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読者からの手紙
医療事故とその公開,届出について
著者: 平野亮1
所属機関: 1釧央脳神経外科病院
ページ範囲:P.413 - P.413
文献購入ページに移動 昨今,医療事故が盛んに報道されていますが,先日以下のような記事を読んで考え込んでしまいました.記事の内容は,未破裂脳動脈瘤の血管内手術中にくも膜下出血を来して患者が意識不明の重体となり,警察当局に事故届けを出したというものでした.残念で不幸な事態といえますが,果たしてこのような事例でも患者家族以外の第三者(報道機関)に事実を公開し,さらに警察を含めた関係当局に事故届けなどの報告をすべきものなのでしょうか.術者に明らかな過失があるならば別ですが,未破裂脳動脈瘤の手術の際に出血を来すことは,熟練者でも起きうることですし,手術に伴う危険性として術前に十分インフォームドコンセントがなされているはずです.当然のことながら,患者取り違えや薬剤の誤投与といった医療過失と,同じ次元で論ずべきものではありません.このように過失の有無を問わず,すべての医療事故を公開していくというならば,極端な話,脳室ドレナージチューブの固定不良のため,チューブが自然抜去し髄液漏れがあった場合も,記者会見で事実を報告し警察に事故届けを出さなければならないということになります.実際のところ,どのようなケースを事故と認識して公開し事故届けを出すかは,各医療機関の判断に委ねられており,混乱と戸惑いがみられるのが現状です.むしろ,脳神経外科学会でどのような事例の場合,積極的な事実公開と関係当局への事故届けをすべきかを示すような見解なりガイドラインなどを作っていただければと思います.このような試みは,他科で行われているとは聞き及んではおりませんし,予防的手術の占める割合の多い脳神経外科が積極的にやるべきものと考えます.医療事故の中には,限りなく医療過失に近いものから,過失というより不可抗力としかいいようのないものまであります.後者のようなものもすべて公開していけば,失敗は絶対に許さないといった無謬主義の風潮が蔓延していくのではないかと危惧しております.その結果,未破裂脳動脈瘤の手術をしようとする際に術後成績が悪ければ,業務上過失致死や過失傷害として罪を問われる刑事被告人となり,刑の確定後は医業停止などの行政処分が待っているということを,常に念頭に置かなければならないといった時代が来ないとも限りません.現在の脳神経外科医療は,多くの先人や諸先輩方が失敗を乗り越え,それを教訓として進んできたものであります.過度の無謬主義は,脳外科医をいたずらに萎縮させ積極的治療への意欲を減じるだけであって,決して先進的医療の進歩に寄与するものではありません.脳神経外科学会の早急な対応を切に希望するものであります.
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