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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻4号

2002年04月発行

雑誌目次

子規からまなぶ

著者: 大西丘倫

ページ範囲:P.347 - P.348

 伊予松山に赴任してから一年余りの年月が経った.伊予の国は瀬戸内の美しい自然と,温暖な気候風土に恵まれ,特に松山は道後温泉とともに古くからひらけ,今なお城下町文化の香りがいたる所に漂っている.今年は,折しも松山が生んだ文学者,正岡子規の没後100年にあたる.子規は近代日本にふさわしい俳句や短歌の革新を夢み,さらに近代文章語の確立をめざして,その35年という短い生涯を全速力で駆け抜けた.その手法は常に革新的,創造的で,わが国の近代言語文化史への功績はきわめて大きく,その影響は没後100年に至る今日まで強く及んでいる.
 子規を知れば知るほどその偉大さがわかるとともに,多くの示唆に富むことを教えてくれる.子規は多くの「号」を持っているがその中に,獺祭書屋主人というのがある(ちなみに子規も号の1つで,これは俳句の時に用いている).獺祭とは,獺が捕らえた魚を祭りに供えるかのように岸に並べる習性を持つことより,詩文を作る際に多くの文献や資料を並べることを言う.子規は自らその性癖を持っていることからこれを号とし,主に俳論に用いた.俳句分類の大業をなし得たのはまさにこの獺祭ぶりが発揮された結果であり,子規が新しい物の見方を体得し,表現方法を錬磨する上で大きな力になったと思われる.新しい発見と技量の向上に,如何に情報の探索・収集・分類整理が重要かを教えてくれる.

集中連載 21世紀の脳神経外科

定位・機能神経外科の進歩

著者: 板倉徹

ページ範囲:P.351 - P.356

Ⅰ.はじめに
 20世紀の脳神経外科はHarvey Cushingによるこの分野の草創とともに幕を開けたが,この世紀で脳神経外科は学問としての成熟を果たしたといえるだろう.Harvey Cushingは各脳神経外科疾患の病態と生理を明確にし,その基本的手術手技の確立にも貢献した.その後の進歩の中で脳神経外科の発展に最も寄与したのはYasargilにより創められた手術用顕微鏡の導入とCT,MRIを中心とした画像診断の発達であろう.その他,頭蓋底の外科の進歩は今まで脳神経外科医にとって不可侵とされていた領域の手術を可能にした.さらに手術ナビゲーションの出現や大脳機能マッピングは脳神経外科の手術をより安全にした.
 新しく幕を開けたこの21世紀に脳神経外科はさらなる飛躍的発展を遂げているに違いない.この21世紀の100年の進歩を展望することは,私には不可能であるが,近未来として21世紀初頭10年の進歩を展望することは,若き脳神経外科医に進むべき道標を示唆するものとして有益であると考えここに筆をとった.特に,定位・機能外科の分野に限って私の個人的見解を述べてみたい.

脳卒中の外科の現状と未来

著者: 小川彰

ページ範囲:P.359 - P.364

Ⅰ.はじめに
 脳卒中の外科の開拓の歴史は近代脳神経外科の創設に重なり20世紀初頭から始まった.以来,各種診断治療機器の進歩発展に支えられ,現代に花開いたと言える.その意味で20世紀前半は脳卒中の外科の創設期であった.20世紀後半は脳卒中救急医療の確立や病態解明,そして治療法の確立を始めとする脳卒中の外科の成熟期と言える.本稿では脳卒中の外科が治療の歴史を振り返り,現在の脳卒中の外科が抱える問題点と21世紀の近未来への展望について述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

パーキンソン病に対する定位脳手術

著者: 片山容一

ページ範囲:P.367 - P.377

Ⅰ.はじめに
 パーキンソン病に対して広く行われている定位脳手術は,視床腹中間核(Vim)および腹吻側核(Voa/Vop),淡蒼球内節(GPi)ならびに視床下核(STN)の凝固術ないし脳深部刺激療法(DBS)である.これらの手術の成績は,次の2点によって大きく左右されると言える.第1は,手術の対象となっている症状を改善するのに,どこが最適の目標部位かを決定することである.このたあには,現在までに蓄積されてきた解剖学的ならびに生理学的な知見を,的確に分析する必要がある.第2は,個々の症例において,その目標部位を正確に同定することである.このためには,解剖学的ならびに生理学的な知見を,実際の定位脳手術に反映させる技術が必要である.本稿では,この2点に焦点を絞ってその要点を整理する.パーキンソン病の病態から見た手術の意義や,各々の手術の適応については,本稿では触れないことにする.

