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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科32巻6号

2004年06月発行

雑誌目次

個人情報保護法と診療情報の管理

著者: 野村和弘

ページ範囲:P.567 - P.568

 2003年5月,個人情報保護法が国会を通過したことを受けて,2年以内に関係法案を整備し施行されることになる.医療機関においては患者の診療情報を扱っているので格別の注意が必要である.しかしながら,筆者の知り得る限りでは,未だ多くの医療関係施設での取り組みは十分でないようである.診療情報は極めて重要なデータの集積であり,その漏洩は大きな問題を引き起こす可能性を持っている.商業分野への流用では,流行の健康食品の販売広告,医療機器,リハビリテーション機器の販売,宣伝,生命保険の勧誘,その他の目的で,いつでも流用の的とされる価値の高い情報である.そのため,悪用されれば大きな社会的不安と損害をもたらすことになる.

 先日,筆者の勤務する病院で次のような事案が生じた.つまり退職した医師が,開業するに当たって,自分の診ていた患者に対して退職と開業のお知らせの手紙を出した.ことはもう少し複雑だが,問題をわかりやすくするためにこうしておく.すなわち,患者のリストを診療情報から流用したものである.このことに対して,手紙を受け取った患者から病院宛に苦情の手紙をいただいたわけである.手紙の主旨は,個人情報管理が杜撰ではないか.このような病院では安心して診療が受けられないので,早急に改善すべしとの内容であった.まさに個人情報の漏洩問題である.常日頃から,国家公務員の守秘義務については口を酸っぱくして教育もし,派遣職員に対しては,もちろん情報への接触の制限を掛け,宣誓書まで提出させて指導してきているにもかかわらず,このようなことが起こってしまった.これは今日の常識と,医師(医療従事者)の持つ従来からの常識と著しい乖離がみられる事例である.もちろん,多くの人は昔の常識で扱っていると思われるが,この苦情は正論である.医師サイドからすれば,今回,退職して開業することになったので,「お困りの時はご利用ください」くらいの気持ちで手紙を出したのであろうが(多分,気持ちのどこかに,新しく開業するに当たっての宣伝の意味もあったに違いない),20年前であればよくこのような挨拶状を手にしたもので,まず,問題にはならなかったと考えられる.むしろ「親切にお知らせをいただきありがとう」と感謝されることはあったかもしれない.急速に時代は変わっているのである.この例は,今回の法令では診療録の目的使用外に当たる不正使用である.

総説

脳神経外科における産学官連携

著者: 本望修 ,   宝金清博

ページ範囲:P.571 - P.577

 Ⅰ.はじめに

1.産学官連携の必要性

産学官連携,大学独法化,知的財産,特許,大学発バイオベンチャー,等々,10年程前には耳にしたこともない用語が最近では日常的に使われるようになってきた.グローバル化の波にわれわれ医学界も巻き込まれていることには間違いないが,診療と医学研究に専念していた時代には想像すらできなかったことである.しかし,こうした産学官連携や知的財産などの拡がりの速度に私たち医師が必ずしもうまくキャッチアップできないでいることも事実である.そのため,過剰な期待や誤解も生まれている.本論では,札幌医科大学脳神経外科における経験をもとに,産学官連携に関する現状と知識を整理し,脳神経外科領域における研究の方向性を考えてみたい.

 そもそも,20年前は,日本経済に対する評価は,“Japan as No.1”あるいは,「日本の一人勝ち」と言われていたはずだった.ウルグアイ・ラウンド(1987年~)で,EUから日本の一人勝ちを念頭に置いた“Balance of Benefit”が提案されたのも,日本の圧倒的な国際競争力が背景にあったからである.

研究

重症くも膜下出血の治療成績―vasospasmに対する治療の変遷

著者: 後藤泰伸 ,   山形専

ページ範囲:P.579 - P.584

 Ⅰ.はじめに

破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血(SAH)の治療はこの10年あまりで大きく変化してきた.顕微鏡手術が進歩してきたことにより急性期のclippingはほとんどの施設で行われるようになった.またGuglielmi Detachable Coil(GDC)による動脈瘤の塞栓術も一般化し,後頭蓋窩の動脈瘤治療の成績はclippingに比肩するほどになっている3,4,5,10).脳血管れん縮(vasospasm)に対する輸液,特にバランスや昇圧,希釈などに注意を払うようになったことも,fasudil,ozagrelなどを使用するようになったのもvasospasmの発生率を減らしている16,18,19).いったんvasospasmになれば血管形成術(PTA)や塩酸papaverine(PPV)の選択的動脈内投与も行われる7,8,20)

