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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科31巻4号

2003年04月発行

雑誌目次

改革

著者: 古林秀則

ページ範囲:P.361 - P.362

 昨年,24年ぶりに北朝鮮から5人の拉致被害者が帰国しました.その中の2人の故郷が福井県小浜市です.以前に小浜市の杉田玄白像のある病院へ手術の手伝いに行っていたので,拉致事件については当時から知っていました.帰国した拉致被害者の発言には,最初は異様に感じるところもありましたが,置かれた立場での苦渋の選択の結果と考えられます.北朝鮮に残されたご家族の帰国,死亡と報道されている拉致被害者の正確な情報収集も含め,1日も早い解決を望みます.
 小泉総理の「改革無くして成長なし」のかけ声で,様々な構造改革について討議され進行しています.医科大学,医療関係では,平成14年(2002年)10月に山梨医科大学と山梨大学が統合し,数多くの国立大学統合がこれに続きます.われわれの大学も平成15年(2003年)10月に統合し,平成16年(2004年)4月に新大学の一期生を迎える予定です.同時期に国立大学の独立行政法人化と臨床研修必修化も開始されます.独立行政法人化は大学の諸資源を産業活性化に活用し,日本の国際的な経済競争力を強化する手段として期待されていますが,マイナス面も数多く報じられています.臨床研修必修化では,従来の大学病院中心の専門に特化した「人を診ずに病気を診る」と批評されている臨床研修を,「プライマリ・ケアを中心に幅広く医師として必要な診療能力を身につけ,人格を涵養する」研修制度に改変するのが狙いです.

総説

癌分子標的治療薬開発の現況と脳腫瘍治療への応用

著者: 白石哲也 ,   田渕和雄

ページ範囲:P.365 - P.381

Ⅰ.はじめに
 最近の分子生物学的研究の進歩によって,一般に癌は種々の癌遺伝子および癌抑制遺伝子の経時的多段階異常の蓄積が原因であり,しかも異常のパターンが各々の癌の細胞生物学的特性を規定していることが明らかとなった.癌の発生や進展に密接に関係する標的分子(蛋白質あるいは遺伝子)を選択的に攻撃する新しい抗癌剤(分子標的治療薬;molecular targeting drugs)の開発が活発となり,すでに臨床に用いられている薬剤もある.
 通常分子標的治療薬は従来の抗癌剤と比較して副作用が少なく,長期投与が可能なため,患者のQOL(quality of life)の改善や延命に大きく寄与するものと期待されている.しかしある薬剤が細胞に何らかの影響を及ぼす場合,全て細胞内の機能分子を介してその効果が現れているわけであり,その意味では細胞増殖抑制効果を指標にランダムに選ばれてきた従来の多くの抗癌剤も広義の分子標的治療薬といえよう.一方遺伝子を細胞内に導入して癌細胞を変化させる遺伝子治療,あるいは化合物や分子を癌細胞内により特異的に集積させるとか,細胞内で毒性を発揮する物質に変換させるなどのdrug delivering systemなども広義には分子標的治療の範疇に入ると考えられる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

中脳病変に対するoccipital transtentorial approach

著者: 斉藤延人 ,   佐々木富男

ページ範囲:P.383 - P.391

Ⅰ.はじめに
 中脳には動眼神経核や錐体路をはじめとする重要な神経核,神経路が密集しており,神経脱落症状を出さずに手術を行うことは容易ではない.この部位では松果体部腫瘍の手術が最も一般的と考えられるが,これについては他の書物に詳しいので参考にしていただきたい.そのほかに中脳の手術の適応となる疾患として神経膠腫,血管腫,脳動静脈奇形(AVM)などが挙げられる.いずれにしろ表在性のものかexophyticなものがよい手術適応となってくる.本稿では中脳に切り込んでいく場合にどのように考えればよいのかに焦点をおき,中脳の海綿状血管腫に対するoccipital tran—stentorial approachを解説する.

研究

粥状動脈硬化性頸動脈病変と脳室周囲高信号域(PVH)の関連性

著者: 玉置智規 ,   石原正明 ,   小松原清光 ,   林靖人 ,   植松正樹 ,   大山健一 ,   高橋弘 ,   水成隆之 ,   寺本明

ページ範囲:P.393 - P.398

Ⅰ.緒言
 MR画像,特にT2強調画像やfluid attenuated in-version recovery(FLAIR)法で鋭敏に捉えられる側脳室周囲高信号域(periventricular hyper inten-sity:以下PVH)は,病理組織学的所見との対比から多くの異なる変化が含まれていることが示唆されおり,その成因には加齢,高血圧,特に虚血性病変の存在が関与するとされている1,5,8,16).その虚血性病変の成因に深く関与しているのが粥状動脈硬化であるが,PVHと粥状動脈硬化の関連を検討した報告は少ない.そこで,今回われわれは,頸動脈粥状動脈硬化を低侵襲で評価できる超音波断層法(B-mode法)を使用し,粥状動脈硬化とPVHとの関連を検討したので報告する.

