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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科30巻9号

2002年09月発行

雑誌目次

血管内治療 実技試験官

著者: 滝和郎

ページ範囲:P.919 - P.920

 日本脳神経血管治療学会の第一回専門医試験が今年行われている.この学会では,認定医は指導医,専門医の2段階式になっている.専門医試験は,筆記試験,口頭試験,実技試験の3部門からなっており,筆記,口頭試験は3月に行われた.現在,実技試験が進行中である.特別な理由を除いて速やかに終了したい,と思っている.というのはこの後,新専門医からの指導医への変更審査,今回の試験の総括,来年の試験問題の作成などがあるため,事務的に進められるところは速やかに進めたいからである.
 さて,この分野の治療の特徴として,侵襲は低いが,いったん合併症が起こると重度の症状が出現することがあげられるが,認定医制度が発足した大きな理由の1つに,このような合併症を最小限におさえたいという期待がある.血管内治療のみならず,外科的な治療ではもともと実技試験,あるいはシミュレーション度の高い模擬試験が不可欠であると小生は考えている.実技試験は評価方法が難しいこと,また事務的に煩雑であるなど,種々の理由で大半の学会で行われていない.日本脳神経血管内治療学会は幸い,会員数からしても比較的こじんまりしていること,歴史が浅いことなどの理由で,このような実技試験が可能になったと考えている.

解剖を中心とした脳神経手術手技

第3脳室前半部腫瘍の手術

著者: 岡本新一郎 ,   鳴海治

ページ範囲:P.923 - P.932

Ⅰ.はじめに
 第3脳室は脳の中心部にあるため脳神経外科医にとって最も到達が困難な部位の1つである.これまで第3脳室病変に対する外科治療については多くの議論がなされ,本誌に発表されたもの5,10,30)も含めて,既に優れた総説6,21,26)や手術書27)が発表されている.特に,Apuzzo編集のSur-gery of the third ventricle(初版1987年,第2版1998年)4)はこの問題に関する集大成ともいえる良著である.これらを総覧してみると,やはりこの部の手術の困難さを反映してか,いくつもの異なったアプローチが提唱されており,近年に至ってもなお最良のアプローチをどう考えるかについては議論が収まったとはいえない12,16,31)
 一口に第3脳室前半部腫瘍といっても,その発生部位や性状が非常に多彩であるため,すべてに最適なアプローチなどあり得ないことは確かである.しかし,必ずしもそれだけではなく,似通った病変についても議論が分かれる理由として,次のような点が考えられる.まず第1に,この部の手術ではなんらかの神経組織の切開が避けられないが,それがはたして安全かどうかという点で評価が定まっていなかったこと,第2に,微小解剖の正確な理解と,その手術手技への応用が未だ不十分だったこと,第3に,元来この部の病変について1人の脳神経外科医が経験する症例が少ないことなどである.

研究

化学療法単独で治療した頭蓋内胚腫の再発

著者: 隈部俊宏 ,   日下康子 ,   城倉英史 ,   池田秀敏 ,   白根礼造 ,   吉本高志

ページ範囲:P.935 - P.942

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内胚腫(pure germinoma)の5年生存率は,放射線治療により90%以上であると報告されている6,14).現在,本疾患に対してはよりよい治療予後を求められるようになっており,放射線照射による視床下部—下垂体機能障害,知能障害,放射線誘発発癌等の晩発障害7)を回避するために,化学療法単独もしくは化学療法併用による照射線量および範囲の低減化を図った放射線治療が行われている1-3).これらの検討結果より,化学療法による初回寛解導入は十分行えることは明らかとなったが,放射線治療時に認められなかったような再発症例を数多く経験するようになった11).そこでわれわれは,初回治療を化学療法単独にて行った頭蓋内胚腫症例の治療成績を解析し,化学療法単独治療の問題点について検討した.

