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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科33巻10号

2005年10月発行

雑誌目次

若手医師の手術トレーニング

著者: 石井鐐二

ページ範囲:P.949 - P.950

手術の「うまい」「へた」は,手が器用とか不器用とはあまり関係ないようです.そうではなくて,術者としての感性,手術のセンス,一種の勘といったもの,程よい思い切りよさを備えたリズムのようなものなどが備わっているかどうかに関係するように思えます.だから,何か捉えどころのないものです.これらは生来のものとは思いますが,今の若い人たちを見ていても,また自らの経験からも,手術経験や訓練によってある程度までは向上するものだと信じています.もちろん,忍耐力,繊細さ,向上心,責任感,協調性などもよい術者といえる大切な条件であることは昔から指摘されてきました.

 脳神経外科診療において「手術」がその中核にあることに異論はないと思います.したがって,よき脳神経外科医を目指す若手医師にとって,手術トレーニングは最も大きな関心事に違いありません.その効果的な学び方がいくつか挙げられています.

総説

脳腫瘍に対する粒子線治療

著者: 松村明 ,   山本哲哉

ページ範囲:P.953 - P.962

Ⅰ.はじめに

 近年の脳腫瘍治療では,X(γ)線を用いた単独放射線治療または術後照射がしばしば用いられている.腫瘍のX線照射に対する反応は,腫瘍組織特有の放射線感受性や浸潤性,また分割照射と単回照射,局所照射と拡大局所照射など治療の方法によって異なる.一般に,限局性の腫瘍組織に対する生物学的効果が線量依存性であれば,周囲正常組織の耐容線量の範囲で高線量の治療を行えば,局所制御とともに機能予後の改善や生存期間延長が期待できる.したがって,近年の脳腫瘍に対する放射線治療は,線量集中性の向上と高線量治療をの課題を両立すべく発展してきたといえる.この目的に適う放射線治療機器であるライナックやガンマナイフを用いたstereotactic radiosurgery(SRS),stereotactic radiotherapy(SRT)や強度変調放射線治療intensity modulated radiotherapy(IMRT)などの手法が開発され,さらにサイバーナイフ21)やtomotherapyでの治療も取り入れられてきている.良性腫瘍や周囲正常組織の放射線感受性が高い場合には必ずしも高線量が適さない場合があるが,転移性脳腫瘍や頭蓋内髄外腫瘍などでは線量集中性に優れたこれらの手法が極めて有効である.

 悪性グリオーマに対する補助療法としてX線分割照射治療の有効性が認められており1,12,38,43,44),膠芽腫では60Gy程度までの治療で生存期間の延長と線量依存性が示されている2,45).悪性神経膠腫に対する外科的摘出により局所脳神経症状や頭蓋内圧亢進症状の改善,病理組織診断の確定に基づく治療方針の決定,腫瘍容積を減ずることにより以後の治療を行いやすくすることが期待でき,手術摘出量と予後の間には相関がみられる15,31).しかしながら,悪性神経膠腫は浸潤性で高い増殖率を示すため外科的摘出のみでの腫瘍制御は困難で,放射線治療,化学療法,免疫療法その他を組み合わせた集学的治療を追加して行うのが一般的である.これら集学的治療によっても局所制御が困難であるうえ浸潤部位から容易に再発を来す結果8,39),膠芽腫での生存期間中央値は8~14カ月程度2,5,45)であり,ここ20年間で大きな改善は得られていない.浸潤部や播種に対する広範囲の治療としてX線全脳照射が検討された時期もあったが,局所照射と比較して生存期間の延長は得られず,副作用の面からもその有用性については否定的な結果が報告されている16).1980年代以降に行われた多分割照射や密封小線源治療の観察から,この腫瘍の局所制御には概ね90~100Gyが必要とされるが31),浸潤部位からの再発により高線量治療による局所制御がただちに生存期間延長に結びつくというevidenceは得られておらず,この点で神経膠腫の放射線治療の課題は限局性腫瘍と異なる.

