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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科32巻12号

2004年12月発行

雑誌目次

医療不信はどうして起こったか

著者: 榊寿右

ページ範囲:P.1199 - P.1200

 今日ほど医療不信がやかましく言われている時代はない.どうしてこのようになってしまったのか.しかしよく考えてみると,“不信”はなにも医療に限ったことではない.これは世の中に広く蔓延してしまっている“自己中心人間の増加”によって引き起こされた重大な社会問題の中の1つにすぎないなのだ.

 数カ月前,NHKスペシャルで医療不信の問題を取り上げていた.そして,NHKのアナウンサーが“なぜ今日,こんなに医療不信になってしまったのか”と繰り返し声をあげていた.修練の不足を言う声もあったが,“誰もがやってはいけないと当然わかっているミスを平然と起こしていることに不信の原因がある”というのが本当の所であろう.しかしその番組に出席していた人たちの中から誰一人,現在の日本に存在するもっと根深い,日本人が忘れ去ってきた根幹的な問題,つまり“やってはならないミスを起こして平然としていられる精神構造への変化”にこそ問題があることを話題にする人はいなかった.

総説

脳神経外科疾患の責任遺伝子解析の概説

著者: 小泉昭夫 ,   山田茂樹 ,   宇都宮真木 ,   井上佳代子 ,   野崎和彦 ,   竹中勝信 ,   岩間亨 ,   鈴木倫保 ,   野村貞宏 ,   依藤純子 ,   山川弘保 ,   阿部雅光 ,   田渕和雄 ,   松田昌之 ,   橋本信夫

ページ範囲:P.1203 - P.1213

Ⅰ.はじめに
 
Human genome project の2000年6月の終了によりヒトのゲノム情報が明らかにされるにつれ,多くの疾患の遺伝的原因も明らかにされた.遺伝子病や癌などの遺伝子の変異により生じる疾患は4,300種以上報告されており,現在特定染色体にマップされたものは約1,400種,原因遺伝子の同定および変異の実体まで明らかにされたものは約800種存在する.

 Table 1に示すように,cavernous angioma は現在まで3つ以上の遺伝子座(CCM16),CCM23),CCM37))が知られており前者については遺伝子も明らかにされている.また,moyamoyaについては,原因遺伝子は不明ながら3つ以上の遺伝子座が報告されている13,14,27,33).脳動脈瘤については,複数の領域が報告されている23,24,34).非全身性の脳に限局する動静脈奇形については,家族性の発症が知られており遺伝的感受性要因(MIM : 108010)の存在が想定されている.そのほかCADASIL (cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infaction and leukoenceph alopathy)1-13)が知られている.ここでは,主として脳に特異的な脳外科疾患群のうち上記に挙げたCADASIL以外の脳血管性疾患について述べる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

てんかんに対する脳神経外科手術手技

著者: 有田和徳 ,   栗栖薫 ,   飯田幸治 ,   青山裕彦

ページ範囲:P.1215 - P.1227

 Ⅰ.はじめに

てんかんの手術療法は,大きく分けて3種類に分類することができる.第1は,発作焦点を切除する切除手術.これには,①単一あるいは隣接する複数の脳回を切除する脳回切除術,②脳葉切除術,③一側大脳半球を切除する半球切除術が含まれる.第2は,発作波の他部位への伝搬を遮断しようとする遮断手術である.これには,交連線維切截術(脳梁離断等),軟膜下皮質多切術(MST),機能的大脳半球切除,定位的Forel-H野破壊術などが含まれる.第3は電気的刺激によるてんかん発作の抑制である.刺激の部位としては小脳,視床前核,尾状核などがある.最近は迷走神経電気刺激,視床下核電気刺激が登場し,その効果が期待されている.