 これらによりSAHの治療成績はよくなっているのだろうか.World Federation of Neurological Society(WFNS)gradeのⅠ~Ⅲまでの比較的軽症群では改善していると考えられているが,重症SAH(gradeⅣ,Ⅴ)についてはあまり報告がなく,評価も様々である4,6,10,12,17)

MRAで検出されなかった未破裂脳動脈瘤

著者: 片野広之 ,   唐沢洲夫 ,   杉山尚武 ,   山下伸子 ,   佐々木繁 ,   神谷健 ,   山田和雄

ページ範囲:P.587 - P.594

 Ⅰ.はじめに

MRI,MRAの著しい進歩により,外来における新規患者や他疾患で経過観察中の患者に対するスクリーニングのMRAや脳ドックなどで,脳動脈瘤が未破裂のうちに発見,治療されることが多くなった10).未破裂動脈瘤に関しては,現在,わが国における自然歴(破裂率)と治療の実態調査から治療方針を探る日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査(UCAS Japan)が進行中であり14),関心も高まっている.しかし,MRAによる脳動脈瘤の検出に関しては,依然としていわゆるfalse-positive,false-negativeの症例が少なくなく,現状では通常これらのスクリーニングMRAで疑われた病変は,3D-CTAや脳血管撮影(DSA)を施行して確認することが多い.今回われわれは,外来スクリーニングのMRAで動脈瘤が疑われた症例を検討し,特にDSAによって新たに確認され,MRAでは検出されなかった動脈瘤の特徴について調べた.

症例

血管内エコー(IVUS), balloon catheter が有用であった椎骨動静脈瘻の1症例

著者: 吉岡努 ,   北川直毅 ,   森川実 ,   林健太郎 ,   出雲剛 ,   中本守人 ,   上之郷眞木雄 ,   永田泉

ページ範囲:P.597 - P.602

 Ⅰ.はじめに

椎骨動静脈瘻 は頭蓋外の椎骨動脈,あるいはその分枝とそれに近隣する静脈との異常な交通を本体とする稀な疾患である2,5-9,12,19).症状は持続する拍動性耳鳴や頸部痛,盗血流現象や圧迫による脳,脊髄の機能障害が認められている2,3,9,18).今回われわれは,特発性椎骨動静脈瘻の1症例を経験した.本症例は,血管内エコー(IVUS:Avanar F/X imaging catheter:JOMED Inc.)を用いた瘻孔の部位の同定およびバルーンカテーテルによる血流コントロールにて安全に血管内手術にて治療し得たので報告する.

くも膜下出血にて発症した脊髄動静脈奇形の2例

著者: 林健太郎 ,   高畠英昭 ,   中村稔

ページ範囲:P.605 - P.611

 Ⅰ.はじめに

脊髄動静脈奇形は比較的稀な疾患で,血流シャントの解剖学的見地よりintramedullary arteriovenous malformation(AVM),perimedullary AVM/arteriovenous fistula(AVF),dural AVFの3つに分けられる5,9,15,16).今回,われわれはくも膜下出血にて発症したintramedullary AVMとdural AVFの2例を経験した.症例を報告し,脊髄動静脈奇形からのくも膜下出血の特徴について考察する.

低酸素脳症後の痙縮に脊髄刺激療法が奏功した1例―痙縮の改善機序に関する検討

著者: 寺尾亨 ,   田屋圭介 ,   沢内聡 ,   沼本ロバート 知彦 ,   村上成之 ,   阿部俊昭 ,   橋本卓雄

ページ範囲:P.613 - P.618

 Ⅰ.はじめに

遷延性意識障害や難治性疼痛に施行される脊髄硬膜外電極刺激術spinal cord stimulation(SCS)は筋緊張を低下させることがあるが,その機序に関してはいまだ解明されていないのが現状である15).今回,われわれは遷延性意識障害の改善を期待して上位頸椎のSCSを施行し,通電後,四肢の痙縮が著明に改善した症例を経験したため,その改善機序を中心に報告する.

Supratentorial Primitive Neuroectodermal Tumorの1手術例

著者: 大前智也 ,   高橋和孝 ,   笹嶋寿郎 ,   菅原卓 ,   木内博之 ,   東山巨樹 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.619 - P.625

 Ⅰ.はじめに

Supratentrial primitive neuroectodermal tumor(sPNET)は大脳半球に発生した未分化な神経外胚葉性細胞からなる小児脳腫瘍として1973年にHartとEarleにより提唱された6).1986年には中枢神経系に発生する中枢性PNETと末梢神経や骨・軟部組織に発生する末梢性PNETという概念が提唱され3),2000年のWHO分類でsPNETは乳幼児期に好発する稀な胎児性腫瘍に分類されている15,18)

 最近,思春期に発症したsPNETの稀な1例を経験し,MRIにおける拡散強調像とFLAIR像が鑑別診断に有用であったので報告する.

