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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科32巻11号

2004年11月発行

雑誌目次

建前と本音,理想と現実

著者: 脇坂信一郎

ページ範囲:P.1101 - P.1102

 昨年は多くの旧医科大学が他大学と合併統合し,新生大学医学部として出発することになった.統合に至る前は,当大学においても当初は統合の是非を巡って激論があったが,いわゆる遠山プランが出て締め付けが厳しくなり,統合を前提としてその中でメリットを模索せざるを得なくなった.確かに単科大学であるよりは,総合大学では他学部との人的交流も深まり,学際的な研究・教育も可能となる.当大学では統合の理念のひとつとして「生命科学」を打ち出し,そのための学際的な研究センターを設立した.しかしながら,統合後1年近く経った今,まだ統合の過渡期とはいえ何やらぎくしゃくしたものを感じている.統合のためのワーキンググループ討議の際にも感じたことだが,それぞれの大学はそれぞれ創立以来の伝統を持っており,一方が持つ常識は必ずしも他者にはあてはまらない.組織の改編や人員配置も,必ずしも整合性が取れているようには思えず,医学部事務職員のかなりの人員が本部に吸い上げられ,統合のもくろみのひとつとも思える人員削減もからまって残った者は過重労働を強いられている.

 本年4月からは大学も法人化され国立大学法人となった.法人化による大学の自由裁量権の拡大が謳われているが,中期目標・中期計画を掲げ,その達成度の評価を受けねばならず,そのためデスクワーク量は飛躍的に増大し,会議・委員会も増えた.学長をはじめとする大学評議会・理事会の権限が強化され,これまでは医学部教授会を中心として医学部キャンパス内で自己完結していた人事や予算なども,全て本部の決済を待たねばならない.さらに法人化により労働基準法が適用されることになって事態は複雑化した.医師が労働者であるかどうかの議論は別として,素直に考えれば現在の病棟勤務の実態は労働基準法違反の疑いがある.労働基準法の説明を聞いて驚いたが,当直医・宿直医は連絡事務に徹して病棟・外来業務を行ってはならず,もし行った際には翌日は休暇を取らねばならぬという.今でさえ少ないマンパワーでやりくりしているのに,これをそのまま受け入れるのは到底不可能である.事務職員,技師,看護師には労働基準法による超過勤務手当が検討されているが,もともと大学医学部教員は,附属病院所属であっても教育職としての給与体系に組み込まれており,日常当然のように行われている診療業務による超過勤務は給与には反映されない.法と実態との摺り合わせに苦慮するところである.

総説

覚醒下脳神経外科手術―特に術中functional mappingを中心として

著者: 三國信啓

ページ範囲:P.1105 - P.1115

 Ⅰ.はじめに

近代脳神経外科手術法としての覚醒下脳神経外科手術の最初の記載は,1886年のSir Victor Horsleyによるてんかんの治療であった16).皮質の電気刺激を行っているが,当時は脳波記録の技術はなく焦点診断のために電気刺激を用いたようである.1860年から1870年にかけてBrocaやWernickeによって言語機能領域が発見され,大脳において機能局在が存在することが明らかになってきた時代である.

 その後1950年代になり,コデインなどの鎮静剤を鎮痛剤に適宜組み合わせることにより,全身麻酔から必要なときだけ覚醒状態に変更できるようになる28,32).この麻酔法を用いてPenfieldらは電気刺激による部位別運動感覚支配領域を詳細に報告している29-31).その局在はBrodmannが報告した大脳皮質の細胞構築による47野の分類と綿密に相関しており,現在でも広く用いられている(Fig. 1).

 1960年代になると,NLAが導入されて気管挿管することなく覚醒下手術が可能になった.主に難治性てんかんの治療においては,覚醒下手術が有効な麻酔法として確立され1,24),術中皮質刺激による言語関連野の同定など新たな知見が得られた27).しかしながら,麻酔管理の危険性や患者への負担が大きく,広く普及するには至らなかった.一方で,てんかんの焦点検索のために硬膜下電極留置が可能となり,病棟で十分な検査時間をとって皮質電気刺激や準備電位記録を行い,運動や言語に関する新たな関連野が同定された19-22)(Fig. 2).