 本稿では,このように多様なてんかんの外科手術のうち,最も一般的な前部側頭葉切除(anterior temporal lobectomy),選択的海馬扁桃体切除 (selective amygdalohippocampectomy),脳梁離断 (corpus callosotomy)について,局所解剖と実際の手術手技を概説する.これらの手術手技のエッセンスは,てんかんの外科治療のみならず,その他の疾患にも応用可能であり,一般の脳外科医にも必要な素養である.

破裂急性期椎骨動脈解離性動脈瘤に対する血管内治療

著者: 杉生憲志 ,   徳永浩司 ,   伊達勲

ページ範囲:P.1229 - P.1238

 Ⅰ.はじめに

椎骨動脈解離性動脈瘤(vertebral artery dissecting aneurysm: VADA)は従来比較的稀な疾患とされてきたが,1990年代より特に本邦からの報告が相次ぎ,最近では予想以上に多い疾患と認識されている3,6,14,16,20,21,25,29).さらに出血発症のVADAは急性期,特に24時間以内に再出血を高率に来し予後を悪化させることがわかってきた3,13,16,21,25).すなわち,早期の的確な診断・治療が特に求められている疾患といえる.

 脳神経血管内治療はその低侵襲性に加え,近年のカテーテル・塞栓物質等手術機器の開発・改良等に伴ってその安全性・有効性が高まり,急速に発展してきた.本治療は開頭術に比して低侵襲で,より早期に治療開始が可能であるという特徴から超急性期破裂VADAに対する有望な治療法として最近脚光を浴びている8-11,16,20,25,30).本稿では超急性期破裂VADAに対する血管内治療について自験例を中心に解説を加える.

研究

皮質動脈破綻による急性特発性硬膜下血腫の検討

著者: 石井卓也 ,   沢内聡 ,   田屋圭介 ,   大塚俊宏 ,   高尾洋之 ,   村上成之 ,   諸岡暁 ,   結城研司 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.1239 - P.1244

 Ⅰ.はじめに

急性硬膜下血腫は通常,交通事故,転落などの頭部外傷後,脳挫傷もしくは架橋静脈の破綻が出血源となるが,外傷が極めて軽微であるか,もしくは既往がない症例が存在する.このような症例は,われわれの渉猟しえた限りでは,1934年にMunro13)が非外傷性急性硬膜下血腫として報告したものが最古である.その後,1971年にTalallaら20)が外傷機転のはっきりしない8例を急性特発性硬膜下血腫として報告して以来,同様の症例が蓄積され,非外傷性に皮質動脈の破綻を来し硬膜下血腫を生じる病態として理解されている.

 われわれは,皮質動脈の破綻による急性特発性硬膜下血腫8例を経験した.これらの臨床的特徴について考察を加え報告する.

症例

脊髄癒着性くも膜炎に対するGore-Tex(R)sheetを使用したくも膜下腔再形成術および硬膜形成術

著者: 関俊隆 ,   飛騨一利 ,   矢野俊介 ,   岩崎喜信

ページ範囲:P.1247 - P.1251

 Ⅰ.はじめに

脊髄癒着性くも膜炎は炎症や外傷などによって脊髄や神経根やくも膜に慢性炎症性変化が起き,さらに髄液の灌流障害や脊髄の循環障害を来し,脊髄の萎縮やくも膜嚢胞あるいは脊髄空洞症を呈する病態である4,5,11,14).発症した時点で既に神経症状が進行している症例が多いこと,脊髄炎を合併していること,手術療法を行っても再癒着が多いことなどから脊髄疾患の中でも極めて治療困難な疾患の1つと考えられる.今回われわれは,脊髄癒着性くも膜炎症例に対してGore-Tex(R)sheetによる硬膜形成術およびくも膜下腔再形成術を行い良好な成績を得ているので報告する.

