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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科31巻1号

2003年01月発行

雑誌目次

脳神経外科とホリステイック医療

著者: 黒岩敏彦

ページ範囲:P.3 - P.4

 膠芽腫患者さんの治療時には,常に無力感に苛まれます.種々の方法を駆使して可及的に摘出し,適切な補助療法を行っても必ず再発します.5年生存率は20年前と全く変化がありません.現在まで,腫瘍そのものに目が向けられてきましたが,患者さんの体にも回復しよう治ろうとする力は常にあるわけで,この力を引き出して高める方向にももっと尽力すべきではないでしょうか.和田啓十郎氏が「医界之鉄椎」の中で書かれている自然良能,最近の言葉を使えば自然治癒力が程度の差こそあれ誰にでもあります.われわれ外科医は,病気を治すという意識が特に強いかも知れませんが,患者さん自らに自然治癒力がなければ創一つ治りません.抵抗力,免疫力,あるいは生命力と言ってもいいかも知れませんが,脳腫瘍の治療においても重要な要素です.
 近年,代替医療なるものが注目されています.現代医学は科学に裏打ちされた西洋医学が主流ですが,それに替わるものあるいは補うものとの意味です.Alterna—tive medicineの和訳ですがcomplementaryという言い方もあり,こちらは補完または相補と訳されています.あるいは,併せてcomplementary and alternative medi—cine(CAM)とも言われ,日本語では補完・代替医療となります.お国柄の違いか,北米ではalternative,英国ではcomplementaryが使われるようです.

解剖を中心とした脳神経手術手技

経皮的椎体形成術—適応と手技

著者: 徳永浩司 ,   杉生憲志 ,   中嶋裕之 ,   伊達勲 ,   大本堯史 ,   ,   RÜFENACHT

ページ範囲:P.7 - P.14

Ⅰ.はじめに
 経皮的椎体形成術(percutaneous vertebroplasty)とは腫瘍による溶骨性変化や骨粗鬆症による圧迫変形を来した脊椎椎体に対し,除痛を得ることを目的として,経皮的に金属針を刺入し,骨セメントであるpolymethylmethacrylate(PMMA)やリン酸カルシウムペーストなどの骨補填剤を注入する方法である(Fig.1).除痛の得られる機序に関しては椎体の安定性の獲得,PMMAモノマーの毒性や硬化時の熱による骨内痛覚受容神経の損傷などが考えられているが,詳細は未だ不明であり4),実際にPMMA注入量が意図したよりも少量に終わっても十分な除痛効果が得られるとされている2)
 本法は,1984年にフランスのDeramondらがPMMAを用いて頸椎巨大血管腫を治療したことに始まり8),以後疼痛を主訴とした椎体部腫瘍や骨粗鬆症における圧迫骨折などに適応が拡大され,欧米においてはその有用性が広く認知されるにつれ手術例が飛躍的に増加している1,2,13,19,28).本邦では未だ一般的な治療法にはなっておらず,一部の放射線科医,脳神経外科医により行われているのみである12,16).筆者らはジュネーブ大学神経放射線科において本法を習得し19),岡山大学医学部倫理委員会の承認を得て治療を開始している.

研究

脳虚血性疾患急性期診断におけるCT perfusion/3D-CT angiography連続施行法の有用性

著者: 中口博 ,   寺岡暉 ,   安達忍 ,   柳橋万隆

ページ範囲:P.17 - P.25

Ⅰ.はじめに
 3dimensional CT angiography(3D-CTA)は,造影剤を末梢静脈にボーラス注入しspiral highresolution CT scannerで頭部CTを撮影,画像断面を横切る造影剤によるCT値の局所的変化をコンピュータでとらえ脳血管撮影像を得るCT撮像法である8).その簡便性と,従来のMRA,DSA画像を上回る空間分解能,写実的な3次元画像によりルーチンな脳血管撮影法として普及しつつある.一方,CT perfusion(CTP)は造影剤をボーラス注入しながら同一断面をダイナミックスキャンして,CT値の局所的変化をとらえコンピュータで局所脳血流量,局所脳血液量を計算し画像表示するCT撮像法である7,9).高速CTの導入により短時間で施行できるようになり,従来のXenonCT,PET,SPECTに代わる簡便な脳灌流画像法として近年再び注目を集めている.CT scannerの技術革新によりCTAとCTPを連続して数分間以内で撮影できるようになった.脳血管撮影像と脳灌流画像を短時間内で同時に得られるため,脳虚血性疾患の急性期診断法として非常に有用であると考えられる12)

中大脳動脈M1部-レンズ核線条体動脈分岐部動脈瘤の直達手術

著者: 西岡宏 ,   原岡襄 ,   三木保 ,   秋元治朗 ,   山中成人 ,   長谷川浩一 ,   松邨宏之

ページ範囲:P.27 - P.33

Ⅰ.はじめに
 中大脳動脈の動脈瘤の大多数はその分岐部にみられ,本幹(M1)部に発生することは少ない.その中にあってM1部の穿通枝であるレンズ核線条体動脈(LSA)との分岐部に発生するM1—LSA動脈瘤は稀だが,やや特異な臨床像を有し,また外科的治療に際して注意を要する問題点がいくつか存在することが知られている.
 われわれが経験したM1—LSA分岐部動脈瘤の6手術例につき検討し,直達手術の要点について文献的考察を加え報告する.

