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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科31巻2号

2003年02月発行

雑誌目次

下垂体との出会い

著者: 阿部琢巳

ページ範囲:P.123 - P.124

 いつもこの扉を楽しく拝見させて頂いている.日本の名だたる脳神経外科の先生方が,さまざまなテーマを取り上げて卓越した文章で執筆されている.不思議と脳神経外科医としての専門分野のことを書かれる先生方が少ないのには驚いている.皆さん,いろんなことをよくご存知だなあ,難しい文章をお書きになるなあなどと感心したりもしている.しかし,いざ,自分がこの扉に執筆依頼を頂いてからは何を書いたら良いのかさんざん迷い,よっぽど医学論文を書くほうが楽だなあ,と思ったりした.そこで,まだまだ人生経験が少ない私にとって,素晴らしく気の利いた文章など始めから書けるはずもないので,自分の得意とする“下垂体”というテーマで執筆することが最も無難であると思った次第である.前置きが長くなってしまったが,そのような理由から私が今まで経験してきたことを書き連ねてみることにした.
 私は,1985年に母校の昭和大学医学部を卒業後,その当時,大外科制度をとっていた外科学教室に入局した.一般外科,胸部外科,小児外科,麻酔科などを研修した後,脳神経外科学を専攻した.月並みではあるが,脳神経外科を志したのは,何と言っても手術用顕微鏡を用いた数ミリを争うその繊細な手術に魅せられたからである.こんな手術,本当に自分にできるようになるであろうか,という不安に苛まれながらの選択であった.

総説

前頭蓋底髄膜腫に対する頭蓋底手術

著者: 原岡襄 ,   秋元治朗

ページ範囲:P.127 - P.139

Ⅰ.はじめに
 髄膜腫の治療においては常に全摘出が理想である.もちろんその発生部位や大きさ,周囲脳への影響,さらには症例の全身状態などを鑑みて,あえて無理な全摘出を慎む場合もあるが,本病態が腫瘍という新生物である以上,外科医は全摘出にこだわるべきと考える.しかし,髄膜腫における全摘出とは当然その付着部位である髄膜(正確にはくも膜表層細胞と硬膜)の摘出を含むわけで,同部の処理の難易度が腫瘍全摘出の可否を左右する重要なポイントである.穹隆部や大脳鎌発生例では,その付着部位の摘出は比較的容易であるが,傍矢状洞,海綿静脈洞などの静脈洞壁がその付着部となっている症例においては当然ながら限界がある.また,多くの頭蓋底発生例においても,旧来の経頭蓋的手術アプローチではその付着部位の摘出には多くの困難を伴った.全摘出への挑戦の結果が腫瘍残存のみならず,周囲脳,脳神経,血管群への過度の侵襲となり,術後の画像や臨床像に如実に現れ,執刀医はその無力感に苛まれた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

内側部側頭葉てんかんに対するガンマナイフ最新治療

著者: 林基弘 ,   ,   堀智勝

ページ範囲:P.141 - P.155

Ⅰ.Gamma knifeの現況と治療適応
1.Gamma knifeとその現況
 新世紀における外科手術は,確実に低侵襲治療(minimally invasive treatment)の方向へと向かっている.より“'安全”でより“正確”な治療が強く求められている現在,より微細な機能局在を扱う脳神経外科領域において,とりわけその必要性が迫られている.
 Gamma knife surgery(GKS)は,正式にはstereotactic gamma radiosurgery(定位的放射線手術)という.γ線を用いて周囲正常脳組織を傷つけることなく脳内小病変を治療・コントロールできる,きわめて低侵襲な治療法として広く知られるようになった.Leksell stereotactic frameを用いて頭部を固定することで,現システム(ModelB)における照射部位への機械的精度は0.5mm以下となっている6).つまり,精度としても非常に高い治療であることが実証されている.

