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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科31巻11号

2003年11月発行

雑誌目次

著者: 鮫島寛次

ページ範囲:P.1161 - P.1162

 今年の東日本医科学生総合体育大会は山梨大学脳神経外科の貫井英明教授を大会長として行われた.参加種目,選手数が国体並みとかで例年4校に競技種目が振り分けられ運営されている.筆者が部長を務めるバスケットボール部も主管をおおせつかった.その時,ある学校が他学部選手を登録し試合していた.ご丁寧にも写真入身分証明書を偽造していたのである.当初,否定していた責任者も「医師免許を偽造して医者をやるつもりかい」の一言で事実を認めた.普段一緒に練習しているのでつい試合に出したとのことであった.なんでそれで偽造までするの.医学生の常識はこんなものかと青くなった.
 医療問題検討委員会のメンバーをおおせつかっている.これは数年前より脳神経外科の医療紛争が急増していることに驚き,なんらかの警鐘を鳴らさねばといくつかの学会のシンポ,パネルで報告したことに起因している.医療の質の向上のため,医療の技術,新しい手術方法,テクノロジーを追求することは医師の努めである.しかし,患えるものの視点で考え,事故や医事紛争を予防することも,医療の質を向上させる大きな柱と考え,あえて学会に発表した.判例の多くに医師個人の栄誉,医師の身勝手で命をなくすものがある.反論で自分を正当化する論点は,身分証の偽造に共通している.

総説

経蝶形骨下垂体手術の合併症

著者: 寺本明

ページ範囲:P.1165 - P.1176

Ⅰ.はじめに
 トルコ鞍部腫瘍あるいは腫瘍様病変に対する経蝶形骨手術(transsphenoidal surgery以下TSSと略)は一般に低侵襲な手技,すなわち安全な手術とされている,しかしながら,時代や施設,術者や手技によって差はあるものの,後述するように主な合併症が4.8〜10数%に,また手術死亡が0.6〜0.9%にみられている.全くの偶発的なものは別として,これらの合併症の主な理由は以下のごとくである.(1)基本的にTSSは狭く深い術野であること.(2)したがって鞍外(特に鞍上部)に大きく進展している病変は十分に摘出できないこと.(3)上方には視神経や視床下部があること.(4)側方には内頸動脈があり,時に術野に近接した走行をすること.(5)病変の摘除に際して頭蓋内外が交通する可能性があること.
 筆者は本手術法の専門家として,医師や患者から様々な合併症の相談を受けたり,裁判の鑑定を行ってきた.もちろん,筆者自身も主な合併症の多くを自ら体験した.本稿ではTSSの主な合併症に関して,自験例と文献例からそれらの頻度,原因および対策について論じたい.

研究

脊髄神経刺激装置を利用した横隔膜ペーシングの試み

著者: 光山哲滝 ,   平孝臣 ,   及川明博 ,   武田直人 ,   松本有紀子 ,   原島志保 ,   堀智勝

ページ範囲:P.1179 - P.1183

Ⅰ.はじめに
 脳幹損傷や上位頸髄損傷による中枢性呼吸不全は重大な医学的かつ社会的な問題のひとつである.これらの患者には人工呼吸器による持続陽圧呼吸管理が必要であるが,非生理的な陽圧呼吸であり,感染を引き起こしやすく,患者に臥床状態を余儀なくさせる.横隔神経を電気刺激し横隔膜を収縮させることにより生理的な陰圧呼吸を可能にする横隔膜ペーシング法が,このような患者に対し非常に有用であることは欧米では周知の事実で古くから行われてきた1-5).多くの場合Avery社(Avery Laboratories, Inc.,Commack, NY)製の横隔膜ペーシング装置が植え込まれるが,この装置は本邦では医療器具の承認を受けておらず,入手困難である.そこで,疼痛などの治療に用いられる脊髄神経刺激装置を横隔膜ペーシング装置の代わりに植え込み呼吸管理を試みたので,その有用性について文献的考察を加えて報告する.

