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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科33巻11号

2005年11月発行

雑誌目次

新臨床研修医にのぞむこと

著者: 林隆士

ページ範囲:P.1043 - P.1044

 新臨床研修の制度化がなされて早くも1年半を経過した.彼らの背後には今後特に,2年の義務年限を終え,3年目からの自力で行う診療生活が目前に迫っているのである.事実,このところ公的機関や民間会社が主催する「後期研修医プログラム」の参加病院による合同説明会がなされ,熱心に研修医が聞き入っている姿が印象的である.

 さて,新臨床研修医制定には概ね3点が狙いとされている.それは,医師としての人格を涵養すること,プライマリ・ケアへの理解を高め,患者を全人的に診ることのできる基本的な診療能力を修得すること,そして施設側への注文としてのアルバイトをせずに研修に専念できる環境を整備すること,である.これらの目的は,豊かな心で診療に励み,質の高い医療を提供できる医師すなわち良医を1人でも多く育てようということであろう.

総説

頭部外傷の疫学的・分析的観点から―交通事故総合分析センターの調査をもとに

著者: 谷中清之 ,   柴田智行 ,   小野古志郎

ページ範囲:P.1047 - P.1054

Ⅰ.はじめに

 交通事故による頭部外傷は,現在なお多くの人命を奪う社会的にも医療的にも克服すべき大きな問題である.近年,脳圧測定法・脳低温療法など頭部外傷の治療法はめざましい発展を遂げつつあるが5,6,16,18-25),その一方で外傷の種類と受傷のメカニズムの関係は明らかとなっていない12,20,23).この原因の1つは,①医療者は患者の病態や治療については詳しいが,受傷に至った経緯については情報を持たないこと1),②事故の状況を検分し,自動車の損傷状況などの情報を持つ側は医療側の情報を持たないこと9),による.この病院外・内の情報が有機的に蓄積検討されれば,交通事故の際の頭部外傷の受傷の機序の解明のみならず,より安全な身体保護装置の開発などの一助となる.

 (財)交通事故総合分析センター(ITARDA:Institute for Traffic Accident Research and Data Analysis)は交通事故の原因を科学的に究明するため,交通事故統計(マクロ統計)および各事故ごとの運転者,道路交通環境,車両のそれぞれの面について交通事故現場での詳細な調査(ミクロ調査)を行っている3,4,17).筆者らはITARDAにおいて,総合的調査に関する調査分析検討会「人体傷害に関する分科会」委員や特定の事故形態に関する集中的な事故調査・解析委員会人体傷害部会委員会委員として,この両者のギャップを埋めることを主たる目的とし,交通事故時の頭部外傷のメカニズムについて検討を続けてきた3,4,17).本稿では,まずITARDAの活動について概説し,次いで交通事故による頭部外傷の疫学および脳損傷の機序について報告する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

脳外側面からのアプローチ

著者: 篠原治道

ページ範囲:P.1057 - P.1070

Ⅰ.はじめに

 ホルマリン固定された脳の肉眼解剖学的学習法としては前頭面,水平面,矢状面でスライスされた断面を観察するのが一般的である.もう1つの学習方法,脳組織をヘラで刮ぐ(こそぐ,「こすりけずる」の意)Fiber dissectionと呼ばれる方法は400年以上も前から行われているが,その知見には様々な疑念を抱く余地があった.しかし近年,MRI技術の発達により神経束の活動がリアルタイムで可視化されるにおよび,その疑念は解消されつつある.それとともに,神経束に関する肉眼解剖学的知見を放射線医学,脳神経外科学,神経精神医学,神経内科学などの分野における基本的な知識として活用していこうというのが近年の動向である.そこで本稿ではまず脳外側面および下面に分布する回と溝について述べ,次に脳外側面から島Insulaおよび大脳基底核Basal gangliaを経て内包へいたる剖出法,Lateral approachを紹介する.

研究

神経外傷における血清S-100B蛋白,NSEの検討

著者: 沢内聡 ,   田屋圭介 ,   村上成之 ,   石井卓也 ,   大塚俊宏 ,   加藤直樹 ,   郭樟吾 ,   田中俊英 ,   諸岡暁 ,   結城研司 ,   浦島充佳 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.1073 - P.1080

Ⅰ.はじめに

 現在,神経外傷の病態は画像所見により形態的に分類されているが,脳損傷がどの程度なのかを定量的に評価するのは困難である.近年,神経損傷のマーカーとして,血清S-100B蛋白およびneuron specific enolase(NSE)の有用性が注目されている1,3-5,8-13,17).S-100B蛋白はグリア細胞,NSEは神経細胞に存在するため,神経特異性が比較的高いとされる1,3-5,8-13,17).本研究は,頭部外傷後,急性期の血清S-100B蛋白,NSEが神経学的重症度の指標,および転帰の予測因子となり得るか,また,画像上の診断との関連を検討し,病態を解析することを目的とした.

