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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科32巻3号

2004年03月発行

雑誌目次

「変えてはならないもの」と「変えなければならないもの」

著者: 橋本卓雄

ページ範囲:P.211 - P.212

 医療事故が毎週のように報道され,国民の中に医療に対する不信感が醸成されている.人々の価値観は変容し,患者の人権,安全で良質の医療,生命倫理に対する社会の関心が高まり,人々の権利意識の高まりから来るものであろう.その防止には,不幸にして起こった事故をよく分析し,同じことを繰り返さないための対策を積み上げるしかないことはいうまでもないが,それでもなお払拭されない医療不信が存在することは否めない.

 先日神戸市で開催された医学系大学生命倫理連絡協議会に出席する機会があった.この会議は15年前,インフォームド・コンセント,脳死と臓器移植,終末医療と尊厳死,体外受精などの問題をどう考えたらよいかと,星野一正京都大学名誉教授らにより設立され,年2回開催されている.今回は「ヒトゲノム,遺伝子解析などの先端医療技術開発」および「倫理委員会の現状と将来の方向性」の2つのシンポジウムが企画され,先端医療とバイオエシックスについて討論された.会議とは直接関係なかったが,医療事故やなお拭い去れない医師に対する不信の解消策について,この機会に考えてみた.

研究

3次元MR脳槽画像による未破裂脳動脈瘤外壁形態と瘤周囲環境の画像評価

著者: 佐藤透 ,   浴野千菜美 ,   大迫知香 ,   勝間田篤 ,   小野田恵介 ,   土本正治 ,   柚木正敏 ,   徳永浩司 ,   杉生憲志 ,   伊達勲

ページ範囲:P.215 - P.221

 Ⅰ.はじめに

脳動脈瘤の発生,成長,破裂に至るメカニズムは,これまで脳動脈瘤の大きさやbleb形成などの形態学的要素1,27,28),脳動脈瘤内の血流パターンやshear stressなどの流体力学的要素3,9,22,24,26),脳動脈瘤壁の弾力性や脆弱性などの病理学的要素6,8)など,主として脳動脈瘤血管構築および瘤内環境について報告されてきた.近年,脳動脈瘤外壁とこれに接触,癒着する脳実質や脳神経など脳動脈瘤周囲構造物との解剖学的関係が,脳動脈瘤の瘤外・瘤周囲環境(perianeurymal environment)として臨床的に検討され,特に脳動脈瘤の破裂や脳神経症状の発症に関わる要因の1つとして関心がもたれる14,17)

 T2-weighted three-dimensional(3D)fast spin-echo(FSE)sequence(heavy T2-weighted imaging)などで得られるMR脳槽画像(MR cisternogram,MRC)では,信号雑音比が良好で微細な断層情報(volume data)が得られ,脳槽内脳脊髄液は高信号強度で,脳動脈瘤や親動脈,脳表静脈・架橋静脈,脳神経などの脳槽内構造物や脳実質,硬膜・頭蓋底骨構造は低信号強度で描出される7,10-13,15,16).これにより,MRCでは,脳動脈瘤の外壁は脳脊髄液と明瞭に境界され,脳槽内陰影欠損像として,周囲脳実質,脳表静脈,脳神経構造物などの瘤外・瘤周囲環境とともに表示可能となる.

改良電極を用いた新しい陰部神経モニタリング法―術中腰仙部脊髄脂肪腫例

著者: 秋葉新 ,   野本洋子 ,   大藪泰子 ,   藤元佳記 ,   島田勇 ,   佐藤知行 ,   篠田宗次

ページ範囲:P.223 - P.229

 Ⅰ.はじめに

二分脊椎(spina bifida)は胎生期中枢神経閉塞障害による形成異常で,硬膜や脊椎骨や皮膚の欠損を伴う病態であり多くは腰仙部に発生する.脊髄や馬尾神経の一部が露出したり,癒着を起こしている場合があり,また皮膚洞や脂肪腫を合併して神経と癒着している病態もある.これらの病態の一部では,癒着のため成長とともに神経の係留を起こし,尿/便失禁などの膀胱直腸症状や下肢の神経症状を後天的に起こしてくる症例もある6,11).このような症例では症状の出現前あるいは軽症のうちに脊髄や神経の癒着を可能な限り除去して,症状出現を予防する手術が行われる.予防手術であることから新たな神経症状を出さないことは手術時に重要なことであり,このため陰部神経の同定と温存は最重要課題となる.脊髄脂肪腫除去術中モニターとして下肢表在筋活動電位記録は容易であるが,陰部神経に関しては膀胱内圧や肛門内圧によるモニター,知覚神経や針電極による外肛門括約筋活動電位モニターなど諸氏によりさまざまな工夫がなされている.

