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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科31巻6号

2003年06月発行

雑誌目次

インフォームド・コンセント

著者: 生塩之敬

ページ範囲:P.605 - P.606

 今日の朝刊を開けると,“○○大学病院医療ミス:国に3000万円賠償命じる”という見出しが目に留まりました.最近では,ほとんど連日のようにこのようなニュースがあります.
 暗い気持ちになりながら内容を読んでみると,患者さんは9年前に脳動脈瘤の治療を受けた68歳の女性であり,裁判長が“手術と患者の死亡には因果関係がある.担当医師は手術の危険性を十分説明すべきだった”と指摘したとあります.私が知る○○大学の脳神経外科とこのような指摘は不釣合いで腑に落ちませんが,新聞記事でありそれ以上の詳細は分かりません.最近身近でも,説明不足(?)による問題が生じました.この患者さんは,脳ドックで右中大脳動脈瘤が見つかり,手術を希望され,開頭術と動脈瘤頸部クリッピングが何事もなく施行されました.しかし,術後に右の視力が消失しました.原因は,眼動脈の閉塞によるものでしたが,無論,手術操作とは関連がなく,すでに存在が判明していた高度の動脈硬化が原因と考えられました.訴えは,患者さんの親戚から起こりました.“場合によっては死亡することも寝たきりになることも手足が麻痺することも説明を受け理解していたが,片目が見えなくなることは聞いていない.片目が見えないで人生を送る苦しみをあなたに分かるか”というものでした.確かに,失明と手術には直接とは言えないまでも因果関係がありますが,思いもよらない副作用であり,術前の説明にはこのことは言及されていませんでした.

総説

脳神経外科領域におけるナビゲーションシステムの現状と将来展望

著者: 川俣貴一 ,   伊関洋 ,   堀智勝

ページ範囲:P.609 - P.618

Ⅰ.はじめに
 現在の手術用ナビゲーションは,術前に撮像したcomputed tomography(CT),あるいはmag-netic resonance imaging(MRI)のvolume detaを3面画像(axial, sagittal, coronal)上において,手術操作を行っている箇所をコンピュータのモニタ上にリアルタイムで表示するのが一般的である.術者は操作部位と周囲の3次元的構造との関係を常時把握できるので,手術の安全性,有効性が向上するうえに手術時間も短縮できる利点がある.
 一般的に,術者は本当に計画した通りの適切な箇所を現在操作しているのかどうか,また,計画した通りに操作が進行しているかどうかなどを術中に自分のイメージ空間で常時確認しながら,手術を進めている.これを客観的なデータとして表示するのがナビゲーションシステムである.すなわち,これら術中の術者の確認作業を経験や勘に頼らず,客観的に一定の精度で支援するのが手術ナビゲーション技術である.

研究

小児もやもや病手術時における栄養管理

著者: 東保肇 ,   伊勢田努力

ページ範囲:P.621 - P.626

Ⅰ.はじめに
 熱傷,感染,外傷,ショック,腫瘍,あるいは手術により代謝率が高まることはよく知られており2-5,13,14,18,24,25,28,36,特に脳神経外科領域では重症頭部外傷において安静時代謝量の著しい増加が存在することが報告されてきた9,17,19,29,33.また,筆者らは脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血後,全身エネルギー代謝の亢進が存在し,脳動脈瘤に対する手術後さらにそれが亢進すること,さらに三大栄養素のうち,脂肪および蛋白の消費が異常に亢進していることを報告した34).さらに筆者らは,破裂脳動脈瘤急性期におけるアミノ酸投与の諸栄養指数への影響につき検討を加え,分枝鎖アミノ酸を含むアミノ酸投与は体蛋白異化を抑制し,その節約効果が期待できることを報告した35).また,脳血管障害急性期には交感神経系の過緊張が起こり,それが酸素消費量,二酸化炭素産生量,安静時代謝率を上昇させている可能性を報告した31,32)
 今回,小児もやもや病患者で手術後早期の栄養管理の基礎となる総蛋白,総コレステロールの変化,および脳への酸素運搬を担うヘモグロビンの変化につき検討を加えたので報告する.

不随意運動に対する定位的温熱凝固術,脳深部電極留置術の合併症についての比較,検討

著者: 寺尾亨 ,   沖山亮一 ,   高橋宏 ,   横地房子 ,   谷口真 ,   浜田生馬 ,   長谷川有美

ページ範囲:P.629 - P.636

Ⅰ.はじめに
 近年,不随意運動に対する手術が温熱凝固手術から脳深部刺激電極留置による刺激手術に移行し,さらに手術の目標部位が従来の淡蒼球や視床から視床下核に推移していることで合併症の頻度および種類が変化しつつある.それぞれの手術目標部位によりいかなる合併症が出現するかを理解することは手術成績を上昇させるうえで重要である1,4,5,12,25,27,35,46.今回われわれは,1998年1月から2002年9月の間に本施設で施行した不随意運動に対する定位手術110例に対し,手術方法,手術目標部位別の合併症につき分析,検討したため報告する.

