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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻8号

2002年08月発行

雑誌目次

Als-Ob

著者: 重森稔

ページ範囲:P.805 - P.806

 「かのように」という不思議な題名の作品がある(森鷗外,1912年,明治45年).洋行帰りの一青年の言葉を借りて作者の当時の立場を語らせたものである.この中には,人間のあらゆる知識や学問の根本を例にとって,Die philosophie des Als-Ob(かのようにの哲学,1911年:Hans Vaihinger)に依る見解が示されている.実際には存在しない点と線があるかのように考えなければ幾何学が成り立たないのと同様に,哲学や宗教,道徳,芸術さらに自然科学も根本には「かのように:Als-Ob」が土台にあるとするものである.事実といっても真実ではない,本当ではない,ということになるとどこかで思考を止め現実と妥協せざるを得ない.立証できないものがあるかのように対処せざるを得ないということになる.人間社会のあらゆる物事を理詰めに突き詰あるとこのような考え方になってしまう.しかしどこで納得しバランスをとるかは大変難しい.
 急激な変革の渦中ではゆっくりと物事を考える余裕をなくしてしまう。ただ少し考えてみると医学や医療の分野でもいたることろにこのAls-Obが存在することに気付く.医の倫理,informed consent,尊厳死などはもちろん,Evidence-based Medicine(EBM),最近のtranslational researchやテーラーメイド医療などについても同じようなことが言えるであろう.

解剖を中心とした脳神経手術手技

絞扼性末梢神経障害の手術治療

著者: 橘滋国

ページ範囲:P.809 - P.821

Ⅰ.はじめに
 近年わが国の脳神経外科でも脊椎脊髄疾患に精通した医師の数は多く,学会活動も活発である.しかし,残念ながら末梢神経疾患に明るい脳神経外科医師の数は僅かであると言わざるを得ない.これは,従来脳神経外科患者の患者源が他科に依存し,中枢神経疾患が疑われた場合にのみ脳神経外科に紹介されるというルートによるものであると考えられる.
 一方,患者のサイドにたつと,四肢のシビレ,痛み,麻痺の原因がどんな疾患によるものであるかを判断することは不可能である.末梢神経疾患による四肢の痛み・シビレ・麻痺は日常生活を大きく阻害するにもかかわらず,正確な診断を下せる医師は少なく,こうした疾患を抱えた患者は最後に末梢神経の診断治療ができる医師にたどり着くという不幸を抱えている.患者の苦痛は疾患の重症度や重大さに依存していない.それが,脳病変によるものであろうが脊髄病変によるものであろうが,あるいは末梢神経病変によるものであるかは患者の苦痛に比例しない.少なくとも神経学的診察の可能な医師は,末梢神経疾患をも含めた総合的な神経診察を行い鑑別する能力が要求される.特に絞扼性末梢神経疾患は疾患頻度も高く,絶対に見逃してはならない疾患である.その治療においては,脳神経外科医師の手術技量をもってすれば,手術のクオリティは保証できる.本稿が最前線に立つ脳神経外科医師の診断治療技術の一助となり,患者救済に役立てば幸いである.

研究

慢性硬膜下血腫におけるドレナージ挿入方向と再発の関係

著者: 塩見直人 ,   橋本直哉 ,   辻野仁 ,   高橋義信 ,   村上守 ,   峯浦一喜

ページ範囲:P.823 - P.827

Ⅰ.はじめに
 慢性硬膜下血腫は血腫の除去のみで治癒にいたるため,最近では穿頭による血腫洗浄術が一般的となっている2).しかし,手術方法に関係なく3,10)10%近くの再発がみられ4,9,14),これまで病態に応じた再発予防が講じられてきた11,16).再発要因は様々なものが指摘されているが5,8,13),手術によって対策が可能な要因として,術後の残存空気が挙げられる1,6,7).われわれは,内視鏡を用いて血腫腔内を観察し,その所見を参考にして術後残存空気の速やかな排出を目的とするドレナージの血腫最前挿入を試みてきた12).今回,ドレナージの挿入方向と術後残存空気,および再発率との関係について解析検討し,二,三の知見を得たので報告する.

