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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科32巻1号

2004年01月発行

雑誌目次

NBM(narrative based medicine)

著者: 新井一

ページ範囲:P.3 - P.4

 EBM(evidence-based medicine)なしには夜も明けぬといった感のある昨今の医療界であるが,読者諸氏はNBM(narrative based medicine)という言葉をご存知だろうか.最近,医療のあり方や医師と患者の関係などが論じられる際に,しばしばEBMと対比されもるのとして登場するNBMであるが,これは決して新しい概念ではない.1980年代の半ばに医療における“物語”(narrative)の重要性が注目され,それ以降,医師だけでなく看護師,社会科学者,哲学者などを巻き込み,医療を実践していくうえでの1つの方法論として成熟してきたものがNBMである.このNBMを理解するために,最近「ナラテイブ・ベイスト・メデイスン 臨床における物語りと対話」(編集:トリシャ・グリーンハル,ブライアン・ハーウイッツ,監訳:斉藤清二,山本和利,岸本寛史.金剛出版,2001)を読んだ.NBMの導入書ともいえるこの著書の内容は多岐にわたり,一言で要約するのは困難であるが,個々の患者にはそれぞれの“物語り”(narrative)があり,医師はこれを尊重し患者に接する必要があるというのがその基本的な主張である.

 現代の“科学として医学”を患者のために用いようとするならば,われわれ医師は患者の“物語り”を抽出して「病歴」という医学化された物語に変換しなければならない.そして,その「病歴」に基づき必要な検査を選択し,これを行い,得られたデータを根拠にEBMの手法にのっとり診断と治療を行っていくのである.しかし,このような手法によってもたらされる弊害として,以前より指摘されていることではあるが,患者不在・データ重視の医療がはびこるという問題がある.データ重視の医療がいき過ぎると,患者は人間として扱われず,個人としても尊重されることはなくなり,場合によっては患者の苦しみが増すことさえある.NBMでは,医師は時間をかけて患者の語る“物語り”を傾聴しなければならない.そして,医師と患者との間に良好な関係が築かれたところで,個々の患者の心と身体両方に目を向けた“patient-centered”な医療が実践されるべきなのである.患者の語る“物語り”は,患者がどのように,どんな理由で,どんなふうに病んでいるかを示すのであって,それは患者のすべての病歴が収められた電子記録カードとは比べものにならないほど多くの情報をわれわれに提供するということを医師は知る必要がある.

総説

家族性もやもや病の臨床像と最近の研究の動向

著者: 難波理奈 ,   黒田敏 ,   石川達哉 ,   多田光宏 ,   宝金清博 ,   岩崎喜信

ページ範囲:P.7 - P.16

 Ⅰ.はじめに

東アジアに特異的に多く発生するもやもや病の病因は現在も不明であり,厚生労働省の研究班が全国的なレベルでの研究を推進している.発生の要因としては,これまでに感染症や遺伝子異常が指摘されているが,本疾患の約15%には家系内発症が存在し,近年のMRAなど非侵襲的な検査の発達により増加傾向にあるとされている.その点から,現在は家族性もやもや病の遺伝子異常を検索することにより,疾患発生の原因を特定しようとする研究が,特に精力的に行われている.

 しかしながら,これまで家族性もやもや病の臨床像を詳細に検討した報告は意外と少なく,単発的な報告がほとんどである.遺伝子異常を検索するに当たっては,家族内発症の臨床像を的確に把握することが極めて重要である点からも,その必要性は高いと考えられる.しかし,過去,家族性もやもや病の報告のほとんどは日本語論文でなされ,現在,Medlineで検索できないものも多いのも事実である.したがって,本疾患の原因遺伝子の検索と平行して,今一度,過去に報告された家族性もやもや病をレビューして,その臨床像を明らかとすることは,今後の研究に当たっても重要であると考えられる.

 以上の経緯より,本総説では,国内外で報告された家族性もやもや病の症例をすべて抽出して,その臨床像を明らかにするとともに,本疾患における最近の遺伝子研究の動向を概説する.

研究

薬剤耐性遺伝子発現を基に化学療法を施行した胚細胞性腫瘍の検討

著者: 國塩勝三 ,   岡田真樹 ,   三宅啓介 ,   松本義人 ,   長尾省吾 ,   西山佳宏 ,   大川元臣

ページ範囲:P.19 - P.26

 Ⅰ.はじめに

頭蓋内胚細胞性腫瘍(GCT)の治療として,視床下部-下垂体機能障害,高次機能障害などの放射線照射による障害を回避するため,シスプラチンなどを中心にした化学療法と放射線量および照射範囲を縮小した放射線治療の併用療法が行われるようになってきた15,20,26).胚腫においては化学療法単独では再発例も比較的多く,化学療法のみでは限界があると考えられている3,5,14).この原因の1つには,血液脳関門での抗癌剤透過性の問題,さらに個々の腫瘍における薬剤耐性の相違が考えられる.作用機序の異なる複数の薬剤に耐性を獲得する機構を多剤耐性というが,この原因遺伝子としてこれまでmultidrug resistance gene(MDR1),multidrug resistance-associated protein(MRP)1,MRP2,MRP3,MRP4,MRP5,mito-xantrone resistance gene(MXR1),O6-methylguanine DNA methyltransferase(MGMT)およびglutatione S-transferase-pei(GST-π)などが同定されている2,4,6,9,11,13,17,21,22,23,30).脳腫瘍,特に神経膠腫におけるこのような薬剤耐性遺伝子の検索は数多くみられる4,19,22,23,30)ものの,頭蓋内GCTにおける薬剤耐性遺伝子検索に関する報告は文献上みられない.

