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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科32巻5号

2004年05月発行

文献概要

研究

イオンビーム照射ePTFEの脳動脈瘤ラッピング材への応用

著者: 世取山翼1 氏家弘2 高橋範吉1 小野洋子3 鈴木嘉昭4 岩木正哉4 堀智勝2

所属機関: 1東京理科大学大学院理学研究科 2東京女子医科大学脳神経外科 3東京理科大学理学部 4理化学研究所先端技術開発支援センタービームアプリケーションチーム

ページ範囲:P.471 - P.478

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 Ⅰ.はじめに

脳動脈瘤の治療法は開頭手術による動脈瘤ネック部分のクリッピング,または脱着型コイルを用いた血管内治療による動脈瘤部の血栓形成による方法が一般的である.しかし,ネックを有さない脳動脈瘤や動脈瘤そのものから穿通枝が出ている場合等,クリッピングが不可能な場合や部分的なクリッピングしかできない場合がある.その際には,ガーゼ7,14),筋膜3)などによる動脈瘤のラッピング後,フィブリン糊と呼ばれる生体組織接着剤による固定が行われる.しかし,筋膜は血管壁に対する密着性は優れているが吸収されてしまい永続的なラッピング材には適さず,また,綿ガーゼは操作性には優れているが強い異物反応,そして炎症性反応を示すため,ラッピング後に親動脈の狭窄および炎症性肉芽腫形成を起こす可能性が高い1,9).動脈瘤の理想的なラッピング材料の条件は,材料が生体内で異物反応,炎症反応,細胞毒性を起こさず,吸収されることなく永続的に動脈瘤壁に癒着し,動脈瘤の成長と破裂を防ぐことである.延伸ポリテトラフルオロエチレン(expanded polytetrafluoroethylene ; ePTFE)は,側鎖にフッ素を有する高分子素材であるため,生体内では組織との反応性が極めて低く,また構造的に極めて安定である.そのため,人工血管10,21),人工心膜2,6),人工腹膜12),人工腱索8),歯周組織再生誘導法における遮蔽膜4)などの生体材料として広く用いられている.

 しかし,ePTFEは血管壁への親和性およびフィブリン糊の接着性が乏しく,現在までラッピング素材として使用されたことはない.

 筆者らは,高分子ポリマー材料にイオンビームを照射することによって,その表層構造を改質し細胞接着性を付与することが可能であることを報告してきた15,18,19).ePTFEに関しても,Neを加速エネルギー150 keVで1×1015 ions/cm2照射したePTFEが,細胞接着性を付与されることを見出した.さらにウサギ頭蓋骨および背部筋膜上への留置実験によって,骨および筋膜組織との接着性を有することを明らかにした16,17,20).また,加速エネルギー150 keVでAr,Krイオンビーム照射したePTFE表面も同様に細胞接着性を有し,フィブリン糊との強力な接着を有することも明らかになった22)

 本研究では,in vitroで細胞培養実験を行い,加えてイオンビーム照射後のePTFE表面を走査型電子顕微鏡で評価し,イオンビーム照射したePTFEシートが動脈瘤ラッピング材料として有効な素材になり得るか検討した.

 今までの基礎実験の結果15-20)から,加速エネルギー150 keVでArイオンを5×1014 ions/cm2照射したePTFEと未照射のePTFEを用いて,ウサギの頸動脈を用いたラッピング実験を行って検討した.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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