたところ,若干の新たなる知見が得られたので報告する.

読者からの手紙

外傷性単独脳幹部くも膜下出血とは?

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.333 - P.333

 貴誌29巻8号735ページに掲載されました宮本伸哉ら:「外因性か内因性か鑑別に苦慮した小児くも膜下出血の1例」2)の論文は,従来私の心の中にあった疑問点の1つに,あらためて強烈な光明を当ててくれました.外傷によって脳幹部に出血・挫傷を発生した場合,その発生メカニズムはGurdjian一派の頭蓋内圧変動の脳幹集中説,Grossのresonance cavitation説,Ommayaのshear strain説,清水・中村のneurovascular friction説などで説明されてきました.しかし,それらはいずれもCTなどの画像がなかった時代に,重症脳外傷において観察される脳挫傷などに合併した脳幹の病理所見を説明したものです.
 CTスキャンが頭部外傷に頻繁に使用されるようになって,dynamic mechanismの条件上軽い頭部衝撃であるのにかかわらず,脳幹,殊にテント切痕周辺くも膜下腔に,少量ないし中等量の出血がまれならず見られることがあるようになりました.患者の病態は重症ではなく,眼球運動障害程度を残して早晩退院します.神経外傷臨床の著書・論文の中で,この出血とその発生メカニズムについて検討した原著を読んだことがなかったので,私自身次のように考えていました.

中村紀夫先生への返答

著者: 宮本伸哉

ページ範囲:P.334 - P.334

 拙著2)に関し,中村紀夫先生から御質問のお手紙をいただきまして,誠にありがとうございます.不勉強で,論文執筆時には,先生の御指摘された岡田先生の論文1)の存在を存じませんでした.
 臨床医としては,当時の行政解剖の結果を信じるほか有りませんでしたが,岡田先生の論文を拝見し,臨床経過および解剖の結果を照らし合わせますと,本症例も単独性外傷性くも膜下出血(Isolated Traumatic SAH,ITSAH)であっても不思議はないかと思われます.ただし,もし,仮にITSAHであったとしますと,本症例は過失致死事件ともなり得ますので,その判断には極めて慎重にならざるを得ません.また,ITSAHが決して稀な病態ではないとしますと,われわれ脳神経外科医にとって,それを解明することは,1つの社会的な使命ではないかと考えられます.将来,機会があれば是非研究し,先生にまた御報告させていただければと存じます.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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