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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻5号

2002年05月発行

雑誌目次

雑感

著者: 永田泉

ページ範囲:P.457 - P.458

 現在の私の職場は,国立循環器病センター脳血管外科である.一般的な救急病院ではないが,脳内科とともに脳卒中の3次救急を担っている厚生省直轄の施設である.当センターの特徴は,もちろん例外はあるものの循環器病(脳外科では血管障害)に特化した施設で,レジデント制を持つことと研究所が併設されていることである.診療体制は,教育や基礎的研究の比率が比較的少ないことや人事面より,大きめの第一線救急病院に近いといえる.私の出身大学からは少し距離があり,現スタッフの卒業大学が10大学に及ぶという混成部隊でもあるので,日頃より大学間の人事交流の大切さを感じている.このような施設であるので,大学の掟から少し離れた状態で,ある意味で変革期にある日本の脳神経外科(脳神経外科だけではないと思うが)の近未来がどうあってほしいか感じることを述べたい.
 医学教育・研究の行政上のトピックスとしては,国の財政事情の悪化や,医師過剰感に伴う医学部の効率的運用という面から,国公立大学,特に医科大学の統廃合問題,および医学研究の効率化のための大学院大学制度があると思う.

総説

乳幼児被虐待児症候群と頭部外傷

著者: 坂本敬三

ページ範囲:P.461 - P.476

Ⅰ.はじめに
 転倒し頭を打った・高所から転落した・頭を叩かれた子どもたちを,脳神経外科医が初診するよりも,小児科医・外科医などから紹介されて診察する頻度のほうが高い.
 しかし,現実に診察に際しては被虐待児症候群に属する頭部外傷が含まれていても,それを意識していないことが多いと思われるが,その臨床症状は転倒・転落によるものより重篤なことが少なくない.したがって,初期診断と脳神経外科的治療によっては,生命予後と後遺症の重症度に影響を及ぼすので,被虐待児を搬送する小児外傷センターの重要性が指摘されている27).しかも,被虐待児の発生頻度は最近は特に増加する傾向にあるため,緊急に防止策が必要となり,「児童虐待防止法」が2000年11月20日から施行されている.

研究

Dimethylsulfoxide(DMSO)を用いた冷凍保存自家骨による頭蓋形成術の検討

著者: 清水重利 ,   森川篤憲 ,   久我純弘 ,   毛利元信 ,   村田哲也

ページ範囲:P.479 - P.485

Ⅰ.はじめに
 外減圧術後の頭蓋形成術の際に使用される骨欠損部の補填物質としては,methyl methacrylateやセラミックなどの非生体材料か,または生体材料(自家骨)を何らかの方法で保存し使用するかに分けられる.自家骨が使用可能であれば,これに勝る理想的な材質はないという考えは諸家の認めるところであり,自家骨を保存する方法としては自己の腹壁や大腿部の皮下に埋没,保存する方法17),冷凍保存する方法などが報告さている.特に冷凍保存に関しては,古くは1951年Elliott & Scottt2),1952年にOdom18)により,本邦では1967年宮崎15)により報告され,以降も報告例が散見されるが,術後感染や骨融解,骨吸収の問題が指摘されている.
 われわれは,冷凍保存のみで強い骨融解で骨弁が完全に吸収され人工骨による頭蓋形成を余儀なくされた2症例の経験から,骨融解,骨吸収を予防する目的で,凍結保護剤であるDimethylsulfox-ide(以下DMSO)を用いた冷凍自家骨による頭蓋形成術を実施してきたので報告する.

