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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻6号

2002年06月発行

雑誌目次

イチゴ白書をもう一度

著者: 宝金清博

ページ範囲:P.563 - P.564

 最近,「医局解体」という少々物騒なコピーが,ふと脳裏をかすめ,二度の教授選ですっかり萎えてしまった私の感性を刺激します.
 言うまでもなく,このキャッチコピーは,1960年代後半,日本の多くの医学部で真剣に議論されたテーマです.今でも,ある世代には苦くまた一面nostalgicな毒を放出しますが,一方,これに全く無反応な世代も確実に増えています.多分,本誌の読者の多くも,後者に属すると思われます.私はといえば,この中間と言える少数派に属していると思われます.大学入学直後,体育会系のクラブに入部したその日,この4文字が,汚れた部室の壁に赤いペンキで例の独特の字体で(僕の年齢より上の方であれば,“あれね”って感じでしょう)殴り書きされていたことを鮮明に思い出します.つい昨日までは高校生であった当時の私には,その意味は全く理解しがたいものではあったわけですが,あの赤い色と独特の字体のもつ毒性とか破壊性とかは30年後の今も鮮やかに蘇ります.

総説

ガンマナイフ治療

著者: 小林達也

ページ範囲:P.567 - P.577

Ⅰ.はじめに
 Radiosurgery(RS)の概念が呈示されて半世紀,わが国にstereotactic radiosurgery(SRS)の1つとしてのガンマナイフ(GK)が導入されて11年となる.そしてこのところ,脳神経外科の分野ではRSは新しい治療手段としてしっかり定着し,市民権を得ている.これを機会にその歴史を振り返り,治療の現況を認識し,脳外科の新しいtoolとして活用すること,さらに将来の発展を考えることは21世紀の始めにあたり有意義なことと思われる.

直線加速器を用いた定位放射線照射

著者: 白土博樹 ,   青山英史 ,   飛騨一利 ,   澤村豊 ,   宮坂和男 ,   岩崎喜信

ページ範囲:P.579 - P.591

Ⅰ.はじめに
 直線加速器を用いた定位放射線照射法は,1990年代に急速に進歩を遂げ,今もまだ発展し続けている.その発展を記すために,この総説ではすべて直線加速器を用いた文献を参考文献として豊富に引用したので,拙文に飽き足らない諸兄には参考文献を堪能して頂きたい.
 定位装置と直線加速器の組み合わせの論文はPubMed上では18年前のBettiら11)が最古で,Co-lomboら18)がこれに続いている.ガンマナイフとの線量分布の違いは,標的体積内の線量均一性(homogeneity)は直線加速器が優れ,標的体積の外形状への等線量局面の合致性(confomality)はガンマナイフのほうが容易に達成できる.ガンマナイフと定位放射線照射用直線加速器の物理的特性の比較37,42)はすでになされてきたが,実際の現場では無作為比較試験が可能な状況は生まれていない.しかし,こうしたいわゆるエビデンス(第三相試験)なしの放射線治療の発展が技術の進歩として無意味かといえば,それは大いなる誤謬である.これらの高精度治療は,創始者達のほそぼそとした研究から発した後,それぞれがその流れを太くしながら,着実に進歩しており,それぞれの装置を改良しながら,それぞれの専門家を育て,全体として医療を大きく発展させている.

研究

脳死判定に影響を及ぼすbarbiturate血中濃度の検討

著者: 斎藤隆史 ,   倉島昭彦 ,   小田温 ,   青木悟 ,   遠藤浩志 ,   梨本岳雄 ,   山田隆一

ページ範囲:P.593 - P.599

Ⅰ.はじめに
 わが国においては1997年10月15日『臓器の移植に関する法律』の成立以来,脳死体からの臓器移植が可能となり,法的脳死判定後の臓器移植は既に10例を超えた.しかし脳死判定に影響を及ぼし得る薬剤に関しての検討は未だあまりなされていない.『臓器提供施設マニュアル』には「可能ならば薬剤の血中濃度測定を行うことが望ましい」との記載はあるものの8),常用量を越えて薬剤を投与した場合の脳死判定は困難な場合が多い.特に重症頭部外傷をはじめとする重症脳疾患に対し行われているbarbiturate療法後の脳死判定に関しては,barbiturateの長期持続投与が脳死判定に及ぼす影響が大きく,現在のところ法的脳死判定を行うのは難しいのが現状である.当科では以前よりbarbiturate療法にthiamylalを用いているが,今回barbiturate療法を行った症例における,末梢血中のthiamylal血中濃度の測定を行い,脳死判定に影響を及ぼす血中濃度レベルを検討したので報告する.