 しかし,外肛門括約筋のモニタリングとして表面電極を用いて行ったという報告はない.理由として,適当な外肛門括約筋活動電位記録電極がなかったことと,肛門長が大人に比べ短いので装着部位の決定が難しいことが挙げられる.われわれは市販のスフィンクター電極を乳児用に改良し,肛門内に静置することにより,陰部神経被刺激時の外肛門括約筋活動電位を明瞭に記録することができた.

 当施設では数年前より,直腸癌の手術前後において,肛門機能評価の目的で肛門内圧,機能的肛門長測定1,9)および陰部神経磁気刺激による外肛門括約筋活動電位の導出を行っている1).これを応用して腰仙部脊髄脂肪腫の術中神経モニタリングを行った.適切な電極装着部位,刺激法および注意点などの知見を得たので考察を加え報告する.

24年間にわたる鈍的外傷性院外心肺機能停止症例の治療経験--頭部外傷対非頭部外傷

著者: 柳川洋一 ,   齋藤大蔵 ,   高須朗 ,   金子直之 ,   阪本敏久 ,   岡田芳明

ページ範囲:P.231 - P.235

 Ⅰ.はじめに

鈍的外傷による院外心肺機能停止症例(out-of-hospital cardiopulmonary arrest ; oh-CPA)の転帰は非常に不良である5,7,8,17,19,20).その二大死亡原因は頭部外傷と胸部外傷である4,10).特に小児では頭部外傷が死因となりやすい5).頭部外傷で死亡する理由として,一次性,もしくは二次性脳幹損傷による呼吸停止,意識障害による窒息,損傷部位からの大量出血,稀に頭部外傷に誘発される不整脈がある19).致死的頭部外傷に合併する神経原性肺水腫も報告されているが,これによる呼吸不全がどこまで死因に影響しているかは定かでない13).また,体幹部,四肢損傷も呼吸,循環に影響を与える場合,致命傷となり得る.しかし,頭部外傷を受傷した者と,頭部外傷を受傷していない者とで,転帰を含めた臨床像に差があるのか否かも現時点では明らかにされていない.

 防衛医科大学校病院救急部では,開設以来20年以上にわたり,鈍的外傷性oh-CPA症例に対しても,積極的な心肺蘇生術(cardiopulmonary resuscitation ; CPR)を施行し,また,受傷機転や病院前救護の情報も収集してきた.そこで,それらの症例に関して,頭部外傷の有無が臨床像の違いに現れるか後視的に検討を行ったので,その結果を報告する.

同時多発性高血圧性脳内出血例の検討

著者: 塩見直人 ,   宮城知也 ,   古賀さとみ ,   刈茅崇 ,   徳富孝志 ,   重森稔

ページ範囲:P.237 - P.244

 Ⅰ.はじめに

高血圧性脳内出血(HIH : hypertensive intra-cerebral hematoma)は近年の降圧加療の進歩により減少傾向にあるが,高齢化社会を迎えたわが国においては依然重要な疾患の一つである.CTが普及した現在ではHIHの診断は容易となり,発症から早期に診断が可能となった.CTにおける早期診断によって同時多発性に生じたと考えられる症例も時に経験されるようになったが4,6-11),このような症例では治療方針の決定に苦慮する場合もある.そこで今回,自験例をもとに同時多発性に生じたと考えられるHIHについてその特徴を検討し,発症機序および治療方針に関する考察を加えて報告する.