軸椎の好酸性肉芽腫が原因である可能性が疑われた環軸椎亜脱臼の1例

著者: 金井真 ,   河野一彦 ,   村上達也

ページ範囲:P.1253 - P.1260

 Ⅰ.はじめに

好酸性肉芽腫は稀な原因不明の良性の骨融解性の疾患であり,この疾患が環軸椎亜脱臼の原因となった報告例は少ない.今回,頸部の疼痛と運動制限の自覚後に頸部リンパ節の腫脹が出現し,その後,強い後頸部痛を伴う軸椎の部分的な破壊と環軸椎の亜脱臼を認めた症例を経験した.最終的に好酸性肉芽腫が原因である可能性も考え,第1頸髄レベルでの頸髄の後方からの除圧と後頭骨から第4頸椎レベルまでの後方固定術を施行し,良好な結果を得たので報告する.

細菌性脳動脈瘤4症例の検討

著者: 大下純平 ,   木矢克造 ,   佐藤秀樹 ,   溝上達也 ,   並河慎也 ,   荒木勇人

ページ範囲:P.1263 - P.1268

 Ⅰ.はじめに

細菌性脳動脈瘤の多くは細菌性心内膜炎に合併し,その発症形式はくも膜下出血,脳出血,脳梗塞,脳膿瘍など多彩な病態を呈する.また,細菌性心内膜炎という背景をもつため,細菌性栓子による頭蓋内疾患のほか,多臓器病変を合併する可能性もある.その多彩な病態ゆえ診断・治療・予後に定まった見解がないのが現状である.今回われわれは異なる病態を呈した4症例を経験したので,症状別に分類し文献的考察を含めて報告する.

硬膜下水腫から血腫形成に至った特発性脳脊髄液減少症の1例―治療の時期および硬膜肥厚の病理所見についての考察

著者: 中溝聡 ,   三宅茂 ,   藤田敦史 ,   近藤威 ,   甲村英二

ページ範囲:P.1271 - P.1277

 Ⅰ.はじめに

古くから特発性低髄液圧症候群と呼ばれた病態は,近年,より広範囲な疾患概念をあらわすために,特発性脳脊髄液減少症と呼ぶことが提唱されている4,11,13).脳脊髄液減少症は,起立性頭痛を主症状として,嘔気・嘔吐,めまい,複視,視力低下,耳鳴,聴力低下などを合併する2,7,10,19,20).頭蓋内圧は必ずしも低下していることはなく,その病態の本質は頭蓋閉鎖腔の髄液容積の減少である.髄液容積の減少に対する代償機序として,硬膜内外の静脈叢の拡大,硬膜の肥厚,およびそれに引き続いて硬膜下腔の液貯留などをもたらす.頭部造影MRI検査におけるびまん性の硬膜の造影所見が本症の特徴とされ,この所見は頭蓋内の髄液量と血液量は相反性に変化するというMonro-Kellieの法則に従って,髄液量の減少に伴い,頭蓋内の血液量が増加し,硬膜静脈腔が拡張することがその主体であるとされている9,12).その治療としては,ベッド上安静や経静脈的水分補給を併用した保存的加療から外科的な髄液漏の修復まで,様々なものが推奨されているが,無症候で経過するものに対してどれだけ積極的な治療をすべきかは,治療に伴う合併症の危険性もあり判断に迷うところである14,18).今回われわれは,テント上下に広汎な硬膜下水腫を来した脳脊髄液減少症と考えられる症例を経験した.無症状で経過したため経過を観察していたところ,後に亜急性硬膜下血腫となり開頭血腫除去術を余儀なくされた.また,MRI上,硬膜の造影所見は興味ある経時的変化を示した.症例を呈示するとともに反省点を含めて考察する.