慢性硬膜下血腫における血腫性状分類と血腫凝固能・血腫血球成分との相関

著者: 中口博 ,   寺岡暉 ,   鈴木康隆 ,   安達忍

ページ範囲:P.639 - P.646

Ⅰ.はじめに
 われわれは慢性硬膜下血腫の自然歴の検討と術後経過の分析により慢性硬膜下血腫性状をCT像で均質型,層形成型,鏡面形成型,隔壁形成型の4型に分類し,再発率は鏡面形成型で高く,隔壁形成型で低いことを報告してきた2).また血腫の頭蓋内進展のCT分類も新たに提唱し,円蓋部型が再発率が低く,頭蓋底型が高いこと2),また血腫腔ドレーンを前頭部に留置したものは前頭部以外に留置したものと比べ術後再発率が低いことを証明した1).さらに慢性硬膜下血腫の造影後CT像の検討により,血腫内膜は均質期は造影されず,層形成期以降はほとんどが造影され,中等度から重度の内膜の造影効果は,血腫年齢の進行と共に上昇し,内膜の栄養血管の発達を反映していると考えられることも報告した3)

Radiosurgery時代の傍鞍部髄膜腫の手術治療戦略と治療成績

著者: 岩井謙育 ,   山中一浩 ,   森川俊枝 ,   石黒友也 ,   本田雄二 ,   松阪康弘 ,   小宮山雅樹 ,   安井敏裕

ページ範囲:P.649 - P.655

Ⅰ.はじめに
 傍鞍部髄膜腫に対する手術は,視神経等の脳神経の障害,穿通枝の損傷の危険性などを認め,なお手術侵襲に伴うリスクがある19).また近年,患者のquality of lifeを考える立場から,頭蓋底髄膜腫の治療においても,機能温存を目指した治療が求められている15).一方,低侵襲な治療であるra-diosurgeryによる髄膜腫に対する長期治療成績を含めた良好な治療結果が報告されてきている12).われわれは傍鞍部の髄膜腫に対して,機能温存に主眼をおいた.手術を行い,残存,再発腫瘍に対してはradiosurgeryを行うという方針で治療を行ってきたので,その治療成績について報告する.

症例

Pure leptomeningeal venous drainageに存在したvarixから出血した横S状静脈洞硬膜動静脈痩の1例

著者: 吉田英紀 ,   金子好郎 ,   大浅貴朗 ,   小笠原貞信 ,   魚住洋一 ,   河野輝昭 ,   川口務

ページ範囲:P.657 - P.661

Ⅰ.はじめに
 最近,静脈洞内に流出することなく,lepto-menigeal vein(LMV)に流出する硬膜動静脈瘻が,pure leptomeningeal venous drainage(PLMVD)を有する硬膜動静脈瘻として報告された2,3).このタイプの横S状静脈洞硬膜動静脈瘻は重篤な病態を引き起こしやすく,また血管構築や脳循環動態に特徴があり,治療方法は直達手術が有効であると報告されている.私達は,このタイプの横S状静脈洞硬膜動静脈瘻でPLMVDに存在したvarixから出血を来した症例を経験した.症例を呈示し文献的考察を加え報告する.

髄液検査で診断できなかった亜急性期くも膜下出血の1例—緊急MRIの有用性

著者: 尾上亮 ,   井川房夫 ,   大林直彦 ,   今田裕尊 ,   日高敏和 ,   鮄川哲二

ページ範囲:P.663 - P.668

Ⅰ.はじめに
 くも膜下出血subarachnoid hemorrhage(以下SAH)診断のガイドラインによると,CTおよび髄液検査ともに陰性であればSAHは否定される.
 今回われわれは,CTおよび髄液検査とも陰性であった症例に対し,緊急fluid attenuated inver-sion recovery image(以下FLAIR)を施行しSAHと診断することができ,さらにmagnetic reso-nance angiography(以下MRA),拡散強調画像diffusion weighted image(以下DWI)と灌流強調画像perfusion weighted image(以下PWI)が脳血管攣縮と脳虚血の評価にも有用であった亜急性期SAHの1例を経験したため,若干の文献的考察を加え報告する.