 1992年には,プロポフォールによる静脈麻酔を併用した覚醒下開頭手術が報告された34).この麻酔法は,覚醒時の意識の回復が速やかで,さらに悪心・嘔吐が出現しにくいことから覚醒下開頭手術に適している12,17).ここ十数年の間に,術中覚醒下に脳電気刺激による脳機能マッピングを行い,さらに摘出に際して神経機能評価を行う手技が確立された2,4,11,15,36,37).このような麻酔法と電気刺激法の進歩に伴い,覚醒下開頭手術はその臨床的有用性が認められ広く普及しつつある.

解剖を中心とした脳神経手術手技

神経内視鏡支援による脳動脈瘤手術

著者: 木内博之 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.1117 - P.1130

 Ⅰ.はじめに

脳神経外科手術は,顕微鏡の普及に伴いmicroneurosurgeryとして飛躍的な進歩を遂げ,現在に至っている1-7,9,11,16-20).しかし,手術用顕微鏡は,照明と術者の視線の光軸が一致しているため,脳深部,特に骨性および神経構造物が入り組んでいる頭蓋底では,アプローチの方向により,死角となり観察できない部位が発生することは否めない.その欠点を補うものとして導入されたのが,神経内視鏡である.その利点としては,脳深部の構造物に到達するのに十分な照明が提供できること,微細な点を拡大できること,さらに,視野の拡大,特に顕微鏡の死角の描出の3点に集約される4,16)

 1977年,Apuzzoらは,脳神経外科手術にはじめて側視の硬性内視鏡を導入し,顕微鏡手術後の死角部位の確認を行い,深部に存在する脳底動脈瘤における有用性を報告した1).それ以降,顕微鏡手術の欠点を補うという点で内視鏡が有用であるとの報告が散見される.さらに近年では,内視鏡の支持装置の発達に伴い,手術前後の確認にとどまらず,顕微鏡術野に内視鏡を同時に導入し,両方をモニターし双方の情報を統合しながら手術を行う方法も広まりつつある.

 本稿では,現在われわれが用いている顕微鏡と内視鏡の同時モニターも含めた内視鏡支援による脳動脈瘤手術の実際について,解剖学的側面も交えて述べる.

研究

血液透析患者における脳出血合併例の臨床的検討

著者: 池田耕一 ,   土持廣仁 ,   岳野圭明 ,   保田宗紀 ,   福島武雄 ,   豊田一則

ページ範囲:P.1133 - P.1137

 Ⅰ.はじめに

近年,血液透析における技術的な進歩により患者の予後が飛躍的に向上した.それに伴い合併症が問題となっており,脳血管障害は,心疾患,感染症,悪性腫瘍に次いで死亡原因の第4位(7.4%)13)を占めている.今回われわれは,血液透析患者に合併した脳出血患者の臨床像についてretrospectiveに解析し,予後因子および治療方針について検討した.

症例

遅発性出血を呈した外傷性中硬膜動脈偽性動脈瘤による硬膜外血腫の1例

著者: 木下良正 ,   安河内秀興 ,   津留英智 ,   奥寺利男 ,   横田晃

ページ範囲:P.1139 - P.1143

 Ⅰ.はじめに

 硬膜外血腫は通常,頭蓋骨骨折を伴い中硬膜動脈の断裂による疾患で緊急手術を要する場合がほとんどであるが,時に保存的に経過をみる症例がある8).特に外傷性中硬膜動脈偽性動脈瘤の破裂による頭蓋内出血は受傷後数日して発症することがあり11),医療訴訟の観点からも中硬膜動脈偽性動脈瘤の有無の診断は重要である.しかし,最近では硬膜外血腫で脳血管撮影が行われる症例は減少しており,術前に外傷性中硬膜動脈偽性動脈瘤が診断される症例は少なくなっている.われわれは急性硬膜外血腫にて入院し経過観察中硬膜外に遅発性出血を認め,興味ある画像所見を呈した症例を経験したので報告する.

