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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科33巻6号

2005年06月発行

雑誌目次

法人化1年後の国立大学病院

著者: 長尾省吾

ページ範囲:P.533 - P.534

国の財政破綻が予想される中,平成16年4月に国立大学が法人化され1年が経った.政治と行政の失政によるつけを大学の教育研究診療の現場に押しつける方策であり,国の理不尽な仕様に憤りを感じながらもとにかくスタートした.法人化前には人事および財政面で法人の裁量権が大幅に認められるとの情報もあり,結果責任さえ果たせば新しい国立大学のスタイルとして容認できるかもしれないと考えていた.病院の運営を預かっている立場から現状を述べてみたい.法人化後,淡い期待は見事にはずれ常勤職員の定員の増員はまったく認められず,それを補うには非常勤職員増によって病院を運営するしかない.一方,経営努力によって得られた剰余金は病院で自由に使用できるという情報もあったが,剰余金の認定を受けるには財務および文科大臣の承認が必要であり,法人各部局で剰余金をどのように取り扱うかコンセンサスを得なくてはならずこの雲行きも怪しくなってきた.すなわち,法人化により何らメリットがないというのが現在の実感である.

 法人化のスタートにあたり診療医師の勤務体制が人事院規則から,労働基準法(週40時間勤務,当直週1回,日直月1回,時間外勤務は年間360時間以内)に変更された.そのため時間外,休日,年末年始などの長期休院時には実際に診療にあたる医師不足が発生し,医療の質が低下しており,重症の急患に対応できなくなるなど急性期病院として充実を目指す大学病院にとって重大な問題が生じている.事実,関係医療機関から多くのクレームが寄せられている.一方,助手以上の常勤医の当直日数が減少し,また,時間外勤務手当の制限により彼らの収入は大幅減となり不平不満でいっぱいである.法人化前でも国立大学病院の医師手当は他の公立病院に比して低く設定されていた.他の病院より安い給料で従来以上の教育・研究・診療のアクティビティを維持せよというのはどう考えても不合理であり,優秀な人材が大学外へ流出することを危惧している.常勤職員の定員増は不可のため,非常勤職員の増員で病院診療はやっと運営されている状況である.しかも任期付きの非常勤採用ではこれまたよい人材が集まらない.大学病院に優秀な人材を集中させるべく非常勤職員の常勤化を含めいろいろ策を練っているが妙案はない.

総説

神経膠腫における遺伝子解析とテーラーメイド治療

著者: 渡邉学郎 ,   吉野篤緒 ,   片山容一

ページ範囲:P.537 - P.553

Ⅰ.はじめに

 近年の分子生物学の飛躍的な発展により,癌の発生,増殖,浸潤には,細胞周期関連遺伝子,ミスマッチ修復関連遺伝子,増殖因子受容体遺伝子,細胞浸潤・接着関連遺伝子,血管新生関連遺伝子などの様々な遺伝子の変異の重積が必須であることが明らかにされてきた.神経膠腫gliomaにおいても,複数の遺伝子異常が複雑に関与していることが判明してきている.もし,gliomaをその生物学的特性と密接にかかわる遺伝子異常の組み合わせに従って分類できれば,個々の症例に応じた治療法の選択,いわゆるテーラーメイド治療が可能になり得ると期待されるが,gliomaをめぐるこれらの分子生物学的知見が直接日常の診療に役立つには至っていないのが現状である.しかしながら,過去十数年間,ブレークスルーとは言えないまでも,oligodendroglial tumorおよびその化学療法感受性と関連する遺伝子マーカーの確立,O6-methylguanine-DNA methyltransferase (MGMT)をはじめとした薬剤耐性因子の解明など,臨床的に意義ある知見が確実に蓄積されてきている.最近ではDNAマイクロアレイ技術の発展により,数々の癌腫において遺伝子発現プロファイルリングの解析が急速に進んでおり,gliomaにおいても治療反応性を含めた生物学的特性にかかわる分子機構が網羅的に解明され,それに基づいた臨床応用も現実味を帯びてきている.ヒトゲノムの塩基配列が解読されたポストシークエンス時代におけるテーラーメイド治療に向けて,現在わかっている範囲でも臨床にどのように応用するか,常に考察し,システムをセットアップしていく必要がある.