脳外科手術用立体視三次元ビデオ顕微鏡システムの開発と臨床応用

著者: 清木義勝 ,   柴田家門 ,   大石仁志 ,   三瓶建二 ,   狩野利之 ,   宇田川照三 ,   福与恒雄

ページ範囲:P.601 - P.606

Ⅰ.はじめに
 CT scanがはじめて日本に紹介された頃,時を同じくして手術用顕微鏡が脳神経外科手術に導入された.以来,この顕微鏡は国の内外を問わず,多くの医療メーカーによって改良が加えられ,今や脳神経外科医にとっては顕微鏡なしでの手術は考えられないほどまでに普及した.しかしながら,脳神経外科医にとっては,さらに難易度の高い手術が求められるようになり,手術時間は長時間と化し,手術野への顕微鏡挿入角度の問題から術者の姿勢は極端に制限され,眼精疲労,頸部,背部の筋肉痛,筋肉疲労,腰痛などの原因となっている.
 そこで,これらの諸問題を解決するため接眼レンズを覗くことなく,モニター上の画面を見ながら手術を行うことのできる二眼二カメラ方式による立体視手術用ビデオ顕微鏡システムを開発し,その臨床経験を得ることができたので報告する.

経過観察中に破裂した無症候性未破裂脳動脈瘤—動脈瘤の大きさと破裂の危険に関して

著者: 須賀正和 ,   山本祐司 ,   角南典生 ,   安部友康 ,   道上宏之

ページ範囲:P.609 - P.615

Ⅰ.はじめに
 わが国ではMR装置など診断機器の発達により無症候性未破裂脳動脈瘤が発見される機会が増加し,またその際発見される動脈瘤の大きさは10mm未満の占める割合が多いと報告されている8,9).ところが,1998年のThe New England Jour-nal of Medicineに掲載された国際共同研究:Inter-national Study of Unruptured Intracranial Aneu-mysms(以下ISUIA12)では,くも膜下出血(以下SAH)に合併しない径10mm以下の未破裂脳動脈瘤の破裂率は0.05%と従来の報告と比べ著しく低く報告されたため,わが国で発見される割合が多い径10mm未満の未破裂脳動脈瘤の治療方針に混乱を来している.今回,われわれは経過観察中に破裂した無症候性未破裂脳動脈瘤5症例(すべて初回診断時に長径が10mm未満であった)の報告を行い,その自然歴,特に大きさと破裂の危険性に関して検討した.

症例

111In-DTPA脳槽SPECTが診断に有用であった髄液鼻漏の1例

著者: 米盛輝武 ,   刈部博 ,   松野太 ,   本望修 ,   南田善弘 ,   上出廷治 ,   田邊純嘉 ,   端和夫

ページ範囲:P.617 - P.621

Ⅰ.はじめに
 髄液鼻漏は,頭部外傷や脳神経外科手術の合併症として生じ,中枢神経系感染症を引き起こすことがあるため,早期かつ的確な診断・治療が重要である.多くの場合,髄液鼻漏は保存的治療により軽快するが,保存的治療で軽快しない場合には外科的閉鎖術を必要とする15)
 髄液鼻漏の確定診断には,髄液漏出の証明および髄液漏出部位の特定が重要である.髄液鼻漏の診断法としては,glucose oxidase strip(テステープ®)法15),脳槽シンチグラフィー法1,5,12,13),メトリザマイドCT法8)などが報告されているが,これらの検査法は感度が低いため髄液漏が微量の場合には検出できないこともある.また,MRIによる瘻孔の検出が診断に有用であるとする報告もあるが2-4,6,8,9),瘻孔が小さい場合や貯留液が髄液と異なった信号強度を呈する場合には確定診断に苦慮することも多い.

片側眼球突出にて発症したプロラクチン産生異所性下垂体腺腫の1例

著者: 榊原陽太郎 ,   関野宏明 ,   田口芳雄 ,   田所衛

ページ範囲:P.623 - P.628

Ⅰ.はじめに
 異所性下垂体腺腫とは,正常なトルコ鞍内下垂体組織と解剖学的に連続しない,トルコ鞍外に生じた下垂体腺腫と定義される21).下垂体前葉組織の発生と関連し,これまでに鼻咽頭部16,25)あるいは蝶形骨洞内1,2,7,8,11,13,14,23,24),漏斗周囲のトルコ鞍上部6,9,15,20,22)などに発症例の報告がみられ,またこれらの中には,各種の下垂体前葉ホルモン産生・分泌活性を有するものも存在することが知られている13)
 一方,下垂体腺腫により眼球突出が引き起こされることが稀にある.海綿静脈洞への還流障害3),炎症細胞浸潤4)など,各種の機序が推測されているが,いずれにしても極めて稀な病態で,これまでに少数の症例報告がみられるのみである4,5,10,18)

術前貯血式自己血輸血と希釈式自己血輸血を併用し全摘し得た頭蓋内巨大hemangiopericytomaの1例

著者: 浅野研一郎 ,   大熊洋揮 ,   工藤香名江 ,   竹村篤人 ,   鈴木重晴 ,   久保長生

ページ範囲:P.631 - P.637

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内hemangiopericytoma(HPC)は易出血性の腫瘍のたあ手術時出血コントロールが非常に難しい,従来多量出血のため部分摘出や生検に終わらざるを得なかった症例8,10,19)や術中死亡または術後早期での死亡の報告も見られる7,8,10).今回われわれは頭蓋内巨大HPCに対し術前貯血式自己血輸血(Preoperative Autologous Transfusion:PAT)と希釈式自己血輸血(Hemodilutional Autolo-gous Transfusion:HAT)を併用し,全摘し得た1例を報告するとともにHPC手術における自己血輸血の有用性を報告する.