研究

脳血管性疾患に対するcerebral parenchymographyの有用性

著者: 杉生憲志 ,   西田あゆみ ,   勝間田篤 ,   日下昇 ,   中嶋裕之 ,   大本堯史

ページ範囲:P.379 - P.388

Ⅰ.はじめに
 Dynamic digitized cerebral parenchymographyはaortic archからの造影剤注入によって脳血管すべてを同時に描出し脳全体の血流量をdigital sub—traction angiography(DSA)上で推し量ろうとするもので,フランスのTheronらによって提唱された1,4,5).われわれも本法を主に脳虚血性病変の検査として取り入れてきたので,その初期経験を報告する.

誘発脳磁界による運動感覚野の術前機能マッピング

著者: 大石誠 ,   亀山茂樹 ,   渡部正俊 ,   川口正 ,   師田信人 ,   富川勝 ,   増田浩 ,   高橋英明 ,   田中隆一

ページ範囲:P.391 - P.397

Ⅰ.はじめに
 脳磁図(magnetoencephalography:MEG)では,神経細胞の電気的活動により生じる微弱磁界を超伝導のセンサー(超伝導量子干渉素子:SQUID)で捉え,その信号源を等価電流双極子として求めることで,体性感覚,聴覚,視覚などの各機能野を同定することができる.特に正中神経刺激による体性感覚誘発磁界(somatosensory evoked mag-netic field:SEF)は安定した測定が可能で精度も高く,術前の非侵襲的な感覚野および中心溝の同定法として早くから臨床応用がなされてきた1,5,8,12,14,15).一方で様々な技術の進歩により,大脳腫瘍性病変に対するアプローチも従来に比べさらに機能野との境界へと進んできた.したがって術前機能マッピングも中心溝の同定だけでなく,大脳一次運動野,特に手指の運動野と病変部の正確な評価を必要とする機会が増えてきた9,10)
 今回われわれは運動感覚野近傍の脳腫瘍症例に対しMEGを用いて,従来のSEFによる感覚野および中心溝の同定と合わせ,手指の自発運動での運動関連誘発磁界(movement-related cerebral magnetic field:MRCF)による一次運動野の同定を試み,術前機能マッピング法としての有用性につき検討したので報告する.

くも膜下出血後の血液凝固線溶系の検討

著者: 草彅博昭 ,   寺本明 ,   志村俊郎

ページ範囲:P.399 - P.403

Ⅰ.はじめに
 くも膜下出血後,特にその重症例において血液凝固線溶系が亢進することはよく知られている3-5,7-9,12,14,18-20).しかしこれまでは,凝固線溶系のうち代表的な項目のみを調べた報告がほとんどであった.そこで今回われわれは脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の患者を重症例と軽症例に分け,凝固線溶系について詳細に測定を行い,その傾向について検討を行ったので報告する.

One-way ball valveを利用した体外脳室心房短絡術—脳室ドレナージ中の患者のADL改善のために

著者: 久保重喜 ,   瀧本洋司 ,   細井和貴 ,   豊田真吾 ,   高倉周司 ,   林泰弘 ,   上野正人 ,   森迫敏貴 ,   唐澤淳 ,   二永英男 ,   吉峰俊樹

ページ範囲:P.405 - P.409

Ⅰ.はじめに
 急性閉塞性水頭症に対して一般に脳室ドレナージ術が行われるが,多くの場合ドレナージされた髄液は水柱圧設定された開放式回路を通してバッグに排液される.この場合,設定した圧を維持するため患者はベッドに拘束されることとなる.拘束されることによる精神的苦痛に加えて,筋力の低下,関節の拘縮,痴呆の進行,肺炎の合併など種々の問題が起こり得る1,3).われわれは,ドレナージ中の患者のADLを改善すべく,脳室ドレナージ用に開発されたone-way ball valveであるアクティーバルブⅡ®(カネカメディクス)を中心静脈(CV)ルートに接続して,簡易的体外脳室(腰椎)心房短絡術〔VA(LA)シャント〕を4例に試みた.代表例を挙げ,方法および結果を報告する.

症例

多発未破裂動脈瘤の経過観察中に急速に増大し破裂した前交通動脈瘤の1例

著者: 秦暢宏 ,   松島俊夫 ,   宮園正之 ,   吉田史章 ,   松角宏一郎 ,   辛島篤志

ページ範囲:P.411 - P.414

Ⅰ.はじめに
 未破裂脳動脈瘤の治療方針は,一定の見解は得られていない12).どのような動脈瘤を手術すべきであるか,もしくは保存的に経過観察するべきかの判断は非常に困難な問題である.われわれは多発未破裂動脈瘤の経過観察中に急速に増大し破裂した前交通動脈瘤の一例を経験したので,小動脈瘤の破裂危険性および未破裂脳動脈瘤の手術適応に関する文献的考察を加えて報告する.