 本稿では,成人のdiffuse gliomaにおける遺伝子異常とその変化がもたらす生物学的・臨床的意義について概説するとともに,われわれが現在試みているテーラーメイド化学療法を紹介する.

海外だより

チュ-リッヒ大学脳神経外科―抄史と現況

著者: 米川泰弘

ページ範囲:P.555 - P.567

―春ごとの花に心をなぐさめて六十路あまりの年を経にける 西行―

 当科は1937年にH Krayenbuhl教授によってスイスで始めて創立された.脳神経外科の沿革を辿るとその前に,眼科腫瘍に対するアプローチで知られている外科のRU Krönlein教授にさかのぼることができる.H Krayenbuhl教授はその後任となるMG Yasargil教授との共著で名著『Die zerebrale Angiographie(Cerebral Angiography)Thieme』を表し英訳も刊行し洛陽の紙価を高めた.また,第1回ヨーロッパ脳神経外科学会(1959年)を組織開催してヨーロッパ近代脳神経外科の発展に力を尽くした.第2代のMG Yasargil教授はMicrosurgeryを脳神経外科に導入発展させたことを始めとした多大の貢献により,脳神経外科の創始者H Cushing教授とともに米国雑誌Neurrosurgery(1999年)にて20世紀の代表的脳神経外科医の2人に選ばれた.

 当科の伝統的な取り組み対象疾患として,腫瘍,血管障害のほかにてんかん外科がある.選択的Amygdalohippocampectomy(SAHE)はその歴史的背景のうえに立って考案創出された.

研究

未破裂内頸動脈-後交通動脈瘤の伸展・変形に及ぼす瘤周囲環境の画像評価―3D MR Cisternography-3D MR angiography fusion imagingによる検討

著者: 佐藤透 ,   尾美賜 ,   大迫知香 ,   勝間田篤 ,   吉本祐介 ,   土本正治 ,   小野田恵介 ,   徳永浩司 ,   杉生憲志 ,   伊達勲

ページ範囲:P.569 - P.577

Ⅰ.はじめに

 脳動脈瘤の発生,成長,破裂のメカニズムは,これまで親動脈と脳動脈瘤との血管構築,瘤サイズと形態,瘤壁性状,瘤内血行動態など主として脳動脈瘤自体が有する瘤内環境について検討されてきた1-4,13,16,18-22).これらに加え,脳動脈瘤を取り囲む瘤周囲環境(perianeurysmal environment)は,脳動脈瘤の伸展やdomeの変形にかかわる瘤外要因と考えられている10,15,17)

 内頸動脈-後交通動脈瘤は成長・増大に伴い,硬膜・硬膜襞,天幕自由縁,後床突起,動眼神経,後交通動脈,さらには側頭葉内側面など多くの瘤周囲構造物と接触する可能性を有する.今回われわれは,未破裂内頸動脈-後交通動脈瘤において,MR cisternography (MRC)とMR angiography (MRA)とを連続して撮像し,得られたvolume dataからthree-dimensional (3D) MRCとその等座標3D MRAを画像再構成した.さらに,両者のvolume dataを重畳した3D MRC-MRA fusion imageを新たに創作し,未破裂脳動脈瘤の伸展・変形に及ぼす瘤周囲環境に着目して画像解析したので報告する.

