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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科31巻10号

2003年10月発行

雑誌目次

「患者中心の医療」のために

著者: 藤井清孝

ページ範囲:P.1057 - P.1058

 ほんの10年前までは医療の品質管理や品質保証について,注意を払う医療人はそれほど多くはなかったように思う.平成11年1月11日に起こったあの「患者取り違え事件」を大きな契機として,最近の医療は安全性,信頼性の確立,効率性の追求をはじめ,医療のあらゆる領域に例外なく幾多の外因・内因が働き,有無を言わせない変革の波が押し寄せている.これまで脳神経外科医としての専門知識や技術を発揮することで社会的にプロとして通用してきたが,最近ではそれのみでは単なる「匠」の世界にとどまってしまうようになった.社会の動静を見据えなければもっと大きな問題を見逃してしまうような事態が数多く出現するようになってきた.
 筆者の勤務する大学病院は昭和46年に開設以来,「患者中心の医療」を基本理念として掲げ,安全で信頼される患者本位の医療の提供を目標としてきた.本年4月に開催された21世紀最初の日本医学会総会での特別シンポジウム「日本の医療の将来」でも,今後「患者中心の医療」の展開が主要なテーマとして取り上げられた.「患者中心の医療」の定義は時代とともに変遷があり,個人個人の考えもかなり千差万別と思われるが,少なくとも昔の「赤ひげ」時代のパターナリズムのように“すべて私に任せなさい”式では問題は解決しなくなってきた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

聴神経鞘腫の手術

著者: 田中雄一郎 ,   本郷一博 ,   小林茂昭

ページ範囲:P.1061 - P.1070

Ⅰ.はじめに
 聴神経鞘腫すなわちvestibular schwmannomaの治療において,脳神経外科医に求められる役割は時代とともに変遷してきた.CT以前の時代は,生命にかかわる合併症を出さずに腫瘍を摘出することが求められた.CT時代では顔面神経機能の温存が目標になった.MRIの時代になり小腫瘍診断の機会が増え聴力温存が関心の対象になった.さらに近年定位的照射療法(ガンマナイフ)が普及し,外科的治療の新たな位置付けが模索されている.このような聴神経鞘腫の治療を取り巻く状況の推移を踏まえ,本稿ではわれわれが行っているlateral suboccipital approach1,2,6,9,10,12)について解剖学的視点から手術手技の要点を概説する.

研究

乳幼児もやもや病の臨床像

著者: 黒田敏 ,   難波理奈 ,   石川達哉 ,   宝金清博 ,   上山博康 ,   岩崎喜信

ページ範囲:P.1073 - P.1078

Ⅰ.はじめに
 もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)は,両側内頸動脈終末部に進行性の狭窄が生じるために,大脳基底核などに拡張した血管陰影が側副血行路として出現する特異な疾患である14).約半数を占める小児例では,一過性脳虚血発作(TIA)あるいは脳梗塞で発症することが多い.脳血行再建術は,現在,脳虚血発作の再発を予防するうえで最も有効な治療として認められているが,脳梗塞に伴う運動機能や知能予後の悪化を防ぐためには,早期の診断・治療が重要とされている1,3,6,8,9,10)
 これまでも経験的に,乳幼児期に発症した場合,学童期に発症した場合よりも機能予後が不良であることは知られていたが,その臨床像を詳細に解析した報告は少ない3,8,10).今回,われわれは,就学以前に発症した乳幼児もやもや病の臨床像を,就学以降に発症した学童もやもや病のそれと比較したので報告する.

