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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科33巻2号

2005年02月発行

雑誌目次

医療現場の荒廃を愁う

著者: 山下純宏

ページ範囲:P.105 - P.106

わが国は「低医療費政策」で「長寿世界一」を成し遂げたので,日本の医療制度は優れていると,国際社会では評価されているらしい.対GDP比の6~7%しか使わずになぜこれが成し遂げられたのか? それは昭和30年代に導入された,「国民皆保険制度」と政府がそれ以来一貫してとり続けてきた「低医療費政策」により,医師と医療従事者は忍耐と犠牲を強いられてきたからに他ならない1)

 国立大学が法人化すれば,自主性を持ち,各大学の自由度は大幅に拡大されると宣伝されていたが,平成16年春から,いざ法人化してみると,文部科学省からの規制はますます強くなり,「社会に対するアカウンタビリティ」と「学長のリーダーシップ」の名のもとに,大学が文部科学省の好きな方向へ勝手に引っ張って行かれているように感じられる.法人化後,国は引き続き運営費交付金を出すけれども,大学の経費は,専任教員の人件費以外は毎年1%ずつ減らされる.また,平成17年度からは,病院収入を毎年2%増やすよう義務づけ,達成できなければ運営費交付金が削られるという.

総説

ドップラー血流測定装置の功罪

著者: 児玉南海雄 ,   遠藤雄司 ,   生沼雅博 ,   佐久間潤 ,   鈴木恭一 ,   松本正人 ,   佐々木達也

ページ範囲:P.109 - P.117

Ⅰ.はじめに

 主として血管系手術の術中に,動脈や静脈の血流の有無をチェックする目的で超音波を用いたドップラー血流測定装置が使用されている1,8,9).その簡便さ故にあまねく世界中に拡がっており,その信頼度はかなり高い.

 しかし,本装置から超音波を発射する形式には2つの方法があり,いずれの様式であるかを確認しないで使用すると誤った判断を下す危険がある.この他にも本装置の詳細を理解しないで使用した場合に陥るpitfallも少なくない.われわれは約20年以上の使用経験を有するが,時折理解し難い矛盾に遭遇したことから調べてみると,前述した超音波発射方式の違いをはじめ多くの点においてわれわれの理解度が低い現実を思い知らされた.さらに機器製造会社の説明文やカタログにはblack boxが多く,本装置は広く普及しているものの内容的に十分な知識の裏付けを持って使用している人は意外に少ないのではないかと思われた.

 本稿では術中に用いるドップラー血流測定装置の使用上の注意点を主体に記述したが,筆者らは超音波に関する専門家ではないので,例えばドップラーの表記も学会の決まりではドプラが正しいとのことであるがあえて一般的な表現を用いたし,内容に関しても誤りがないとはいい切れず,厳しい御指摘や御批判を頂戴できれば幸いである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Dolenc approachの手術手技

著者: 西澤茂

ページ範囲:P.119 - P.130

Ⅰ.はじめに

 ヨーロッパの小国,スロベニア共和国の首都,Ljubljana (リュブリャナ)にあるUniversity Hospital Center の脳神経外科教授であるVinko V. Dolenc がIC-ophthalmic aneurysm のclipping 手術に「Combined epi- and subdural direct approach」を用いた手術手技を報告し1),有名な教科書「Anatomy and Surgery of the Cavernous Sinus」2)を出版して以来,Dolencが用いた手術手技は今や特別な手術手技ではなく,「Dolenc approach」として様々な硬膜内外の病変に対して極めて一般的な手術手技としてどこでも用いられるようになってきた.また,かつては「no man's land」と言われた海綿静脈洞に及ぶ病変に対してもDolenc が明らかにした詳細な解剖学的な検討2,3)から,積極的に手術が試みられるようになった.しかし,海綿静脈洞に浸潤する病変(その典型例は髄膜腫であるが)を積極的に摘出した術後成績,さらにはこうした病変に対する定位的放射線治療の成績が向上してから,現在では海綿静脈洞内の腫瘍性病変に対する積極的な手術に対しては,今,反省期に入っている感がある.しかしながら,「Dolenc approach」を理解することは,海綿静脈洞の解剖,その近傍に存在する病変に対する手術手技を習得するうえで非常に重要であると考えられる.ある意味では,頭蓋底手術の基本が「Dolenc approach」にあるといえる.この手術手技を理解するためには,cadaver dissection による解剖学的な理解が非常に役立つ.そこで,われわれの教室で行っている,若手脳神経外科医のためのcadaver dissection での術野で得られた解剖をもとに,「Dolenc approach」の手術手技について解説したい.なお,手術手技の解説で提示した図のうち,Fig. 1~3までは実際の手術での図を提示し,後の図はcadaver dissectionでの図を提示した.

