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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科33巻1号

2005年01月発行

雑誌目次

Ancora Imparo―Semper Studeo Pro Bono Aegrorum

著者: 児玉南海雄

ページ範囲:P.3 - P.4

疾病は自然現象であり,手術は人間が人工的な機器を操り自然と対峙することである.止血のために動脈を凝固したが止まらないと人間はおかしいと云う.おかしいのは人間のほうで操作の何かが目的を達してないから出血するのであり,自然のほうは自然の理に従って当り前に反応しているのである.

 山頂に未来永劫に動きそうもない大きな岩があり,ある人が山の麓を歩いていたらそれが落ちてきた.その人は,歩いていたら偶然に岩が転がってきたという.しかし,自然のほうからいえば転がる絶対的な理由があった.土台の土が風雨にさらされ安定性がなくなり,真下に向いていた岩の重力よりも横方向の力が大きくなった.落ちたのは偶然ではなく必然であり,歩く人の有無は関係ない.思い上がっている人間は「自然の必然」を「偶然」と表現する.雨が続くと立派な護岸工事がしてある河川もあっけなく氾濫する.工事の手抜きではなく,精一杯やっても所詮人間の力はその程度である.

解剖を中心とした脳神経手術手技

眼窩内腫瘍への手術アプローチ

著者: 新井一

ページ範囲:P.7 - P.16

Ⅰ.はじめに

 眼窩内の腫瘍性病変に対する手術アプローチは,①前頭開頭後に眼窩の上壁を除去して,眼窩内に進入する経頭蓋到達法,②眼窩側方に皮膚切開を加え眼窩の側壁を除去する側方到達法,③上ないし下眼瞼に皮膚切開をおいた後に眼球を圧排し,病変に到達する前方到達法,に大別される.このうち前方到達法は,眼球周辺の腫瘍に対する手術法となるが,得られる視野は狭くその適応も限られたものとなる.一方,経頭蓋到達法の適応は広く,本法は眼窩内に限局する病変にとどまらず,眼窩内から視神経管・上眼窩裂,さらに,頭蓋内へ伸展する病変をも切除可能とするものである3-5,6,8,10).ただし,病変が視神経の外側に限局している場合には,側方到達法は経頭蓋到達法に比べ侵襲が少なく,有用な手術アプローチとなる1,2,7,9,10).本稿では,これらの眼窩内病変に対する手術法のうち経頭蓋および側方到達法について,その外科解剖を中心に手術手技を解説する.

血管温存に留意した神経膠腫摘出術

著者: 隈部俊宏 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.19 - P.27

Ⅰ.はじめに

 神経膠腫の治療を論議するうえで,手術適応とその方法の標準化が行われていないことが大きな問題である.確かに1つとして同じものがないのが神経膠腫であるが,それらの特徴をまとめ,分類し,それぞれに対する最適と考えられる手術術式を確立する必要がある.手術においては常に突発事態に対しての適応能力は求められるが,可能な限り定型的に行われるべきで,注意点を列挙された手術を論理的に行うことで合併症は少なくなる.

 1990年代の半ば以降,脳機能マッピング,ニューロナビゲーションシステムといった手術理論が神経膠腫に導入されることにより,それまで手術方法を討論されることが少なかったこの疾患に,手術をどう論理的に行ったらよいのかという議論が導入されたことは大いなる進歩であった.しかし,機能温存を目的とした新しい技術導入が進む一方で,実際にどう神経膠腫を摘出するのか,血管をどう処理して危険を排除して効率よく神経膠腫を摘出するか,という基本操作に対しては十分な検討がなされていないと思う.

 今回は血管処理方法に重点を置いた神経膠腫摘出方法に関しての私見を述べたい.

研究

意識消失発作で発症した内頸動脈閉塞性疾患の9症例

著者: 柏崎大奈 ,   黒田敏 ,   寺坂俊介 ,   石川達哉 ,   七戸秀夫 ,   青山剛 ,   牛越聡 ,   布村充 ,   岩崎喜信

ページ範囲:P.29 - P.34

Ⅰ.はじめに

 意識消失発作を来す原因疾患は多岐にわたるが,循環器系疾患が多いとされている1).脳血管疾患もその原因の1つとして挙げられているが,その頻度は低いとされており,そのほとんどが椎骨脳底動脈系によるものとされている1).今回,われわれは意識消失発作で発症した内頸動脈閉塞性疾患の9例を経験したので,臨床所見,画像所見,治療について報告するとともに発作の発現メカニズムについて考察した.

