icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科31巻3号

2003年03月発行

雑誌目次

新人に学ぶ

著者: 齋藤勇

ページ範囲:P.245 - P.246

 大学に奉職する者の大きな喜びの一つは,毎年新人を迎えることである.これは医局の活性化にとっても大切なことである.われわれの大学は中国廬山の名医董奉の古事を引くまでもなく「杏林」の名を冠する如く,「良医を育てる」ことが最大の使命と認識している.良医の定義はさておき,新人には太田富雄(編著)「脳神経外科学」に一言メッセージを記して贈ることにしている.
 「素直に学べ,患者さんから先輩から,そして後輩から」

総説

血栓溶解療法の現状と展望

著者: 森悦朗

ページ範囲:P.249 - P.260

Ⅰ.血栓溶解療法の原理
 脳梗塞の多くは,動脈が血栓で閉塞し,その動脈の灌流領域が虚血に陥ることで生じる.血栓溶解剤はplasminogenからplasminへの変換を促進し,血栓の線維素の骨組みに酵素的に割れ目を作り血栓を溶かす作用(薬理学的血栓溶解)を有している15).したがって血栓溶解剤で血栓を溶かし動脈閉塞を解消することで血流の再開を計ることは虚血性脳血管障害に対する合理的な治療法であり,線溶剤の出現以来,試みられてきた14).すなわち,1)血栓溶解剤は血栓で閉塞した脳動脈を再開通させ,2)再開通による虚血組織の早期の再循環は神経学的改善をもたらす,という2段階の仮説が血栓溶解療法の論理である15).しかし,梗塞に陥ってしまった組織を再灌流することは無意味であるばかりか,虚血で既に障害された血管を破綻させ出血を引き起こし,また血栓溶解剤でもたらされた凝固異常はこれを助長する可能性もある.
 一方,局所性脳虚血の間に起こる脳血流と代謝の変化は動物実験によって明らかになってきた4).血管が閉塞したとき,重篤な虚血の中心部と灌流が側副血行によってある程度維持され血流の低下が比較的軽いその辺縁領域ができる.脳血流がおおよそ20ml/100g/min以上あれば脳の代謝と機能の変化は生じない.これ以下の水準になると脳の電気活動は停止し神経機能の脱落が起こる.

研究

脳ドックにおける微小点状ヘモジデリン沈着の検討

著者: 堀田祥史 ,   今泉俊雄 ,   丹羽潤 ,   吉川純平 ,   宮田圭 ,   真壁武司 ,   守山亮 ,   黒川清文 ,   三上仁 ,   中村麻名美

ページ範囲:P.263 - P.267

Ⅰ.はじめに
 T2強調像(T2WI)は,磁場の不均一性により,真のT2値より短縮した見かけ上のT2であるT2を,gradient echo法でT2強調画像に近い画像となるように撮像したものである.ヘモジデリン内の鉄イオンのように常磁性体がわずかでも存在していれば低信号として捉えられるので,T2WIは慢性期の出血の診断に適した撮像法である1,13).MRIで検出される微小点状ヘモジデリン沈着(dot—like hemosiderin spot:dotHS)はmicroangiopathyに関連した脳出血の危険因子と考えられている8).正常人におけるdotHSの頻度,個数と各危険因子との関連について比較的バイアスの少ない脳ドック受診患者の結果を用いて解析・検討した.

症例

皮質下出血を伴った石灰化慢性硬膜下血腫の1手術例

著者: 若本寛起 ,   三輪点 ,   折居麻綾 ,   宮崎宏道 ,   石山直巳

ページ範囲:P.269 - P.273

Ⅰ.はじめに
 石灰化慢性硬膜下血腫は稀にみられる病態であるが,無症候性の場合も多く,近年その手術報告例は少なくなっている.今回われわれは頭部外傷後3週間した頃から症状が出現し,痙攣発作後より症状が徐々に進行し,1カ月後に手術が必要となった石灰化慢性硬膜下血腫の1例を経験した.画像所見から症状が悪化した原因と思われる興味ある所見が得られたので,その稀なる病態に検討を加え,若干の文献的考察を加えて報告する.

降圧療法による脳虚血症状で発見されたもやもや病の1例

著者: 柳川洋一 ,   小倉正恒 ,   奥田恵理哉 ,   奥永知宏 ,   高畠英昭 ,   中村稔

ページ範囲:P.275 - P.279

Ⅰ.はじめに
 今回われわれは,降圧療法により脳虚血症状が出現,悪化し,脳血流量測定,脳血管造影よりもやもや病の診断をした症例を経験し,もやもや病を含む脳血管障害に対する降圧療法につき文献的考察を行ったので,報告する.

