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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科31巻12号

2003年12月発行

雑誌目次

信・認・任

著者: 甲村英二

ページ範囲:P.1265 - P.1266

 夏は暑く秋は涼しくなるのが世の常であるが,筆者の居住している関西では,例年になく涼しい夏を過ごしたかと思うと,9月になると一転して厳しい残暑の日が続き,10月に入れば例年を下回る気温である.様々な過去のデータを分析して天気予報が出されているにもかかわらず,異常な気象に天気予報の的中率が下がり苦情が多く寄せられたそうだ.野球の世界では,18年ぶりにリーグ優勝を決めた球団で関西,いや全国的に大きな経済効果が出ると予測されている.シーズン開幕前にファンは毎年優勝を期待しているが,どのくらい多くの解説者がこの球団の優勝を予測していただろうか.豊富なデータをもってしても成り行きや未来を正確に予測することは容易ではない.タイムマシンに乗って未来を覗くことができれば百発百中のはずだが,どうであろうか.
 毎年新人が研修のスタートを切るが,彼らの将来を予測できるかと問われれば,目標は立ててもどのような医師になるかを予測することは不可能であると答える.若手医師の指導教育は新米教授の筆者にとって,悩み事でもあり,また楽しみでもある.外科系の伝統である徒弟制度もon the job trainingという意味では悪くはないが,全員に押しつけることには問題がある.時代錯誤と批判され,落ちこぼれが続出する恐れがある.旧来にも増して適切な指導を行い各個人の能力を高めて,チーム,組織としての能力を向上させる必要がある.

総説

「異所性」下垂体腺腫の起源

著者: 堀映 ,   松村明

ページ範囲:P.1269 - P.1281

Ⅰ.はじめに
 異所性下垂体腺腫に関して,脳神経外科領域では,頭蓋内外にみられるいずれのものをもひとまとめにしている一方で「異所性」の定義を細かく論議するむきもあるが,後の討論で明らかにするごとく,解剖学的には定義に関する細かい理屈は意味がないと思われ,ここでは仮に,下垂体のpars distalis以外に発生するものをすべて異所性として扱う.臨床診断学に重点をおいてTamakiら82)は,腫瘍がトルコ鞍外に局在すること,トルコ鞍内腺下垂体(pars distalis)が正常であることの証左に加えて術後の正常な内分泌機能の証明を異所性下垂体腺腫診断の条件にしているのは合理的と思われる.ただこの場合には,一般にはほとんど知られていない,下垂体後葉内に発生するものなど,トルコ鞍内のものが除外されてしまう.
 異所性下垂体腫瘍の発生母地を考える前提は,解剖学的根拠からこれを頭蓋外のものと頭蓋内のものとを明確に区別することであり,本論文ではいわゆる異所性下垂体腺腫を解剖学的局在から仮に次のように分けて項目別に述べる.

研究

悪性神経膠腫に対する維持化学療法効果判定におけるタリウムSPECTの役割

著者: 長島梧郎 ,   藤本司 ,   鈴木龍太 ,   浅井潤一郎 ,   張智為

ページ範囲:P.1283 - P.1289

Ⅰ.はじめに
 可及的腫瘍摘出後の放射線療法および化学療法は,悪牲神経膠腫に対する標準的な治療である.しかしその効果は限定的であり,これまでに大きな治療成績の向上は得られていない.最近,悪性神経膠腫に対する維持化学療法の導入とともに,その生存期間にある程度の改善は認められるようになってきた8).しかし維持化学療法の方法や施行期間,中止時期などに対しての目安はないのが現状である.
 タリウム201は様々な腫瘍に対する放射性トレーサーとして知られており,AncriらやKaplanらは集積率が腫瘍の病理診断と相関することを報告している1,2).Mountsらはタリウム201 SPECT(single photon emission computed tomography)が星細胞腫の術後残存腫瘍の評価に有用であることを報告しており,またSchwartsらは腫瘍再発と放射線壊死との鑑別に有用であることを報告している3,6)

成人無症候性もやもや病の臨床像と予後

著者: 難波理奈 ,   黒田敏 ,   竹田誠 ,   七戸秀夫 ,   中山若樹 ,   石川達哉 ,   宝金清博 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.1291 - P.1295

Ⅰ.はじめに
 もやもや病は両側内頸動脈終末部を中心に狭窄が生じ,拡張したレンズ核線状体動脈などが異常な血管網として検出される特異な疾患であり,その疾患概念が確立してから30年以上が経過している15).最近のMRIやMRAなど診断技術の進歩により,偶然,これまで無症候であったもやもや病が発見される機会が増加しているといわれている.現時点では,無症候型もやもや病の臨床像や治療,予後について検討した報告は全くなく,その治療方針に関する具体的な指針もないのが現状である.しかし,診断技術の発達に伴って,今後もこのような症例は明らかに増加すると考えられ,それぞれの医療機関において適切な診断や治療がなされるように,現時点から活発に議論されるべき問題であると,われわれは考えている.そこで,今回,われわれは,これまでに経験した成人無症候性もやもや病10症例の臨床像や予後を検討したので報告する.

