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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科33巻5号

2005年05月発行

雑誌目次

教育改革と脳機能開発―その3―

著者: 栗栖薫

ページ範囲:P.413 - P.414

『脳神経外科』の「扉」の項で,同じ題目で過去2回書かせて頂いた(1回目:1995年第23巻第10号,2回目:1999年第27巻第8号).今回ほぼ5年の歳月を空けて「扉」執筆の3度目の依頼を受けた.懲りもせずまたこの題目を出すことになってしまった.多くの諸兄がお察しのとおり「ゆとり教育」の問題である.あるいは弊害と言ってもいい.

 初等教育,中等教育における世界的な比較が行われ,日本の生徒の学力が明らかに低下していることが大々的に報道された.もちろんある範囲に限った内容と結果ではあるが,「やはりそうか」,と妙に納得してしまった.

総説

未破裂脳動脈瘤―UCAS前夜

著者: 大熊洋揮

ページ範囲:P.417 - P.431

Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は脳神経外科における最も重要な疾患の1つである.それは,死に至ることも少なくはない重篤な疾患であると同時に,手術を中心とした脳神経外科的治療の介在により,元の生活に復帰させることも十分に可能なためである.しかし,即死例も含め脳神経外科的管理前に瀕死状態となり手術に到らない症例が半数以上を占めるとされ37,56,58,66),全体的な予後には大きな進歩が得られていないことも指摘され続けている25,62).この事実から,くも膜下出血自体の発生の予防,つまり未破裂のうちに発見し手術的治療を行うことに目が向けられたことは必然的な流れである.

 この動きは,1980年代に入りMRIが実用化され,MRAにより脳動脈瘤の画像化が可能となったことから一気に加速した.日本では1988年より脳ドックが開始され,90年代に入ってからはスクリーニングにより未破裂のうちに発見し手術を行うことが広く普及し始めた.しかし一方で,危険性つまり脳障害による後遺症が生じる可能性の少なくはない症例もあることから,対象症例の見直しも行われてきた36,63,71,81).加えて1998年,ISUIA78)の示した極めて低い未破裂脳動脈瘤(以下,未破裂瘤)の破裂率は,その検討法に問題が含まれてはいたものの,未破裂瘤に対する予防的手術自体の意義を再考する機会を提示したとも言える.

 当然,未破裂瘤の外科的治療の適否は,その破裂の可能性と手術の危険性のバランスのもとに判断されるものである.しかし,その判断根拠となるエビデンスの高い検討がこれまでに行われなかったことが手術基準の曖昧さの一因でもあった.これに対してUCAS - Japan(以下,UCAS)が2001年に開始され,その最終報告を間近に控えた今,日本における未破裂瘤の自然歴の詳細が明らかにされることが期待されている.一方,UCASの結果が報告されたとしても,これまで行われてきた未破裂瘤に関する報告の価値が失われる訳ではない.UCASの報告を前に,これまでの未破裂瘤に関係のある疫学的報告を整理しまとめておくことは,UCASの結果を理解するうえで意義のあることと思われる.そうした観点から,自験例を含め,未破裂瘤に関連する文献に関し集積・解析を行った.

海外だより

脳腫瘍の免疫治療におけるtranslational research

著者: 岡田秀穂

ページ範囲:P.433 - P.442

Ⅰ.はじめに

 われわれの仕事は,いわゆる典型的な脳神経外科医の仕事ではなく,基礎研究の分野から悪性脳腫瘍の患者に有効な治療方法を見つけて試みてみよう,また,効果がみられた場合も,みられなかった場合も,それがどうしてなのかをもう1度研究室に戻って検証しようという,いわゆるtranslational research,あるいはtranslational medicineの分野である.具体的には,おもに悪性グリオーマや転移性脳腫瘍のT細胞性免疫の抗原を同定し,また脳という免疫学的に特異な場における免疫反応の特性を理解し,より有効な免疫治療を開発しようという試みである.

 大手製薬会社の製品開発力がすさまじく進歩した現在にあっても,比較的症例数の少ない原発性脳腫瘍という疾患は,いわゆるorphan diseaseと呼ばれる範疇に入り,大手製薬会社の開発方針の優先順位からはずれることもある.言うまでもなく,有効な治療法のない悪性脳腫瘍の治療の進歩のために,疾患の基礎と臨床の両面を理解する医師が,治療法開発の中心的役割を担うのが望ましい.

 本稿では,まずわれわれの最近の研究について紹介すると同時に,translational researchの現状,また,この分野を健全に進歩させていくために筆者の私見から重要と思われる点について述べたい.本稿が,免疫療法に携わる先生方のみならず,広くtranslational researchに関心のある脳神経外科の先生方に興味を持って読んでいただけたらありがたい.