特発性正常圧水頭症における脳血流量と脳波解析による髄液排除試験の評価

著者: 竹内東太郎 ,   岩崎光芳 ,   白田寛治 ,   横田一雄 ,   小島精一 ,   山崎美保子 ,   二宮久美子 ,   岩井由美子 ,   麻生冨美枝 ,   佐々木仁道

ページ範囲:P.247 - P.255

 Ⅰ.はじめに

現在,特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:INPH)のシャント効果判定として髄液排除試験(lumbar tap test : LTT)が広く施行されているが1,2,4,5,7,9,11,15-19,21),高い擬陰性率や不明確な効果判定方法等の克服が今後の課題とされている.今回著者らはLTTの診断精度をより向上させるため,症状の定量的評価の加えて脳血流量測定と脳波解析による判定を行い,その効果について検討したので報告する.

症例

三心房心を伴った多発性脳梗塞の1例

著者: 西本英明 ,   別府高明 ,   小守林靖一 ,   紺野広 ,   冨塚信彦 ,   小笠原邦昭 ,   小川彰 ,   菊地研 ,   及川浩平

ページ範囲:P.257 - P.260

 Ⅰ.はじめに

三心房心は結合織や筋組織よりなる先天性の隔壁によって左心房が2分される,全先天性心疾患のわずか0.1%を占める稀な先天性疾患である.三心房心は軽症の場合,無症候性あるいは僧帽弁狭窄症類似の症状を呈し,時に塞栓症を発症することがある1-3,6)

 われわれは,頭蓋骨形成術中に多発性脳梗塞を発症し,術後に経食道心エコーによって無症候性の三心房心を発見した非常に稀な症例を経験した.本例の三心房心と多発性脳梗塞の因果関係を検討し,三心房心について文献的に考察する.

全摘した20年後に多発性に再発した小脳血管芽腫の1例

著者: 隅田昌之 ,   田口治義 ,   江口国輝 ,   黒木一彦 ,   村上太郎 ,   秋光知英

ページ範囲:P.263 - P.268

 Ⅰ.はじめに

血管芽腫は,成人の小脳に発生する血管に富んだ良性腫瘍である.単独病変として発生する場合とvon Hippel-Lindau(VHL)病の一部として出現する場合がある.多発性も約10~15%に認められる.長期に観察すると一部では多発性に再発すると報告されている3).今回われわれは,血管芽腫摘出20年後に小脳に多発性に再発を認めた1例を経験したので報告する.

穿頭ドレナージ術にて治療した高齢者急性特発性硬膜下血腫の3症例

著者: 遠藤英徳 ,   府川修 ,   増山祥二 ,   川瀬誠

ページ範囲:P.271 - P.276

 Ⅰ.はじめに

非外傷性急性硬膜下血腫の内,出血源となる基礎疾患がない例が数多く報告され,急性特発性硬膜下血腫と呼ばれている4,6,9,12).一般的に外傷性硬膜下血腫と比較して予後は良好であるが4),高齢者における治療法は確立されていない6).今回われわれは,高齢者の急性特発性硬膜下血腫3症例を穿頭ドレナージ術で治療し,良好な結果を得たので文献的考察を加えて報告する.なお,穿頭ドレナージ術とは局所麻酔下に穿頭し,血腫腔内にドレナージを挿入して血腫を排出する方法である11)

頭蓋内転移を来した下垂体腺腫の1例

著者: 田屋圭介 ,   寺尾亨 ,   中崎浩道 ,   沢内聡 ,   沼本ロバート 知彦 ,   村上成之 ,   山口由太郎 ,   橋本卓雄 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.279 - P.284

 Ⅰ.はじめに

一般的に,下垂体腺腫は良性腫瘍の一つとして認識され,遠隔転移は極めて稀である1,6,12).今回われわれは,頭蓋内に多発性転移を来した成長ホルモン産生性下垂体腺腫の1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

MRI拡散強調画像が診断,治療に有用であった深部静脈血栓症の1治験例

著者: 今田裕尊 ,   井川房夫 ,   川本仁志 ,   大林直彦 ,   日高敏和 ,   尾上亮 ,   松重俊憲 ,   梶原洋介 ,   鮄川哲二

ページ範囲:P.285 - P.289

 Ⅰ.はじめに

これまでわれわれは静脈血栓症の拡散強調画像(diffusion weighted image;DWI)所見について報告してきた12)が,今回,DWI所見が診断と治療に有用であった脳深部静脈血栓症(venous thrombosis;VT)の1例を経験した.DWIは可逆的な血管原性浮腫と非可逆的な細胞毒性浮腫を鑑別でき,治療方針の決定にも役立つことが示唆されたため,若干の文献的考察を加え報告する.

