扉
Als-Ob
著者:
重森稔1
所属機関:
1久留米大学脳神経外科
ページ範囲:P.805 - P.806
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「かのように」という不思議な題名の作品がある(森鷗外,1912年,明治45年).洋行帰りの一青年の言葉を借りて作者の当時の立場を語らせたものである.この中には,人間のあらゆる知識や学問の根本を例にとって,Die philosophie des Als-Ob(かのようにの哲学,1911年:Hans Vaihinger)に依る見解が示されている.実際には存在しない点と線があるかのように考えなければ幾何学が成り立たないのと同様に,哲学や宗教,道徳,芸術さらに自然科学も根本には「かのように:Als-Ob」が土台にあるとするものである.事実といっても真実ではない,本当ではない,ということになるとどこかで思考を止め現実と妥協せざるを得ない.立証できないものがあるかのように対処せざるを得ないということになる.人間社会のあらゆる物事を理詰めに突き詰あるとこのような考え方になってしまう.しかしどこで納得しバランスをとるかは大変難しい.
急激な変革の渦中ではゆっくりと物事を考える余裕をなくしてしまう。ただ少し考えてみると医学や医療の分野でもいたることろにこのAls-Obが存在することに気付く.医の倫理,informed consent,尊厳死などはもちろん,Evidence-based Medicine(EBM),最近のtranslational researchやテーラーメイド医療などについても同じようなことが言えるであろう.