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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻7号

2002年07月発行

雑誌目次

「脳神経外科学」と「救命救急医学」

著者: 大和田隆

ページ範囲:P.681 - P.682

 本大学に教育・研究単位(いわゆる講座)として救命救急医学が創設されたのは1986年(昭和61年)である.本邦では医学部として第4番目であった.救急医療の必要性は,当時,行政的にも市民の中でも強く叫ばれており,大学病院や市中病院での救急センターの設立の機運は高まっていた.(救命)救急センターの運営方法には意見がいろいろあり,完全な専従・専任スタッフを擁する「独立方式」か,あるいは既存の診療科のスタッフが兼務する形の(救命)救急センターを維持運営する「貸屋方式」のどちらかを選択するかであった.「独立方式」はスタッフが志を一つにして,救急専用のベッドを持ち,チーム医療がやり易い利点はある.しかし,人件費が嵩むなど病院運営上の問題点も同時にある.「貸屋方式」は兼務体制であるための経済的利点は考えられるが,センター長の適格性,チームワークの統一性,特に既存の診療科間との壁の厚さが問題点としてあった.勿論,大学で一つの講座,すなわち教育・研究単位として存在するには診療部門である(救命)救急センターは「独立方式」の体制が必須である.
 次の問題として,では(救命)救急医学の学問体系は何か?という問題提起がある.侵襲学であるとか集中医学である,さらには各科の境界領域の学問であるとかが語られた.しかし,机上での枠決めに意味はない.

総説

脳機能の局在化とFunctional MRIの決定力

著者: 加藤俊徳

ページ範囲:P.685 - P.700

Ⅰ.ヒト脳機能研究の十字路
 1990年代初期に,赤血球のヘモグロビン(Hb)を利用したヒトの非侵襲的局所脳機能計測法が,ツインズのように出現した.1つは,1992年2月11日に国立精神神経センターのKatoらによって発案投稿されたfunctional NIRS(fNIR)である17).ベッドサイド近赤外線トポグラフィー法と総称される光学的手法のfNIRは,ベッドサイドで直接的に赤血球中の酸化型Hb(HbO2)と還元型(HbR)を区別して用いることで,脳血流代謝反応の選択的局在化に成功した報告であった.ベッドサイドで脳波による電気活動の経時的計測に依存していた方法論からのパラダイムシフトが,突然起きたのである.fNIRは細い動静脈,毛細血管からの信号を測定環境のシールドをすることなく検出できる.最近,fNIRは太い静脈よりも,毛細血管からの信号検出に優れていることがYamamotoと発明者のKatoの研究によって,理論的に明らかにされた47)
 もう1つは,1992年3月26日にマサッチューセッツ総合病院のKwongらによって投稿されたT2強調画像のfunctional MRI(fMRI)である27).間接的に赤血球中のHbRを介して,局所の磁場強度の変化を観察していると,推測されてきたfMRIである37)

解剖を中心とした脳神経手術手技

脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療における解剖学的留意点

著者: 辛正廣

ページ範囲:P.703 - P.714

Ⅰ.はじめに
 ガンマナイフに代表される定位放射線外科治療は,脳動静脈奇形(AVM)に対する治療法の1つとして,近年,多くの施設に普及しており,1990年以降,現在までに国内で6,000人以上の患者が治療を受けている.定位放射線外科とは低線量の放射線の細かいビームを多方向から虫眼鏡の焦点のように病変部に集中させ,1回で大量の放射線を照射する方法のことである.限局した範囲に線量を集中させることが可能であるが,こういった急峻な線量勾配は照射体積に比例して失われるため,大きなAVMに対し必要な線量を照射しようとすれば周囲脳の被曝が問題となる.このため,ガンマナイフにて安全に治療可能なAVMはナイダスが比較的小さいものに限られ,具体的には直径の平均が3cm以内,あるいは体積にして10〜15cm3以下とされている1,2,9,11)

研究

内視鏡観察による慢性硬膜下血腫内腔所見の検討

著者: 塩見直人 ,   橋本直哉 ,   武内勇人 ,   山中巧 ,   中川伸明 ,   峯浦一喜

ページ範囲:P.717 - P.722

Ⅰ.はじめに
 慢性硬膜下血腫は頭部打撲を契機として,何らかの原因により血腫被膜が形成され,その後血腫内腔に出血が生じて血腫が増大して発生するとされる7,10,20).しかし,成因はいまだ完全には明らかでなく,その解明には本疾患の自然史および血腫の増大機序の把握が重要である.われわれは本疾患の手術において,術後の残存空気を速やかに排除する目的で,内視鏡を用いて血腫最前にドレナージを挿入する方法を行ってきた10).今回,術中に内視鏡観察で得られた血腫内腔所見と外傷からの期間および再発との関係について解析し,本症の自然史および血腫増大機序を考察することにより,本疾患の治療において有益と考えられる二,三の知見を得たので報告する.