研究

超高齢者の慢性硬膜下血腫に対する五苓散料の効果

著者: 村松正俊 ,   吉川達也 ,   英賢一郎

ページ範囲:P.965 - P.969

Ⅰ.はじめに

 慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma, CSDH)は外科的疾患である.しかしながら,一度の手術侵襲によって完治しないものは10~20%存在し6,9,13),高齢者ではその割合も高い6).CTやMRIの普及により無症状な例や軽微な症状しか示さない例を発見する機会は増えており,日常の臨床で手術適応に迷うことがある.特に高齢者では入院自体が侵襲と考えられ,手術自体は成功したものの寝たきりになったなどという話も聞く.一方でCSDHの自然消退例も報告されており10),CSDHの非外科的治療法が種々示されてきた4,15).高齢者の場合は,報告されている非外科的治療ですらその副作用や利便性から躊躇する場合も多い.今回われわれは,80歳以上の高齢者(超高齢者)のCSDHに対する漢方薬である五苓散料の効果を検討し,有用であったので報告する.

症例

下垂体腺腫に極めて類似したMRI像を呈したリンパ球性下垂体炎の1症例

著者: 山口秀 ,   加藤功 ,   竹田誠 ,   安齋治一 ,   池田仁

ページ範囲:P.971 - P.977

Ⅰ.はじめに

 リンパ球性下垂体炎は,下垂体組織にリンパ球が浸潤し腫瘤を形成する疾患で,MRI上,しばしば下垂体腺腫との鑑別が非常に困難である1,3,10,11,13,16,22,27).今回われわれは,妊娠後期に視野障害で発症し,MRIにて非機能性下垂体腺腫と術前診断したリンパ球性下垂体炎の1例を経験した.本症例を提示し,本疾患を念頭に置くべき状況や治療方針について考察を加えたので報告する.

大脳鎌から発生した軟骨腫の1例

著者: 青木友浩 ,   田代弦 ,   藤田晃司 ,   梶原基弘

ページ範囲:P.979 - P.984

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内軟骨腫は,全頭蓋内腫瘍のうち0.2~0.3%を占める稀なものである.そのうち,頭蓋底部に発生するものが多くを占め,硬膜より発生するものは極めて稀である.特に,大脳鎌から発生した頭蓋内軟骨腫は,現在までに英文報告の15例のみであり,邦文の報告はわれわれが渉猟し得た限りでは存在しなかった.今回われわれは,この極めて稀な1例を報告し,その特徴や鑑別診断の要点につき考察を加える.

頸髄endodermal cystの1例

著者: 日下昇 ,   丸尾智子 ,   西口充久 ,   高山和浩 ,   前田八州彦 ,   荻原浩太郎 ,   後藤正樹 ,   西浦司 ,   村上一郎

ページ範囲:P.987 - P.993

Ⅰ.はじめに

 内胚葉囊胞(endodermal cyst)は,呼吸器や腸管の上皮に類似した細胞からなる囊胞であり,胎生第3週頃の外胚葉と内胚葉の分離不全が原因とされ,全中枢神経系腫瘍の0.01%と非常に稀な疾患である1,6,7).今回われわれは,進行性の右上下肢不全麻痺で発症した頸髄endodermal cystに対し,囊胞壁の亜全摘出術を行い良好な経過を得た1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

術前の出血に対して栄養血管の超選択的塞栓術が有効であった頭皮部angiosarcomaの1例

著者: 廣常信之 ,   寺田欣矢 ,   目黒俊成 ,   西野繁樹 ,   浅野拓 ,   真鍋武聰 ,   戸井洋一郎

ページ範囲:P.995 - P.999

Ⅰ.はじめに

 Angiosarcomaは,血管などの内皮細胞に由来する悪性間葉系腫瘍であり,好発部位として皮膚,軟部組織,肝臓などが挙げられる.特に皮膚では高齢者の頭部,顔面部に発生し予後は極めて不良である.発生頻度が稀で,しかも治療の主体は皮膚科が担うことが多いので,脳神経外科医には馴染みが薄いものであるが,頭部打撲や外傷が誘因となることもあり脳神経外科領域においても鑑別診断,早期診断の知識が必要と考えられる.また,結節を形成したものは出血を呈することがあり,全身状態の悪化を招く.今回われわれは,頭部打撲を誘因として発症した頭皮部の結節状angiosarcomaが経過中に腫瘍表層から出血を来したため,術前に腫瘍栄養血管塞栓術を施行し,止血を得た症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

