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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科32巻7号

2004年07月発行

文献概要

「Angel Glacier」

著者: 大熊洋揮1

所属機関: 1弘前大学医学部脳神経外科

ページ範囲:P.687 - P.688

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 カナディアンロッキーの北縁の街ジャスパーから国道93号線で10kmほど南下し,脇小路に入る.6月,緑の息吹の溢れる木立の中のwinding roadを車を走らせること15分,開けた台地に行き当たる.車を降り,さらに数分歩を進めると「Angel Glacier」に辿り着く.その名の示すごとく天使が翼を広げた姿に見えることから,いつの頃からかこの名が付いたようだ.カナディアンロッキーの隠れた名峰マウント・エディス・キャベルの東壁,切り立った断崖の上,紺碧の空を見上げた位置に,その氷河は飛び立つ時を待つかのようにつつましげに翼を休め佇んでいる.

 私がカナダ,エドモントンに留学在住したのは,平成7年4月からの1年あまりで,多くの日本の研究者がその地(アルバータ大学)で輝かしい業績を残された後に,廃墟となった研究室でぽつねんと研究を行っていた.研究の傍ら,もっぱらロッキーを訪れることが何よりの楽しみであり,6月,初めて彼の地を訪ねた後,しばしば足を運んだことが昨日のような記憶として思い出される.Angel Glacierを頂いた崖壁の下には深く掘られたvalleyが数kmに渡り続いており,さりげなく立てられた看板には,その谷が氷河の移動によって作られたこと,100年前まではその谷中が氷河に満たされ崖上のそれと続いていたことなどが記されていた.多くの氷河がrecedeしている中,この氷河も例外ではなく,天使の翼は自然の造形と言うよりは,取り残された「哀れな姿」と表現するほうが適当かもしれない.そうして眺めると氷河から絶え間なく崖を伝い落ちる融雫が天使の涙のようにも感じられた.人間の「文化・文明的営み」が多くの自然を犠牲にしてきたことは歴史が証明済みのことであるが,聞き慣れた「地球温暖化」の影響を如実に実感できた光景でもあった.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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