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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科31巻8号

2003年08月発行

雑誌目次

数えられない死—平和と人権

著者: 若井晋

ページ範囲:P.847 - P.848

 敗戦後まもなく安部能成は雑誌世界に寄稿した一文に寄せて新生日本を論じて曰く,「武力を有するものは武を涜し,力を有する者は力に溺るるを免れない,武力なく権力乏しきものにも,文化を培い道義に起つことは許される.この道以外に日本の生きるべき道はない.而もこの道こそ,本当は国家の生き行く栄光の道ではないか.真実を認識し,真実に堪え,知慧の光に導かれ,強く正しく,じっくりと歩みゆく日本の前途に光明あれ」と訴えた(『世界』1946年1月号).
 新憲法が公布されたのはその後まもなくのことであった.軍国主義日本が滅び,戦争に反対し弾圧されていた多くの知識人,活動家,宗教者(キリスト者,仏教徒など)が解放され一斉に発言を開始した.それから五十有余年が経過し,第九条はなし崩し的空洞化により自衛隊(日本軍)の海外派兵は日常化してしまった.日米軍事同盟によって,日本は米国の腰巾着となっている.

総説

脳幹部海綿状血管腫の外科治療

著者: 宮澤隆仁 ,   ,  

ページ範囲:P.851 - P.866

Ⅰ.はじめに
 近年のMRIの発展と普及の結果,脳海綿状血管腫(cavernous malformation;以下CM)の診断率は急速に向上している.その中でも脳幹部海綿状血管腫(brainstem cavernous malformation;以下BCM)は,解剖学的理由により少量の出血でも神経症状を発現しやすく,また出血率および再出血率が他の部位のCMに比較して高いことより,臨床的にテント上CMとは別に扱う必要がある4,12,26,36,50,71,82,83,91,123,125)
 脳神経外科学創世紀の頃,脳幹部はno-man'slandと言われ,手術禁忌とされた部位であり,現在でもその手術は挑戦的かつ困難である.1928年DandyによりBCMの手術成功例が世界で初めて報告され25),その後約200例のBCM手術例が報告された.本邦では,1983年黒岩ら54)が邦文論文を,1986年Yoshimoto and Suzuki124)が英文論文をそれぞれ報告している.その後,1990年代にBCMの高い再出血率を示したうえで,積極的手術を勧める臨床研究論文が相次いで発表されたが7,12,20,30,35,60,67,71,82,83,91,96,103),BCMの自然歴と手術適応についてはいまだ議論が多い.

解剖を中心とした脳神経手術手技

側頭骨錐体部経由アプローチの選択と注意点

著者: 河野道宏 ,   浅岡克行 ,   澤村豊

ページ範囲:P.871 - P.882

Ⅰ.はじめに
 神経耳科においての側頭骨部分削除は,1960年代より基本的なアプローチとして普及しており,前庭神経鞘腫に対してはtranslabyrinthine approachかmiddle fossa approachが繁用されてきた1,2,8,12,13,15,18,19,26,31,32,34).一方,脳神経外科においては,同腫瘍に対してはもっぱらlateral suboccipitalapproachが広く用いられてきたが4,5,23),近年では,前庭神経鞘腫のみならず髄膜腫など様々な小脳橋角部・テント切痕・斜台後方病変などに対して,側頭骨錐体部経由アプローチが用いられる機会が増加してきている.
 理想的には,側頭骨錐体部経由のすべてのアプローチに精通したうえで,おのおのの症例に応じて適切な進入法を選択して手術することが望ましいが,現実的には容易なことではない.また細かな点でのバリエーションは多く,最も適切で最低限の侵襲に止める手術方法の選択には迷うことも少なくない.

研究

脳神経外科領域における静脈血栓塞栓症

著者: 松重俊憲 ,   木矢克造 ,   佐藤秀樹 ,   溝上達也 ,   香川幸太 ,   荒木勇人

ページ範囲:P.885 - P.889

Ⅰ.はじめに
 肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:以下PTE)および深部静脈血栓症(deep venousthrombosis:以下DVT)は近年増加傾向にあるといわれるものの,その実態は未だ不明である.アメリカでの発症頻度が100万人対270人〜400人であるのに対して,本邦では100万人対28人と比較的稀な疾患と考えられており6),認識が低いことがひとつの要因であろう.一方で,本邦の死亡診断書におけるPTEによる年間死亡数は1,700人とされ,ここ10年間で約3倍に増加している7).近年の疾病構造の欧米化に伴い,PTEおよびDVTは今後,重篤な合併症として増加することも予想され注意を払う必要がある.今回,われわれは脳神経外科領域でのPTEおよびDVTの特徴を明らかとするため,過去6年に経験した8症例について臨床的検討し,文献的考察を加え報告する.

Radiosurgery時代の無症候性髄膜腫に対する治療

著者: 岩井謙育 ,   山中一浩 ,   森川俊枝 ,   石黒友也 ,   本田雄二 ,   松阪康弘 ,   小宮山稚樹 ,   安井敏裕

ページ範囲:P.891 - P.897

Ⅰ.はじめに
 無症候性髄膜腫は,MRI等の画像診断の進歩と脳ドックの普及によりその頻度は増加している16,18).無症候性髄膜腫の治療方針については,必ずしも手術摘出が必要ない場合もあると思われ,その自然経過を含めて検討する必要がある.無症候性髄膜腫の腫瘍増大率については,経過観察期間の違いはあるが222〜77.8%との様々な報告がある9,14,20).また,近年,低侵襲な治療であるradiosurgeryの髄膜腫に対する有用性が,その長期成績を含めて明らかになってきている2,7).そこでわれわれは,ガンマナイフを使用可能な当院における無症候性髄膜腫に対する治療成績を検討した.