未破裂脳動脈瘤非手術例の経過観察よりみた動脈瘤の易破裂性

著者: 松本勝美 ,   大田信介 ,   青木正典 ,   吉田淳子 ,   田口薫 ,   榊三郎 ,   安部倉信 ,   吉峰俊樹

ページ範囲:P.35 - P.41

Ⅰ.はじめに

 くも膜下出血は血管内手術や脳血管攣縮に対する様々なアプローチにもかかわらず,いまだに死亡率が高い疾患である10,26).近年画像診断の進歩や脳ドックにより未破裂脳動脈瘤が発見される機会が多くなった19,23,30).一方未破裂脳動脈瘤の治療については,手術合併症は少なくなく17),適応を決める際,手術しなかった場合の自然歴を知ることが最も重要となる.しかしながら,自然歴は従来の報告では手術しなかった症例を対象にした追跡調査がほとんどで1,3,4,16,28,29,31,32),経過観察をした対象症例の背景が異なるため様々な異なる破裂率が報告され,いまだ一定の結論に達していない1,3,4,13,16,28,30-32).今回われわれは,発見されたものの手術しなかった未破裂脳動脈瘤をprospectiveに過去9年間調査し,破裂率について背景を含めて検討し,従来の報告と比較し手術適応を考えるうえでの問題点を考察した.

症例

後頭動脈塞栓後に胸鎖乳突筋の虚血を来した横・S状静脈洞部硬膜動静脈瘻の1症例

著者: 藤村直子 ,   広畑優 ,   安陪等思 ,   原真弥 ,   重森稔

ページ範囲:P.43 - P.48

Ⅰ.はじめに

 外頸動脈系の塞栓術は,髄膜腫などの腫瘍摘出術前や頭蓋内硬膜動静脈瘻(dural arteniovenous fistula : dAVF)に対して広く行われている.外頸動脈は側副血行路が豊富であるため,経動脈的塞栓術(transcatheteric hepatic arterial embolization : TAE)後に頭頸部の筋組織の梗塞を来すことは稀である.しかし今回,fiber platinum coil(FPC)とpolyvinyl alcohol (PVA)による後頭動脈(OA)のTAE後に臨床症状とMRI所見から胸鎖乳突筋の虚血と考えられたdAVFの1症例を経験した.このような合併症報告は稀であり,後頭動脈の塞栓術に際し知っておくべきものと考えられたので報告する.

術前診断が困難であった頭蓋外へ進展するintraosseous meningiomaの1例

著者: 南都昌孝 ,   辻直樹 ,   三木潤一郎 ,   田中賢 ,   上松右二 ,   板倉徹

ページ範囲:P.51 - P.56

Ⅰ.はじめに

 Intraosseous meningiomaは腫瘍増殖部位が頭蓋骨内であるものを言い,1932年Alpersら1)により最初に記載された.今回,われわれは一部硬膜および皮下への浸潤を伴い頭蓋外に増大した頭蓋骨腫瘍の摘出術を行い,その結果術前の予想に反してintraosseous meningiomaの診断を得た.全髄膜腫の中でもintraosseous meningiomaの占める頻度は少ない.また,術前診断が難しい症例が多いと考えられるため,文献的考察を加えて報告する.

妊娠中に水頭症が急性増悪した中脳水道狭窄症の1例

著者: 渡邊陽祐 ,   沖修一 ,   隅田昌之 ,   磯部尚幸 ,   加納由香利 ,   武田正明

ページ範囲:P.59 - P.63

Ⅰ.はじめに

 中脳水道狭窄症は,通常小児期に先天性奇形として水頭症にて発症することが多い.一方成人発症の中脳水道狭窄症も散見され,その成因をも含め病態については,議論が多い.今回われわれは,妊娠中急激に症状が悪化した水頭症を呈した中脳水道狭窄症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