症例

劇的な回復を示した高血圧性脳幹部出血の1例

著者: 辻田裕二郎 ,   柳川洋一 ,   高須朗 ,   竹本正明 ,   阪本敏久 ,   岡田芳明 ,   加藤裕

ページ範囲:P.1083 - P.1088

Ⅰ.はじめに

 橋出血は,海綿状血管腫,動静脈奇形,静脈性血管腫,抗凝固剤の使用,amyloid angiopathy,腫瘍,あるいは外傷を原因としても生じるが,主たる原因は高血圧であり4,5,7,8,14,21,23),その生命,機能予後は不良である6,7,10,13,17,18,22).しかし,稀に意識状態,出血量,血腫の局在,原因によっては,自立可能なまで改善することが報告されている10,18).来院時の意識状態が良好なもの3,13,22,24),血腫径が20mm未満3,13,22),局在は被蓋2,9),原因が血管奇形の場合1)などで転帰良好と考えられている.

 今回,われわれは昏睡で来院し,高血圧性と考えられる径23mmの中心性橋出血の症例が意識を回復し,起立可能となった症例を経験したのでここに報告する.

周囲支持組織を温存しつつ全摘出し得たdumbbell型C2 neurinomaの1例

著者: 井上明宏 ,   大上史朗 ,   久門良明 ,   岩田真治 ,   松井誠司 ,   大西丘倫

ページ範囲:P.1089 - P.1093

Ⅰ.はじめに

 脊髄腫瘍に対する手術では,後方到達法,前方到達法,さらには前方後方同時到達法など様々な方法が試みられているが7),いずれのアプローチ方法においても頸部筋群,関節などの周囲支持組織をできる限り温存することが,術後脊椎機能を維持するうえで有用である9).今回われわれはC2神経根に発生し,拡大したC1/C2椎間孔より傍椎体部に進展したdumbbell型神経鞘腫の1例に対し,後方到達法にてC2棘突起および同部位付着伸展筋群,椎弓,椎間関節などの周囲支持組織を完全に温存しつつ全摘出し得たので,文献的考察を加えて報告する.

脳幹梗塞で発症した頭蓋内硬膜動静脈瘻の1例

著者: 大石英則 ,   堀中直明 ,   清水崇 ,   尾崎裕 ,   新井一

ページ範囲:P.1095 - P.1099

Ⅰ.はじめに

 脳幹梗塞で発症する頭蓋内硬膜動静脈瘻は稀である.われわれは,延髄梗塞で発症した頭蓋内硬膜動静脈瘻の1例を経験し,血管内治療上の興味ある所見を認めたので報告する.

後頭蓋窩開頭術後に出現した二次性前頭蓋窩硬膜動静脈瘻の1例

著者: 村上謙介 ,   松本乾児 ,   沼上佳寛 ,   富田隆浩 ,   西嶌美知春

ページ範囲:P.1101 - P.1105

Ⅰ.はじめに

 硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula, dural AVF)は,成人例では原因不明の後天的疾患で,硬膜上に動脈と静脈の瘻が形成されるといわれている14)

 また,外傷後や他の頭蓋内疾患,あるいはその治療後に二次的にdural AVFが生じることもある2,8,9)

 今回われわれは,開頭術後に手術部位とは異なる遠隔部位に新生したdural AVFの1例を経験したので,文献的考察とともに報告する.

側頸部から上位頸椎へ進展した成人前駆型Bリンパ芽球性リンパ腫の1例

著者: 西原賢在 ,   工藤弘志 ,   水野石一 ,   垰本勝司 ,   甲村英二

ページ範囲:P.1107 - P.1111

Ⅰ.はじめに

 リンパ芽球性リンパ腫(lymphoblastic lymphoma,LBL)は悪性リンパ腫のなかでも最も悪性度が高く,non-Hodgkin lymphoma(NHL)の2~4%を占める1,10).急性リンパ性白血病に類似し2,4,5,8),LBLの大多数がT細胞性で,小児期や思春期の男性に発症しやすい6,8,11).好発部位は,縦隔や横隔膜より上のリンパ節であり6,8),初診時に中枢神経系に病変が及ぶものは9%程度で12),脊椎腫瘍を認めるものは稀である.今回われわれは,右側頸部から上部頸椎硬膜外に進展した稀な前駆型Bリンパ芽球性リンパ腫(B cell lymphoblastic lymphoma,BLBL)の成人例を経験したので報告し,診断方法と治療について考察した.