症例

変性が強く特徴的な幼弱グリアを伴った偽乳頭構造からなるPapillary Glioneuronal Tumorの1例

著者: 江波戸通昌 ,   角田朗 ,   丸木親 ,   池谷不律 ,   岡田基

ページ範囲:P.1185 - P.1190

Ⅰ.はじめに
 従来のneuronal and mixed glioneuronal tumorの分類に収まらない腫瘍が報告されてきている10).Papillary glioneuronal tumor(PGNT)は,1998年にKomoriらが9例の自験例を提示して,特有のヒアリン化し肥厚した血管とそれを取り囲む一層のastrocytic cellが偽乳頭(pseudopapillary)構造を形成し,この構造の間隙には種々の神経系への分化を示す腫瘍細胞が介在するといった多彩な病理像を示す,新たなneuronai and mixed gliolleu—ronal tumorの範疇に属する腫瘍と定義した6).その後3例の報告例が続いたが,WHO分類にはまだ採用されていない3,4,7,8).われわれは29歳女性のPGNTを経験した.特徴的なものとして,偽乳頭構造の血管の内腔がほとんど閉塞するような強い変性とそれを被覆する紡錘形星細胞と周囲に幼弱なグリア系と推定される細胞を伴っていた.

ラトケ嚢胞に伴う下垂体柄部肉芽腫性病変の1手術例

著者: 小守林靖一 ,   荒井啓史 ,   久保慶高 ,   別府高明 ,   小笠原邦昭 ,   菅井有 ,   中村眞一 ,   小川彰

ページ範囲:P.1193 - P.1196

Ⅰ.はじめに
 ラトケ嚢胞(Rathke's cleft cysts, RCCs)は,胎生期のラトケ嚢(Rathke's pouch)の遺残より発生すると考えられている10,12).組織学的には,しばしば線毛および杯細胞を有する立方または円柱上皮で覆われた非腫瘍性の鞍内嚢胞であり,嚢胞内容液は一般に漿液ないし粘液様である.剖検例では無症候性のRCCsが11〜22%の頻度で認められる10,12)が,近年のMRIをはじめとした画像診断技術の進歩に伴い,無症候性嚢胞が発見される機会も増加している.嚢胞の大きさは最大のものでも7mmを超えるもの,症状を誘発するものは稀とされている12)
 今回われわれは,尿崩症で発症し,下垂体柄部に限局するRCCsに伴う肉芽腫性病変を組織学的に確認したので報告する.

頭蓋内および脊柱管内に多発性病変を呈したRosai-Dorfman diseaseの1例

著者: 佐藤篤 ,   櫻田香 ,   園田順彦 ,   斎藤伸二郎 ,   嘉山孝正 ,   城倉英史 ,   吉本高志 ,   中里洋一

ページ範囲:P.1199 - P.1204

Ⅰ.はじめに
 Rosai-Dorfman disease(以下RDD)は1969年にRosaiとDorfman8)によりsinushistiocytosis withmassive lymphadenopathyとして報告された.臨床症状は無痛性両側頸部リンパ節腫脹,発熱,赤沈亢進などを特徴とし,病理所見は成熟した組織球,リンパ球および形質細胞の増殖とリンパ球を貧食した組織球(emperipolesis)を認めるリンパ節の肉芽腫性病変である.節外病変として上気道,副鼻腔,皮膚などにも発生するが,中枢神経系の病変は稀である.今回われわれは,頭蓋内と脊柱管内に多発性の病変を認めたRDDの稀な1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

神経内視鏡手術が有効であったラトケ嚢胞の1例—鞍上部嚢胞性病変に対する経脳室アプローチ

著者: 中原由紀子 ,   前田健二 ,   古賀壽男 ,   田渕和雄

ページ範囲:P.1207 - P.1212

Ⅰ.はじめに
 近年,神経内視鏡は脳神経外科領域で広く応用されてきており,手術支援機器のみならず,その低侵襲性から治療手段としての使用が増加してきている9,13,15),脳腫瘍に対しては,脳室内に存在し嚢胞性であるものが神経内視鏡手術のよい適応とされている5,6,8,9,11).今回,われわれはラトケ嚢胞の1例に対し神経内視鏡を用い,側脳室および第三脳室経由にて嚢胞開放および被膜の部分切除術を行い,良好な結果を得たので報告する.

孔脳症を伴い,鑑別診断に難渋した類皮腫の1例

著者: 多田恵曜 ,   関貫聖二 ,   桑山一行 ,   神山悠男

ページ範囲:P.1215 - P.1220

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内類皮腫は全脳腫瘍の0.1〜0.3%と非常に稀であり,嚢胞壁と嚢胞内容からなる先天性腫瘍である.通常,本腫瘍はCT上著明な低吸収域を示し,造影剤による造影効果はみられないとされており,類皮腫に合併する奇形としても先天性皮膚洞3),二分脊椎6),Klippel-Feil症候群10)などが多いとされている.本症例のように.単純CTで高吸収域を呈し,孔脳症を合併した報告例は比較的稀と考えられ,若干の文献的考察を加え報告する.