イオンビーム照射によるePTFE人工硬膜の改良

著者: 高橋範吉 ,   氏家弘 ,   鈴木嘉昭 ,   岩木正哉 ,   堀智勝

ページ範囲:P.1081 - P.1088

Ⅰ.はじめに
 脳外科手術の際,代用硬膜として凍結乾燥ヒト硬膜が盛んに用いられていたが,クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の感染源となる危険性があった.1987年,脳外科手術時に使用した凍結乾燥ヒト硬膜によるCJD発症例が初めて報告され19,27),日本でも凍結乾燥ヒト硬膜によるCJD発症例が相次いだ.日本では1997年に使用が禁止され,この時点の調査では国内の凍結乾燥ヒト硬膜によるCJD感染例は43例に達した7).現在,代用硬膜としてexpanded polytetrafluoroethylene(ePTFE)が広く使用されている29).ePTFEはpolytetra—fluoroethylene(PTFE)を延伸加工したもので,その分子構造はフッ素原子が炭素原子鎖を均一に覆って保護する形になっているため,ポリエチレン,ポリプロピレン,ホリスチレン等と違い,生体内で化学的に非常に安定であり,また組織との反応性が極めて低い.そのため,人工血管9,20),人工心膜1),人工腹膜13),歯周組織再生誘導法における遮蔽膜5)等,生体材料として広く使用されている.

症例

小脳・視床梗塞を併発した特発性椎骨動脈解離の1治療例

著者: 市橋鋭一 ,   松下康弘 ,   辻有紀子 ,   原野秀之 ,   中川洋

ページ範囲:P.1091 - P.1096

Ⅰ.はじめに
 今回われわれは,何の誘因もなく椎骨動脈の解離閉塞を来し,再開通による多発脳梗塞を併発した症例を経験した.さらに,この特発性椎骨動脈解離に対してステント留置による血行再建術を経験したので,報告する.

破裂中大脳動脈瘤と前頭蓋窩硬膜動静脈瘻の合併した1例

著者: 堀江政宏 ,   山下圭一 ,   吉田利彦 ,   谷浦晴二郎 ,   紙谷秀規 ,   横田正幸 ,   渡辺高志

ページ範囲:P.1099 - P.1103

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤と脳動静脈奇形の合併する頻度は5〜10%といわれている17).また脳動脈瘤と硬膜動静脈瘻の合併した報告例は,過去に10例あり3,6,8,9,12,15,17),そのうち5例が前頭蓋窩硬膜動静脈瘻との合併例である6,9,15,17)今回われわれは,破裂中大脳動脈瘤に偶然合併したと考えられる前頭蓋窩硬膜動静脈瘻の症例を経験し,2期的に手術を行ったので,文献的考察を加えて報告する.

人工血管を用いて総頸動脈血行再建術を行った甲状腺癌の1例

著者: 占部善清 ,   加藤祥一 ,   藤井正美 ,   秋村龍夫 ,   梶原浩司 ,   藤澤博亮 ,   北原哲博 ,   鈴木倫保 ,   堀池修 ,   今手祐二

ページ範囲:P.1105 - P.1109

Ⅰ.はじめに
 脳神経外科領域では頸部の頸動脈狭窄症に対して内膜剥離術が一般的に施行されるが,人工血管を用いた血行再建術は少ない.甲状腺腫瘍の治療では,腫瘍の全摘出術が必要とされる.特に悪性腫瘍の場合は,頸動脈へも浸潤し,腫瘍摘出術に際して,頸動脈より腫瘍が剥離できない場合がある.今回われわれは,総頸動脈に浸潤した甲状腺癌の摘出術において総頸動脈の合併切除を行い,ePTFE(expanded polytctrafluoroethylene)を用いて総頸動脈再建術を行って,全摘出術を施行した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

C5/6頸椎症による頭蓋外椎骨動脈狭窄由来に塞栓性梗塞を来した1症例:発生機序と治療法について

著者: 山口真太朗 ,   坂田清彦 ,   中山顕児 ,   重森稔

ページ範囲:P.1111 - P.1116

Ⅰ.はじめに
 今回,頸椎症による骨棘が原因で椎骨動脈sec-ond segmentの高度狭窄を来し,塞栓性機序で下位脳幹および小脳梗塞を生じWallenberg syn-dromeで発症した症例を経験した.頸椎症による椎骨動脈狭窄から塞栓性機序で脳虚血発作を来した症例の明確な報告はわれわれが渉猟しえた範囲では非常に少なく11),その病態,外科的治療法について具体的に言及した報告は見当たらない.そこで症例を呈示し,これらの病態および外科的治療法について文献的考察も加えて報告する.