症例

生検により診断された脳幹脳炎の1例

著者: 橋本祐治 ,   金子高久 ,   森田悦雄 ,   大瀧雅文

ページ範囲:P.725 - P.729

Ⅰ.はじめに
 ウイルス性脳炎は,治療開始時期が後遺症状,予後に重大な影響を及ぼすため,より早期から開始することが重要とされている.しかし病原ウイルスの特定率は必ずしも高くなく,またその結果に時間を要することから,非典型的な臨床経過を示したり,画像所見が腫瘍性疾患や血管障害と類似するような症例では診断自体が困難となる.
 脳炎を強く疑ったが,主病巣が稀な部位に存在し,さらに悪性リンパ腫との鑑別が難しいため臨床所見のみでは診断に至らず,確定に生検を必要としたウイルス性脳幹脳炎の1例を経験したので報告する.

Propionibacterium acnesによる開頭術後の硬膜下膿瘍

著者: 魚住洋一 ,   苗代弘 ,   肥後礼子 ,   大谷直樹 ,   福井伸二 ,   鈴木隆元 ,   石原正一郎 ,   加藤裕 ,   都築伸介 ,   宮澤隆仁 ,   島克司 ,   徳丸阿耶 ,   相田真介

ページ範囲:P.731 - P.733

Ⅰ.はじめに
 開頭手術の術後合併症として感染症は常に念頭に置かねばならないが,近年の抗菌療法の進歩および手術室の清浄度の向上に伴って極めて少なくなった.今回われわれは髄膜腫の術後に合併した硬膜下膿瘍の1例を経験した.膿瘍内容から皮膚の常在菌であるPropionibacterium acnes(P.Ac-nes)を検出した.稀な症例で過去の報告にない早い経過を辿り,MRI所見が診断上有用であったので報告する.

顔面神経鞘腫に対する手術・定位放射線外科の併用療法

著者: 礒野直史 ,   田村陽史 ,   黒岩敏彦 ,   長澤史朗 ,   山下正人 ,   田辺英紀 ,   小川直子

ページ範囲:P.735 - P.739

Ⅰ.はじめに
 脳神経に発生する神経鞘腫の中で顔面神経鞘腫は聴神経鞘腫,三叉神経鞘腫に次ぐ稀な腫瘍である3).本腫瘍の治療においては,顔面神経運動機能の温存が患者の機能予後を決定するうえで重要な問題である.今回われわれは,錐体骨内から中頭蓋窩に進展した顔面神経鞘腫を経験し,外科的摘出と定位放射線外科療法を組み合わせることによって顔面神経および聴力機能を温存し,顔面痙攣が改善した症例を経験したので報告する.

Neurofibromatosis type 1に合併した下垂体腺腫の1例

著者: 黒住和彦 ,   田淵章 ,   小野恭裕 ,   田宮隆 ,   大本堯史 ,   古田知久 ,   濱崎周次

ページ範囲:P.741 - P.745

Ⅰ.はじめに
 Neurofibormatosisはcafe-au-lait spotsやneurofi-bromaなどの皮膚病変に加え,骨病変,眼病変のほか,中枢神経系腫瘍を高率に合併する疾患である6).Neurofibromatosisは,皮膚症状が著明なneurofibromatosis type 1(NF 1)と両側聴神経腫瘍を特徴とするneurofibromatosis type 2(NF 2)に大別され,両者とも常染色体優性遺伝を示し,すでにその責任遺伝子も特定されている.中枢神経系腫瘍の合併はNF 2では高頻度にみられるが,NF 1では多くなく,その大半は視神経膠腫で,下垂体腺腫の合併例の報告は極めて少ない7)
 今回,われわれはNF 1に下垂体腺腫を合併した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