頭蓋内椎骨動脈・脳底動脈の高度狭窄症に対しステント併用血管形成術を行った2例

著者: 善積秀幸 ,   猪野屋博 ,   益澤秀明 ,   佐藤公一 ,   中村淳

ページ範囲:P.627 - P.634

 Ⅰ.はじめに

症候性椎骨脳底動脈狭窄の予後は不良であり,内科的治療にも限界がある3,27).また後頭動脈後下小脳動脈吻合術,浅側頭動脈上小脳動脈吻合術などが行われているが,これらのバイパス術は技術的に困難であり,効果も疑問が多い2,12,13).経皮的血管形成術が,新しい治療法として提唱されたが1,10,22,25),血管の解離,プラークの遊離,再狭窄等の問題点があり7,11,16,31),不十分な拡張で妥協しなければならないことが多い22).ステント併用血管形成術は,血管形成術によって起こるプラークの遊離,血管解離,リコイルを防ぐことができる.われわれは椎骨脳底動脈の高度狭窄に対して,ステント併用血管形成術を行い優れた結果が得られた2例を報告する.

自然消失を来した中枢神経系原発悪性リンパ腫の1例

著者: 田屋圭介 ,   寺尾亨 ,   田中俊英 ,   沢内聡 ,   沼本ロバート 知彦 ,   村上成之 ,   西脇嘉一 ,   橋本卓雄 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.637 - P.642

 Ⅰ.はじめに

脳原発悪性リンパ腫は,原発性脳腫瘍の約1%を占め,神経膠芽腫や転移性脳腫瘍と同様に非常に予後の悪い脳腫瘍の1つとして認識されている10,13).今回われわれは,MRI上4カ月前は正常であった右小脳に突然出現した異常病変に対し脳生検術を施行した.病理所見および免疫電気泳動法による遺伝子解析の結果,悪性リンパ腫と診断された.その後,MRI上,病変は自然消退し約1年間再発徴候を示さない非典型的な悪性リンパ腫の1症例を経験したため報告する.

不完全コイル塞栓術後の脳動脈瘤に対する外科治療

著者: 黒田敏 ,   牛越聡 ,   新谷好正 ,   長内俊也 ,   石川達哉 ,   瀧川修吾 ,   宝金清博 ,   岩崎喜信

ページ範囲:P.645 - P.650

 Ⅰ.はじめに

近年,Guglielmi detachable coil (GDC)が開発されて以来,破裂あるいは未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術が広く実施されるようになっている.これまで本法は,外科的に到達するのが困難な場合や,重症くも膜下出血の場合などに,特に有効な治療手段となりうることが確認されており,今後,ますます重要な治療手段の選択肢になると思われる.外科治療が不可能あるいは不完全だった場合に,コイル塞栓術を追加することで根治可能であった症例も報告されている9).しかし,これとは逆に,コイル塞栓術が不完全で頸部の残存を認めたため,なんらかの追加治療が必要となった症例も,国内外で報告されるようになってきた.特に,追加治療として外科治療を行う場合には,通常の脳動脈瘤に対する外科治療とは異なる注意点も指摘されており,安全な治療を遂行するうえで,その経験を共有することが重要と考えられる1,4,5,7,8)

 最近,われわれは,このような症例を3例経験したので,外科治療を行ううえでの注意点を中心に報告する.

医療経済

特定機能病院における入院医療の包括評価(Diagnosis Procedure Combination : DPC)の概要について(第10報)―2004年度改定の概要と包括評価点数の推移(対2003年度比較)

著者: 安達直人

ページ範囲:P.652 - P.654

 2004年度は2年ぶりに社会保険診療報酬が改正され,大きく3つの基本的考え方が示されている.

 1)従来どおり国民皆保険体制とフリーアクセスの原則を維持すること.

 2)厳しい経済社会情勢のもと,医療の安全と質を確保し,その中でも特にDPC,小児医療・精神医療を重点評価すること.

 3)上記の評価より国民が納得できる改定とし,改定率は±0%とすること.

 このように現在および将来の経済情勢を視野に入れ,医療行政は包括評価方式払いとしてのDPCに対して期待を寄せるのみならず,その幅広い導入に力を入れていくであろうと考えられる.実際に2004年からは特定機能病院だけでなく,DPC調査協力医療機関として一般病院からも手上げ方式でその試行が始まった.