多数の微小点状脳出血を認めた原発性アルドステロン症の1例

著者: 宮田圭 ,   今泉俊雄 ,   堀田祥史 ,   橋本祐治 ,   丹野克俊 ,   小出明知 ,   丹羽潤

ページ範囲:P.1223 - P.1227

Ⅰ.はじめに
 MRIの撮像方法の中でヘモジデリンの検出に優れているT2強調画像で1,2,8,9,12)認められる点状の低信号域は,microangiopathy(lipohyalinosis,amyloid angiopathyなど)に罹患した血管周囲の過去の微小出血(dot-like hemosiderin spot=dotHS)だと報告されている1,4,5,12,13).穿通枝動脈や小動脈の高血圧性変化によるlipohyalinosisがsmallvessel disease(高血圧性脳出血,ラクナ脳梗塞)の原因といわれており,さらにlipohyalinosisがdotHSの原因の一つであると報告されている1,4,12,13).dotHSが多いラクナ梗塞例では,脳出血合併例が多く7),また,dotHSが認められる症例では脳梗塞急性期に脳出血合併が多く11,16),dotHSは脳血管の脆弱性を表し,さらにdotHSの数は間接的にmicroangiopathyの重篤度(特に脳出血との関連)を表す可能性がある7)
 原発性アルドステロン症(primary aldosteronism=PA)は,副腎腫瘍などで起こるアルドステロン過剰状態による二次性高血圧症の一病型である10,14,15,17,19)

Lymphocytic infundibuloneurohypophysitisの2例

著者: 寺尾亨 ,   田屋圭介 ,   沢内聡 ,   中崎浩道 ,   沼本ロバート 知彦 ,   山口由太郎 ,   村上成之 ,   阿部俊昭 ,   橋本卓雄

ページ範囲:P.1229 - P.1235

Ⅰ.はじめに
 下垂体後葉から下垂体茎にかけての慢性炎症性疾患,lymphocytic infundubuloneurohypophysitis:LIHが近年報告されるようになり1,7,11),特発性尿崩症を呈する疾患の中に本病態が潜在している可能性が示唆されている.今回われわれは,尿崩症で発症しMRIで特徴的な所見を認めたLIHと考えられた2症例を経験した.同症例を報告すると同時に,1989年以降に報告された51例を検討したためその臨床症状,画像所見および組織確認の必要性につき考察する.

連載 脳外科医に必要な臨床神経生理の基礎・5

てんかんの発作間けつ時異常波

著者: 渡辺裕貴

ページ範囲:P.1238 - P.1246

Ⅰ.はじめに
 てんかんの治療は,一般的には薬物治療が基本であるが,難治な症例では手術的な治療も行われる.どのような治療法を選択するにしても,まず診断を正確に行うことが前提となる.てんかんの診断は,1)発作症状の聴取,2)脳波などの電気生理学的検査,3)画像検査,を総合して行うのが基本であるが5),発作モニタリングについては次回に取り上げられる予定であるので,ここでは発作間欠時のてんかんの電気生理学的検査,すなわち頭皮脳波,頭蓋内脳波,脳磁図について述べる.

医療経済

特定機能病院における入院医療の包括評価(Diagnosis Procedure Combination:DPC)の概要について(第4報)—「脳腫瘍」における医療行為別の包括評価点数比較

著者: 安達直人

ページ範囲:P.1250 - P.1253

1.はじめに
 第1報から第3報では,特定機能病院における入院医療の包括評価における概要,診断群分類の決定方法,包括評価点数の算定方法について述べた.本報からは同一診断疾患(脳腫瘍,くも膜下出血,未破裂脳動脈瘤,非外傷性頭蓋内出血,脳梗塞等)における医療行為別の包括点数の比較を示す.包括評価点数の算定方法をもとに実際の請求点数を算出し,治療や処置を含めた医療資源の使い方によって具体的に何点異なってくるのかを示す.従前の出来高請求の際と比べて,いかにコスト意識を高めていかなければならないかを認識していただければと思う.
 まず今回は「脳腫瘍」を例にして医療行為の違いにより,診断群がどのように振り分けられ,さらにどれだけ請求点数が異なってくるか比較検討する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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