特発性頸動脈海綿静脈洞瘻に対するガンマナイフ治療

著者: 森木章人 ,   小野雄弘 ,   森惟明 ,   三宅博久 ,   西村裕之 ,   福井直樹 ,   細田英樹 ,   目代俊彦 ,   内田泰史 ,   吉田守 ,   平井達夫

ページ範囲:P.945 - P.951

Ⅰ.はじめに
 特発性頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous sinus fistula,以下CCF)に対する治療は,近年の血管内治療の進歩により,飛躍的な発展がみられるようになった.しかしながら,すべての症例に経静脈的塞栓術をはじめとする血管内治療が可能というわけではなく,少ないながらも,手技的にカテーテル操作が困難な症例が存在すること,また塞栓術を行うことによって,血行動態の変化が起こり,かえって症状の急速な進行を来す症例もみられる.これらの症例に対して,なんらかの治療手段が望まれる.
 今回,われわれは8例の特発性CCFに対してガンマナイフ治療を行い,その治療効果について検討を行ったので報告する.

症例

同一頸髄レベルに髄膜腫および神経線維腫を発生した頸髄腫瘍の1例

著者: 穂刈正昭 ,   飛騨一利 ,   石井伸明 ,   関俊隆 ,   岩崎喜信 ,   中村仁志男

ページ範囲:P.953 - P.957

Ⅰ.はじめに
 多発性脊髄腫瘍の発生頻度は,全脊髄腫瘍の1.2〜9.5%といわれ7,12),その過半数はneuro-fibromatosis(NF)に合併したものである19).病理学的にはschwannomaあるいはneurofibroma,次いでmeningiomaの同種多発性腫瘍が多く,異種多発脊髄腫瘍例はNF例でも比較的稀といわれる4,8,9,13).さらに非NF例で文献上渉猟し得た異種脊髄腫瘍例の報告はこれまで5例しか報告がない1-3,5,14).本症例は6例目の報告となるが,同一頸髄レベルに発生した異種脊髄腫瘍の報告例はこれまでない.今回われわれは同一レベルに髄膜腫および神経線維腫を発生した頸髄腫瘍の1例を経験したので報告する.

高齢で発症したくも膜嚢胞の2例—小児例との比較検討

著者: 菱川朋人 ,   近間正典 ,   坪井雅弘 ,   薮野信美

ページ範囲:P.959 - P.965

Ⅰ.はじめに
 くも膜嚢胞は若年で発症することが多く15,16,27),高齢発症は稀である4,8,21,34,37).今回われわれは,高齢で発症したくも膜嚢胞の2例を経験したので,臨床的特徴,発症機序,治療法に関し,小児例との比較において文献的考察を加え報告する.

不明熱を繰り返した先天性皮膚洞の1例

著者: 峯岸和教 ,   日下康子 ,   白根礼造 ,   吉本高志

ページ範囲:P.967 - P.971

Ⅰ.はじめに
 先天性皮膚洞は,神経管の閉鎖障害に起因する奇形である.身体正中線上に発生し,体表から皮下,硬膜管内などに至ることが知られている1,6,11).硬膜管内に達する場合,類皮腫あるいは類上皮腫を合併することがあり,その場合,腫瘍の占拠効果による神経症状や,嚢腫内容物による無菌性髄膜炎,嚢腫内膿瘍形成による髄腔内感染に起因する神経症状を呈することが報告されている5-7,11).一般に先天性皮膚洞はこうした合併症を呈するまで見逃されていることが多く,また重篤な神経症状を呈して後の治療予後は不良である2,3,8,11).今回われわれは不明熱を繰り返したことにより発症し,神経症状を呈する前に根治手術を施行し得た先天性皮膚洞の類上皮腫合併例を経験したので報告する.

Third ventricular chordoid gliomaの1手術例

著者: 小田正哉 ,   笹嶋寿郎 ,   木内博之 ,   提嶋眞人 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.973 - P.979

Ⅰ.はじめに
 Third ventricular chordoid gliomaは中年女性の第3脳室内に好発する境界明瞭な腫瘍で,今回文献を渉猟した限りでは現在までに24例1,3-5,7-11)の報告があるにすぎず,画像診断を含めた臨床像および適切な治療方針は未だ確立されていない.
 最近,青年期に発症したthird ventricular chor-doid gliomaの稀な1例を経験し,anterior tran-scallosal interforniceal approachにより腫瘍を全摘し得たので,若干の文献的考察を加えて報告する.