前頭葉atypical teratoid/rhabdoid tumorの1手術例—SPECT・PETによる多面的解析

著者: 笹嶋寿郎 ,   小田正哉 ,   木内博之 ,   畑澤順 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.639 - P.645

Ⅰ.はじめに
 Atypical teratoid/rhabdoid tumor(AT/RT)はRorkeら10,11)により提唱された極めて悪性な腫瘍で,乳幼児の後頭蓋窩に好発するとされ9),今回文献を渉猟した限りでは青年期以降の症例は8例にすぎない3).最近,青年期に発症したAT/RTの稀な1例を経験し,SPECT,PETを用いた代謝画像とMRIの画像合成による解析は本症例の治療計画に有用であったので報告する.

乳児期に発生した板間層類上皮腫の1例

著者: 斎藤太一 ,   勇木清 ,   梶原佳則 ,   佐々木朋宏 ,   今田裕尊 ,   児玉安紀

ページ範囲:P.647 - P.650

Ⅰ.はじめに
 頭蓋骨に発生する類上皮腫は比較的稀な腫瘍であり,乳児期に発症した症例については過去の文献においても報告は少ない1,2,4,7,10).今回われわれは,左頭頂骨板間層に原発した類上皮腫の乳児発症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

連載 医療保険制度の問題と改革への提言・1【新連載】

脳神経外科保険診療の問題点

著者: 堂本洋一

ページ範囲:P.653 - P.666

Ⅰ.はじめに
 わが国の医療は,国民皆保険制度の存在なくしては成り立たないと表現しても過言ではない.健康保険は,国民皆から集められた資金で運用されているシステムで,もともとは互助組織から出発したものである.国民は普遍的で平等な医療を受け,医師はその裁量権で,個々の患者にふさわしい医療を判断し選択することができた.しかし,国の経済の停滞と超高齢社会化の進行により,社会の高齢化,医療の高度化,材料費の高額化を原因とした,医療費の高騰が社会問題となり,抜本的な医療改革が求められている.医学が進歩する一方で,保険医療と臨床医療との間にギャップが生じ,脳神経外科保険診療の問題として,その医療費問題は日常の診療に当たって避けては通れなくなってきた.
 国民皆保険制度下には,保険診療に関するルールがあり,脳神経外科においても,保険制度の存在は無視できず,意識変革が求められている.しかし,多くの脳神経外科医は,臨床の場で必要な保険のルールには無関心で,保険診療について知る機会がほとんどない.保険医療はその診療報酬体系により,経済と関連し,ひいては現在の医療の在り方とも関係する重要な問題と思われる.今回,保険診療の基本的ルール(Table 1)や脳神経外科の保険診療の現状,保険診療と臨床診療のギャップにつき概説する.

読者からの手紙

良い病院,悪い病院

著者: 箕倉清宏

ページ範囲:P.667 - P.667

 厚生労働省は,この4月から医療界にとっては厳しい,初めての診療報酬マイナス改訂を断行した.小泉首相の痛みを伴う構造改革の一環として行われるもので,病院の再編,統廃合も一層加速的に進むものと思われる.この診療報酬の制度改正に当たり,粛々と従容するに度を超して,堪忍袋の緒が切れる改正がなされるのを皆さんはご承知であろうか.
 即ち,手術症例数による診療報酬の差別化である.その差別化を受ける要件の1つに年間手術症例数なるものがあり,Tableの如くの手術症例数をこなす病院でなければ,当該疾患の手術料請求に対して7割しか支払われないというものである.

報告記

“Decades of Spine”—18th Annual Meeting of Section Disorders of the Spine and Peripheral Nervesに参加して—(2002年2月27日〜3月2日)

著者: 飛騨一利

ページ範囲:P.669 - P.670

 AANSとCNS合同の分科会である米国脊髄末梢神経外科の第18回のAnnual meetingは,2002年2月27日より3月2日までフロリダ州オランドのDisney's Yacht and Beach Club Resorts(Lake Buena Vista)にて行われた.
 本分科会は1978年にCharles DrakeがAANSの会長の際に,Anbert L.Rohtonの助言を受けて,脊髄および末梢神経の分科会を押しすすめ,1980年にStanford J.Larsonが第1回会長として始めた学会である.毎年2月下旬頃に,東海岸あるいは西海岸の風光明媚な場所を選んで行われている.今回のAnnual meeting chairmanはPaul C.McCormickであった.彼はColumbia Universityで既に脊髄腫瘍のauthorityであり,昨年のBNIのCurtis Dick—manに比べるとやや大物の採用であった.その他にEdward C Benzel, Richard Fessler, Regis W Haid,Jr.らが中心となって,この会を切り盛りしている.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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