研究

塩酸ファスジル動注効果の持続時間

著者: 小野健一郎 ,   城谷寿樹 ,   和田孝次郎 ,   高原喬 ,   松下芳太郎 ,   弓場孝治 ,   山名大吾

ページ範囲:P.133 - P.140

Ⅰ.はじめに

 塩酸ファスジルは脳血管拡張作用を有し,二重盲検試験でくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage, SAH)後の症候性脳血管攣縮を30%低下させ有効との結果15)より1995年に認可されて以来,本邦では広く使用されている薬剤である.また攣縮血管に対する動注療法も指田ら,Tachibanaらの報告14,17)以降,各施設において散在的に使用され,その有効性と副作用の少なさを指摘するものが多い4,16).脳血管攣縮に対する動注薬剤として以前より塩酸パパベリンが使用されてきたが,高濃度の薬剤による穿通枝の閉塞や血管壁の損傷がその主体と考えられる散瞳,麻痺,意識レベル低下,呼吸停止といった副作用が報告され7,13,22),近年ではさしたる合併症を認めない塩酸ファスジル動注にシフトしてきている4,16).しかし塩酸ファスジルの動注至適量,効果持続時間がいまだ不明のまま施行されているのが現状である.そこで本研究の目的は塩酸ファスジルの動注による効果持続時間を明らかにすることである.

症例

脳出血で発症した海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の1例

著者: 高沢弘樹 ,   久保道也 ,   桑山直也 ,   長谷川真作 ,   堀江幸男 ,   平島豊 ,   遠藤俊郎

ページ範囲:P.143 - P.147

Ⅰ.はじめに

 海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻(CS-DAVF:cavernous sinus dural arteriovenous fistula)は,他の部位に発生したDAVFと異なり,脳静脈への逆流(RLVD:retrograde leptomeningeal venous drainage)を伴う場合にも,脳出血や静脈性梗塞を起こす例は稀である1,2)

 今回われわれは,脳出血を合併したCS-DAVFの症例を経験し,従来から報告されているDAVFの頭蓋内出血に関しての危険因子に加え,その流出経路の観点から見た新たな危険因子について考察を加えた.

冠動脈病変を合併した両側内頸動脈狭窄症に対するstent/CEA複合治療の経験

著者: 七戸秀夫 ,   黒田敏 ,   浅野剛 ,   牛越聡 ,   石川達哉 ,   宝金清博 ,   村下十志文 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.149 - P.153

Ⅰ.はじめに

 近年,頸部内頸動脈狭窄症に冠動脈病変を合併している症例が,多く経験されるようになってきた.本邦での頻度は内頸動脈狭窄症の約10~30%であり,かつ増加の傾向にあることが報告されている7,10).このため内頸動脈狭窄症の治療計画にあたっては,冠動脈病変の有無を検索することがルーチンとなりつつある.