脳ドック受診状況と未破裂脳動脈瘤の有病率—栃木県における統計学的解析

著者: 松本英司 ,   篠田宗次 ,   増澤紀男 ,   中村好一

ページ範囲:P.829 - P.836

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血を予防するためには,血管内塞栓術を含めた外科的療法によって破裂する前に脳動脈瘤を治療する以外に方法はない.近年わが国では脳ドックが普及し,それに伴い未破裂脳動脈瘤が発見される頻度が増加している.しかし,これまで一定の地域における脳ドックの性・年齢別受診率を調査し,未破裂脳動脈瘤の有病率を示した報告はない.
 発見された未破裂脳動脈瘤を治療するに当たり,受診者に脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の病態を示す際,くも膜下出血の罹患率,死亡率,致命率は性・年齢によって異なることに留意する必要がある.それらを示す手段としては,剖検などによる脳動脈瘤の有病率8,12,23,31),未破裂脳動脈瘤の破裂の確率32,1,10,11,33),コホート研究などの疫学的研究2,7,9,13,14,27),多施設の共同研究による臨床データが有用である13,16).しかし,結果にばらつきがあること,わが国においては大規模な臨床研究が行われていないこと,コホート研究はイベント発生(脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の発生)が少ないために,性・年齢による違いを調査したり,他の死因との比較が十分行えないことが欠点であるといえる.それに対して,厚生省(現厚生労働省)が行っている患者調査20)や人口動態統計21)は,全国統計であるためわが国のくも膜下出血の傾向を知るのに有用である.

小児のシャントチューブ断裂の臨床的検討

著者: 森下暁二 ,   長嶋達也 ,   倉田浩充 ,   江口貴博 ,   玉木紀彦

ページ範囲:P.839 - P.845

Ⅰ.はじめに
 小児の水頭症に対する有効な治療法としてシャントが用いられているが,多くの例が種々の原因によりシャント機能不全として再手術を余儀なくされる.過去の報告によるとシャント機能不全の原因として最多はシャント閉塞であり3,5,6),特に中枢側の閉塞が多い3,6,9).次いで多いのが感染,または断裂・接続部における脱落によるものとされている3,5).中でもシャント断裂(Fig.1)に関する報告は従来から散見され7,8,11),断裂後の遊走管による臓器穿通例の報告もある7).われわれの施設においてもシャント断裂は全シャント機能不全のうち8.7%を占めており,シャント術後の合併症として重要であると思われた.当院におけるシャント断裂の臨床的特徴を検討し,文献的考察を加えて報告する.

症例

くも膜下出血を併発した特発性低髄液圧症候群の1例

著者: 友清誠 ,   西原毅 ,   中澤和智

ページ範囲:P.847 - P.851

Ⅰ.はじめに
 近年,RI脳槽造影やCT脊髄造影により髄液の脊髄硬膜外腔への漏出が証明され,これが特発性低髄液圧症候群(spontaneous intracranial hypoten-sion:SIH)の髄液圧低下の原因,SIH発症の機序として重要視されている1,4-6,10,13)
 SIHに慢性硬膜下水腫または血腫を併発する症例は散見されるが,くも膜下出血(SAH)を生じた症例は,文献を渉猟し得た限り今までにみられない.今回,SAHを併発したSIH症例を経験したので報告する.この症例では第1-2頸椎レベルに髄液漏出部位を証明することができたが,これにSAHを併発するのは極めて稀なことであり貴重な症例であると考え,その機序,臨床,神経放射線学的所見かつ,治療方法に関して文献的考察を含めて報告する.

両側総頸動脈閉塞症に合併した破裂脳動脈瘤の1例

著者: 荒木朋浩 ,   藤原浩章 ,   安田敬済 ,   須山武裕 ,   滝和郎

ページ範囲:P.853 - P.858

Ⅰ.はじめに
 閉塞性脳血管病変に脳動脈瘤を合併した報告は散見されるが,比較的頻度の低い両側総頸動脈閉塞に破裂脳動脈瘤を合併することは非常に稀である10,13,16).今回,われわれは動脈硬化性病変により両側総頸動脈が閉塞し血行力学的負荷が成因と考えられた破裂性脳動脈瘤の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

純粋な急性硬膜下血腫で発症した破裂脳動脈瘤の1例

著者: 荒木朋浩 ,   三平剛志 ,   村田浩人 ,   藤原浩章 ,   滝和郎

ページ範囲:P.861 - P.866

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤の破裂により急性硬膜下血腫を来すことは,0.5〜7.9%に認められるとされている2-6,17,19,21).しかし,これらのうち,初回頭部CTにてくも膜下出血を伴わない症例は,文献を渉猟した限りでは本例を含めて18例と,比較的稀であった1,6-13,16,18,20,22).今回,われわれは頭部CT上明らかなくも膜下出血を認めず,純粋に急性硬膜下血腫のみで発症したと考えられる破裂脳動脈瘤の1例を経験し,一期的に血腫除去,並びに脳動脈瘤根治術を施行し,良好な経過を得ることができたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