研究

Color-coded 3D MRA による個々の未破裂脳動脈瘤における瘤内MR信号強度分布パターンの画像解析

著者: 佐藤透 ,   尾美賜 ,   大迫知香 ,   勝間田篤 ,   吉本祐介 ,   土本正治 ,   国塩勝三 ,   小野田恵介 ,   徳永浩司 ,   杉生憲志 ,   伊達勲

ページ範囲:P.445 - P.454

Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤の発生,成長,破裂には,血液の流れによる血行力学的負荷が深くかかわっていると考えられ,脳動脈瘤内の流れの解明にはこれまで多くの研究がなされてきた2-4,12-14).しかしながら,そのほとんどはin vitro model,computer simulationあるいは実験脳動脈瘤を用いた基礎的検討であり,臨床例でのまとまった報告はみられない.今回われわれは,MR angiography(MRA)で得られる血流情報に着目して,MRA volume dataの信号強度分布を3次元(three-dimensional, 3D)カラー表示するcolor-coded 3D MRAを新たに創作した9).本論文では,color-coded 3D MRAを用いて,未破裂脳動脈瘤50例において個々の脳動脈瘤での瘤内MR信号強度分布パターンとbleb形成・domeの変形など瘤形態との関連を3D画像解析し,新たな知見を得たので報告する.

四丘体槽くも膜囊胞の伸展方向と手術アプローチの選択

著者: 林央周 ,   浜田秀雄 ,   梅村公子 ,   黒崎邦和 ,   栗本昌紀 ,   遠藤俊郎

ページ範囲:P.457 - P.465

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内くも膜囊胞の発生頻度は,頭蓋内占拠性病変の約1%である1).好発部位はシルビウス裂(49%)であるが,小脳橋角部(11%)および四丘体槽部(10%)にも認められる7,12-14).四丘体槽くも膜囊胞の典型的な症状は,頭蓋内圧亢進症状と四丘体圧迫による眼症状であるが,中脳水道狭窄による閉塞性水頭症の原因となることもある10,18,19)

 くも膜囊胞に対して現在まで行われている治療法としては,囊胞腹腔短絡術と開頭による囊胞壁切除術が挙げられる.それぞれの方法には利点と問題点があり,治療方法の選択には議論の多いところであるが,囊胞が深部に存在する場合には囊胞腹腔短絡術が選択される比率が高いと報告されている12).一方,近年の光学技術の進歩による内視鏡の細径化と内視鏡用手術器具の開発により,くも膜囊胞に対する内視鏡治療の報告が増加しており2-4,6,8,11,16,17),四丘体槽くも膜囊胞に対しても行われるようになってきた9,15)

 われわれは,伸展方向と症候の異なる4例の四丘体槽くも膜囊胞に対して,内視鏡単独あるいは内視鏡支援にて囊胞壁切除術を行い,良好な治療成績を得てきた.四丘体槽くも膜囊胞の伸展方向による症候の特徴と手術アプローチに関して検討したので報告する.

症例

劇的な改善を得たspinal dural arteriovenous fistula(AVF)の1例

著者: 新谷好正 ,   飛騨一利 ,   関俊隆 ,   牛越聡 ,   宮坂和夫 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.467 - P.471

Ⅰ.はじめに

 Spinal dural AVF は一般に中高年の男性に多く,緩徐に進行する脊髄症状を呈することが知られている4,13,14).今回われわれは,短時間で急速にパラプレジアを呈し,その後塞栓術および観血的手術により劇的に改善し得た1例を経験したので報告する.

外転神経単独麻痺で発症し腫瘍内出血を伴った非機能性下垂体腺腫の1例

著者: 谷岡大輔 ,   阿部琢巳 ,   国井紀彦 ,   泉山仁

ページ範囲:P.473 - P.479

Ⅰ.はじめに

 外転神経麻痺を呈する原因として動脈瘤や血管障害,外傷,腫瘍など様々な要因が知られているが,下垂体腺腫による外転神経麻痺の報告は極めて少ない5,6,9,17-20,22,25).今回われわれは,腫瘍内出血による外転神経麻痺で発症し,経鼻的腫瘍摘出術にて症状の改善をみた非機能性下垂体腺腫の稀な1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

多発性脳梗塞を併発した成人髄膜炎2剖検例の検討

著者: 横須賀公彦 ,   石井鐐二 ,   関原嘉信 ,   石井則宏 ,   毛利豊 ,   平野一宏 ,   鈴木康夫 ,   伊禮功 ,   調輝男

ページ範囲:P.481 - P.486

Ⅰ.はじめに

 髄膜炎に脳梗塞を合併した症例は小児科領域では数多く報告されている6,10,12).われわれは成人
の細菌性・真菌性髄膜炎に脳梗塞を合併した2剖検例を経験したので,臨床経過と病理組織学的所見を検討し,治療上の問題点について考察する.

