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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科31巻5号

2003年05月発行

雑誌目次

EBMとインフォームドコンセント

著者: 佐野公俊

ページ範囲:P.483 - P.484

 最近はEBMやインフォームドコンセントなしには,何も出来ない時代になった.“Evidence based medicine”とは文字通り根拠に基づく医療という意味で,もともと「新薬の開発の時などに無作為にその新薬と毒にも薬にもならない偽薬を与えて,その結果を統計学的に比較した大規模試験のデータによって得られた成績が正しい結果である」というものである.どの薬が誰にあたるかを医師にも患者にもわからないようにして行った二重盲検試験でrandomizationで行われた結果が,レベルの一番高いlevel 1の結果である.それに対して特定の医師が自分の経験に基づいて行ってきた治療成績は,レベルの一番低いlevel 5の成績とされるというものである.これは新薬の効果などの誰がやってもあまり差のない治療方法の効果判定においては,理論的根拠があると思われる.最近は外科治療にも,この方法による判定を持ち込もうという傾向がある.
 果たしてこれは外科治療にもあてはまる考え方なのであろうか.確かに外科手術でも2,3年もすれば誰にでもできるものもある.そのような手術の場合には,疾患に有効か無効かが判定基準として正しいと思われる.しかし手術の中には術者によって全く成績の異なる手術もある.

総説

顔面痙攣に対するボツリヌス毒素局所注入療法

著者: 浅沼光太郎 ,   梶龍兒

ページ範囲:P.487 - P.491

Ⅰ.はじめに
 1997年に本邦においてもボツリヌス毒素局所注入療法が眼瞼痙攣,ついで片側顔面痙攣に認可され,適応される症例数は増える一方である.片側顔面痙攣へのボツリヌス毒素局所注入療法についてまとめてみる.

Topics

神経膠芽腫に対する新たな分子標的療法—グルタミン酸受容体阻害剤

著者: 石内勝吾

ページ範囲:P.495 - P.500

Ⅰ.はじめに
 グルタミン酸は主要な神経伝達物質であるばかりでなく,生体内において幅広い代謝機能を保有している.実際,グルタミン酸を介するするシグナル伝達は中枢神経系に限定していると考えられていたが,最近の研究によって,神経系以外の細胞一骨芽細胞,破骨細胞,血小板,表皮細胞,膵島細胞,味蕾細胞や肺,肝臓,心臓,腎臓と副腎においても,グルタミン酸受容体が発現していることが報告されている5,18).中枢神経系においては,グルタミン酸は胎生期における神経系細胞の増殖・遊走と分化に重要な役割を果たすことが,再認識されつつある.高い増殖性と遊走性はまた,癌細胞の細胞生物学的特性でもあることから,この受容体と癌細胞との関連が最近話題となっている11)
 本稿では未だ本質的な治療法の確立が遅れている神経膠芽腫に対するグルタミン酸受容体の病態生理学的意義について概説し,後半では新たな分子標的療法について,グルタミン酸受容体の中の,特に胎児脳やグリア前駆細胞の一部に認められるカルシウム透過型グルタミン酸受容体を標的とした治療法の可能性について言及したい.

研究

3次元MR cisternogramsとMR・CT angiogramsによる脳主幹動脈狭窄性病変の新しい立体的画像評価

著者: 佐藤透

ページ範囲:P.503 - P.511

Ⅰ.はじめに
 脳底部脳主幹動脈の狭窄性病変は,MR angio-gram(MRA)でスクリーニングされ,CT angio-gram(CTA)やdigital subtraction angiogram(DSA)で診断確定されてきた.MRAでは,管腔内の血流に関連した機能的情報が,またCTAやDSAでは,管腔内に充盈する造影剤の形態情報が得られるが,いずれの画像においても,脳主幹動脈の外壁形態は描出されない4,5,7,10,16,19,20).これまで,狭窄性病変の評価は,正常と思われる血管内腔形態像から連続した血管内径を仮定し,病変部での血管狭窄程度や壁在血栓の存在を推測して判断されてきた.しかしながら,連続する狭窄性病変や全周性狭窄性病変,屈曲蛇行する血管走行や複雑な血管分岐部においては,狭窄性病変の詳細を立体的に把握することは困難といわざるを得ない.
 近年のMR imaging(MRI)装置の性能向上や撮像技術の進歩に伴い,T2—weighted three-dimen-sional(3D)fast spin-echo(FSE)sequenceを使用したMR脳槽画像(MR cisternogram,MRC)では,信号雑音比の良好な脳微細形態断層情報が比較的短時間で得られる.