毛様体神経から発生した眼窩内神経鞘腫の1例

著者: 岩川雅哉 ,   木内博之 ,   菅原卓 ,   笹島寿郎 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.747 - P.751

Ⅰ.はじめに
 Cantoreらの文献レビュー(1986年)によると,眼窩内神経鞘腫は64例が報告されており5),それ以降の症例と合わせて,われわれが渉猟し得た限りにおいては114例が報告されている6).しかしながら,それらの多くは発生部位が明確に特定されず,orbital neurinomaとして報告されている1-3,8,17,23).その理由としては,眼窩内神経鞘腫は占拠性病変として眼球突出を呈すものの,術前に明らかな神経脱落症状を伴わない場合が多く,また眼窩内の神経組織は脂肪組織に埋没しているため,発生母地である神経の特定が困難であることに起因すると考えられる11,12,14,18,20)
 今回われわれは,術中に腫瘍発生部位(神経)を同定することが可能であり,それにより腫瘍被膜をわずかに発生部位へ残すことにより,術後に何ら神経脱落症状を呈することなく摘出できた毛様体神経鞘腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

ガンマナイフ治療が奏効した副鼻腔悪性黒色腫の1例

著者: 堀江信貴 ,   高橋伸明 ,   古市将司 ,   森勝春 ,   柴田尚武

ページ範囲:P.753 - P.757

Ⅰ.はじめに
 副鼻腔に原発する悪性黒色腫は,極めて予後不良である11).その解剖学的構造から手術侵襲は大きく,根治性やQOLにおける問題がある.また,高齢者の悪性腫瘍は従来積極的に治療されることはなく,経過観察されることが多い.今回われわれは,高齢者の頭蓋外に存在する副鼻腔悪性黒色腫に対しガンマナイフ治療を行い,著明な腫瘍縮小および,QOL改善が得られた1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

ステント留置術後に興味ある脳循環の変動を示し,痴呆症状が改善した両側内頸動脈狭窄症の1例

著者: 酒向正春 ,   植田敏浩 ,   久門良明 ,   福本真也 ,   大田信介 ,   大上史朗 ,   西原潤 ,   正田大介 ,   大西丘倫

ページ範囲:P.759 - P.765

Ⅰ.はじめに
 Misery perfusionを示す脳主幹動脈閉塞性疾患は,高率に脳卒中発作を起こすことが知られている14,16).しかし,高齢者では認知機能や活気が経年的に低下するため2),神経症状の進行は見逃されやすく,その治療時期を逸することも稀ではない.今回,両側頸部内頸動脈狭窄による進行性痴呆に対して,両側ステント留置術を行い痴呆症状の改善が得られた症例を経験したので報告する.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・1【新連載】

脳の発生・発達とその障害

著者: 水口雅

ページ範囲:P.768 - P.777

Ⅰ.はじめに
 ヒト中枢神経系の発生過程は器官形成と組織形成とに二大別される.前者は脳・脊髄の肉眼的形態を作る過程で,胎芽期から胎児期前半に進行する.その主なイベントは,①神経管閉鎖(胎生3〜5週),②脳胞形成(胎生5〜10週),③脳溝形成(胎生2〜5月)である.
 いっぽう組織学的レベルでは,①未分化幹細胞の分裂・増殖,②神経細胞・グリア細胞の分化,③神経細胞の移動,④髄鞘化,⑤シナプス形成が主要な現象である.

医療保険制度の問題と改革への提言・2

平成14年度診療報酬改定にあたって

著者: 中川俊男

ページ範囲:P.779 - P.783

Ⅰ.はじめに
 わが国の医療保険制度は,その根本精神が「いつでも,どこでも,だれでも」と表現されるようにフリーアクセスと国民皆保険体制を堅持してきた.先にWHOが発表したWorld Health Report20001)において,日本の医療保険制度は健康達成度総合順位1位という評価を得た.とくに健康で自立して生活できる健康寿命は1位,年齢や地域間の格差のない平等性は3位とされている.国民は文字通り世界一の医療保険制度の下で男女ともに平均寿命世界一,先進国中最低の乳児死亡率という輝かしい成果を享受してきた.一方,このような成果があるにもかかわらず,国の経済力の指標であるGDP(国内総生産)に対する医療費の割合は7%台で,1位米国の約半分,先進29カ国中でも18位に過ぎない2)
 小泉内閣が進めている構造改革において,政府が導入を目指しているのは,4,300万人もの医療保険未加入者を生み出すようなアメリカ型の医療制度である.そこにあるのは,貧富の差で診療内容が異なるような日本人には凡そ馴染まない弱肉強食の世界である.