経動脈的および経静脈的塞栓術が有効であった下錐体静脈洞部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 加藤祥一 ,   藤井正美 ,   富永貴志 ,   藤澤博亮 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.981 - P.984

Ⅰ.はじめに
 硬膜動静脈瘻は硬膜壁内に異常な動静脈吻合を生じることにより,多彩な症状を呈する疾患で主に後天的要因が考えられている3).本症は通常海綿静脈洞部に好発し,下錐体静脈洞部に発生することは稀である.今回われわれは眼症状で発症した稀な下錐体静脈洞部の硬膜動静脈瘻に対し,経動脈的および経静脈的に塞栓術を行うことで,症状を完治することができた1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

保存的加療後に外科的治療を要した環椎破裂骨折(Jefferson fracture)の2症例

著者: 山本博道 ,   栗本昌紀 ,   林央周 ,   大森友明 ,   平島豊 ,   遠藤俊郎

ページ範囲:P.987 - P.991

Ⅰ.はじめに
 環椎破裂骨折(Jefferson fracture)は比較的稀な脊椎の骨折で2),治療法の選択については多様な見解がある.環椎破裂骨折のみの例の大部分は,環軸椎亜脱臼などの不安定性を来すことは少なく,治療はhalo vestなどの外固定が有効で,手術が必要となることは稀であるz1,2,4,6,9,11)
 今回,保存的加療の後に外科的治療を要した環椎破裂骨折の2症例を経験したので,治療上の問題点と手術のタイミングにつき若干の考察を加え報告する.

MRAにより経時的変化を追跡したisolated angiitis of the CNSの1例

著者: 橋本祐治 ,   金子高久 ,   森田悦雄 ,   大瀧雅文

ページ範囲:P.993 - P.998

Ⅰ.はじめに
 Isolated angiitis of the CNS(以下IAC)は中枢神経系に限局した特発性の血管炎で,進行に従い脳梗塞をはじめ多彩な病態を呈する疾患群である.原因として細胞性免疫の機能障害の関与が考えられ,ステロイドや免疫抑制剤の投与が有効とされている.経過中の治療効果や血管炎の活動性の客観的な評価は,臨床症状や脳血管撮影所見の変化からの推測となるが,病初期からの詳細な報告がほとんどないため検査時点がどの病期に相当するかは不確実である場合が多い.
 頭痛を初発症状とし経過中に脳出血を併発したIACの症例において,MRAを中心にした急性期から寛解期に至る経時的な頭蓋内血管の形態評価を行ったので報告する.

How I Do It—私ならこう治療する

症例:巨大・部分血栓化内頸動脈後交通動脈分岐部瘤

著者: 河瀬斌 ,   菅貞郎 ,   宮地茂 ,   溝井和夫 ,   塩川芳昭

ページ範囲:P.1000 - P.1009

 提示された症例に対して,3人の筆者に,それぞれ自分が術者となるのであればどのような術式をとるか,その考え方,ポイントなどをご回答いただきました.
 回答のあとに,実際の治療経過を略述しました.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・3

血管障害(1)脳内出血

著者: 吉田泰二

ページ範囲:P.1011 - P.1016

Ⅰ.はじめに
 脳内出血(intracerebral hemorrhage:ICH)は,単に脳出血(cerebral hemorrhage)と呼ばれることもあるが,欧米では,ほとんど前者が使われている.また,高血圧性脳出血も同義で使われるように,原因として,高血圧に関連した脳血管病変の破綻による出血の頻度が高い.しかし,後述のごとくICHを起こす原因は多彩である.
 脳血管障害の中でICHの占める割合は約20%である.ICHは高血圧の治療管理の普及により脳梗塞の頻度よりは減少したが,なお多くの人が罹患している.

医療保険制度の問題と改革への提言・6

現場からの実例・提言—自己負担による医療材料の使用解禁をもとめる

著者: 小野塚聡 ,   河瀬斌 ,   唐澤淳 ,   齋藤孝次 ,   鮫島寛次 ,   堂本洋一

ページ範囲:P.1020 - P.1023

Ⅰ.はじめに
 医療保険制度のなかに混合診療の禁止条項がある.これは自費による自由診療と保険診療を同時に行うことを禁じたものであり,規定の保険料を支払っている被保険者は皆等しく均一な医療を受けられるという主旨から定められたものと理解できる.だが患者の価値観は多様化しており,その要望に応じた医療の選択肢を増やしていくことも望まれる.しかし現状では保険診療を行う限りは保険適応外の医療サービスを提供することはできないし,生じた差額を徴収することもできない.私たちの忘れられない症例を通じて,混合診療の禁止は弊害ももたらしているということを述べる.

