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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科32巻8号

2004年08月発行

雑誌目次

植物症を考える

著者: 神野哲夫

ページ範囲:P.801 - P.802

 私も脳外科医の端くれであるので,院内を肩で風切って歩きたかった.私も脳外科医であるから学会でビデオ(編集したもの)を見せて,どうだと偉ばってみたかった.要するに格好良いことが大好きであった.

 そのようにして,やがて年をとり,還暦を過ぎた.誰でも同じであろうか,次第に脳外科医の格好の悪い面に目を向け始めた.虚構の世界がうとましくなり,現実をより直視する様になってきた感がある.

総説

悪性脳腫瘍に対する遺伝子導入の画像化

著者: 市川智継 ,   寺田欣矢 ,   田宮隆 ,   ,   ,   伊達勲

ページ範囲:P.805 - P.824

 Ⅰ.はじめに

1.脳腫瘍の遺伝子治療の発展と現状

近年の急速な分子生物学の進歩に伴い,疾患原因遺伝子や発症機構が分子レベルで解明されるようになり,さらに,得られた情報を治療や予防にフィードバックする医学研究,すなわち「ゲノム医学」へと発展しつつある.現在,遺伝子治療をはじめとするゲノム医学の一部は実用化段階に入りつつあり,臨床治験が盛んに行われている.特に膠芽腫に代表されるような悪性脳腫瘍は,いまだ有効な治療法が確立されておらず,予後不良の疾患であることから,遺伝子治療は新しい治療法として大きな期待が寄せられている11,45,68,78,94)

 1980年代に始まる遺伝子治療は,これまでに数多くの基礎的研究がなされ,脳腫瘍に対しては,実験室レベルでは,培養細胞ならびに小動物において,良好な成績と有効性が示された.そして,1990年代から現在までに,悪性脳腫瘍に対して多くの臨床治験が行われ,最近相次いで第1から第2相の臨床治験の結果が報告された19,38,50, 61,64,65,69,70,81,83,91,95,103).これまでの報告をみると治療プロトコールの安全性は証明されたが,治療効果については,第3相の治験の報告をみても,基礎研究成果から期待されたほどのめざましい治療成績は得られていないのが現状である67)

脳腫瘍における腫瘍幹細胞 (Cancer Stem Cell) の存在

著者: 中野伊知郎 ,   Houman D ,   Harley I

ページ範囲:P.827 - P.834

 Ⅰ.はじめに

 近年,いくつかの臓器由来の悪性腫瘍から腫瘍幹細胞(cancer stem cell)が単離されたとの報告が相次いでいる1,2,5).腫瘍幹細胞とは,腫瘍内で自己複製し,かつ様々な種類の分化細胞を生じ二次腫瘍を形成する元となる細胞である.

 頭蓋内腫瘍では,神経膠腫や髄芽腫などの小児脳腫瘍と神経幹細胞(neural progenitor cells)との類似は以前より示唆されてきた9)が,最近,ある種の小児脳腫瘍に腫瘍幹細胞が存在するとの報告がわれわれを含む複数のグループから提出された5,10).以下,腫瘍幹細胞に関する最近の知見とその臨床的意義について論ずる.

研究

頸椎固定をされずに搬送されてきた頸椎・頸髄損傷例の検討

著者: 高橋功 ,   森下由香 ,   南崎哲史 ,   早川達也 ,   寺坂俊介 ,   布村充

ページ範囲:P.837 - P.842

 Ⅰ.はじめに

 外傷患者における脊椎の固定はプレホスピタルケアおよび初期治療における基本的かつ重要な処置の1つである.しかし,現状では,救急医療の中で,その意義や必要性が十分理解・徹底され,適切に実行されているとは言い難い状況である.実際に頸椎・頸髄損傷の治療に携わる脳神経外科医や整形外科医も同様である.救急隊が全身固定を行い搬送してきたにもかかわらず,不確実な頸椎保護のまま,診療を行い,神経症状を増悪させる場合がみられる.

 今回,われわれは,当院に搬送された頸椎・頸髄損傷患者のうち来院時に頸椎固定(頸椎カラー装着等)をされていなかった症例について検討し,その問題点を明らかにした.

症例

多発性の慢性硬膜下血腫を来したshaken-baby syndrome の1例

著者: 芳賀整 ,   石堂克哉 ,   稲田成安 ,   坂田修治

ページ範囲:P.845 - P.848

 Ⅰ.はじめに

 1946年アメリカの小児放射線医Caffey が,小児の長管骨の異常な多発性骨折と硬膜下出血の合併する6例をwhiplash shaken-baby syndromeと発表し2),1962年にKempeがchild abuse による特殊な外傷をbattered child syndrome(被虐待児症候群)として報告して以来11) ,本邦においても数多くの報告がなされている6,8,9).今回われわれは,多発性の慢性硬膜下血腫を来したshaken-baby syndromeの1例を経験した.Shaken-baby syndromeに対する社会的対応および,頭蓋内血腫の臨床像について文献的考察を加え報告する.

頭蓋内進展の著しいadenoid cystic carcinoma の1例

著者: 安部友康 ,   近藤聡彦 ,   須賀正和 ,   角南典生 ,   山本祐司

ページ範囲:P.851 - P.856

 Ⅰ.はじめに

 腺様囊胞癌adenoid cystic carcinomaは,主として大小唾液腺に発生する悪性腫瘍である.一般的に発育は緩慢で長い経過が特徴であるが,局所再発を来し遅発性に神経組織に沿い頭蓋底に浸潤性発育や,稀に血行性に遠隔転移する.