後大脳動脈解離—症例報告および文献学的考察

著者: 川原一郎 ,   日宇健 ,   鬼塚正成 ,   戸田啓介 ,   馬場啓至 ,   米倉正大

ページ範囲:P.671 - P.675

Ⅰ.はじめに
 若年脳卒中の原因として脳動脈解離は重要であり,とりわけ本邦においては欧米とは異なり椎骨脳底動脈系が多いのが特徴である.その中でも後大脳動脈領域の解離は比較的稀ではあるが,MR画像の進歩により近年散見されるようになった8,11,12).今回われわれは,虚血にて発症した右後大脳動脈(PCA)の解離性病変の症例を経験したので,渉猟し得た28症例と合わせて文献的考察を加えながら本疾患の特徴,病因,診断,治療の現状等について考察する.

脳浸潤を伴った副鼻腔原発の悪性腫瘍に対し集学的治療を施行した1例

著者: 金相年 ,   鰐渕昌彦 ,   南田善弘 ,   八巻稔明 ,   田邊純嘉 ,   宝金清博

ページ範囲:P.677 - P.682

Ⅰ.はじめに
 鼻腔,または副鼻腔原発の悪性腫瘍(sinonasalcarcinoma)は全悪性腫瘍のうち,1%にも満たない非常に稀な腫瘍である3).Sinonasal carcinomaの初期症状としては鼻水,頭痛,嘔気などの風邪様症状や,疼痛,鼻出血というような症状が多い3).またsinonasal carcinomaのうち,約60%はsqua-mous cell carcinoma(SCC)であるといわれている.SCC以外には,腺癌,肉腫,神経芽腫,未分化癌などが含まれ,特に未分化癌(sinonasal un-differentiated carcinoma;SNUC)は非常に予後不良な疾患であり,しばしば頭蓋内,もしくは眼窩内へ浸潤し,時には遠隔転移も伴うことが知られている5).SNUCが初めて認識され,また1つの疾患として捉えられたのは1986年のことである16).現在のところ,標準的な治療法はないが,外科的切除,化学療法8,14),放射線照射を組み合わせた集学的な治療が適していると考えられている14).しかし,集学的治療を施行しても,平均生存期間は1年にも満たず,非常に予後不良な疾患である14).このため以前は施行されていなかったが,近年,脳浸潤しているものに対しては放射線照射や化学療法に反応を示すものに対して手術がなされるようになってきている.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・12(最終回)

腫瘍(4)末梢神経腫瘍,下垂体腫瘍,頭蓋咽頭腫および上皮性嚢胞性病変

著者: 船田信顕

ページ範囲:P.683 - P.690

Ⅰ.はじめに
 「脳外科医に必要な神経病理の基礎」も最終回となった.今回は,末梢神経腫瘍,下垂体腫瘍,頭蓋咽頭腫を中心に解説するが,その他にもふれることができなかった脳外科医の扱う腫瘍および腫瘍様病変は多い.

特別寄稿

適正な「電子カルテ」について—診療録および電子カルテに関する規定の解説

著者: 安達直人

ページ範囲:P.693 - P.696

Ⅰ.緒言
 IT化に伴い医療機関においても電子カルテの導入が進んでいる.しかし医療機関の「診療録」に対する認識は希薄で,不適切と思われる電子カルテを稼働させている機関もあると聞いている.学術的に完成度が高く,あるいは診療において使い勝手の良い電子カルテであっても,法令を遵守していないシステムであれば,違法となるばかりか保険上の診療報酬も請求できない.本稿では診療録に関する法令(医師法,医療法,保険医療機関及び保険医療養担当規則等)ならびに電子カルテに関連する通知を簡潔に説明し,適正な「電子カルテ」の基本的事項を解説する.
 日常診療で多忙な脳神経外科医(病院・診療所の管理者を含めて)に,法令上の診療録とは何かを改めて認識していただき,電子カルテを現在稼働させている機関,あるいはこれから導入する機関の開設者,管理者の役に立てていただければ幸いである.

座談会

臨床研修必修化:現状と諸施設の対応について

著者: 伊東洋 ,   嘉山孝正 ,   田原克志 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.699 - P.708

 医師国家試験合格後の2年間の研修について,医師法では臨床研修をするものとした努力規定であったが,来る2004(平成16)年より必修化されることとなった.卒後研修は将来の医師の有り方を決定する重大な研修として位置付けられている.臨床研修プログラムの内容や研修医の身分・処遇等に関する現在の議論状況や,必修化に関する疑問・懸念事項,また,予想される必修化の影響等をテーマに,座談会形式でお話しいただいた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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