Advanced technologyを用いた巨大脳動脈瘤の手術

著者: 嘉山孝正 ,   櫻田香 ,   近藤礼 ,   上井英之 ,   斎藤伸二郎

ページ範囲:P.513 - P.520

Ⅰ.はじめに
 巨大脳動脈瘤は現在の画像診断技術,micro-surgical techniqueをもってしても未だ治療困難な疾患の1つである.硬膜内巨大脳動脈瘤の破裂率は高く,予後不良であることから何らかの治療がなされる必要があるが,直達手術におけるmortal-ity,morbidityは未だ高く満足のいくものではない2,3,5,9,10,12,14).今回,巨大脳動脈瘤の直達手術を安全かつ確実に施行するために,脳血管撮影,MRIに加え,最近の診断技術であるballoon occlusiontest(BOT)による虚血耐性の評価,three dimen-sional CT angiography(3DCTA)による脳動脈瘤柄部および周囲血管の関係の把握,さらには術中脳血管撮影,神経内視鏡等を用いた巨大脳動脈瘤直達手術の治療成績につき報告する.

症例

血管内アプローチにて治療した,前下小脳動脈分枝脈絡叢動脈部破裂動脈瘤の1例

著者: 前川正義 ,   粟屋栄 ,   福田清輔 ,   寺本明

ページ範囲:P.523 - P.527

Ⅰ.はじめに
 脳室内出血の中でも,第4脳室内出血は稀にしか遭遇しない1,4,6,8).今回,脈絡叢動脈に所在する動脈瘤破裂に起因した第4脳室内出血の1例を経験したので,治療経過を報告すると同時に,今後同様な症例に遭遇した場合の対処指針に示唆を与えるべく,その治療内容をもとに考察を行った.

外傷性多発急性硬膜下血腫に対する治療経験

著者: 本橋蔵 ,   亀山元信 ,   昆博之 ,   藤村幹 ,   小沼武英

ページ範囲:P.529 - P.535

Ⅰ.はじめに
 切迫脳ヘルニア(impending cerebral herniation)を来している急性硬膜下血腫(ASDH)に対しては直ちに開頭術あるいは緊急穿頭術後に即開頭術をするのが一般的である.しかし中には緊急穿頭術のみで十分な結果が得られる症例も存在する6).重症頭部外傷例では開頭血腫除去術の最中や直後に対側に血腫が生じ,救命の機を逸する症例もみられる1,8,9).今回,われわれは,impending herni-ationを来しているASDHに対して救命救急センター外来(ER)にて緊急穿頭術が行われた後,引き続き生じた血腫に対して開頭手術が行われた2症例の多発性ASDHを経験したので報告する.

奇前大脳動脈末梢部破裂動脈瘤の術後,5年の経過で発育した破裂および未破裂両側中大脳動脈M2分岐部動脈瘤の1例

著者: 堀江政宏 ,   美津島穣 ,   紙谷秀規 ,   渡辺高志

ページ範囲:P.537 - P.541

Ⅰ.はじめに
 破裂脳動脈瘤の治療後に生じるくも膜下出血の再発はこれまでに多くの報告がなされている.再発くも膜下出血の原因として,以前手術を施行した部位の動脈瘤が再増大し破裂する場合と2,3,6,12),以前の手術時には認められなかった部位に新生動脈瘤を生じ破裂する場合がある5,7-11,15).今回われわれは,多発脳動脈瘤を有する患者で,奇前大脳動脈末梢部破裂動脈瘤のクリッピング手術より5年後に,以前より存在した右中大脳動脈M2分岐部の小動脈瘤が増大し破裂して,側頭葉の脳内出血を伴ったくも膜下出血再発症例を経験した.興味深いことにこの症例は,さらにmirrorsiteの左中大脳動脈M2分岐部にも動脈瘤が新生し,また以前より,左レンズ核線条体動脈起始部にも小動脈瘤が存在しており,4つの動脈瘤が全て一般的な好発部位ではない部位に形成されていた.この稀な症例を文献的考察を加えて報告する.

結節性硬化症を伴わないsubependymal giant cell astrocytomaの1例

著者: 渡邊陽祐 ,   沖修一 ,   右田圭介 ,   磯部尚幸 ,   岡崎貴仁 ,   並河慎也

ページ範囲:P.543 - P.548

Ⅰ.はじめに
 Subependymal giant cell astrocytoma(SGCA)は,結節性硬化症に随伴し脳室上衣下に特異な病理像を呈する腫瘍である.若年者の側脳室壁に好発し,限局性の脳室内腫瘤として増殖するが,モンロー孔を閉塞し水頭症で発見されることも多い,一方近年,結節性硬化症の徴候を認めないSGCAの報告が散見される2-9,13-15,17.今回われわれは,結節性硬化症を伴わないと考えられるSGCAの1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