症例

排便時,突然の完全対麻痺で発症した胸椎椎間板ヘルニアの1症例

著者: 矢野俊介 ,   飛騨一利 ,   関俊隆 ,   岩﨑喜信 ,   秋野実 ,   齋藤久壽

ページ範囲:P.1297 - P.1301

Ⅰ.はじめに
 胸椎椎間板ヘルニアは頸椎,腰椎の椎間板ヘルニアと比べると発症頻度は低い.頸椎,腰椎と同様に,徐々に症状が進行することが多いが,稀に突然発症を来すことがある.椎間板ヘルニアによる脊髄症状の発症機序については,一般的には突出した椎間板ヘルニアによる機械的圧迫が関与していると考えられているが,循環障害の関与も示唆されている3-5,11-13).われわれは発症機序として循環障害の関与が疑われた非外傷性胸椎椎間板ヘルニアの1症例を経験したので,その症状発症の機序を中心に考察を加え報告する.

潜在性多発性骨髄腫に合併した脳膿瘍の1例

著者: 西本武史 ,   門田秀二 ,   渡辺憲治

ページ範囲:P.1303 - P.1307

Ⅰ.はじめに
 脳膿瘍は予後が悪く,後手にまわらないように抗生剤加療・膿瘍吸引・開頭手術などの積極的加療を要する.そのため,脳膿瘍の早期診断はもちろん,その菌体の早期確認や原疾患の早期発見も非常に重要である.今回われわれは壮年者脳膿瘍の術後に多発性骨髄腫と診断された1例を経験したので若干の文献的考察を加え,免疫低下患者における脳膿瘍と今回検出された特異な菌体について報告する.

急性発症し脳ヘルニアを来した異型髄膜腫の1例

著者: 林健太郎 ,   高畠英昭 ,   中村稔 ,   岩崎啓介

ページ範囲:P.1309 - P.1313

Ⅰ.はじめに
 脳腫瘍は,一般に徐々に進行する神経脱落症状または頭蓋内圧亢進症状で発症することが多い9).今回われわれは,急性に頭痛・発熱にて発症し脳ヘルニアを来した異型髄膜腫の1例を経験した.症例を報告し,画像所見および手術所見などから急性発症の病態を考察する.

ステント留置術により血行動態が著明に改善した高度内頸動脈狭窄症の1例—hyperperfusionの予防と対策の重要性について

著者: 柏崎大奈 ,   黒田敏 ,   牛越聡 ,   七戸秀夫 ,   石川達哉 ,   浅野剛 ,   志賀哲 ,   玉木長良 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.1315 - P.1320

Ⅰ.はじめに
 近年,頸動脈狭窄症に対してステント留置術(stenting)が頸動脈内膜剥離術(CEA)に並び行われるようになった.CEA, stentingの効果の優劣や選択基準は,まだ明らかではないが,合併症を伴ったhigh riskの症例の場合にはstentingを行うことが多くなっている4).しかし,stentingもCEAに比し安全な手技とはいえず,塞栓症や過灌流症候群(hyperperfusion)により,重篤な神経症状を後遺することも報告されており,適応の決定や周術期の管理に注意を要する点では,CEAと変わらないと指摘されている.
 今回,われわれは,高齢で高度の脳血行不全,狭心症などの全身合併症を伴った高度内頸動脈狭窄を有する症例に対してstentingを施行し,術中,術後の検査でhyperperfusionが検出されたが,対症療法により合併症が生じず,血行動態も著明に改善した症例を経験したので報告する.