海綿静脈洞サンプリングとステルスナビゲーションが有用であった,conchal typeの蝶形骨洞を有するクッシング病の1例

著者: 吉田優也 ,   立花修 ,   藤沢弘範 ,   宮下勝吉 ,   山下純宏 ,   篁俊成 ,   御簾博文

ページ範囲:P.65 - P.71

Ⅰ.はじめに

 クッシング病は全下垂体腺腫の中でも鑑別診断,手術手技,術後管理等全てにおいて最も困難の多い疾患の1つである.クッシング病の大部分は下垂体の微小腺腫によるものであり,画像による局在診断は困難なことがある10,13).近年,クッシング病に対する海綿静脈洞サンプリングによる局在診断が可能となり,その結果,良好な手術成績が報告されている6,7).また下垂体腺腫に対する経蝶形骨洞到達法に際して,蝶形骨洞の含気化が不完全な場合,鞍底部方向を見失わないように注意しながら鞍底部を十分に開窓する必要がある.今回,われわれはMRIでは同定されず,海綿静脈洞サンプリングにより局在診断に至り,蝶形骨洞がconchal typeのクッシング病のためステルスナビゲーションを用いて手術を施行した1症例を経験し,良好な結果が得られたので報告する.

開頭術後左右に生じたatlanto-axial rotatory subluxationの1例

著者: 三好康之 ,   徳永浩司 ,   伊達勲

ページ範囲:P.73 - P.78

Ⅰ.はじめに

 Atlanto-axial rotatory subluxation (AARS)は小児に好発し,軽微な外傷等を契機に,あるいは特に誘引なく発症し,cock robin positionと呼ばれる特徴的な有痛性斜頸を呈することが知られているが3),われわれが渉猟した限り,開頭術後に発症した症例は現在まで報告されていない.また,同一方向へのAARSの再発はよく知られているが,短期間のうちに対側方向へのAARSを呈した症例は1例の報告があるのみである6).AARSの多くは,適切な診断・治療により治癒可能な疾患であり,われわれ脳神経外科医はその診断・治療について理解しておく必要がある.

 今回,左側頭葉anaplastic astrocytomaの開頭術後,まず右方向に回旋し,後日左方向に回旋したAARSの1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

短期間で寛解した総頸動脈解離の1例

著者: 井上明宏 ,   福本真也 ,   久門良明 ,   渡邉英昭 ,   麓憲行 ,   小田尚吾 ,   大上史朗 ,   大西丘倫

ページ範囲:P.81 - P.85

Ⅰ.はじめに

 脳神経外科領域の疾患の中で,頭蓋外動脈解離はその原因,病態,臨床的特徴などについて過去に多くの報告が行われてきているが,いまだに不明な点が多く,その治療方法も定まっていない10).しかし,若年脳卒中の原因として頭蓋外動脈解離は非常に重要な病態でもある7).今回,われわれは脳梗塞で発症し短期間に狭窄病変が寛解した総頸動脈解離の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

読者からの手紙

「虚血発症後,同日内にくも膜下出血を発症した椎骨動脈解離性動脈瘤の1例」の論文について

著者: 安井敏裕 ,   本田雄二

ページ範囲:P.87 - P.87

貴誌(No Shinkei Geka 32:723-728, 2004)に掲載されました山滝 昭先生らのcase reportを大変興味深く読ませていただきました.解離性椎骨動脈瘤急性期の治療法の困難さを再認識させられた次第であります.山滝氏らは,この論文において,虚血発症例に対する抗凝固療法の問題点を指摘され,さらに既に閉塞している解離性病変であっても急性期に手術を含めた十分な治療の検討が必要ではなかろうかと提言しておられます.われわれも,同様の考えを持っております.完全閉塞例であっても急性期に手術を含めた十分な治療の検討の必要性があるのではなかろうかと考えるに至った症例を2例経験しており,いずれの症例も論文の形で報告しております1,2).参考になればと,このたび「読者からの手紙」に投稿させていただきました.

 2例とも出血例で,いずれも発症時に患側椎骨動脈は完全に閉塞しておりました.1990年に1例目を経験いたしました.この時には,山滝氏らも考察で触れられておられますように,解離壁の急性期のダイナミックな変化により,再開通・再破裂もあり得ると考え,ややoverindication のきらいもありましたが,急性期にproximal occlusionを行いました.患者さんはわずかな嗄声を残すのみで,退院いたしました1).その後,2004年に同様の閉塞例を経験いたしましたが,この例では血圧管理のみの保存的治療としました.順調に回復し3日目にはほぼ完全に回復しておりました.しかし,4日目に食事中に突然,頭痛を訴えてcomaとなりました.血管撮影を行いますと閉塞していた患側椎骨動脈は再開通しており動脈瘤が造影されておりました.緊急で動脈瘤のtrappingを施行し,Terson症候群の合併はありましたが,幸い完全に回復しました.この例の経験から,1990年に閉塞例に対して行った手術は,必ずしもoverindicationとは言えなかったのではないかと考えております.