十全大補湯による脳腫瘍患者免疫能への改善効果

著者: 宮上光祐 ,   片山容一

ページ範囲:P.401 - P.409

Ⅰ.はじめに
 漢方補剤による治療が癌の転移抑制効果や生存率の延長,quality of lifeなどの面から見直され,それらの治療効果を指摘する報告が散見される7,15).漢方補剤の一種である十全大補湯は非特異的免疫賦活剤として注目されており,これまでにも実験動物を用いた基礎的研究によって十全大補湯による免疫賦活作用や治療効果の報告がなされている13,15,17,18).しかし,臨床例,特にヒト脳腫瘍における十全大補湯の宿主免疫能改善効果について検索した報告はほとんど見当たらない.われわれは1998年以来脳腫瘍患者の免疫能をパラメーターとして治療予後と関連して検討してきた12)
 今回はヒト脳腫瘍に対し手術などの初期治療後,補助療法として十全大補湯(TJ−48と略す)の単独治療,またはInterferon—β(INF—β)とTJ—48の併用治療を行い,その投与前後における細胞性免疫に関与するsuppressor,helper,cytotoxicの各T細胞,natural killer(NK)活性,tumor necro-sis factor alpha(TNF—α)産生能などの測定を行い,TJ−48の宿主免疫能への改善効果について検討した.

頸椎前縦靱帯骨化症の臨床および放射線学的検討

著者: 宮澤伸彦 ,   秋山巖

ページ範囲:P.411 - P.416

Ⅰ.はじめに
 頸椎前縦靱帯骨化症の中で数椎体連続して存在する例は稀であり,ほとんどがdiffuse idiopathicskeletal hyperostosis(DISH)に伴う例である.一方DISHは欧米諸国では比較的報告例が多い疾患であり1,2,5,6,8,10,11,14-16,18,20),臨床的・放射線学的特徴検討が精密になされているものの特定の疾患範疇に入るかは依然議論のあるところではある3).さらに,本邦,特に脳神経外科領域では,DISHは稀な疾患と考えられており,数例の症例報告をみるに過ぎない7,9,13,17,21.今回筆者らは嚥下障害を主訴としていたが原因が判明せず当科を訪れDISHに伴う前縦靱帯骨化症による圧迫が原因と考えられた例を経験し,これを契機に一脳神経外科病院におけるDISHおよびDISH-like patholo—gies12)に伴う頸椎前縦靱帯骨化症の臨床的・放射線学的検討を行い,特に嚥下障害,OPLLとの合併頻度について詳細に調査したので報告する.

症例

頭蓋骨原発悪性リンパ腫の1例

著者: 金井真 ,   河野一彦 ,   村上達也 ,   斎藤基 ,   菊本直樹

ページ範囲:P.419 - P.424

Ⅰ.はじめに
 頭蓋骨原発の悪性リンパ腫は稀である.今回,頭皮下腫瘤を主訴とした頭蓋骨原発の悪性リンパ腫の手術を施行した.これは,当初は頭蓋骨外腫瘤であったが,頭蓋骨内外へ急速に増大した.この腫瘍の伸展形式を含め,他の報告例と共に検討し考察する.

頭部外傷後に出現した脳内気脳症の1例

著者: 瀧波賢治 ,   長谷川健 ,   宮森正郎 ,   松本哲哉 ,   荒川泰明 ,   杉野實

ページ範囲:P.425 - P.429

Ⅰ.はじめに
 外傷性気脳症は骨と硬膜に亀裂部が存在し,その部を介して空気が頭蓋内へ侵入してくる病態であり,臨床的にしばしばみうけられる8).ところが,空気が脳実質内に限局する脳内気脳症は特異な条件がそろって初めて生じる病態と考えられており,その報告例も少ない.今回われわれは外傷後の脳内気脳症の1例を経験し,その発生過程をMRIにて詳細に検討できたので報告する.

サッカーの試合中ヘディング後に発症した椎骨動脈閉塞の1例

著者: 本橋蔵 ,   亀山元信 ,   昆博之 ,   藤村幹 ,   小沼武英

ページ範囲:P.431 - P.434

Ⅰ.はじめに
 外傷性椎骨動脈損傷は稀であり外傷性頸動脈損傷に比して頻度は低いとされていたが,近年数々の報告がなされるようになり,なかでもスポーツやカイロプラクティックなどの鈍的頭部外傷による椎骨動脈損傷が散見される3,7,10-13,16).しかしながらサッカーのヘディングで発症した症例の報告はわれわれが渉猟し得た限りでは極めて稀なものであった.今回われわれはサッカーの試合中ヘディングをした後に椎骨動脈閉塞を来した稀な症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