 今回われわれは,外耳道耳垢腺より発生したadenoid cystic carcinoma根治術後,約8年の経過にて原発巣の再発なく同側中頭蓋窩に転移した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

FDG-PETにて治療効果の評価を行った中枢神経系悪性リンパ腫の3例

著者: 政田哲也 ,   松本義人 ,   河井信行 ,   田宮隆 ,   長尾省吾

ページ範囲:P.859 - P.864

 Ⅰ.はじめに

 中枢神経系悪性リンパ腫に対しmethotrexateの大量療法とCHOP(cyclophosphamide, adriamycin, vincristine, predonine)療法を組み合わせたM-CHOP療法が行われるようになり効果をあげている3).治療の評価としては,一般に造影MRIが用いられるが,脳血液関門の障害および血管床をみているもので,腫瘍自体を評価しているわけではない.

 [18F] FDG(fluorodeoxyglucose)を用いたPET(positron emission tomography)検査は,糖代謝を評価することが可能であり,腫瘍の悪性度および治療効果の判定に有用であると報告されている5).悪性リンパ腫に対する治療効果の判定にFDG-PETの有用性が報告されているが5),造影MRIの所見との違いについて検討された報告はない.

 今回われわれは,悪性リンパ腫の3例に対しM-CHOP療法および放射線治療を施行し,その治療効果の判定にFDG-PETを用い,造影MRIの所見と比較検討したので文献的考察を加えて報告する.

後下小脳動脈anterior medullary segmentに発生した破裂脳動脈瘤の2手術例―穿通枝温存と後下小脳動脈の虚血について

著者: 松重俊憲 ,   井川房夫 ,   大林直彦 ,   今田裕尊 ,   梶原洋介 ,   鮄川哲二

ページ範囲:P.867 - P.874

 Ⅰ.はじめに

 後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery ; PICA)に生じる脳動脈瘤の中で,近位部のanterior medullary segment(AMS)に発生する脳動脈瘤は比較的稀である.Choroidal pointより近位側には,下位脳幹への穿通枝が存在することが知られており23),治療方針については見解が一致していない1,6,11,17,32).今回われわれは,PICA近位側に発生した非解離性の破裂脳動脈瘤2例を経験したので,治療戦略について若干の文献的考察を加え報告する.

一卵性双生児に発症した破裂脳動脈瘤

著者: 大野晋吾 ,   池田幸穂 ,   鬼塚俊朗 ,   中島智 ,   内野博之 ,   原岡襄 ,   山縣然太朗

ページ範囲:P.875 - P.879

 Ⅰ.はじめに

一卵性双生児に発症する破裂脳動脈瘤は稀であり,1942年O'Brienら10)の報告以来,現在までに12例の報告がなされているのみである.今回われわれは,脳動脈瘤家系の一卵性双生児に発症した破裂脳動脈瘤について症例報告をするとともに,過去の文献症例を含め,その臨床的特徴について検討した.また,近年,分子生物学的手法の発展ならびにヒトゲノムプロジェクトをはじめとする遺伝子データベースの整備により,多くの疾病について遺伝子解析がなされつつある.脳動脈瘤についても原因遺伝子の検討がなされているが,今回本症例についても若干の遺伝子的検索を試みてみた.

報告記

第16回ヨーロッパ定位機能脳神経外科学会(ウィーン,会長:Francois Alesch)に出席して(2004年6月23~26日)

著者: 堀智勝

ページ範囲:P.880 - P.883

 1.はじめに

 ウィーン大学のConsulting DoctorであったSpiegelの世界最初の定位脳手術は,ウィーン大学で行われたそうで,今回の主催地がウィーンで行われたことは大変意義深いといえよう.筆者はWorld Society for Stereotactic and Functional Neurosurgery(WSSFN)のアジア・オーストラリアのContinental Vice Presidentとして,2005年にローマで6月14日から17日まで開催予定の第14回国際定位機能脳神経外科学会(Mario Meglio教授会長)の打ち合わせも兼ねて,WSSFNのboard meetingが開かれることもあり,6月24日より26日まで本学会に出席した.

連載 定位脳手術入門(9)

視床下核刺激術

著者: 深谷親 ,   片山容一

ページ範囲:P.887 - P.893

 Ⅰ.はじめに

 視床下核(STN)の脳深部刺激療法(DBS)は,パーキンソン病(PD)に対する機能神経外科的治療法として,ここ数年の間にめざましい発展をみせた2).PDモデル動物における研究により,その症候にSTNも重要な役割を果たしていることは以前から指摘されてきた.しかし,へミバリスムスを起こすかもしれないという懸念から,STNの破壊には躊躇せざるを得なかった.

 そこでBenabidら1,16)は,DBSが凝固術よりも副作用を起こしにくいという経験に基づいてSTN-DBSを試みた.これによって,刺激であれば,両側でも安全に行え,無動,固縮,振戦のいずれの症候にも高い治療効果のあることが明らかとなった12,13).この結果からSTN-DBSは薬物療法の限界を克服する新しい治療として注目を集めた.本稿では,STN-DBSのための定位的電極留置術の基盤となる概念と実際の手術の手順を中心に記載し,最後にその効果と合併症についても簡単にふれる.

頭蓋骨腫瘍の臨床と病理(5)

転移性骨腫瘍,類表皮囊胞・類皮囊胞,頭蓋骨内髄膜腫

著者: 河本圭司 ,   川上勝弘 ,   岩瀬正顕 ,   須山武祐 ,   李強 ,   中嶋安彬

ページ範囲:P.895 - P.903

 Ⅰ.転移性骨腫瘍(metastatic skull tumor)

 1.定義

他の原発巣から二次的に頭蓋骨に転移した腫瘍で,遠隔からの転移の他,近接臓器からの直接浸潤も含める.原則として悪性腫瘍であるが,ごく稀に組織学的に良性の腫瘍が骨転移をする場合もある.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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