第4脳室内に発生したsolitary fibrous tumorの1例

著者: 沢内聡 ,   荒川秀樹 ,   田屋圭介 ,   寺尾亨 ,   中崎浩道 ,   沼本ロバート 知彦 ,   山口由太郎 ,   橋本卓雄 ,   山口裕 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.551 - P.555

Ⅰ.はじめに
 Solitary fibrous tumor(SFT)は間葉系細胞由来とされる腫瘍であるが,頭蓋内に発生することは極めて稀である.しかし近年,その報告例は増加しており,2000年のWHO分類において,tumorof meninges,mesenchymal non-meningothelial tu-morsの1つに分類された12).われわれは,第4脳室内に発生したSFTの1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

トルコ鞍骨折による髄液漏の1治験例

著者: 久下淳史 ,   金城利彦 ,   嘉山孝正

ページ範囲:P.557 - P.561

Ⅰ.はじめに
 トルコ鞍骨折は比較的稀な病態であるが,他部位の頭蓋骨骨折,脳挫傷,脳神経障害,髄液漏,尿崩症を含む下垂体機能低下症など,いくつかの合併症を来す例が多く臨床上その病態の認識は重要である1,3-6,8-14).今回われわれは,トルコ鞍骨折による髄液漏を呈した頭部外傷の稀な症例を経験し,その診断,治療にthree dimensional com-puted tomography(3D-CT)を含むCT所見,および術中内視鏡が有用であったので報告する.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・11

腫瘍(3)髄膜腫

著者: 平戸純子

ページ範囲:P.562 - P.569

Ⅰ.はじめに
 髄膜腫は中枢神経系に発生する原発性腫瘍のうちグリオーマの次に頻度が高い腫瘍型である.また,ほとんどの症例が良性で,肉眼的に境界明瞭な病変を形成するため,外科的摘除術の適応性が高く,脳神経外科医にとっては馴染みの深い腫瘍型であるといえよう.髄膜腫の病理組織学的問題点は,非常に多彩な組織像を呈するため多数の亜型に分かれていることと悪性度分類gradingの困難さである.後者の点に関しては,悪性度の分類に取り挙げられた組織形態学的基準のあいまいさと形態学ではその臨床生物学的悪性度が捉えきれない症例の存在という2つの原因が挙げられる.本稿では,はじめに髄膜腫の一般的な臨床病理学的特徴について述べ,次にWHO脳腫瘍分類20003)に沿って髄膜腫を亜分類し,それぞれの組織亜型について組織学的特徴像と鑑別すべき腫瘍型および鑑別の方法を記載する.最後に悪性度分類について脳腫瘍取り扱い規約第2版8)との相違点を含めて解説する.

How I Do It・3

症例:脊髄神経根症状を呈した多椎間レベルにわたる頸椎椎間板障害

著者: 久保和親 ,   水野順一 ,   高安正和 ,   関俊隆 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.570 - P.580

症例提示
患者 58歳 男性
主訴 両手指先の痺れ,両手指の脱力

座談会

日本脳神経外科学会の社団法人化について

著者: 小川彰 ,   寺本明 ,   𠮷田純 ,   吉峰俊樹

ページ範囲:P.581 - P.591

 第62回総会(本年2003年10月)を目途に,社団法人日本脳神経外科学会設立総会が開催される予定で準備が進んでいる.それに向けて,代議員選挙が近日中に行われる.
 日本脳神経外科学会の法人化については,学会機関誌「Neurologia medico-chirurgica」や学会ホームページでも,承認された定款(案)等とともに会告が出されている.しかし,なぜ法人化するのか,また,法人化したらどのような変更がなされるのか,よくわからないという声も多い.

医療経済

特定機能病院における入院医療の包括評価(Diagnosis Procedure Combination:DPC)の概要について(第1報)

著者: 安達直人

ページ範囲:P.594 - P.595

 特定機能病院の機能を適切に評価し,その機能にふさわしい良質で効率的な医療を提供する観点から,「診断群分類」を活用した包括評価を平成15年(2003年)4月1日より導入することになった.脳神経外科疾患も当然含まれており,特定機能病院に勤務している脳神経外科医はこの包括評価に則って今後は保険請求しなければならない.特定機能病院以外に従事している脳神経外科医には不必要と思われるかもしれないが,医療資源のコスト管理を含めて良質で効率的医療を考えるうえで,理解と認識は不可欠と考えられる.
 主に特定機能病院以外に従事している脳神経外科医にご理解を頂くため,平成15年3月13日告示の概要を第1報として解説する.脳神経外科領域に関する詳細な診断群分類などについては,追って報告させて頂ければと思う.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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