稀な画像所見を呈し免疫染色が病理診断に有用であった小脳clear cell ependymomaの1例

著者: 林拓郎 ,   宮崎宏道 ,   石山直巳 ,   亀山香織

ページ範囲:P.1113 - P.1117

Ⅰ.はじめに

 Clear cell ependymoma(CCE)は脳室内Monro孔付近に発生することが多いとされ, ependymomaの1 variantである10).しかし,ependymomaに特徴的な組織パターンであるrosetteを欠くこともあり,類円形核と明るい胞体を有する細胞が主体の腫瘍であるため,hematoxylin-eosin染色ではoligodendrogliomaやhemangioblastomaとの鑑別が困難な場合が多い1,3,7).今回,われわれは術前画像診断に苦慮し,免疫組織学的検討が有用であった小脳実質内のCCEを経験したので報告する.

Spina bifida occultaに合併した片側腰椎分離症の1例

著者: 金景成 ,   井須豊彦 ,   松本亮司 ,   宮本倫行 ,   磯部正則

ページ範囲:P.1119 - P.1123

Ⅰ.はじめに

 腰椎分離症において,分離が片側性であってもspina bifida occulta(SBO)を合併した場合,分離椎弓は浮動椎弓となり,その異常可動性により症状を呈することがある1,3,8).今回われわれは,SBOに合併した片側腰椎分離症の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

連載 英語のツボ 英文論文の書き方(1)

日本人FELLOWとの英文論文への取り組み

著者: 大坪宏

ページ範囲:P.1125 - P.1129

はじめに

 脳神経外科医に限らず,多くの医師が仕事に追われています.とにかく目の前に大勢の患者さんがいるから,検査・診断・治療をしなければならないという意識,義務が先に立って,自分たちがした仕事をfeedbackしてみることができない,ましてやそれを活字にする時間がないのが現状ではないでしょうか.

 日本人にとって,母国語でない英語の論文を書くことは,とてつもない時間と労力が必要です.でもなぜ自分がこんなことをしているのか? と考えたとき,文章に残すことは人生の成果として俳優や監督が映画を残すように医師として何か一つこの世に残せるものではないでしょうか.

 今回は一つの論文が,EPILEPSIAという雑誌に受理されるまでの2003年1月からの約2年半の記録を,英文論文かつ学術論文としての書き方に触れながら,日誌的に書いてみました.日本語ではなく英語の論文を書くことで,何ゆえ論文を書くのか? 何を書きたいのか? どう書くのか? を愛読している著書と文献を引用しながら書いてみたいと思います.

 村田蔵六(大村益次郎)について司馬遼太郎が次のように書いています.

“ある仕事にとりつかれた人間というのは,ナマ身の哀歓など結果からみれば無きにひとしく,つまり自分自身を機能化して自分がどこかへ失せ,その死後痕跡としてやっと残るのは仕事ばかりということが多い.その仕事というのも芸術家の場合ならまだカタチとして残る可能性が多少あるが,蔵六のように時間的に持続している組織のなかに存在した人間というのは,その仕事を巨細にふりかえってもどこに蔵六が存在したかということの見分けがつきにくい.つまり男というのは大なり小なり蔵六のようなものだと連載の途中で思ったりした.ごく一般的に人生における存在感が,男の場合,家庭というこの重い場にいる女よりもはるかに希薄で女のほうがむしろより濃厚に人生の中にいて,より人間くさいと思ったりした.その意味ではナマ身の蔵六の人生はじつに淡い.要するに蔵六は,どこにでもころがっている平凡な人物であった.ただほんのわずか普通人,とくに他の日本人とちがっているところは,合理主義の信徒だったということである.”

(『司馬遼太郎の考えたこと5』,「村田蔵六――「花神」を書き終えて」,新潮文庫,2005)

 司馬遼太郎は希薄という言葉で村田蔵六という男の人生を表現していますが,私も論文を書くことでその希薄から何か濃厚なものをカタチにしたいと考えているのかもしれません.

IT自由自在

Network接続によるworkstationの活用

著者: 佐藤透

ページ範囲:P.1131 - P.1135

はじめに

 Seeing is believing,百聞は一見にしかずの諺のごとく,生体情報の3次元可視化は,肉眼や想像力の限界を打破したい潜在的な人間の好奇心をくすぐる.CTやMRIで得られる元画像(source image)は,一般撮影での単なる平面写真(透過画像)ではなく,1枚1枚が厚みを持ったvolume dataである.最近のコンピュータ技術とmedical visualization softwareの革新に伴い,workstationを用いることでvolume dataから極めて短時間で3次元画像の作成が可能となり,長年の夢であった3次元画像診断が現実のものとなった.今回は,workstationと個別のpersonal computer(PC)とをnetwork接続することで,3次元画像を日常診療で簡便に活用しているので,現状を紹介し3次元画像の新たな展望について略記した.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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