報告記

第4回国際頭蓋底学会参会記(2004年10月31~ 11月4日)

著者: 吉田一成

ページ範囲:P.88 - P.89

成田から,9時間余りの夜間飛行の後,晩春のシドニーに到着した.会場のあるダーリングハーバーへは,車で30分ほどで到着.途中,紫色の花が満開の桜を大きくしたような木が散在し,目を引いた.

 第4回国際頭蓋底学会は,オーストラリアのSt Vincent病院耳鼻咽喉科のPaul A. Fagan教授の下,ダーリングハーバーを望むSydney Convention Centerにて,10月31日から11月4日まで開催された.48カ国から400名以上の参加があり,初日夕方の開会式に続き,4日間,4つの口演会場とポスター会場で約200演題を越す講演と60演題余のポスターが発表された.プレナリーセッションの中で,「聴神経腫瘍の現状」,「鼻咽頭腫瘍の病理とアプローチ」の2つのパネルデイスカッションと,3つの3D-Cadaveric demonstrationが企画された.3D-Cadaveric demonstrationでは時間の制約はあったものの,一部はreal timeでcadaver dissectionを行い,Laligam Sekhar教授,Ossama Al-Mefty教授など,expertにより,海綿静脈洞,中頭蓋窩,後頭蓋窩,錐体骨といった,頭蓋底外科の主要なアプローチのdemonstrationが行われた.頭蓋底外科はアプローチの観点からは円熟期に入った感はあるが,個々のアプローチの習得には外科解剖を熟知する必要があり,今回の3D-Cadaveric demonstrationは,教育的観点からも有意義な企画であった.今回は,学会名に「外科」が抜けており,「外科」に限らず,基礎から臨床まで,診断,治療,リハビリテーションにわたり,頭蓋底疾患を広く取り上げる姿勢が伺われた.全体として周到に企画されており,国際学会ではありがちな,直前の演題の変更などにもよく対応されていた.最近は,全てPC presentationであるが,今回も会場内LANで演題は中央管理されており,スムーズな進行であったが,複数の国のPC,あるいはOSの多少の違いからか,うまく動かないケースもあり,プレゼンテーションソフト,ハードはまだ円熟していない現状が実感された.また,国際学会にありがちな,演題の直前のキャンセルなどもあったが,的確に対応され,おおむね,会の進行は多少待たされることはあっても,各演題に対する討論は活発で,終盤は聴衆も少なくはなったが,熱心な聴衆が会を盛り上げた.

連載 IT自由自在

医用画像に使えるフリーウエア(DICOM 画像の表示,ファイル形式の変換,SPM への応用など)

著者: 下村剛 ,   井上亮 ,   古林秀則

ページ範囲:P.90 - P.93

はじめに

 従来,医用画像は各社独自のファイル形式を使用していたため,パソコン(Windows PCやMacintosh)での利用やナビゲーションシステム等の他の医療機器へ画像を取り込む際には,メーカーよりファイル形式の情報を公開してもらい,解読するという作業が必要であった.1993年に医用デジタル画像標準化のスタンダードとしてAmerican College of Radiology(ACR)とNational Electrical Manufactures Association(NEMA)によりDigital Imaging and Communications in Medicine (DICOM)が発表された.DICOMには,ネットワークでの転送の規格も含まれており,DICOM形式ファイルは,検査種別,撮影時の諸情報,患者情報などの含むヘッダ部分とイメージ情報の部分からなっている.現在,DICOM画像を表示できるフリーウエアは多数公開されている.ここでは,fMRIのデータをDICOM形式でパソコンにネットワークに転送後,ファイル形式を変換して,Statistical Parametric Mapping (SPM) に取り込み解析するプロセスで有用なフリーウエアを中心に述べたいと思う.なお,DICOM規格の詳細について興味のある方はThe DICOM Standards Committeeのホームページ(http://medical.nema.org/) を参照されたい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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