 本シリーズの第9報までは,2003年度版DPCにおける脳神経外科領域の診断群について具体的点数比較を示しながら解説してきた.本報では,2003年度版と比較しながら2004年度改定により実際どのくらい点数が変化したかをお示ししたい.全体の社会保険診療報酬改定率は±0%と公表されているが,DPCにおいては明らかに減点になっている印象を受ける.あくまで仮定として計算しているが,2003年度と2004年度では同じ診断群でもかなりの点数差が出る疾患群もあり,DPC全体として減点改定となっていることを示唆するものである.

報告記

Second Indo-Japanese Neurosurgical Conference(2004年2月13日~15日)

著者: 齋藤清

ページ範囲:P.656 - P.657

 Second Indo-Japanese Neurosurgical Conferenceが2004年2月13~15日にNew DelhiのAll India Institute of Medical SciencesでVS Mehta教授のもと開催された.

 第1回の本会は,昨年2月6日に名古屋都市センターにて第26回日本脳神経CI学会に先立って開催された.この時にはインド各地でご活躍中の10名の教授をお招きし,基礎(neuroprotection),内視鏡(endoscopic TSS),腫瘍(vestibular schwannoma, spinal glial tumor),頭蓋底(cavernous sinus tumor, chordoma),脳動脈瘤(giant, IC-ophthalmic),脊椎(CV junction anomaly, OPLL)と多岐に及ぶご講演をいただき,各演題に対して日本からも専門の先生に発表をお願いし討論した.

連載 定位脳手術入門(7)

淡蒼球手術(破壊術)

著者: 谷口真 ,   高橋宏 ,   川崎隆 ,   寺尾亨 ,   岩室宏一 ,   横地房子 ,   沖山亮一 ,   志知隆雄 ,   浜田生馬

ページ範囲:P.659 - P.667

 Ⅰ.手術の背景

淡蒼球(GP:globus pallidus)は,大脳基底核の一番内側寄りに位置し,線条体からの出力線維のほとんどがここへ収斂する.一方,淡蒼球からの出力線維のうちで量的に最も多いのは,淡蒼球視床線維で,これはもっぱら淡蒼球内節(GPi: globus pallidus pars medialis)から起始して,レンズ核束(fasciculus lenticularis)やレンズ核ワナ(ansa lenticularis)を通り,視床の外側腹側核(VL: nucleus ventralis lateralis)に終止する.このような構造的特徴を通して,淡蒼球,なかでも内節は,いわゆる motor loop (大脳皮質運動関連領域‐線条体‐淡蒼球‐視床‐大脳皮質)のすべての情報が集中して通過する「かなめ」の位置を占めることになる.運動の調節に淡蒼球が果たす役割については,現在なお完全に解明されたとは言い難いが,少なくとも淡蒼球が視床と並んで運動調節に関する情報を処理するのに最も都合の良い場所に位置していることは間違いない.

 過去,どの時代にも不随意運動の外科治療は,その時代の病態生理の理解と,同時代に利用可能であった技術の総合産物であった.そして,淡蒼球は上記構造的理由から常に不随意運動外科の対象として注目されてきた.1940年にMeyers7)は,脳炎後の振戦を示す患者に対して開頭術により脳室経由で尾状核頭と淡蒼球の破壊を試みて基底核外科の端緒を開いたが,その臨床効果はともかく,手術侵襲による死亡率が15.7%にも及び,実地臨床への応用は困難として中止せざるを得なかった.その後,より低侵襲で淡蒼球やレンズ核ワナを破壊して同様の効果を得る手段として,Fenelon2)は,小開頭,前頭葉経由にフリーハンドで凝固電極を挿入して淡蒼球とレンズ核ワナを破壊する手法を,またGuiot とBrion3)は,開頭により前頭葉下面から視索を目印に専用の器具を挿入して破壊巣を作成する方法を考案したが,いずれも正確さと安全性の点で後の定位脳手術に勝るものではなかった.

頭蓋骨腫瘍の臨床と病理(3)

Ewing 肉腫,悪性リンパ腫,形質細胞腫・多発性骨髄腫

著者: 河本圭司 ,   沼義博 ,   今堀巧 ,   加藤隆行 ,   山田明史 ,   中嶋安彬

ページ範囲:P.669 - P.676

 Ⅰ.Ewing肉腫/PNET群

(Ewing's sarcoma/PNET group)

1.定 義

現在は神経原性と考えられている未分化な小細胞性腫瘍で,その多くで EWS/FLI1 [t(11, 22)(q24, q12)] をはじめとする特異的な fusion gene が証明される.従来の PNET(primitive neuroectodermal tumor)と同一範疇の病変と見なされ,骨腫瘍取り扱い規約・第三版(2001),新 WHO 分類(2002),ともに Ewing sarcoma/PNET group として包括している.転移例の報告もある7,11,15)

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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