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症例
硬膜下水腫から血腫形成に至った特発性脳脊髄液減少症の1例―治療の時期および硬膜肥厚の病理所見についての考察
著者: 中溝聡1 三宅茂1 藤田敦史1 近藤威1 甲村英二1
所属機関: 1神戸大学大学院医学系研究科脳神経外科
ページ範囲:P.1271 - P.1277
文献購入ページに移動古くから特発性低髄液圧症候群と呼ばれた病態は,近年,より広範囲な疾患概念をあらわすために,特発性脳脊髄液減少症と呼ぶことが提唱されている4,11,13).脳脊髄液減少症は,起立性頭痛を主症状として,嘔気・嘔吐,めまい,複視,視力低下,耳鳴,聴力低下などを合併する2,7,10,19,20).頭蓋内圧は必ずしも低下していることはなく,その病態の本質は頭蓋閉鎖腔の髄液容積の減少である.髄液容積の減少に対する代償機序として,硬膜内外の静脈叢の拡大,硬膜の肥厚,およびそれに引き続いて硬膜下腔の液貯留などをもたらす.頭部造影MRI検査におけるびまん性の硬膜の造影所見が本症の特徴とされ,この所見は頭蓋内の髄液量と血液量は相反性に変化するというMonro-Kellieの法則に従って,髄液量の減少に伴い,頭蓋内の血液量が増加し,硬膜静脈腔が拡張することがその主体であるとされている9,12).その治療としては,ベッド上安静や経静脈的水分補給を併用した保存的加療から外科的な髄液漏の修復まで,様々なものが推奨されているが,無症候で経過するものに対してどれだけ積極的な治療をすべきかは,治療に伴う合併症の危険性もあり判断に迷うところである14,18).今回われわれは,テント上下に広汎な硬膜下水腫を来した脳脊髄液減少症と考えられる症例を経験した.無症状で経過したため経過を観察していたところ,後に亜急性硬膜下血腫となり開頭血腫除去術を余儀なくされた.また,MRI上,硬膜の造影所見は興味ある経時的変化を示した.症例を呈示するとともに反省点を含めて考察する.
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