人工透析患者の内頸動脈狭窄症に対する内頸動脈内膜剥離手術(CEA)

著者: 松本勝美 ,   赤木功人 ,   安部倉信 ,   坂口健夫 ,   富島隆宏 ,   平田雅之 ,   青木正之

ページ範囲:P.869 - P.873

Ⅰ.はじめに
 長期透析を受けている患者は動脈硬化が進行しやすく種々の動脈の閉塞性病変を合併する12,13,16).最近は透析管理の向上により長期予後が改善した反面,透析中に末梢血管の閉塞や冠動脈の狭窄を合併する例が多くなり外科的治療を要する症例も増加している9,11).頸部頸動脈病変についても非透析患者に比べ動脈硬化性病変が多いとされているが10,13,17)手術例の報告はまれである.今回,透析中に頸動脈病変が発見された2手術例を経験したので非透析患者の内頸動脈内膜剥離手術(CEA)との差違や手術適応について,文献的考察を加え報告する.

Guglielmi detachable coilを用いて治療した破裂fenestrated aneurysm of vertebral artery unionの1例

著者: 西口充久 ,   杉生憲志 ,   大本堯史 ,   西条寿一 ,   藤沢洋之

ページ範囲:P.875 - P.879

Ⅰ.はじめに
 椎骨脳底動脈系,中でも脳底動脈本幹部動脈瘤に対する開頭・クリッピング術は,一般に非常に難易度が高く,特に急性期例の直達手術は困難である6,14).一方,近年発展してきたGuglielmi de-tachable coil(GDC)を用いた血管内治療は,動脈瘤の解剖学的位置や患者の全身状態不良などの理由で開頭術が困難な例に対しても低侵襲で治療が行えるという利点をもつ17).今回われわれは,くも膜下出血で発症したfenestrated aneurysm of VA unionに対し,急性期に脳血管内手術を行い良好な結果が得られたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

大脳ゴム腫の1例

著者: 勝田俊郎 ,   石原信一郎 ,   内藤愼二

ページ範囲:P.881 - P.885

Ⅰ.はじめに
 抗生剤の発達により,今日では日常診療で梅毒患者に遭遇することは少ない.脳神経外科領域においても術前に梅毒血清反応をルーチンに調べるが,たとえ陽性であったとしても治療を要する病態のものは極めて稀である.しかしながら,未だに根絶に至っていないこの疾患により,わが国でも神経症状を呈して脳神経外科を訪れる患者が稀ながらいるのは事実であり4-7,13),診断・治療方法に関しての知識は,われわれ脳神経外科医にとっても必要であると思われる.われわれは最近,大脳ゴム腫により不全片麻痺・けいれんを発症した患者を経験した.この症例を報告し,画像診断を中心に文献的考察を加えてみたい.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・2

頭部外傷

著者: 橋詰良夫 ,   吉田眞理

ページ範囲:P.888 - P.893

Ⅰ.はじめに
 近年の交通事故による脳脊髄外傷の増加や,高齢化社会の到来とともに老人における頭部外傷の増加,さらに幼児の被虐待児症候群(battered child syndrome)による脳損傷など頭部外傷は深刻な社会問題となっている7).頭部外傷はその原因が様々であり,頭蓋・脳・髄膜の関係は解剖学的に他の臓器に比べて複雑であり,外力の種類.方向,部位とその強さにより頭部外傷の病態は極めて多彩である.脳損傷の正確な把握は患者の治療方法の選択や予後に重要な影響を与えるものである.
 外傷性脳損傷は局所性脳損傷とびまん性脳損傷に大別される.局所性脳損傷とは急性硬膜外血腫,急性・慢性硬膜下血腫および脳挫傷や脳内出血に代表されるものであり脳損傷が比較的限局するものである.びまん性脳損傷は脳実質内の広範な損傷がみられるもので,びまん性軸索損傷が代表的なものである.また頭部外傷は頭皮の開放性損傷と頭蓋骨骨折さらに硬膜が損傷し,脳と外界が交通した開放性頭部外傷と,硬膜の損傷がない閉鎖性頭部外傷に分けられる.一方,外傷性脳損傷は外力が直接作用することによって生じる頭蓋内出血・挫傷・びまん性軸索損傷などの原発性損傷と,外傷後経時的に発現・悪化する脳浮腫・頭蓋内圧亢進や全身状態悪化に伴って生じる虚血性・低酸素性脳障害などの続発性脳損傷に分けられる4)