ヘルメットの紐による縊頸が原因と思われる外傷性頸部内頸動脈解離の1例

著者: 土居温 ,   出口潤 ,   山田誠 ,   島野裕史 ,   長尾光史 ,   新井基弘 ,   黒岩敏彦

ページ範囲:P.1279 - P.1282

Ⅰ.は じ め に

 外傷性頸動脈解離は比較的稀な病態ではあるが,頸部の過伸展や鈍的外傷により生じることはよく知られている.一方,自動二輪車乗車時のヘルメット着用は頭部外傷に対する予防効果があるとされており2,3),わが国でも義務づけられている.ヘルメットの規格はJIS (T8133-1982)により定められており,どのヘルメットも衝撃吸収性や耐貫通性についての条件を満たさなければならない.ヘルメットには頭部顔面全体を覆い下顎骨で固定するタイプのものと,頭部だけを覆い頸部で固定するタイプ(Fig. 1)がある.どちらのタイプも転倒時に頭部を保護する効果があるが,ヘルメットをどう固定するかの規定はなく頸部への影響は考慮されていない.今回われわれは後者のタイプのヘルメットの紐により,転倒時に縊頚を生じて外傷性頸動脈解離を生じたと思われる症例を経験したので報告する.

追悼

北村勝俊先生の足跡と業績

著者: 福井仁士

ページ範囲:P.1284 - P.1285

 平成16年9月19日九州大学名誉教授北村勝俊先生は逝去されました.先生の足跡と業績を振り返り記録に留め,御霊前に捧げたいと思います.

 北村勝俊先生は,大正12年(1923年)2月11日,広島県福山市で誕生されました.昭和14年に旧制松江高等学校に入学され,昭和17年に九州帝国大学医学部に入学されました.終戦直後の昭和20年9月に九州帝国大学を卒業後,第1外科に入局されました.

連載 IT自由自在

「IT自由自在」連載開始にあたって

著者: 伊達勲

ページ範囲:P.1286 - P.1289

 ■はじめに

 この度,本誌に「IT自由自在」という連載が新たに登場することになりました.ITとはinformation technologyの略で,通常,情報技術と訳されています.脳神経外科には既に脳神経外科コンピュータ研究会があるように,多くの先生方がITに関して興味をお持ちです.本誌での連載のねらいは,脳神経外科の臨床,研究,教育などで,先生方がコンピュータ,インターネット,ビデオ,電子カルテ,などを用いていろいろ工夫されている,あるいは,便利なグッズを見つけてそれを使っておられる,そのような工夫や経験をご報告いただき,読者の皆様のデジタルライフに少しでも参考にしていただければ,というところにあります.通常の科学論文とは異なり,気楽に読めてしかも何かのヒントになるような連載になれば幸いと考えています.

 このような企画をたて編集同人の先生方にアンケートをお願いいたしました.既にかなりの数の先生方のご推薦と連載のテーマをいただいております.ソフトウェアやハードウエアの紹介,プレゼンテーションの工夫,ビデオ編集の仕方など,内容は多岐にわたり,楽しみな連載になりそうです.

 私自身は決してITの専門家ではありません.20数年前,脳神経外科医になったばかりのころ,丁度ワープロ(といっても勤務先の病院にシャープの「書院」の比較的大きなタイプのものが1台あるだけでしたが)が出始めで,それを使って手術記録を記載したり,患者さんの登録をしておりました.パソコンが普及するのはそれから数年たってからでしたが,アッという間にデスクトップからラップトップになり,学会でのプレゼンテーションは,従来のスライド映写にかわって,ほぼコンピュータと液晶プロジェクターによるプレゼンテーションに統一されてきています.ビデオについてもコンピュータでの動画の質の向上により,コンピュータ上での発表が大部分になってきています.この間,自分自身も2年か3年ごとに新しいコンピュータを買い換える必要があり,しかも医局にはマッキントッシュとウィンドウズが混在しているので,その両者を自分でも使いこなすために,コンピュータ関係の雑誌を読んだり,インターネットで情報を得たりしてきました.

 机の周りの書類の山を減らす方法は? プレゼンテーションで役に立つグッズは? 英単語の用例を多く載せているインターネットのサイトは? 新幹線や飛行機の中でよりリラックスできる方法は? 今回はそのようなありふれた場面で私が便利に使用しているものをご紹介して,連載スタートのイントロダクションとしたいと思います.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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