Coffee Break

高血圧,糖尿病は脳卒中発症にどのように影響するか?

著者: 鈴木一夫

ページ範囲:P.1016 - P.1017

 脳出血の最大の危険因子は高血圧である.高血圧治療ガイドライン2000年版では,一般的に140/90mmHg未満を高血圧治療の降圧目標値とするが,高血圧に糖尿病が合併した場合は脳卒中発症の危険が著しく増大することから,さらに低い130/85mmHg未満を目標値としている.しかし,日本での脳卒中発症に関する疫学研究では,血清の総コレステロールや蛋白質が低値であることが脳出血危険因子となることが明らかにされている.このような低栄養を反映する状態は,2型糖尿病の発症には予防的に働くと推測される.したがって,糖尿病の存在は脳卒中の全ての病型で発症の増大をもたらすものではないと思われる.
 秋田県の脳卒中発症登録での1995年から1999年までの発症者8,291人を症例,1997年の集団検診を受診した脳卒中既往歴のない地域住民5,918人を対照として,高血圧,糖尿病,高血圧と糖尿病の合併,年齢,飲酒,喫煙を共変量としてロジスティック解析を行い,全脳卒中,脳出血,くも膜下出血,脳梗塞における高血圧,糖尿病,両疾患合併の相対危険を検討した(Fig 1).

読者からの手紙

「One-way ball valveを利用した体外脳室心房短絡術—脳室ドレナージ中の患者のADL改善のために」の論文について(1)/(2)

著者: 平野亮 ,   柴田和則 ,   杉山誠 ,   岡田崇 ,   樋口晧史 ,   矢部熹憲

ページ範囲:P.1025 - P.1026

 貴誌2002年4月号405ページに掲載された久保重喜先生らの研究論文1)について,疑問点があり投稿いたします.著者らは,ドレナージ中の患者のADLを改善すべくアクティバルブⅡを用いた体外VAシャントを実施したと述べています.その実施時期として,論文内で「患者の全身状態がある程度安定した段階で,髄液に凝血やフィブリン塊を認めず,かつ髄膜炎のないことを確認して」とありますが,普通ならこの時期に回路を閉鎖し,水頭症が出現すればVPシャントを行うのではないでしょうか.提示された4症例のうち,3症例が後にVPシャントを施行したことを考えれば,髄膜炎や菌血症などのリスクを犯してまで10〜20日間も体外VAシャントを行う必要性があるとは,残念ながら思えません.提示された症例は,幸い髄膜炎などの感染症を併発しませんでしたが,もしそうなっていた場合,せっかくのVPシャントの時期を失するか,遅延させることとなり,患者のデメリットは非常に大きくなっていたはずです.むしろ,体外VAシャントは髄液性状に変化の出ない脳梗塞や脳腫瘍などの,非出血性病変による閉塞性水頭症の症例に限定すべきだと考えます.実際に論文中でも,後にVPシャントを必要としなかった1例は小脳梗塞でした.正常髄液で時間経過とともに,通常の生理的髄液路が回復することが期待される症例にのみ,この方式は有用性があると思います.

手紙に対する返答

著者: 久保重喜

ページ範囲:P.1027 - P.1027

平野先生に対する返答
 われわれの論文に対しての貴重なご意見有難うございました.ご指摘のとおり,VPシャントに移行できる時期に,あえて一時的に体外VAシャントを行う必要性は少ないように思われます.しかし,出血後の髄液の正常化の度合いは個々の症例ごとに違いがあり,髄液中の蛋白濃度が高くパーマネントなVPシャントに移行するのに躊躇されるときなどに,本方法は利用できるものと思われます.論文中で今後の可能性として示しましたが,フィルターを有し安全なバルブが開発されれば,急性期の血性髄液でも使用できるかもしれません.しかし当面は,脳腫瘍は播種の問題があるため別として,ご指摘のように小脳梗塞による水頭症などが最もよい適応かと思われます.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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