無症候性未破裂脳動脈瘤に対する手術侵襲

著者: 石黒友也 ,   安井敏裕 ,   森川俊枝 ,   松阪康弘 ,   小宮山雅樹 ,   山中一浩 ,   岩井謙育

ページ範囲:P.35 - P.40

Ⅰ.はじめに
 無症候性未破裂動脈瘤が発見される頻度は近年増加傾向にある12).未破裂例の手術が正当化されるためには,術中・術後の合併症を起こさない細心の注意が要求される.手術侵襲が大きいと術後合併症の発生率は高くなることが知られており11,14,17),手術侵襲の程度を客観的に評価することは術後管理を行ううえで重要である.手術侵襲の評価には炎症性サイトカインの1つであるInterleukin−6(IL−6)の血中濃度が用いられることが多い1,4,5,7,10,11,14).IL−6により肝臓からC-reactive protein(CRP)が誘導され,両者は平行して動くことから1,7,10),血中CRP値も手術侵襲の評価に用いられている1,7-10,18).サイトカインやCRPの値を用いた手術侵襲の評価は他科領域では試みられているが1,4,5,7-11,14,18),脳神経外科領域においてはわれわれの渉猟し得る範囲では見られない.そこで今回,容易に測定できる血中CRP値を用いて無症候性未破裂動脈瘤の手術侵襲度を評価した.

症例

頭皮下腫瘤にて発症し,硬膜病変を合併した悪性リンパ腫の1例

著者: 西本武史 ,   勇木清 ,   佐々木朋宏 ,   今田裕尊 ,   村上太郎 ,   児玉安紀

ページ範囲:P.43 - P.47

Ⅰ.はじめに
 頭皮下腫瘤の診断は容易でないことが多く,その治療においても組織や局在,深部への浸潤により様々な治療戦略が練られる,場合によっては有茎皮弁による再建が必要な程の広範で大がかりな手術を要することもあり,術前診断は非常に重要である。今回われわれは頭皮下腫瘤と硬膜病変を合併した悪性リンパ腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え,その鑑別と治療について報告する,

ステロイドが著効したと考えられるchronic intracerebral hematomaの1例

著者: 南都昌孝 ,   須川典亮 ,   天神博志

ページ範囲:P.49 - P.54

Ⅰ.はじめに
 脳内出血は急激な症状の発現が一般的である.しかし脳内出血の一部には長い期間経過した後,被膜化した占拠性病変としてあたかも脳腫瘍のように徐々に症状を呈するものがある.Yashonら9)は1978年にこのような症例を“chronic intracere—bral hematoma”として報告した.その後“chronicencapsulated intracerebral hematoma”(Hirshら,1981)3),“chronic expanding intracerebral hemato—ma”(Pozzatiら,1986)6)などとして好発部位,経過,画像診断,病理診断,治療などについての報告がなされてきた.今回われわれはステロイドが著効したと考えられる“chronic intracerebral he—matoma”の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Diploic epidermoid cystの1例:画像診断を中心に

著者: 中塚博貴 ,   松原一郎

ページ範囲:P.57 - P.61

Ⅰ.はじめに
 類表皮嚢胞は全脳腫瘍の0.5〜1.5%を占める腫瘍で9),そのうち頭蓋骨の板間層に発生するものは16.2%と比較的稀であるが8),頭蓋骨腫瘍をみた際に鑑別に考慮しておくべき疾患の1つである.今回われわれは,板間層類表皮嚢胞の1例を経験したので,その画像的特徴などに関する文献的考察を加えて報告する.

Tandem lesionを伴う内頸動脈狭窄病変に対する血行再建術

著者: 卯田健 ,   井上亨 ,   一ツ松勤 ,   安森弘太郎 ,   岡田靖

ページ範囲:P.63 - P.67

Ⅰ.はじめに
 North American Symptomatic Carotid Endarter-ectomy Trial(NASCET)9),Asymptomatic CarotidAtherosclerosis Study(ACAS)4)で,それぞれ70%以上の症候性,60%以上の無症候性内頸動脈狭窄病変を有する患者において頸動脈血栓内膜剥離術(carotid endarterectomy;CEA)により脳卒中と死亡のリスクが低下することが明らかにされた.最近,わが国でも生活の欧米化や超音波検査の診断技術の進歩に伴いCEAの手術件数が増加傾向にある.本疾患は動脈硬化症を基礎とするものであり,主幹動脈の複数の狭窄病変を同時に有することがある.今回われわれは,内頸動脈起始部狭窄病変と頭蓋内petrous portionに狭窄病変(tandemlesion)を有する患者に対して一期的にCEAおよび頭蓋内内頸動脈stent留置術を行い良好な結果を得たので報告する.