拡張蛇行した石灰化を伴う椎骨動脈が原因の片側顔面痙攣の1手術例-:特に減圧法について

著者: 宮園正之 ,   井上琢哉 ,   松島俊夫

ページ範囲:P.437 - P.441

Ⅰ.はじめに
 拡張蛇行した椎骨動脈の直接圧迫が原因の顔面痙攣は,通常の減圧術では難治性であり,手術には様々な工夫が必要であるとの報告が多い1,2,5-11).その中で特に,幅の広い硬膜や血管テープを用いて椎骨動脈を硬膜に吊り上げる方法が,良好な結果を出している.今回われわれが提示する症例は,椎骨動脈が拡張蛇行しているだけでなく,血管壁に石灰化を伴っており,血管壁に負荷をかける吊り上げは困難と考えられた.そのため,テフロンフェルトを層状に脳幹部と椎骨動脈の間に敷き込むことで,顔面神経のroot exit zone(REZ)の減圧を行った.顔面神経末梢部には蛇行した椎骨動脈が強く圧迫したままの状態であったが,症状は術後完全に消失した.われわれの用いた減圧法は簡便でかつ安全に椎骨動脈を移動させることが可能で,椎骨動脈を移動させることが困難な場合の手法として一考に値すると思われるので報告する.

Sudden stroke-like onsetを呈した脳膿瘍の1例

著者: 森憲司 ,   三輪和弘 ,   原秀 ,   中島利彦 ,   上田竜也 ,   横山和俊 ,   坂井昇

ページ範囲:P.443 - P.448

Ⅰ.はじめに
 脳膿瘍は発熱,頭痛などを初発症状とし亜急性に片麻痺,失語症などの神経脱落症状が出現してくることが多い.一方,突然に片麻痺等の神経症状を呈して発症するsudden stroke-like onsetの脳膿瘍は大変稀で,症状が突然発生する機序も不明である.
 今回われわれは,感染性心内膜炎に合併したsudden stroke-like onsetを呈する脳膿瘍を経験し,全経過をMRIにて観察することができた.特に,発症時のMRIについての報告はこれまでになく,突然発症の機序を考えるうえで大変興味深いものであり,文献的考察を加えて報告する.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・10

腫瘍(2)神経細胞膠腫,胎児性腫瘍

著者: 石澤圭介 ,   廣瀬隆則

ページ範囲:P.450 - P.455

Ⅰ.はじめに
 神経細胞性腫瘍と胎児性腫瘍はいずれも稀な腫瘍群であるが,2000年に改訂されたWHO神経性腫瘍分類には多数の新しい腫瘍概念が含まれている7).以下,この分類にしたがって,代表的な腫瘍を取り上げ,その要点を解説する.

医療保険制度の問題と改革への提言・15(最終回)

座談会—脳外科医の立場から医療保険制度を考える

著者: 安達直人 ,   池上直己 ,   齋藤勇 ,   中川俊男 ,   堂本洋一 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.457 - P.469

 施設基準導入の目的,医療技術評価の望ましいあり方,平均在院日数の短縮,包括医療…….30巻6号から始まった本連載では,主に脳神経外科の臨床で感じている矛盾や疑問,要望等が提示された.それらをふまえて,連載にコメントをいただいた厚生労働省所属の脳外科医や医療政策学の専門の方も交えて,脳外科医の立場から医療保険制度の問題を議論した.

読者からの手紙

身体障害者福祉法における意見書作成についての問題点

著者: 坂口新

ページ範囲:P.471 - P.472

 私は脳神経外科医として29年間診療にあたってきた.そして15年間身体障害者福祉法の指定医師として肢体不自由について,主として脳疾患患者の意見書(診断書)作成に関与してきた.そこで痛感するのは身体障害の等級認定が脳障害患者にとって極めて不利なことである.たとえば,失語症は音声・言語・そしゃく機能の障害に分類され,たとえ全失語で言語によるコミュニケーション不能でも3級である.全失語の場合,買い物・交通機関の利用などは介助無しには不可能で自立困難である.しかし心臓ペースメーカー装着の場合は,自立して労働して給料を受けていても1級と判定される(厚生労働省はペースメーカーが機能しなかったら生命に直結するとの説明である).
 脳卒中の患者さんは手足の運動マヒ以外にも,失語・失認などの高次機能障害や視野障害・感覚障害・嚥下障害・平衡障害などを合併することが多い.これらの合併症状は,肢体不自由で意見書を記入する場合は単に参考となる合併症状として小さな空欄に記入するだけである.脳卒中による片麻痺は随意運動障害であり,他動的関節可動域などほとんど意味がないのに関節可動域に大きなスペースがさかれているのも,脳神経外科医としては違和感を感ずる.肢体不自由が運動器疾患と位置づけられているため,意見書の審査も整形外科医が中心となるので,脳の合併症状の評価が軽視されがちである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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