右大動脈弓により成人期にsubclavian steal syndromeを呈したPeuts-Jeghers症候群患者の1例

著者: 穂刈正昭 ,   黒田敏 ,   古川浩司 ,   宝金清博 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.281 - P.286

Ⅰ.はじめに
 鎖骨下動脈盗血症候群(subclavian steal syn-drome,以下,SSS)は動脈硬化や高安病によるものが多く,先天性疾患に伴うものは比較的少ないとされている13).先天性原因としては,大動脈弓からの大血管起始部の異常がほとんどであるが,高率に心奇形を合併し小児期に心不全症状で発症することが多い.右大動脈弓に合併した左鎖骨下動脈閉塞によるSSSを成人期に発症した症例はきわめて稀で,これまでに10例が報告されているのみである.今回,われわれは,右大動脈弓および左鎖骨下動脈閉塞により,成人期になってからSSSを呈したPeutz-Jeghers症候群愚者の若年男性を経験し,本症例に対してtransverse cervical ar-teryを用いた血行再建術を実施して良好な結果を得たので報告する.

脳梁膨大部の脳出血でみられた近時記憶障害

著者: 岡泰寛 ,   前島伸一郎 ,   森田修平 ,   石田和也 ,   國本健 ,   吉田宗人 ,   坊岡進一 ,   岸田知佳 ,   上好昭孝

ページ範囲:P.289 - P.295

Ⅰ.はじめに
 古くからPapezの回路と記憶との関係が論じられ,海馬や視床病変で健忘症候群が生じたとする報告は多い6).一方,脳弓や脳梁膨大部後部領域の病変でも記憶障害がみられることが知られているが,その報告例は少ない1,4,9,15,16,18).今回われわれは,脳梁膨大部後部領域の病変由来と思われる記憶障害を呈した脳出血の1例を経験したので報告する.

頭部外傷後に拡大を見たベルガ腔の1例

著者: 西本英明 ,   和田司 ,   黒田清司 ,   吉田雄樹 ,   奥口卓 ,   小笠原邦昭 ,   小川彰 ,   平賀恵 ,   高橋明

ページ範囲:P.297 - P.301

Ⅰ.はじめに
 透明中隔嚢胞,ベルガ腔は成人においても高頻度に認められるvariationであるが,進行性に拡大する例は極めて稀であり,成人例においてCSF循環障害による進行性の拡大を確認し得た報告は皆無である.
 われわれは,頭部外傷後に透明中隔嚢胞,ベルガ腔の拡大を呈した成人例を経験した.本例は外傷から2年9カ月間magnetic resonance image(MRI)を用いて経時的に観察されている.本例に対し神経内視鏡下に開放術を行い貴重な所見を得たので,文献的考察を含めて増大機序について検討し報告する.

経過観察中に増大した無症候性未破裂脳動脈瘤の3例

著者: 須賀正和 ,   山本祐司 ,   角南典生 ,   安部友康 ,   近藤聡彦

ページ範囲:P.303 - P.308

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤が発生後,どのような経過をたどるのか,例えば未破裂脳動脈瘤が増大,破裂に到る経過については未だ十分に明らかにされていない.今回,経過観察中の画像診断〔MRA, MRI, 3D—CT angiography(3D-CTA)〕にて無症候性未破裂脳動脈瘤3例外増大し,そのうち2例が破裂し,くも膜下出血(以下SAH)を来した.そこでわれわれは,経過観察中の画像診断における未破裂脳動脈瘤の変化,および画像上の破裂危険因子について検討した.

外傷性椎骨動脈解離に伴う脳底動脈閉塞症に対して急性期血管内治療が有効であった1例

著者: 柴田孝 ,   扇一恒章 ,   三宅隆之 ,   堀恵美子 ,   山本博道 ,   久保道也 ,   桑山直也 ,   遠藤俊郎

ページ範囲:P.311 - P.316

Ⅰ.はじめに
 外傷性椎骨動脈閉塞は,頸椎骨折の合併症の1つであり,ひとたび発症し,さらに脳底動脈閉塞も合併した場合,重篤な後遺症を残し予後は不良である.外傷性椎骨動脈解離に脳底動脈閉塞を合併した場合,極めて緊急な治療を要する.
 今回われわれは,頸椎骨折に伴う外傷性椎骨動脈解離による椎骨動脈閉塞および脳底動脈閉塞合併例に対し,急性期血栓溶解と椎骨動脈ステント留置を施行し有効であった1例を経験したので報告する.