脳動脈瘤構築解析における3D-CTA・MRAの情報伝達特性

著者: 佐藤透

ページ範囲:P.487 - P.493

Ⅰ.はじめに
 最近のCT・MRI装置や撮像技術など撮像系の進歩と,得られた生体内3次元構造の連続情報(volume data)のワークステーションにおけるcomputervisualization技術の革新により,3次元(three-di-mensional,3D)画像が急速に臨床応用され,特に脳動脈瘤の画像診断領域では目覚しい進展が認められる2-12,14,15).これまで,CT angiography(CTA)では,volume dataから脳血管構造の3D画像(3D-CTA)が標準的に作成されたため,maximum inten-sity projection画像による2次元表示が一般的であったMR angiography(MRA)に比べ,脳動脈瘤構築を立体的に把握するうえで,CTAは優越していた2,4,6,11,14).しかしながら,ワークステーションでのDI-COMデータ処理能力の向上と高速化により,MRAにおいてもCTAと同様な脳動脈瘤の3D-MRA画像が短時間で表示可能となってきた4,7-12).さらに,近年digital subtraction angiography(DSA)においても,回転DSAを行うことでvolume dataが取得可能となり,脳動脈瘤の3D-DSA画像が報告されつつある3,15)

Glycerol負荷脳血流量測定による無症候性未破裂脳動脈瘤治療の予後判定

著者: 竹内東太郎 ,   岩崎光芳 ,   白田寛治 ,   横田一雄 ,   小島精一 ,   山崎美保子

ページ範囲:P.495 - P.501

Ⅰ.はじめに
 近年,無症候性未破裂脳動脈瘤(asymptomaticunruptuted cerebral aneurysm:AUCA)の発見率は,予防的脳疾患検診施設(いはゆる“脳ドック”)の普及によって飛躍的に増加している.AUCAの治療指針に関しては諸氏によって様々な報告があり3,9,12,14,22),それに沿って治療が施行されている。しかし完壁な治療が行われても,術後に神経学的合併症を認めたとする報告もある1,4-6,15,16,23).今回筆者らは,AUCA治療例に脳循環動態の術前予後指標としてGlycerol負荷脳血流量測定(Glycerol induced cerebral blood flow meas-urement:G-CBF)を施行し,その有効性について検討したので報告する.

症例

嚢胞性分を主体とした小脳gangliogliomaの1例

著者: 木下康之 ,   木矢克造 ,   佐藤秀樹 ,   貞友隆 ,   溝上達也 ,   津村龍 ,   白水洋史 ,   杉山一彦 ,   栗栖薫

ページ範囲:P.503 - P.507

Ⅰ.はじめに
 中枢神経系に発生するgangliogliomaは比較的稀な腫瘍であり,全脳腫瘍の約0.2%と報告18)されている.特に小脳に発生したgangliogliomaは稀で,頭蓋内原発gangliogliomaのなかで2〜9.0%14,19,21)を占めるにすぎない.
 最近われわれは大部分が嚢胞性分で占められた小脳gangliogliomaの1例を経験した.渉猟し得た範囲内でかつ記載が明確であった過去16例1,2,4-6,9-12,15-17,20)に,われわれの経験した1例を加えた17例について検討し,小脳gangliogliomaの画像を中心とした臨床的特徴を報告する.

Orbital osteomaの1手術例—本邦報告42例のまとめ及びmicrosurgical drillingの有用性について

著者: 青木悟 ,   本道洋昭 ,   河野充夫 ,   藤本剛士 ,   小又美樹 ,   劉 会

ページ範囲:P.509 - P.514

Ⅰ.はじめに
 Orbital osteomaは比較的稀な疾患である.欧米に比較して本邦での報告は特に少なく,渉猟し得た限りでは現在までに41例が報告されているに過ぎない.われわれは複視にて発症したorbitalosteomaの1手術例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

頭頸部散弾銃創の1例

著者: 近貴志 ,   秋山克彦 ,   相場豊隆

ページ範囲:P.517 - P.521

Ⅰ.はじめに
 わが国では銃による外傷は稀であり,銃弾残存後の自然経過についての報告は見当たらない.
 今回われわれは,散弾銃の暴発により頭頸部に多数の鉛の銃弾が撃ち込まれた患者に対し,可及的に銃弾を摘出し,受傷当日よりキレート剤を用いて鉛中毒の防止に努めた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