研究

慢性硬膜下血腫病期分類と血腫被膜の造影性の相関

著者: 中口博 ,   吉益倫夫 ,   谷島健生

ページ範囲:P.157 - P.164

Ⅰ.はじめに
 慢性硬膜下血種は脳萎縮を伴う高齢者に多くみられ,一般的な経過として,1)軽微もしくは中等度の頭部外傷を契機として主として架橋静脈周囲のくも膜の断裂が生じ,2)硬膜下腔に脳脊髄腋が漏出し,3)その周囲に反応性に被膜が生じ,4)被膜内に主に中硬膜動脈から栄養されたmacrocapil—lary, sinusoidal channel layerが発達し,5)同部からの血液の漏出により血腫が増大していく,といった自然歴が考えられている2,7).われわれは126例の慢性硬膜下血腫のCT像の検討により,慢性硬膜下血腫はCT上硬膜下水腫(一部は,急性硬膜下血腫)で始まり,均質期,層形成期,鏡面形成期を経て隔壁形成期となり退縮していき,血腫の再発は鏡面形成期,層形成期で多く隔壁形成期ではほとんどみられないとの結論に達した4).さらに再発防止には血腫腔内ドレーンの先端を前頭部に留置し硬膜下腔内空気を十分に除去することが重要であることを報告してきた3)
 一方,血腫病期の進行と共に慢性硬膜下血腫の被膜は肥厚し,被膜内の栄養血管も発達すると考えられる.慢性硬膜下血腫増大に対する外膜の関与は報告されているが1,6),内膜の関与に関しては未だ十分に検討されていないのが現状である.

Gliomaにおける1H-MRSによる放射線治療効果の検討—コリン化合物の定量的評価の有用性

著者: 磯辺智範 ,   松村明 ,   阿武泉 ,   長友康 ,   吉澤卓 ,   板井悠二 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.167 - P.172

Ⅰ.目的
 放射線治療効果の判定は脳腫瘍の臨床において重要な問題であり,その評価はMRIやCTなどの画像診断で行われているのが現状である.これらの画像診断では,放射線照射による腫瘍の縮小などの形態学的変化や異常信号によりその効果を判定している.しかし,これらの画像変化を放射線治療後の早期に捉えることは困難である.
 Proton MR spectroscopy(1H-MRS)は,非侵襲的に組織中の代謝情報を得る手法であり,アルツハイマー病16)やAIDS18)においては,1H-MRSの変化が画像の変化に先行して起こるといわれている.この1H-MRSの手法を用いて,放射線治療前後の評価に関する報告6,11,14)も散見されるが,それらの報告は,N-acetylaspartate(NAA)/creatineand phosphocreatine(t-Cr),NAA/choline-contain—ing compounds(Cho),Cho/t-Crなど各脳内代謝物の信号強度比を用いた検討であり,代謝状態の正確な情報や代謝物個々の変化を判断し難い.われわれは,これまでに1H-MRSを用いて各種の脳内占拠性病変における診断に関する検討を行っており13,17),脳内代謝物の定量評価も確立した13)

単独性限局性外傷性くも膜下出血症例の臨床的検討

著者: 瀧波賢治 ,   長谷川健 ,   宮森正郎 ,   荒川泰明

ページ範囲:P.175 - P.179

Ⅰ.目的
 頭部外傷におけるCT所見の1つとして,くも膜下出血が見られるという報告は多い.しかし,明らかな受傷機転があり,初回CTで外傷性くも膜下出血のみを認める症例について,その発生機序,打撲部位との関係,予後などにまで言及したものは少ない29).そこで,今回われわれは明らかな受傷機転があり,初回CTで外傷性くも膜下出血のみを認めた症例についてそれらのことに関して検討してみた.

症例

初回手術より4カ月の経過で悪性転化した髄膜腫の1例

著者: 中塚博貴 ,   大上史朗 ,   大田信介 ,   中川晃 ,   福本真也 ,   久門良明 ,   大西丘倫

ページ範囲:P.181 - P.186

Ⅰ.はじめに
 髄膜腫は,腫瘍の全摘出あるいはそれに近い摘出により,20年以上の長期生存が期待できる良性疾患ではあるが,Simpson grade Ⅰのような全摘出が行えたとしても,長期的には4〜15%の再発がある2,3,10).しかしながら,通常は良性の性格をそのまま維持するため,再手術により再び良好な予後が期待できる.その一方で,再発時の組織学的所見がたとえわずかでも悪化している症例は再発例の10〜38%と報告され4,5),その中には悪性転化した症例も散見される.悪性転化した症例の多くは,再発を繰り返すうちに悪性転化しており,短期間で悪性転化した症例の報告はほとんどない.今回われわれは,初回手術で良性髄膜腫と診断され,全摘出を行ったにもかかわらず,4カ月という短期間で悪性転化した1症例を経験したので報告する.