肺水腫を合併した破裂true PcomA aneurysmに対して急性期塞栓術を行った1例

著者: 目黒俊成 ,   寺田欣矢 ,   廣常信之 ,   西野繁樹 ,   浅野拓 ,   真鍋武聰

ページ範囲:P.1001 - P.1004

Ⅰ.はじめに

 重症中枢神経疾患急性期に肺水腫を合併することは従来からよく知られており,中枢性肺水腫と呼ばれている9).今回,比較的稀な後交通動脈自身にできた脳動脈瘤の破裂による重症くも膜下出血に肺水腫を合併した症例を経験した.われわれは,急性期にコイル塞栓術を行うことにより良好な結果を得たので報告する.

悪性脳腫瘍に類似した所見を呈した多発性硬化症の1小児例

著者: 秋山英之 ,   柳沢曜 ,   山本浩隆 ,   長嶋達也 ,   丸山あずさ ,   相馬収 ,   吉田牧子

ページ範囲:P.1007 - P.1012

Ⅰ.はじめに

 われわれは,脳実質内に著明な周辺浮腫と圧排効果を伴う占拠性病変を来し,悪性脳腫瘍に非常に類似する所見を呈した多発性硬化症の小児例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

尿膜管癌からの転移性脳腫瘍の1例

著者: 出井勝 ,   浦崎永一郎 ,   横田晃

ページ範囲:P.1015 - P.1019

Ⅰ.はじめに

 尿膜管癌は尿膜管より発生する癌腫であり,全膀胱腫瘍の0.17~0.34%という極めて稀な腫瘍である7).局所浸潤傾向が強く予後不良で,5年生存率は35%前後とされている9).遠隔転移は晩期になるまでみられず,肺,肝,骨などへの転移が報告されている7)

 しかし,尿膜管癌の脳転移については過去5例の報告をみるに過ぎない1,3,5,6,8)

 今回われわれは,脳転移巣発見後に原発巣の尿膜管癌が診断された症例を経験し,その診断治療等について,若干の文献的考察を加え報告する.

Thalidomide,Celecoxib,Gemcitabineが奏効した肺癌転移性脳腫瘍の1例

著者: 羽田正人 ,   堀内智英

ページ範囲:P.1021 - P.1026

Ⅰ.はじめに

 転移性脳腫瘍に対する治療法は手術,放射線治療が主体をなし,化学療法は特殊な癌を除いてその効果は期待できない.全脳照射を受け脳浮腫,ヘルニア嵌頓の危険性のある症例に対してはglucocorticoidsなどによる対症療法しか残されておらず,その予後は非常に悪い.今回われわれが転移性脳腫瘍の治療に使用したthalidomideは免疫調節剤に分類される薬剤で,抗VEGF,抗TNF-α等の作用を有し強力な血管新生抑制作用を示す.一方celecoxibは選択的cyclooxygenase(COX)-2阻害剤で,prostaglandin(PG)E2の産生を抑制することで脳関門の透過性を低下させ脳浮腫治療の可能性が報告されている.

 われわれは重篤な肺癌脳転移症例にthalidomide,celecoxibおよびgemcitabineを使用し救命,転移巣の縮小を得た1例を経験したので報告する.

連載 IT自由自在

覚醒下手術記録システムIEMAS

著者: 伊関洋 ,   南部恭二郎

ページ範囲:P.1028 - P.1031

はじめに

 言語野近傍の悪性脳腫瘍(glioma)に対し,摘出率の最大化と合併症の最小化を目指して,覚醒下手術にて言語野を温存する手技が普及しています.覚醒下手術を安全確実に行うことを目的として,awake surgery 研究会が脳腫瘍の外科学会と同時期に,山形大学の嘉山孝正教授を会長として一昨年より開催されています.関心のある方は,是非ご参加ください.言語野の同定にあたり,刺激した部位と被検者の反応を正確に記録することが,手術を安全に導く第一歩です.術中の煩雑さの中で,いかに簡単に検査のログを取るかが求められ,試行錯誤のうえで開発したのがIEMAS(Fig. 1)です.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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