特異的なMRI所見にて診断し得た亜急性連合性脊髄変性症の1例――22例のMRI所見のレビュー―

著者: 森下暁二 ,   冨田洋司 ,   高石吉将 ,   西原賢在 ,   甲村英二

ページ範囲:P.489 - P.495

Ⅰ.はじめに

 Vitamin B12(VB12)欠乏時に生じる亜急性連合性脊髄変性症は稀な疾患だが,MRIの普及以来,報告例が増加している.一般的に亜急性連合性脊髄変性症は後索症状を中心とする症状を呈するが,症状完成前にMRIにて早期診断の可能性がある.われわれは両手指のしびれ感のみで発症したが,血液生化学的検査および頸髄MRIにて亜急性連合性脊髄変性症と診断し,VB12投与により軽快した症例を経験したので報告する.

多発性皮質下出血を合併したSLEの1例

著者: 奥野修三 ,   榊壽右

ページ範囲:P.497 - P.501

Ⅰ.はじめに

 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus以下,SLE)には多彩な中枢神経障害の合併が報告されている.なかでも脳血管障害は,多数の臨床および病理学的所見の検討結果から,SLEの臨床経過に大きく影響することがわかった1,9,12).特に,頭蓋内出血性病変を有するSLE患者においては,外科的治療の予後に果たす役割は多大である.一方,剖検における脳病変の検索では脳内に大小の出血巣が頻繁に認められるものの,生前に脳内出血で発症したとするSLE症例は比較的稀である1,2,6,7).最近,われわれは同時期に多発する皮質下出血を合併したSLEの1例に対して手術治療を行い良好な予後を得た.この特異な臨床像を通して,SLEでの脳内出血の発生機序につき,文献的考察を加え報告する.

報告記

第3回アジア脳腫瘍学会(3rd Meeting of the Asian Society for Neuro-Oncology)(2004年11月19日~22日)

著者: 三島一彦 ,   松谷雅生

ページ範囲:P.502 - P.503

第3回アジア脳腫瘍学会(3rd Meeting of the Asian Society for Neuro-Oncology, ASNO)が2004年11月19日から22日まで,中国上海にて第3回上海国際脳神経外科学会とのジョイントで開催された.会長は,上海Fudan UniversityのLiang-Fu Zhou教授が務められた.本学会は2002年に第1回が日本の熊本(会長:熊本大学 生塩之敬教授)で開催され,2003年に第2回が韓国のソウル(会長:ソウル大学 Jong-Hyun Kim教授)で,そして今回が3回目となる新しい学会である.

 近代化を急速に遂げている中国の中でも,上海は経済の中心的役割を果たす国際都市だ.商業地域として集中的に開発され近代的高層ビルが林立するエリア,租界時代に建てられた石造建築物がずらりと並ぶエリア,古い商店街,市場や寺院など,新旧いろいろなものが交じり合う観光都市でもある.学会会場は,戦前フランス租界であった静安地区の中心に位置する Portman Ritz-Carton HotelのShanghai Theaterをメイン会場とし,その他,口演会場2会場とポスター会場1会場で開かれた.

座談会

日本脳神経外科同時通訳団―アジアをリードする日本医学界からの発信―

著者: 植村研一 ,   大井静雄 ,   本郷一博 ,   伊達勲

ページ範囲:P.505 - P.514

伊達(司会) 本日は,お忙しいなかをありがとうございます.私は現在,日本脳神経外科同時通訳団の団長をさせていただいております.ぜひ一度,この同時通訳団について皆さんに知っていただくとともに,われわれの活動を紹介することが若い人たちを刺激して,ここに入って頑張ろうという人が増えればと考えまして,今回この座談会を企画しました.よろしくお願いいたします.

連載 IT自由自在

脳神経外科のマルチメディア・インフォームド・コンセントとインターネットでの提示

著者: 大泉太郎

ページ範囲:P.516 - P.521

はじめに

 われわれは今まで,①患者や家族へ公平でわかりやすい脳神経外科の検査や疾患の説明を簡便に行うためにマルチメディアソフトを活用したインフォームドコンセント,②多様な医療情報の患者へのわかりやすい提示や医療教育,③医療サイドでの情報活用を目的とした脳外神経外科疾患のマルチメディア・データベース,など実際の医療現場で患者や家族を中心にした医療情報の活用を1995年から行ってきた.

 また,インターネットが普及しはじめた1996年からは,公平でわかりやすく簡便な医療情報の提示を,一般の方やこれから医療機関に受診しようとしている人にまで広げ,医療や健康に対する関心を深め疾患予防に役立てたり,医療情報への理解を深め検査や治療を効率よく行うことを目的に,ホームページ上での脳神経外科の検査や疾患についての情報提示を行ってきたので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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