 一方,心筋血流製剤として開発された99mTc-hexakis-2-methoxy- isobutyl-isonitrile(MIBI)は,脳腫瘍においても201Tl-chloride(Tl)と同様親和性を示し高画質な集積が得られ,多剤耐性のイメージング剤としても注目されている1,16,31).すなわち,ある種の抗癌剤を細胞内から排出するポンプとして働くMDR1遺伝子産物のP糖蛋白がMIBIを細胞外へ排泄すると考えられており,MIBIの集積・排泄は薬剤耐性と関連し,肺癌,乳癌などの悪性腫瘍の化学療法における効果予測にMIBI-SPECTの所見が有用であるといわれている16,25)

 今回,われわれは2例のGCTにおいて薬剤耐性遺伝子の発現結果を参考にして抗癌剤を選択した化学療法を施行し,さらにMIBI-SPECT所見と薬剤耐性遺伝子発現との関連性についても検討したので報告する.

頭頸部主幹動脈ステント留置術後のヘリカルCTによる評価―血管造影所見との比較検討

著者: 原田啓 ,   中原一郎 ,   田中正人 ,   岩室康司 ,   渡邉芳彦 ,   藤本基秋

ページ範囲:P.29 - P.35

 Ⅰ.はじめに

頭頸部主幹動脈に対するステント留置術後の問題点として再狭窄がある.非侵襲的にステント留置後の再狭窄や内膜過形成,血栓形成を評価する方法として頸部エコー,MRAがあるがいずれも欠点や評価の限界がある2,4,5,7-9).今回,頭頸部主幹動脈ステント留置術後にヘリカルCTで評価した症例に対し,同時期に行った脳血管撮影所見と比較検討を行った.

症例

髄液漏で発症した蝶形骨洞脳瘤の1手術例

著者: 武田勝 ,   太田原康成 ,   阿部深雪 ,   小笠原邦昭 ,   小川彰 ,   黒瀬顕 ,   千葉明善

ページ範囲:P.37 - P.41

 Ⅰ.はじめに

頭蓋底に発生する脳瘤は,出生35,000に対して1の発生率と報告されている稀な疾患である21).今回われわれは,髄液漏で発症した蝶形骨洞脳瘤の1手術例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

脊柱管内に進展した胸椎海綿状血管腫の1例

著者: 空閑太亮 ,   庄野禎久 ,   宮園正之 ,   佐々木富男

ページ範囲:P.43 - P.47

 Ⅰ.はじめに

Vertebral hemangioma(VH)は良性の血管性腫瘍であり,椎体内の様々な部位に発生する3).そのほとんどは症状のない,いわゆる無症候性血管腫(asymptomatic VH)であり,特に治療を必要としない.しかし,稀に増大し,脊髄や神経根を圧迫して背部痛やradiculopathy,myelopathyを呈するもの(compressive VH)があり,積極的な治療を必要とすることがある6,7).今回われわれは,椎体から脊柱管内に進展し脊髄圧迫症状を呈した,いわゆるcompressive VHを経験した.海外の文献においてはcompressive VHについていくつかの報告がみられるが,本邦においてはほとんど報告されていない.そこでわれわれの経験したcompressive VHの1症例を報告し,その臨床症状,検査所見,治療について考察する.

症候性巨大ラトケ囊胞に両側内頸動脈瘤を合併した1例

著者: 天野貴之 ,   梶原浩司 ,   原田克己 ,   吉川功一 ,   秋村龍夫 ,   加藤祥一 ,   藤井正美 ,   藤澤博亮 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.49 - P.54

 Ⅰ.はじめに

ラトケ囊胞は胎生期のRathke's pouchの遺残より発生する非腫瘍性鞍内囊胞である.正常人で剖検時11~22%の頻度で認められるとの報告がある.稀な疾患であるといわれていたが,MRI,CTなどの画像の進歩によって近年少なからず報告されるようになってきた.しかしながら,症候性ラトケ囊胞に脳動脈瘤を合併した症例の報告は数例のみであった1,5,9,10)

 今回われわれは,症候性ラトケ囊胞に両側内頸動脈瘤を合併した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