自然血栓化した後大脳動脈末梢部紡錘状動脈瘤の1例

著者: 近藤聡彦 ,   安原隆雄 ,   杉生憲志 ,   大本堯史

ページ範囲:P.189 - P.193

Ⅰ.はじめに
 後大脳動脈(PCA)動脈瘤は全脳動脈瘤中0.26〜1.0%と非常に発生が少なく,中でも遠位部PCA動脈瘤はPCA動脈瘤全体の13%と極めて稀である3,11,15).また脳血管撮影において造影されていた脳動脈瘤が全く造影されなくなったという報告は散見されるが,親動脈も含んだ完全な閉塞例はこれまでに数例しか報告されていない7,9,13)
 今回われわれは,後大脳動脈の末梢枝である頭頂後頭動脈の紡錘状動脈瘤が3カ月の経過で親動脈とともに完全閉塞していた1例を経験した.この部位におけるこのような報告は今までにない.脳動脈瘤の増大機序および血栓化の機序について若干の文献的考察を加え,われわれの経験した症例を報告する.

局所血栓溶解療法が著効した発症24時間後のアテローム血栓性中大脳動脈閉塞症例

著者: 浦川学 ,   上田祐司 ,   山下哲男

ページ範囲:P.195 - P.199

Ⅰ.はじめに
 発症6時間以内の中大脳動脈(middle cerebralartery:MCA)閉塞症に対するprourokinaseの局所動注血栓溶解療法(local thrombolytic therapy:LTT)の有効性が報告され2),MCA閉塞に対するLTTの適応は発症後6時間以内と言われている.今回われわれは発症24時間後のMCA閉塞症例にキセノンCT脳血流検査,MRI施行後,LTTを行い著明な臨床症状の改善を得たので報告する.

急性硬膜下血腫の減圧開頭術後に合併した外傷性水頭症の1例

著者: 水巻康 ,   岡伸夫 ,   伊藤建次郎 ,   遠藤俊郎

ページ範囲:P.201 - P.206

Ⅰ.はじめに
 減圧開頭術後に神経症状の脱落が出現し,頭蓋形成術を行うことで症状が改善することは臨床上しばしば経験することであり,the syndrome ofthe sinking skin flap15),やthe symptom of the tre-phined1,3),などとして知られている.
 外傷性水頭症は比較的稀な疾患であり,髄液循環障害によるものはシャント術が有効とされる8,10)

手術により局所脳血流量の改善を認めた前頭蓋窩硬膜動静脈瘻の1例

著者: 川口務 ,   河野輝昭 ,   大浅貴朗 ,   小笠原貞信 ,   魚住洋一

ページ範囲:P.209 - P.214

Ⅰ.はじめに
 前頭蓋窩硬膜動静脈瘻は,出血発症が80%を占める9).われわれは非出血性の前頭蓋窩硬膜動静脈瘻について,その特徴について報告した7).今回,頭痛で発症した非血性の前頭蓋窩硬膜動静脈瘻で,術前に123Ⅰ—iodoamphetamine single photonemission computed tomography(123Ⅰ—IMP SPECT)で左後頭葉を中心に局所脳血流量(rCBF)の低下がみられ術後に改善した症例を経験した.症例を提示し,文献的考察を加え報告する.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・8

変性疾患(2)系統変性疾患

著者: 若林孝一

ページ範囲:P.216 - P.222

Ⅰ.はじめに
 神経変性疾患は障害部位の系統性によって,これまで運動ニューロン疾患,基底核を侵す疾患,脊髄小脳変性症などに分類されてきた.しかし近年,いくつかの疾患で標的蛋白が同定され,変性疾患の再分類がなされている.これは神経難病とも称される神経変性疾患の病態を明らかにし,治療戦略を考えるうえでも重要なことである.そこで本稿ではキーとなる系統変性疾患に焦点を当て,その病理組織像について概説する.