多発性細菌性動脈瘤の1例

著者: 八木貴 ,   堀越徹 ,   宮澤伸彦 ,   八木下勉 ,   佐藤英治 ,   佐藤浩企 ,   貫井英明

ページ範囲:P.69 - P.73

Ⅰ.はじめに
 細菌性動脈瘤は比較的稀な疾患である.以前は破裂例の予後は極めて悪いと報告されていたが3,6),近年,診断技術の進歩,血管内治療の発達などにより治療成績が向上している4).しかし感染性心内膜炎という重篤な基礎疾患を背景にもつ例が多く,患者の状態に応じて適切な治療を選択する必要がある.今回われわれは,細菌性動脈瘤診断後の経過中に他部位に発生した動脈瘤より出血を生じた多発性細菌性動脈瘤の1例を経験した.細菌性動脈瘤に対する適切な治療法の選択について,文献的考察を加え報告する.

How I Do It・2

症例:Dolichoectatic giant aneurysm of the basilar artery

著者: 氏家弘 ,   比嘉隆 ,   堀智勝 ,   ,   河瀬斌 ,   宮本享

ページ範囲:P.76 - P.88

症例提示
症例 43歳 男性
主訴 ふらつき歩行

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・7

変性疾患(1)痴呆性疾患

著者: 望月葉子 ,   水谷俊雄

ページ範囲:P.89 - P.97

Ⅰ.はじめに
 原因不明の痴呆性疾患では神経細胞内に生じる封入体が特に注目され,Alzheimer型痴呆(ATD)やLewy小体型痴呆(DLB)のように封入体の出現量が病理診断上,重視される傾向にある4,10).また,遺伝子異常が明らかになった疾病もあり1),今後,このような分子生物学的解明が進むものと期待される.しかしその一方で,痴呆性疾患は原則として臨床症状によって特徴付けられており,したがって,痴呆性疾患では脳のどの部位が障害されたかということが最も基本であることは言うまでもない.そこで臨床症状との関連からみた痴呆症の全般的な病理といくつかの皮質性の変性性痴呆疾患について述べる.

医療保険制度の問題と改革への提言・11

現場からの実例・提言:セカンド・オピニオン—脳神経外科における相談料(技術料)について

著者: 山下純宏

ページ範囲:P.101 - P.107

 最近「セカンド・オピニオン」を求めて外来を受診される患者が増えています.現行の診療報酬制では,医師の経験や技術料がほとんど評価されていません.研修医でもベテラン医師でも,同じクスリを処方すれば診療報酬点数は全く同額であります.同じ名前のつく手術術式であれば,専門医であろうがなかろうが,経験や技術の差は評価の対象とはならず,誰が執刀しても診療報酬点数は全く同じであります.極端なことをいえば,経験の乏しい医師が執刀して,合併症が起こればその分だけ治療費がかさみ,皮肉にも,かえって病院の収入は増えることになります.
 患者さんが「セカンド・オピニオン」を求めて来診された時に,どんなに時間をかけて相談に乗り親切に説明しても,今回紹介する事例のように,患者負担額は初診料を含めて数千円以下です.われわれのように国立大学病院に勤務する医師の場合は国家公務員(文部教官)ですから,長い手術などで朝から深夜までぶっ続けに働いても,あるいは受け持ちの重症患者のために時間外に深夜まで,あるいは日曜休日に出勤して働いても,「当直医」に当たっていない限り,時間外手当は全く支給されません,文部教官ですから,「教育と研究」のみが仕事の他学部の教官と同じ給料しか支給されません.

報告記

10thInternational Congress on Neutron Capture Therapyに参加して(5—ALAによる脳腫瘍可視化および治療の見学)—(独,Essen,9月8〜13日)

著者: 梶本宜永 ,   宮武伸一

ページ範囲:P.109 - P.110

 2002年9月8日〜13日,ドイツのEssenで開かれた第10回中性子捕捉療法国際コングレス(NCT Essen)に参加し,その後ミュンヘン,マクシミリアン大学のStummer博士のもとへ立ち寄り,5—ALAによる脳腫瘍の可視化,および光化学療法を見学したので,本誌読者諸兄に報告する.
 Essen大学放射線科教授,Wolfgang Sauerwein博士を会長として,NCT Essenには世界中より約600人の脳神経外科医,放射線治療医,放射線生物学者,硼素化合物の合成に関わる化学者等が一同に会した.本コングレスは2年毎に開催され,前回は大阪で開催されている.本治療法は読者諸兄もご承知のように,棚素化合物を腫瘍細胞に取り込ませ,原子炉において中性子を照射することで,高エネルギーα粒子が細胞一個分の飛程で飛び出すことにより,腫瘍選択的に破壊するという放射線治療法であり,主として,悪性脳腫瘍に対して1950年代より米国で応用されてきた.日本では故畠中担教授が精力的に研究,治療に当たり,今や,脳腫瘍のみならず,メラノーマにも応用されている.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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