8年の経過で脳膿瘍の再発を来した先天性肺動静脈瘻の1例

著者: 塩屋斉 ,   菊地顕次 ,   須田良孝 ,   進藤健次郎 ,   橋本学

ページ範囲:P.57 - P.63

 Ⅰ.はじめに

肺動静脈瘻は肺内の動脈と静脈の異常短絡であり,先天性の血管異常が原因と考えられている15).その多くは皮膚・粘膜の多発性毛細血管拡張,その部位からの頻回の出血,家族性発症を三主徴とするRendu-Osler-Weber病(以下ROW病と略す,遺伝性出血性毛細血管拡張症)に合併するとされている15)

 今回,ROW病の所見はなかったが,8年の経過で脳膿瘍を繰り返し,精査の結果先天性肺動静脈瘻が認められた1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Pial single-channel cerebral AVFの1例

著者: 大宅宗一 ,   茂野卓 ,   熊井潤一郎 ,   松井雅樹

ページ範囲:P.67 - P.72

 Ⅰ.はじめに

Cerebral arteriovenous fistula(AVF)とは,頭蓋内の動脈と静脈の間においてcapillary networkやtrue nidusが介在せず,fistulaという異常交通を持つ病態である.AVMとは異なるものとして比較的最近認識されてきたばかりで,その自然歴および適切な治療に関しては確立されておらず5,14),その発症頻度は非常に低いとされている.硬膜内にfistulaを持ち,硬膜に分布する主に外頸動脈系の動脈を流入動脈とするdural AVFとは異なり,cerebral AVFは内頸動脈系の脳実質を灌流する動脈を流入動脈とする,脳静脈とのfistulaである.小児に多いことも指摘されており,ガレン大静脈瘤との関連が最も知られている16).またRendu-Osler-Weber病2,3,6),Klippel-Trenaunay-Weber病10),Ehlers-Danlos症候群11),Neurofibromatosis type 17)などとの関連もいわれている.原因としてcongenitalあるいはtraumaticな因子が検討されているが未だはっきりしない1)

 このcerebral AVFのうち1本ないし複数本のpial,あるいはcortical arteryを流入動脈とし,1本の静脈を流出静脈とするものをpial single-channel AVFという4,5).拡張したperimedullary veinを認めることが多いといわれている.脳動静脈奇形に占めるpial single-channel AVFの割合は非常に低く,1.6%との報告がある4).しかし頭蓋内出血を来した場合には重篤な症状を呈することが多く,63%が死亡したとの報告がある8)

 今回われわれは,60歳男性に小脳出血にて発症したpial single-channel AVFを経験し手術加療を行った.このpial single-channel AVFが中でも後頭蓋窩に発生することは極めて稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

超音波カラードップラー法が診断に有用であった,jugular phlebectasiaの1症例

著者: 七戸秀夫 ,   黒田敏 ,   石川達哉 ,   岩崎喜信

ページ範囲:P.75 - P.78

 Ⅰ.はじめに

Jugular phlebectasiaは,頸部腫脹で発症する極めて稀な疾患で,原因不明の内頸静脈の拡張を呈する良性の疾患である.しかし,その報告は耳鼻咽喉科,小児外科などからがほとんどで,脳神経外科関連領域では報告されていない.頭頸部領域のため脳神経外科医が診察する機会も多いと考えられるが,この疾患はMRI所見などから頸部腫瘍と誤診されることも少なくないため,注意が必要である.今回われわれが経験した症例も診断の確定に苦慮したが,頸部超音波検査がその特徴的なカラードップラー所見により非常に有用であったので,文献的考察を交えて報告した.

連載 定位脳手術入門(2)

定位脳手術のための解剖学

著者: 中野勝磨

ページ範囲:P.81 - P.87

 Ⅰ.はじめに

大脳基底核は線条体(尾状核と被殻),淡蒼球,黒質,視床下核(STN),および脚橋被蓋核(PPN)から成り,古い記載では前障と扁桃体も加えられている.扁桃体は多種の感覚情報を受け,報酬に対して価値があるか評価し,辺縁系機能に重要な役割を果たしている.また前障は大脳皮質の種々の領域と相互に連絡しているが,機能は十分にわかっていない.定位脳手術にとって重要な脳の領域は,大脳基底核,大脳皮質,視床,小脳であり,本稿では大脳基底核の解剖を中心に記載する.

医療経済

特定機能病院における入院医療の包括評価(Diagnosis Procedure Combination : DPC)の概要について(第6報)―「非外傷性頭蓋内血腫」における医療行為別の包括評価点数比較

著者: 安達直人

ページ範囲:P.92 - P.96

 Ⅰ.はじめに

第1報から第3報では,特定機能病院における入院医療の包括評価における概要,診断群分類の決定方法,包括評価点数の算定方法のそれぞれについて述べ,第4報と第5報では「脳腫瘍」「くも膜下出血・破裂脳動脈瘤」の診断群分類における医療行為別の包括点数の比較を示した.

 本報では,いわゆる脳出血疾患を対象とした「非外傷性頭蓋内血腫(非外傷性硬膜下血腫以外)」を例にして医療行為の違いにより,診断群がどのように振り分けられ,さらにどれだけ請求点数が異なってくるか比較検討する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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