Myelopathyで発症した特発性内頸動脈海綿静脈洞瘻の1例

著者: 大西宏之 ,   出口潤 ,   山田誠 ,   黒岩敏彦

ページ範囲:P.1119 - P.1123

Ⅰ.はじめに
 Myelopathyの原因としては脊椎・脊髄腫瘍や変性疾患が多く,頭蓋内に生じた硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:DAVF)がmyelopathyを示すことは稀で9),海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻が脊髄症状を示した例はわれわれが調べ得た範囲では1例14)を認めるのみである.今回われわれは,myelopathyで発症した特発性内頸動脈海綿静脈洞瘻の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

How I Do It・6

症例:失調を来した巨大錐体・斜台部髄膜腫の1例

著者: 大畑建治 ,   齋藤清 ,   ,   森田明夫 ,   桐野高明

ページ範囲:P.1125 - P.1137

症例提示
 症例は右利きの54歳女性である.構語障害,左下肢失調による歩行困難を主,訴に来院した,1998年に構語障害が出現し近医に受診,MRIを施行したところ左頭蓋底髄膜腫を疑われ経過を観察していた.2002年夏頃より構語障害悪化,ふらつきによる歩行障害が出現,坂道や歩道などでよく転ぶことが多くなった.MRI上,腫瘤は増大傾向が認められたため手術を勧められ,当科を紹介され入院となった.既往歴として高血圧,高脂血症があり6〜7年前に指摘され,内科的治療を受けていた.家族歴は特記すべきことはない.
 現症として意識は清明,高次機能はMMSE等正常であった.脳神経の所見として視野・視力,嗅覚に問題なく,動眼,滑車,外転神経は正常だが側方視にて左方向に強いBruns nystagmusを認めた.三叉神経は正常で角膜反射も正常であった.顔面神経は正常,明らかな聴力低下はなく,純音聴覚は左右とも20dB程度(高音域は難聴),SDSは右は異常なく,左はやや低下(75%)していた.ABRは右正常,左は無反応であった.カロリックテストではCPは認められなかった.下位脳神経はカーテン兆候陰性,咽頭反射両側低下していた.舌の運動に異常はなかった.握力は右16kg,左6kgとやや低値を示したが明らかな四肢の運動麻痺・感覚異常は認めなかった.腱反射は両上下肢で亢進していたがBabinski反射は陰性であった.小脳機能にて指鼻試験,ひざかかと試験は左で拙劣であった.

連載 脳外科医に必要な臨床神経生理の基礎・4

NIRSトポグラフィーによる脳機能イメージング

著者: 酒谷薫 ,   片山容一

ページ範囲:P.1139 - P.1146

Ⅰ.はじめに
 近年,生体透過性に優れた近赤外光を用いて,脳酸素代謝や脳循環を計測する「近赤外分光法」(near infrared spectroscopy;NIRS)が急速に進歩してきた.NIRSは脳虚血や低酸素による脳酸素代謝変化をモニタリングすることを目的に開発されたが,神経活動に伴う酸素代謝変化(二次信号)を測定できることが明らかとなり,脳機能研究の分野でも幅広く応用されるようになった4,6,8).さらにマルチ・チャンネル化することにより2次元的マッピングを可能としたNIRSトポグラフィーが開発され11),脳機能の新しいイメージング法として注目を集めている.
 現在,脳機能イメージングの分野では機能的MRI(functional MRI;fMRI)が主流となっているが,NIRSトポグラフィーはダイナミックに変化する脳機能を経時的に捉えることができ,またfMRIでは困難なベッドサイドでの測定や運動中の計測も可能である.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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