 内頸動脈狭窄症に対しては,頸動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy; CEA),stentを用いた血管形成術(carotid arterial stenting; CAS)が治療の選択肢となり得る.同様に,冠動脈疾患に対しては,冠動脈バイパス術(coronary artery bypass graft; CABG),stentを併用した血管形成術(percutaneous transluminal coronary angioplasty; PTCA)が検討され得る.両者の病変を合併した症例では,周術期の合併症を減少させるために,①頸動脈病変の治療優先,②冠動脈病変の治療優先,③両病変の同時治療のオプションが検討されている4)

 しかし,両側内頸動脈高度狭窄症を有する冠動脈疾患の症例では,冠動脈疾患に対する治療と平行して,周術期に脳梗塞が発生するのを予防するために,両側内頸動脈に対する治療を行う必要がある.今回,われわれは,このような2症例において,CASとCEA両者を冠動脈疾患に対する治療と平行して実施することで良好な結果を得ることができたので,その概要を報告する.

破裂内頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤に合併した前脈絡叢動脈異常過形成と分岐部未破裂動脈瘤の1例

著者: 塩屋斉 ,   菊地顕次 ,   須田良孝 ,   荘司英彦 ,   進藤健次郎

ページ範囲:P.155 - P.162

Ⅰ.はじめに

 これまで後交通動脈とは別に内頸動脈から分岐して側頭葉あるいは後頭葉に還流する動脈の破格についていくつか報告されている.Yasargilは「duplication of the posterior communicating artery(重複後交通動脈)」あるいは「second posterior cerebral artery(第二後大脳動脈)」として報告しているが14),最近,発生学的あるいは神経放射線学的観点からこの動脈を「anomalous hyperplastic anterior choroidal artery(前脈絡叢動脈異常過形成)」とする報告が散見される1,9,10)

 今回,破裂内頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤に合併した前脈絡叢動脈異常過形成と分岐部未破裂動脈瘤の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

特発性脊髄硬膜外血腫の4治験例

著者: 島田直也 ,   菅原卓 ,   伊藤康信 ,   平野仁崇 ,   東山巨樹 ,   木内博之 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.163 - P.168

Ⅰ.はじめに

 特発性脊髄硬膜外血腫(spontaneous spinal epidural hematoma,SSEH)は稀な疾患で10万人あたりの発生率は年間0.1程度と推測されている8).発症形式は特徴的で,突然の頸部・背部痛に続いて急速に運動・知覚麻痺を呈する5,7).現在までに約500例が報告されており,従来は早期の診断・血腫除去術がすすめられていたが9,13),最近では保存的治療によって良好な予後を得た報告が増加している3,5).われわれは最近,4例のSSEHを経験し,2例に手術,2例に保存的治療を行って良好な結果を得たので,診断と手術適応などについて若干の文献的考察を加えて報告する.

被殻出血を合併したTurner症候群―高アルドステロン血症を呈した1例―

著者: 奥野修三 ,   西憲幸 ,   榊壽右

ページ範囲:P.171 - P.176

Ⅰ.はじめに

 Turner症候群は性染色体異常を有し,低身長,二次性徴欠如,無月経,翼状頸などの症状を特徴とする疾患である.性染色体異常の基本型は45,Xであるが46,XXとのモザイク型が多いとされる6).全身症状のうち血管系では大動脈狭窄症の合併頻度が高く,脳血管障害の報告は稀である.今回われわれは異常な高血圧を伴い被殻出血を合併した若年者Turner症候群の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

連載 IT自由自在

テレビ電話を用いた関連病院からの画像コンサルテーション

著者: 藤澤博亮 ,   米田浩 ,   加藤祥一 ,   小泉博靖 ,   富永貴志 ,   黒川徹 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.178 - P.181

背 景

 関連病院の脳神経外科医師が画像診断や治療方針などに苦慮することがあり,また,県内および県外の病院から症例に関する様々な相談が持ちかけられる.近隣の病院の場合や緊急を要しない症例の場合にはフィルムを持ち寄って討論することができるが,遠方の場合や緊急の場合には画像コンサルテーションの方法を工夫する必要がある.当施設では電子メールによる方法,IP接続型携帯電話による方法,とコンサルテーションのための画像転送の方法が変遷してきたが,現在では,市販のテレビ電話を用いた方法を採っている.本稿では,このテレビ電話を用いた関連病院からの画像コンサルテーションについて述べる.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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