医療保険制度の問題と改革への提言・4

現場からの実例・提言—特定医療・転院

著者: 池上直己 ,   森山貴 ,   松前光紀

ページ範囲:P.895 - P.899

 症例:48歳 女性.
 甲状腺機能亢進症の既往があるが,明らかな不整脈の既往はない,1998年3月右片麻痺を呈し,一過性脳虚血発作の診断にて入院.脳血管撮影にて左内頸動脈のC3 portionに閉塞を認めたが,右内頸動脈からのcross flowが良好であったため,抗血小板薬のみにて外来でフォローされていた
 1998年12月29日12時30分頃,突然の意識障害で再発症,救急車にて来院した.来院時の意識は痛み刺激に対して払いのけが可能な程度であり,同時に左片麻痺を認めた.頭部CTで出血や新たな低吸収域はみられず,右内頸動脈閉塞の疑いにて血管撮影を試行した.右内頸動脈の頭蓋内分岐部直前から中大脳動脈起始部,前大脳動脈起始部に至る狭窄が認められ,血流は著しく遅延していた.左内頸動脈は頸部内頸動脈に至るまで閉塞していた.また,椎骨動脈系からの側副路は期待できない状態であった.家人に対する十分なinformed cansentの後,15時50分よりマイクロカテーテルを右内頸動脈を経て中大脳動脈に挿入し,t-PAを使い血栓溶解を行ったところ狭窄の程度に改善がみられた.その後のCTでは両側の前大脳動脈—中大脳動脈分水嶺領域に低吸収域が出現した.しばらくapatheticな状態が続いたが徐々に発語も増加し,車椅子による移動も可能となったが,自宅での介護が困難なため1999年6月11日他院へ転院となった.

医療保険制度の問題と改革への提言・5

緊急アンケート調査報告

著者: 中川俊男 ,   渡邊一夫 ,   小林茂昭

ページ範囲:P.901 - P.905

Ⅰ.はじめに
 平成14年度社会保険診療報酬改定は全国の脳神経外科医療機関に衝撃を与えている.日本脳神経外科学会医療問題検討委員会は,このままでは会員が全国各地で構築してきた脳神経外科の医療提供体制が破綻するという危機感を持った.当委員会は小委員会を設置して具体的な活動を開始することにしたが,第一弾として当学会認定専門医訓練施設を対象とした緊急アンケートを本年4月11日に実施したのでその結果を報告する.

読者からの手紙

Trans-radial approachでの脳血管造影における,バルサルバ洞内反転法の工夫

著者: 須賀俊博 ,   木下弘志 ,   佐藤昇一 ,   須田良孝

ページ範囲:P.907 - P.907

 当院においてカテーテルによる脳血管造影では,救急例やIVR例を除いて,4Fカテーテルによるright trans-radial approachを第一選択としている.そのカテーテル挿入手技であるが,従来は,シモンズ型カテーテルをguide wireに沿って上行大動脈や大動脈弓へ導き,そこでカテーテルに回転を加えてシモンズ型の形状に戻し,選択的挿入を行っていた1).しかし実際には,なかなか思うようにカテーテルがスムーズに回転しない場合が多く,シモンズ型の形状の再現に時間を要し,手技上困難を感じることが少なくなく,時には血管造影を断念せざるを得なかった.
 今回われわれは,カテーテルをバルサルバ洞内で反転させて,シモンズ型の形状に戻す方法を考案した.バルサルバ洞内反転法をFig.1に示す.まずguide wireを上行大動脈に下降させて,バルサルバ洞内に導き,さらに大動脈弁方向に進め,さらにguide wireを進めるとguide wireが反転してくる.十分guide wireが反転して,さらにguide wireを進めたところでシモンズ型カテーテルを進めると,guide wireに沿ってカテーテルが反転して,容易にシモンズ型カテーテルの形状が再現できる,Guide wireを途中まで抜いて,シモンズ型の形状を保ったまま引いてきて,総頸動脈に選択的に挿入する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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