医療保険制度の問題と改革への提言・3

現場からの実例・提言—在院日数一率短縮について

著者: 中村博彦 ,   堂本洋一 ,   伊藤昌徳 ,   津金隆一 ,   寺岡暉

ページ範囲:P.785 - P.789

 脳神経外科中心の専門医療施設で今後の診療報酬の動向を考慮すると,最も厳しい点は在院日数短縮の問題である.急性期特定病院加算の施設基準は,1)紹介率30%以上,2)平均在院日数20日以内が主要な項目であり,看護料もⅠ群の2:1ないし2.5:1の加算を得るには,それぞれ25日,28日以内の平均在院日数が必須である(平成14年3月時点).さらにこの4月の改正でそれぞれ17日,21日,26日と短縮された.当院の平均在院日数は現在約33日であるので,2:1に相当する看護婦さんが働いていても実際にはⅡ群の3:1の低い点数しか請求できない仕組みになっている.
 平均在院日数の短縮については当院も努力しており,近いうちにベッドの一部を移してリハビリテーションを中心とした分院を作る予定ではあるが,それでも20日を切ることは至難の業であり,本気で在院日数を短縮しようとすると患者さんにとっても大変不幸な状況になる.私個人は中村記念病院に戻るまで東京大学関連病院の脳神経外科に勤務し,そこは厚生労働省(厚労省)がモデルとしているような公的総合病院であったが,多くの病院は入院が長引きそうな脳卒中や肺炎などの高齢者の患者さんには目もくれず,患者さんのことを考えて入院させた研修医が,上司に何故入院させたのかと叱られるような状況であった.

報告記

第16回日本脳神経外科全国野球大会観戦記—1回・準決勝戦:2001年8月11〜12日(球場:東京ドーム球場)決勝戦:2001年10月20日(球場:倉敷市マスカット球場)

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.791 - P.791

 2001年,巨人とヤクルトの間でセントラルリーグ野球選手権の天王山の3連戦が戦われた東京ドーム球場で,第16回日本脳神経外科全国野球大会が開催された.前夜祭での組合せ抽選会で第1試合は,前年度優勝校,秋田大と,ここ数年で頭角を現わしてきた名古屋大が対戦することとなった.2001年8月11日,午前8時に,第60回日本脳神経外科学会会長,岡山大 大本堯史教授の開会ご挨拶と,秋田大 溝井和夫教授による選手宣誓で第1回戦が始まった.戦前の予想は秋田の楽勝かと思われたが,名古屋のメンバーは若々しく,3回には名投手の名をほしいままにしていた秋田の鈴木投手を攻略し,5:2で名古屋が快勝した.
 第2試合は,山口大と中村記念病院との対戦である.山口大は,激戦区の中四国地区を勝ち抜いての初出場である.先行の山口は1回4点,2回3点と怒涛の攻めをみせた.これに対し,席を暖めていた中村院長(現理事長)は,熱烈なチアガールの応援を受けレフトオーバーの3塁打を放ち,一気に4点を返した.その後1点差まで迫ったが,結果的に山口が10:6で勝ち進んだ.

ブラジルの学会に参加して—(2001年11月)

著者: 上川秀士

ページ範囲:P.793 - P.794

2001年11月12日〜24日,日本の裏側の国ブラジルを訪問した.ブラジルの学会参加と脳室ファイバースコープを用いた神経内視鏡手術の普及のためといってもよいだろうか?
 1年前,2人のブラジルの脳神経外科医が,別のルートから時を同じくして神経内視鏡の研修目的に東京女子医大に来ていた.そのうちの1人がSanta Cruz HospitalのDr.Koshiro(西国幸四郎先生)で,彼らが,ブラジルの学会を通じて招待してくれたのだ.西国先生は小児脳神経外科を専門にしており,神経内視鏡手術もかなり経験のある人だ.内視鏡には硬性鏡を用いている.2000年の福岡で行われた総会の時に福岡ドームでの神経内視鏡手術のピクチャーテルによるライブサージェリーを見て,日本の脳室ファイバースコープを用いた手術の技術の高さに驚き,それをブラジルに広めたいと思ったという.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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