脳磁図と術中脳波の併用が有効であった難治性前頭葉てんかん症例

著者: 社本博 ,   中里信和 ,   清水宏明 ,   岩崎真樹 ,   吉本高志

ページ範囲:P.417 - P.423

Ⅰ.はじめに
 前頭葉てんかん外科治療の成績は発作症候学,画像診断学の進歩に伴い近年向上しつつある.今回われわれは単純部分発作を一日に60〜100回頻発する前頭葉てんかん症例に対して,発作症候と脳磁図解析結果に基づき外科治療の方針を立て,術中脳表脳波と相関させて焦点切除術を施行し,良好な結果を得たので報告する.

保存的治療にて縮小した後下小脳動脈解離性動脈瘤の1例

著者: 若本寛起 ,   折居麻綾 ,   宮崎宏道 ,   石山直巳

ページ範囲:P.425 - P.429

Ⅰ.はじめに
 後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar ar-tery:PICA)に限局する解離性動脈瘤は報告例が少なく,その自然経過も不明な点が多いため,治療方針は各症例ごとに検討されているのが実状である.
 今回われわれは虚血症状で発症したPICA解離性動脈瘤に対して保存的治療を行い,慢性期において動脈瘤の消失を画像的にとらえた症例を経験したので,自然経過と治療方針を中心に若干の文献的考察を加え報告する.

8年後に再発を来した中耳真珠腫由来小脳膿瘍の1例

著者: 遠藤俊毅 ,   蘇慶展 ,   中川敦寛 ,   沼上佳寛 ,   城倉英史 ,   白根礼造 ,   吉本高志

ページ範囲:P.431 - P.435

Ⅰ.はじめに
 近年,画像診断や抗生物質の発達により耳性頭蓋内感染症は比較的稀な疾患となった.しかし,特に小脳膿瘍の場合,ひとたびこれを来すとその致死率は依然として高率といわれている3-5).今回われわれは一旦治癒した小脳膿瘍が8年後に再発を来した症例を経験した.入院後の検索にて,その原因が中耳真珠腫であったことが判明,中耳真珠腫に対する根本術を施行したところ治癒に至った.本症例につき,若干の文献的考察を加えて報告する.

ステント留置後も増大しコイル塞栓術にて治癒し得た頸動脈偽性動脈瘤の1例

著者: 大石英則 ,   吉田賢作 ,   大山正孝 ,   辻理 ,   園部眞

ページ範囲:P.437 - P.441

Ⅰ.はじめに
 頸動脈偽性動脈瘤は,頸部打撲や穿通創などの外傷や脳血管撮影など医源性のものが原因として多く,特発性頸動脈解離に合併することもある.虚血症状を呈するものは内科的加療が奏功することもあるが,圧迫症状を有するものは困難な外科的治療を必要とする.今回,われわれはステント留置後も増大したため,柄部をコイルで閉塞することにより治癒し得た頸動脈偽性動脈瘤の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

報告記

First Quadrennial Meeting—World Federation of Neuro-Oncology—(Washington DC, 2001年11月15日〜18日)

著者: 河内正人 ,   中村英夫

ページ範囲:P.443 - P.444

 本学会はSociety for Neuro-Oncology(米国),European Association for Neuro-Oncology(ヨーロッパ)およびJapan Society for Neuro-Oncology(日本)の3つの学会から構成されるWorld Feder-ation of Neuro-Oncologyが開催する4年毎のmeet-ingで,第1回の今回はWashington DCで開催された.9月11日の米国での同時多発テロにより開催が危ぶまれた本会であったが,テロから2週間余りたった9月28日にはSociety for Neuro-Oncol-ogyの事務局から予定通り開催する旨のe-mailが届いた.予想外に日常的であった入国審査をすませて11月14日,Washington DCに入った.空港までは教室からフィラデルフィアのKimmel Can-cer Centerに留学している築城君が迎えに来てくれて,Hilton Hotelまで送ってくれた.街はどこにも物々しい警備はみられなかった.この日はアーリントン国立墓地を訪れたが,その広大さと平穏さに心休まるものがあった.
 15日から行われた学会はテロの影響で演題のキャンセルは所々みられたが,参加者数は500人とのことで十分に人にあふれていた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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