症例

顔面痙攣に対する微小血管減荷術後に帯状疱疹ウイルスの再活性化により遅発性顔面神経麻痺を来した1例

著者: 古川浩次 ,   酒向正春 ,   久門良明 ,   寺岡幹夫 ,   大田信介 ,   大上史朗 ,   羽藤直人 ,   大西丘倫

ページ範囲:P.899 - P.902

Ⅰ.はじめに
 顔面痙攣に対して微小血管減荷術(microvascular decompression;MVD)を行った後,遅発性に同側の顔面神経麻痺が起こることは知られているが,比較的稀であり,その原因について詳細に検討した報告は少ない.今回われわれは,微小血管減荷術後10日目に遅発性顔面神経麻痺を来し,その原因が帯状疱疹ウイルスの再活性化と考えられた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

孤発性脳転移を来した甲状腺髄様癌の1例

著者: 三上毅 ,   丹羽潤 ,   久保田司 ,   千葉昌彦

ページ範囲:P.905 - P.909

Ⅰ.はじめに
 甲状腺髄様癌は全甲状腺癌の約1〜2%で,欧米よりも頻度が低い18).散発性に発生する場合と多発性内分泌腺腫症(MEN type 2)のように家族性に発生する場合があり,わが国では約2/3が散発性である18).約2/3は甲状腺内に限局し,頸部リンパ節転移はしばしばみられるが遠隔転移は少ない11).一度広がると縦隔へ浸潤していく傾向はあるものの,頭蓋内への遠隔転移は非常に稀である4,19).文献的には甲状腺髄様癌の脳転移は8例報告されているにすぎず,臨床経過に関しての詳細は不明な点も多い.今回われわれは孤発性に脳転移を来した甲状腺髄様癌を治療する機会を得たため,若干の文献的考察を加え報告する.

Radiosurgery直後に腫瘍出血を生じた転移性脳腫瘍の1例

著者: 内野正文 ,   北島悟 ,   宮崎親男 ,   大塚隆嗣 ,   清木義勝 ,   柴田家門

ページ範囲:P.911 - P.916

Ⅰ.はじめに
 転移性脳腫瘍に対するStereotactic Radiosur-gery(SRS)はその高い局所制御率,生存率の延長,QOLの向上が得られることより,多くの症例で治療の第一選択となっている.
 また照射に伴う放射線壊死や脳浮腫といった重篤な合併症は晩期に生じるものがほとんどで,中間生存期間が1年未満の転移性脳腫瘍患者に対しては特に深刻なものとは考えられておらず,SRSは安全に施行できる治療と考えられている.しかし,今回われわれは照射直後に生じた症候性の腫瘍出血(peri-tumoral hemorrhage)を経験したので,文献的考察を加え報告する.

How I Do It・5

症例:Hypervascular frontal falx meningioma

著者: 藤津和彦 ,   川原信隆 ,   甲村英二 ,   齋藤清 ,   永谷哲也 ,   宮地茂 ,   吉田純

ページ範囲:P.919 - P.930

症例提示
症例 37歳 女性
主訴 拍動性頭痛

連載 脳外科医に必要な臨床神経生理の基礎・2

経皮磁気刺激による脳機能マッピング

著者: 藤木稔 ,   古林秀則 ,   上田徹

ページ範囲:P.933 - P.937

Ⅰ.はじめに
 経皮磁気刺激あるいは経頭蓋磁気刺激(Tran-scranial magnetic stimulation;TMS)は,非侵襲的に大脳運動野を刺激すべく1985年Barker ATにより開発された.TMSの重要性は,覚醒したヒトの脳を非侵襲的に刺激し形態的情報(運動野の経頭蓋的同定)を得るにとどまらず,これに機能的情報を加味した議論を付加できる点にある.これは運動誘発電位(motor evoked potential;MEP)の概念が導入されたために他ならない4,7)
 ところが開発当初は円形コイルによる広範囲な刺激のみが可能であったことが災いして脳機能のマッピングへの応用は8の字型コイルによる局所刺激が可能になってからのことである.それでも本法が脳機能マッピングのカテゴリーに入りにくかったのは,脳から記録される反応を記録部位にマップするのではなく,脳を刺激して得られる筋反応(MEP)を頭皮上にマップするという半ば強引な手法を用いざるを得なかったからといえよう.

医療経済

特定機能病院における入院医療の包括評価(Diagnosis Procedure Combination:DPC)の概要について(第2報)—診断群分類と決定方法について

著者: 安達直人

ページ範囲:P.940 - P.941

 第1報(第31巻5号:594-595,2003)では,包括評価の概要について解説した.前回述べたように,該当する特定機能病院に勤務している脳神経外科医にとって,この評価請求方法を熟知してくことは必要不可欠である.それ以外の脳神経外科医にとっては不必要と思われるかもしれないが,種々の観点から包括評価の具体的内容に対して理解認識することは重要である.
 第2報では,包括評価による保険請求の機会を得ない脳神経外科医にご理解をいただくため,点数請求と直結し,かつ算定の基本となる「診断群分類およびその決定方法」について解説する.包括評価の点数算定や請求点数の決定などについては,追って報告させていただければと思う.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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