Feederの高度狭窄ともやもや様血管網を伴った脳動静脈奇形の1例

著者: 藤本憲太 ,   飯田淳一 ,   川口正一郎 ,   榊寿右 ,   中川裕之 ,   吉川公彦 ,   笹岡保典

ページ範囲:P.291 - P.295

 Ⅰ.はじめに

脳動静脈奇形(arteriovenous malformation; AVM)は,動静脈シャントによるhigh flowがhemodynamic stressを関与する血管構築に与えることにより,様々な変化を及ぼす2,13).今回,feeding arteryの高度狭窄があり,もやもや血管網を介してfeedingされる稀なAVMを経験した.その病態,治療方針について考察を加え報告する.

連載 定位脳手術入門(4)

マイクロレコーディング

著者: 橋本隆男

ページ範囲:P.297 - P.303

 Ⅰ.マイクロレコーディングの目的

マイクロレコーディングは,先端の記録部(非絶縁部)が小さくインピーダンスの大きい微小電極を用いて単一神経細胞(ニューロン)あるいは単一神経線維の活動電位を細胞外記録で記録するものである.一方,インピーダンスがやや小さい準微小電極を用いるセミマイクロレコーディングは,多くのニューロン活動の複合電位を記録する.マイクロレコーディングであれセミマイクロレコーディングであれ,定位脳手術でニューロン記録を行う目的は,ターゲットとその周辺のオリエンテーションを得ること(マッピング)が第一である.現在の脳画像の解像度では,画像所見のみに基づいて破壊術や電極植え込み術を行うことは誤差が大きい.脳画像に電位記録を併用することにより,確実にターゲット座標を把握でき十分正確な手術が可能となるのである.セミマイクロレコーディングは,ニューロンが集まった部位(神経核)とニューロンのない部位(神経線維束,白質)とを複合電位の量で識別するのに対し,マイクロレコーディングは単一ニューロンあるいは神経線維の発火パターンから神経核と白質の識別のみならず神経核内の機能構造も判別できるのでより詳細な情報が得られる.

読者からの手紙

「Radiosurgery直後に腫瘍出血を生じた転移性脳腫瘍の1例」に対して

著者: 山本昌昭

ページ範囲:P.304 - P.304

 本稿における治療後の出血は,“こういうこともありうる”ということでさしたる問題はないと思われます.しかし本症例では治療適応と,選択された線量に重大な問題があると思われます.

 治療適応に関しては,如何に手術の同意が得られなかったとしても,腫瘍体積が50ccを越えるような腫瘍に対して,radiosurgeryが治療手段として選択されたことは大きな問題と思われます.また,50ccというtarget volumeに対して,選択された辺縁線量20Gyというのは,放射線生物学の標準からは著しく逸脱したものといわざるをえません.このような大きな腫瘍にはやはり手術が最良の手段であり,radiosurgeryは推奨されるべきものではありません.しかし,もし,radiosurgeryを行うとしましても,辺縁線量を10~12Gy,またはそれ以下にすべきでした.もし,治療効果を高めようとすれば,局所か全脳に通常の分割照射を追加すべきだったでしょう.もしくは,小生は個人的にはあまり賛成ではありませんが,stereotactic radiotherapy(SRT)という選択肢もあったはずです.

医療経済

特定機能病院における入院医療の包括評価(Diagnosis Procedure Combination : DPC)の概要について(第8報)--「頭部・顔面外傷」,「非外傷性硬膜下血腫」における医療行為別の包括評価点数比較

著者: 安達直人

ページ範囲:P.307 - P.311

 第1報から第3報では,特定機能病院における入院医療の包括評価における概要,診断群分類の決定方法,包括評価点数の算定方法のそれぞれについて述べ,第4報から第7報では「脳腫瘍」「くも膜下出血・破裂脳動脈瘤」「非外傷性頭蓋内血腫」「脳梗塞」の診断群分類における医療行為別の包括点数の比較を各論として示した.

 本報では,いわゆる外傷を対象とした「頭部・顔面外傷」および「非外傷性硬膜下血腫」を例にして,医療行為の違いにより診断群がどのように振り分けられ,さらにどれだけ請求点数が異なってくるか比較検討する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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