塞栓部位の決定に際しIntravascular Ultrasoundが有用であった硬膜動静脈瘻の1例

著者: 新堂敦 ,   川西正彦 ,   政田哲也 ,   河井信行 ,   田宮隆 ,   長尾省吾

ページ範囲:P.1323 - P.1329

Ⅰ.はじめに
 Intravascular ultrasound(IVUS)は,挿入した血管およびその周囲の状態を観察でき,頸動脈ステント留置術等の血管内手術時の支援装置として有用である5,7).横・S状静脈洞部硬膜動静脈瘻(transverse-sigmoid sinus dural arteriovenous fis-tula:TS-SS DAVF)は,症例によっては血管内手術により経静脈的にアプローチし,動静脈シャントが存在する静脈洞そのものをpackingすることにより根治可能なものもある2,6,8).しかし,不適切なpackingではシャントが残存したり,逆行性脳表静脈流出路(retrograde leptomeningeal ve-nous drainage:RLVD))の血流がかえって増加して頭蓋内出血を起こす危険性があるため,pack-ingする範囲は的確に決定すべきである2,6,8).今回われわれは,TS-SS DAVFの塞栓術に際しIVUSによる病変部の観察を行い,静脈洞をpack-ingする範囲を決定する際に非常に有用であった症例を経験したため報告する.

連載 脳外科医に必要な臨床神経生理の基礎・5

てんかんの発作モニタリング

著者: 亀山茂樹

ページ範囲:P.1333 - P.1342

Ⅰ.はじめに
 近年のてんかんの外科治療の確立には,高磁場MRI(magnetic resonance imaging)などの普及や頭蓋内脳波記録によるてんかん焦点の診断精度の向上が寄与するところが大きい.MRIや脳磁図(magnetoencephalography:MEG)などによるてんかん診断は主として発作間けつ時の静的解析であり,それに比べ,てんかんの発作時モニタリングは発作時の動的解析のため,てんかん原性領域の局在診断には欠かせない.特に手術成績を向上させるには発作時モニタリングの解析精度を高めることが必要である.したがって時間的空間的分解能の高いモニタリングを選択することが重要であり,それが最も高いものは硬膜下記録で,次はMEGである.ただし,硬膜下記録は全脳をカバーできないため何をガイドにどの範囲に電極留置するかが大きな問題になる.MEGがそのガイドとして注目されつつあり,今後の課題として,MEGの発作間けつ時解析が硬膜下記録の発作時モニタリングとどの程度の一致率(精度)があるのかを見極める必要がある.
 本稿では,蝶形骨誘導脳波,硬膜下記録,MEGによるてんかん発作モニタリングについて論ずるつもりである.特に重要な慢性硬膜下記録による発作時脳波モニタリングの方法と実際について詳しく述べる.2000年4月から頭蓋内電極と頭蓋内電極留置術の保険適用が認められ,慢性硬膜下記録が普及しつつある.

定位脳手術入門・1【新連載】

定位脳手術概要

著者: 板倉徹 ,   田中賢 ,   西林宏起 ,   小倉光博

ページ範囲:P.1344 - P.1352

Ⅰ.はじめに
 定位脳手術は脳の特定部位に正確に到達する方法として古くから行われてきた.この手法は当初,動物実験に用いられていたが,その後,ヒト神経疾患に応用されるようになった.対象となった神経疾患はパーキンソン病や各種不随意運動であるが,その後,高血圧性脳出血や脳腫瘍にもその手技は応用され,脳神経外科医にとって必須の手術手技となっている.このうちパーキンソン病や不随意運動に対する手術は,機能的定位脳手術(functional stereotaxy)と呼ばれ,高度な手技が要求されてきた.この機能的定位脳手術は定位的脳破壊手術や脳深部慢性電気刺激のための手技として発展したが,今後,細胞移植や神経栄養因子の局所投与の手段としても重要なものになるであろう.
 本連載ではこれから定位脳手術を開始しようとする若手脳神経外科医にとってその入門となるよう,また,既に定位脳手術を始めておられる方にはその手技の確認と知識の整理に役立てていただけるよう企画したものである.正しい知識と正確な手技の習得こそが本分野の発展には欠かせないものである.

医療経済

特定機能病院における入院医療の包括評価(Diagnosis Procedure Combination:DPC)の概要について(第5報)—「くも膜下出血・破裂脳動脈瘤」における医療行為別の包括評価点数比較

著者: 安達直人

ページ範囲:P.1356 - P.1359

 第1報から第3報では,特定機能病院における入院医療の包括評価における概要,診断群分類の決定方法,包括評価点数の算定方法のそれぞれについて述べ,第4報では「脳腫瘍」の診断群分類における医療行為別の包括点数の比較を示した.
 本編では「くも膜下出血・破裂脳動脈瘤」を例にして医療行為の違いにより,診断群がどのように振り分けられ,さらにどれだけ請求点数が異なってくるか比較検討する.従前の出来高請求方式と異なり,包括評価ではいかにコスト意識を持たなければならないかを認識していただければと思う.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第31巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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