医療保険制度の問題と改革への提言・12

現場からの実例・提言—危機が進行する国民健康保険

著者: 今田隆一

ページ範囲:P.225 - P.229

Ⅰ.はじめに
 日本の医療制度は,アクセスのよさと平均寿命,健康寿命などの良好な健康結果を示す各種指標などの達成度からみて,先進国中で最も評価の高い制度となっている.しかし一方で,高齢者の増加と65歳未満の比較的若年者に比して5倍にも上る高齢者医療費の状況1)から,今後の日本の医療費と供給体制,公的セクターの役割については根本的な見直しが必要であるとの意見も大きくなっている.
 本報告では最近経験をした事例から,危機が進行している国民健康保険の現状を短期被保険者証,被保険者資格証明書発行の問題から考察し,国民健康保険の改善への提言を行いたい.被保険者資格証明書とは1年以上以上の国民健康保険料未納世帯に対して自治体が発行する証明書である.世帯該当者は医療機関窓口ではかかった医療費の全額を自己負担することとなっており,その後保険料の支払いに応じて償還払いされる.また特定機能病院における高度医療は受けられない.一方,短期被保険者証とは国民健康保険料の1年未満の未納世帯に対し,1カ月から6カ月の間の短期間に限って有効である保険証をさす.短期被保険者証の場合,次の保険料を支払えなければ被保険者資格証明書に転化される.被保険者資格証明書は1986年の国民健康保険法の改訂によって制度化され,自治体によって発行は任意とされていたものであるが,2000年4月の介護保険実施に伴って,法改正のうえ,正式に義務付けられた.

報告記

第17回日本脳神経外科全国野球大会観戦記—名古屋大学脳神経外科野球部の2年連続全国制覇

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.231 - P.231

 2002年の日本脳神経外科全国野球大会は,8月9〜11日の3日間行われた.従来と異なり1回戦4試合は神宮球場で,その夜に懇親会,翌日は準決勝2試合,そして決勝戦はその翌日1試合だけの企画であった.選手の健康管理に配慮された堀教授の優しさが感じられる.これで1日2試合の苦痛はなくなった.
 組合せ抽選は開会式後に行われた.何という運命のいたずらか,前年度に決勝戦を戦った名古屋大と山梨医大が1回戦で対戦することとなった.試合は終始山梨側が優勢に経過,しかし名古屋の粘りはものすごく最終回に2点を入れ同点.後攻の山梨の最後の攻撃,3回にセンターオーバーのランニングホームランを放った佐藤英治選手が,またしても三塁打を放ちノーアウト3塁,これで決着がつくかと思われた,ここで名古屋が思いもよらぬ作戦にでた.続く4,5番バッターを敬遠のフォアボールで満塁とし,打順下位のバッターと勝負.これが的中,0点で切り抜けジャンケンに持ち込んだ.結果は5:2で名古屋の勝利.

第6回International Neurotrauma Symposiumに参加して

著者: 長尾省吾

ページ範囲:P.233 - P.234

 第6回国際神経外傷シンポジウム(INTS)が2002年10月27日から11月2日にかけてフロリダ,タンパのSaddlelbrook Resortで33カ国から758名が参加して開催された.神経外傷の領域ではWFNSのICRANと本会が国際学会として知られており,ICRANでは主に神経外傷の臨床面を,本会では基礎的研究を討論する場となっている.本会の第1回は日本で開催され,2〜3年間隔で開かれる本会はこの領域の基礎研究者にとっては,愛着のある会で,日本神経外傷学会も委員を送っている.
 今回の会長はDAIで有名なGenarelli教授,組織委員はフロリダ大学のAnderson教授,マイアミ大学のDietrich教授らであった.成田からアトランタまで12時間,アトランタからタンパへ約1時間で南国フロリダ,タンパに着く.会場のSaddlebrook Resortはタンパ空港から車で約40分でアーノルドパーマ設計のゴルフ場やプール,テニス場そのほか避寒を楽しむ遊技場,レストランおよびペンション風の宿泊施設が緑に囲まれた閑静なコミュニティを形成し,その中央に学会場があり,申し分ない環境であった.ただ,室内は快適なクーラーが効いているが,一歩外に出ると強烈な南国の太陽で汗ばむ暑さで,すぐ木陰に駆け込む仕末であった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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