マルチスライスCT撮影による虚像として脳の中心部に微小出血様の変化が出現した頭部外傷の1例

著者: 柳川洋一 ,   阪本敏久 ,   岡田芳明

ページ範囲:P.1145 - P.1148

 Ⅰ.はじめに

頭部外傷の画像診断には,高速撮影が可能で,患者監視装置が体幹部に装着されていても撮影上影響を与えない頭部CT撮影が欠かせないものとなっている.最近の頭部CT撮影機器の進歩は著しく,マルチスライスもしくは multiple detector helical CTの出現により,細かなスライス幅でより鮮明な画像が瞬時に撮影可能となっている.

 頭部外傷のCT撮影から得られる情報としては,脳挫傷を含めた出血性病変,主病変に伴う浮腫,2次性の虚血性病変,気脳症の評価,骨折や異物の有無などが主たるものである1).頭部外傷の中でも,軸索損傷の診断は頭部CTでは簡単ではないが,脳深部白質を主体とした微小出血が散在することがCT上の診断基準となっている2,4)

 頭部CTは頭部外傷患者の画像診断に欠かせぬものとなってきている.しかし,頭部CTで人体には存在しない虚像が画面上構成されることがあり,これはartifactとして知られているが,画像診断上正しく評価しないと誤診につながってしまう.今回,マルチスライスCTで,検出器の故障により脳の中心部付近に淡いhigh density areaが出現したため,微小出血と誤認したが,後日artifactと確認できた症例を経験した.このartifactの存在を認識していないと,誤診する可能性があり,今後の参考のためにここに報告する.

脳幹梗塞で発見された左鎖骨下-椎骨動脈分岐部動脈瘤の1例

著者: 鈴川活水 ,   鈴木秀斗 ,   藤井隆晴 ,   尾原義悦 ,   大石英則 ,   堀中直明 ,   新井一

ページ範囲:P.1151 - P.1155

 Ⅰ.はじめに

鎖骨下動脈瘤の報告は散見されるが,多くは胸部血管外科医による動脈瘤摘出術成功例1,3-6,8,9)のものである.この症例は脳梗塞で発症したため,脳神経外科病棟に入院された患者であり,瘤内コイル塞栓術により良好な結果が得られたので報告する.

出血を繰り返し術前診断が困難であった後下小脳動脈末梢部に発生した多発性脳動脈瘤の1例

著者: 塩屋斉 ,   菊地顕次 ,   須田良孝 ,   荘司英彦 ,   進藤健次郎

ページ範囲:P.1157 - P.1164

 Ⅰ.はじめに

後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery : PICA)が椎骨動脈から分岐した後の末梢部に発生する脳動脈瘤(distal PICA AN)は全脳動脈瘤の1%以下とされ比較的稀なものと考えられるが11,13,14,21),さらに同一のPICA末梢部に多発する脳動脈瘤は非常に珍しいとされている.

 今回,1年半の経過で出血を繰り返し,動脈瘤などの血管病変の術前診断で手術に臨んだが,術中所見からPICA末梢部に発生した多発性脳動脈瘤と診断し得た1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Lipomatous髄膜腫の1例

著者: 小野恭裕 ,   浜崎周次 ,   市川智継 ,   伊達勲

ページ範囲:P.1167 - P.1171

 Ⅰ.はじめに

 髄膜腫は比較的頻度の高い脳腫瘍であるが,その中で比較的稀な脂肪組織様変化を伴ったlipomatous髄膜腫をわれわれは経験した.特徴的な画像および組織所見を提示し,渉猟し得た症例の文献的考察を加えて報告する.

How I Do It(8)

症例:ドーパ抵抗性のパーキンソン病

著者: 横山徹夫 ,   橋本隆男 ,   板倉徹 ,   田中賢 ,   山本隆充 ,   片山容一 ,   小林一太 ,   深谷親

ページ範囲:P.1173 - P.1186

提示された症例に対して,2名の回答者に,それぞれ自分が術者となるのであればどのような術式をとるか,その考え方,ポイントなどをご回答いただいた.回答のあとに,実際の治療経過について略述した.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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