頸部迷走神経原発malignant peripheral nerve sheath tumor(MPNST)の1例

著者: 葛泰孝 ,   別府高明 ,   柴内一夫 ,   小笠原邦明 ,   小川彰 ,   黒瀬顕

ページ範囲:P.523 - P.526

Ⅰ.はじめに
 Malignant peripheral nerve sheath tumor(MPNST)は,軟部組織原発悪性腫瘍のおよそ5%を占め1,2,5,7,11),体幹,四肢,頭頸部などの末梢神経鞘から発生することが多いことから,皮膚科や整形外科分野で治療され脳神経外科医が関わることは少ない.MPNSTは,末梢神経neurofi—bromaから悪性転化し,発症することが知られている2).今回,われわれは頸部迷走神経という稀な母地から発生したneurofibromaが悪性化して再発し,さらに頭蓋内に進展したMPNSTの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

経側頭骨頭蓋内ガラス外傷の1治験例

著者: 中川敦寛 ,   蘇慶展 ,   山下洋二 ,   遠藤俊毅 ,   白根礼造

ページ範囲:P.529 - P.533

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内への穿通性異物外傷としては,経眼窩的2),経前頭洞的13),あるいは経鼻的5)損傷が大半を占め,異物の種類としては銃弾12),nail-gun1,7),木片5,9),刃物14)によるものが多い.ガラス片によるものとしては,交通事故もしくは喧嘩の際に経前頭洞,あるいは経眼窩的に頭蓋内に穿通したとの報告がある2,6,8,11,13,14)
 今回,ガラス戸にぶつかった際にガラス片が側頭骨を貫通し,側頭葉深部まで到達していた頭蓋内穿通性ガラス外傷の1治験例を経験したので,その臨床経過,治療につき若干の文献的考察を加えて報告する.

中硬膜動脈塞栓術にて緩解が得られた難治性慢性硬膜下血腫の3例

著者: 高橋和也 ,   村岡賢一郎 ,   杉浦智之 ,   前田八州彦 ,   萬代眞哉 ,   合田雄二 ,   河内正光 ,   松本祐蔵

ページ範囲:P.535 - P.539

Ⅰ.はじめに
 慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma,CSDH)の術後再発率は,ここ数年の報告でも3.2〜8.5%6,8,11)あり,その再発には少なからず遭遇する.再発を繰り返す慢性硬膜下血腫に対する治療法としては,経皮的穿刺吸引,Ommaya CSFreservoirの留置8),Subdural-peritoneal shunt7),開頭術5)などが推奨されている.また,最近では当施設において難治性慢性硬膜下血腫に対して,外膜の栄養血管閉塞を目的に中硬膜動脈(middlemeningeal artery, MMA)の塞栓術を施行し,緩解が得られた1例を報告した4).今回症例がさらに2例増え,いずれも良好な術後経過が得られたため,その適応の考察を加え,報告する.

くも膜下出血で発症し,脳血管撮影にて完全閉塞の所見を呈したM2部解離性中大脳動脈瘤の1例

著者: 中島進 ,   野村貞宏 ,   友清誠 ,   古川義彦 ,   下川尚子 ,   中川摂子 ,   姉川繁敬 ,   林隆士

ページ範囲:P.541 - P.545

Ⅰ.はじめに
 近年,解離性中大脳動脈瘤の報告が増加しているが,診断と治療に難渋している症例が多い.われわれも,くも膜下出血と脳出血を併発したM2部解離性中大脳動脈瘤の1例を経験したが,術前の脳血管撮影にてM2末梢部の完全閉塞の所見を呈していたために,明らかな術前診断ができずに緊急手術に臨んだ症例であった.診断と治療に関し,文献的考察を加え報告する.

両耳側上4分の1盲を呈した外傷性視交叉症候群の1例

著者: 宮北康二 ,   田口芳雄 ,   松澤源志 ,   中山博文 ,   関野宏明

ページ範囲:P.547 - P.550

Ⅰ.はじめに
 比較的稀な外傷性視交叉症候群の1例を報告する.さらに本症例が示した両耳側上4分の1盲の成因を,外傷機転,解剖学的知見を中心に考察する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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