細菌性脳動脈瘤の治療方針:最近の4例の経験から

著者: 副田明男 ,   坂井信幸 ,   村尾健一 ,   酒井秀樹 ,   飯原弘二 ,   永田泉

ページ範囲:P.319 - P.324

Ⅰ.はじめに
 細菌性脳動脈瘤は稀な疾患であり,脳動脈瘤の1%以下とされているが3),出血した場合は致死率が高く適切な治療法の選択が肝要である1,2).一般的に内科的治療に反応しないものに対しては外科的治療が考慮されるが,基礎疾患(感染性心内膜炎,弁膜症等)に基づく心機能の低下があり,また開心術と脳動脈瘤の治療のタイミングなど未解決な課題が存在する6).さらに,動脈瘤は末梢に存在することが多いため,開頭術,血管内治療のいずれにおいても,親動脈の温存の可否や,バイパスの必要など手技的にも困難な症例が少なくない2,10)
 われわれは1999年3月から2002年3月の3年間,治療対象となった脳動脈瘤588例のうち細菌性脳動脈瘤4例(4/588:0.7%)を経験した.これらの症例を呈示し,国立循環器病センターにおける細菌性脳動脈瘤に対する治療方針を若干の文献的考察を加えて報告する.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・9

腫瘍(1)グリオーマ

著者: 中里洋一

ページ範囲:P.326 - P.331

Ⅰ.はじめに
 グリア(glia)およびその母細胞から発生する腫瘍がグリオーマ(glioma)であり,脳実質腫瘍の大半を占めている.成熟したグリアは4種類に分類され,それぞれから腫瘍が発生すると考えられるが,小膠細胞(microglia)の腫瘍はまだ知られていないので,実際には星細胞(astrocytes),乏突起膠細胞(oligodendroglia),上衣細胞(epen-dymal cells)に関連した腫瘍が存在する.グリオーマには多数の種類があり,その生物学的性質も様々である.したがって正確な診断が治療上も研究上も不可欠である.本項では胎児性腫瘍を除くグリオーマの病理学的特徴を簡潔に述べることとする.

医療保険制度の問題と改革への提言・13

診療報酬請求からみた神経系・頭蓋手術の調査報告—平成12年度社会医療診療行為別調査の概況から

著者: 安達直人

ページ範囲:P.333 - P.336

Ⅰ.はじめに
 医療給付にかかる神経系・頭蓋手術行為の調査から,脳神経外科手術の保険請求上の現況を報告する.
 平成14年(2002年)度の診療報酬請求のマイナス改訂を契機に,脳神経外科領域でも保険診療への関心が高まってきている.特に,いわゆる「手術の施設基準」の設定(保険医療機関の該当手術数によって請求手術点数が減算されるシステム)により,保険医の意識も大きく様変わりしたと思われる.本著では,直近である平成12年(2000年)度の神経系・頭蓋手術の請求概況を提示し,脳神経外科手術における保険診療上の現況を報告する.

医療保険制度の問題と改革への提言・14

日本版「DRG-PPS(急性期入院医療定額払い方式)」について

著者: 桜井芳明

ページ範囲:P.339 - P.342

Ⅰ.はじめに
 厚生労働省は,医療費の適正配分(抑制)と,さらにわが国のかかえている医療改革の切り札の1つとして,1998年(平成10年)11月より,全国公的病院10施設を対象に,急性期入院医療費の「まるめ」の施行を始めた.さらに2001年(平成13年)4月からは,全国66病院に対象施設を広げ,2003年(平成15年)4月からは特定機能病院で包括払い制度が導入される予定であり,いよいよ本格化してきた.当院は1998年11月以来,急性期入院医療定額払いの対象病院となっているので,その実際を紹介し,多少のコメントを加えてみたい.

報告記

第3回日韓親善神経外科医サッカー大会&第13回日本脳神経外科東西対抗サッカー大会

著者: 永関慶重 ,   奥寺敬 ,   久保謙二

ページ範囲:P.345 - P.346

 第61回日本脳神経外科学会総会が,2002年10月2日から信州大学脳神経外科教授小林茂昭会長のもと開催された.その前日に上記2つのサッカー大会が,松本市近郊のアルウィン総合球技場(2002年FIFAワールドカップ時のパラグアイの公式プレキャンプ施設)において熱戦が繰り広げられた.2万人を収容するスタンド,大きな電光掲示板,さらには天然芝の極上のピッチは,脳外科医サッカーおたく達には,それだけで感激と興奮をおぼえるほどであった.小林会長はじめ信州大学のご尽力に改めてお礼申し上げます.あいにくの台風直撃により,北海道や九州の先生が,松本空港に降りられず名古屋や大阪の空港に着陸する等のアクシデントがあったが,韓国チームは,久保・奥寺の細心の心配りにより名古屋空港からバスで無事球場入りした.この球技場は,大雨を間断なく吸収し続け,ピッチに水たまりすらつくらず,終始選手達のモティベーションを低下させることのない日韓戦に相応しい最高の舞台となった.
 東西対抗戦は,東軍の北海道からの助っ人陣が到着しないうちに,西軍が終始試合を押し気味に進めた.最初の20分ハーフでは,40歳以上で固めた東軍のディフェンスを崩し西軍が1点先制した.2本目に東軍がメンバーを若手に変更し,試合を盛り返すも得点ならず.結局,西軍が1対0で勝ち,通算成績は西軍の7勝6敗となった(永関ら:脳外速報11:299,304,2001).

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?