特発性正常圧水頭症における髄液流出抵抗値の再検討―硬膜外圧測定と腰部くも膜下腔髄液圧との比較

著者: 竹内東太郎 ,   後藤博美 ,   伊崎堅志 ,   国分康平 ,   小田正哉 ,   笹沼仁一 ,   前野和重 ,   菊地泰裕 ,   小泉仁一 ,   渡辺善一郎 ,   伊藤康信 ,   大原宏夫 ,   古和田正悦 ,   渡邊一夫

ページ範囲:P.579 - P.584

Ⅰ.はじめに

 筆者らは特発性正常圧水頭症(idiopathic normal pressure hydrocephalus:iNPH)における術前シャント効果判定の中で,髄液流出抵抗値 (cerebrospinal fluid outflow resistance value:Ro) を髄液循環障害の重要な判定因子と位置づけて測定してきた11)

 今回,筆者らはiNPHの診断および治療後経過観察における統一基準作成事業(study of idiopathic normal pressure hydrocephalus on neuro-logical improvement:SINPHONI)のオプションとしてRo施行基準が設定されたのを期にSINPHONIの施行基準でinfusion testを施行し,圧測定を従来の筆者らの頭蓋窮隆部硬膜外圧(convexity epidural pressure:EDP)11)とSINPHONIの腰部くも膜下腔髄液圧(lumbar subarachnoidcerebrospinal fluid pressure:L-CSFP)を同時測定して両者におけるRoの比較検討を行ったので報告する.

症例

破裂脳底動脈解離性動脈瘤に対してflow reverseにより治療し得た1例

著者: 今田裕尊 ,   井川房夫 ,   大林直彦 ,   松重俊憲 ,   梶原洋介 ,   鮄川哲二 ,   大庭信二

ページ範囲:P.587 - P.592

Ⅰ.はじめに

 脳底動脈解離性脳動脈瘤(以下,BADAN)に対する有効な治療法はいまだ確立されていないのが現状である.今回われわれは,BADANに対し両側椎骨動脈(以下,VA)を閉塞することにより脳底動脈(以下,BA)の血流を逆流せしめること(flow reverse)で治療し得た1例を経験したので文献的に考察し報告する.

Pachymeningoencephalitisの1例

著者: 下岡直 ,   宇都宮隆一 ,   久保重喜 ,   長谷川洋 ,   富永紳介 ,   吉峰俊樹

ページ範囲:P.595 - P.598

Ⅰ.はじめに

 髄膜に浸潤した腫瘍性病変には良性および悪性の疾患があり,予後を含めて正確な診断が必要である.今回,硬膜より脳実質まで炎症が波及したpachymeningoencephalitisの1例を経験したので報告する.

Subfrontal Schwannomaの1例

著者: 小守林靖一 ,   荒井啓史 ,   香城孝麿 ,   小保内主税 ,   若林淳一 ,   小川彰

ページ範囲:P.601 - P.605

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内に発生するschwannomaは原発性脳腫瘍中10.8%(von Recklinghausen病を含む)を占め,その多くが聴神経より発生する.稀に三叉神経,顔面神経,舌咽神経,迷走神経,副神経および舌下神経からの発生の報告があるが,subfrontal schwannomaの報告は極めて少ない.今回われわれは,olfactory groove meningiomaと鑑別を要したsubfrontal schwannomaの1例を経験したので報告する.

脳室穿刺により気脳症を合併した1例

著者: 目黒俊成 ,   寺田欣矢 ,   廣常信之 ,   西野繁樹 ,   浅野拓 ,   真鍋武聰

ページ範囲:P.607 - P.610

Ⅰ.はじめに

 脳室穿刺は脳神経外科医にとって基本的手技の1つであり,1度の試みで成功させなければならないことは言うまでもない.しかし実際には,最初の穿刺が不成功に終わり,繰り返し穿刺の試みを行わざるを得ないことがあるということを日常臨床で経験する.今回われわれは脳室穿刺の繰り返しにより合併症を経験した.気泡が脳内に迷入・移動するという極めて稀な現象でもあった.合併症を起こしてしまったという反省の意味も込めてここに報告する.

脳梁出血で発症した一側性内頸動脈形成不全症―1例報告と文献的考察

著者: 佐藤公俊 ,   山田勝 ,   鷺内隆雄 ,   清水曉 ,   宇津木聡 ,   藤井清孝

ページ範囲:P.613 - P.617

Ⅰ.はじめに

 内頸動脈欠損・形成不全は稀な先天性の血管奇形で,脳血管撮影で0.004%8),剖検で0.01%以下13)の頻度でみられ,脳循環動態の異常によって血行力学的負荷が生じ,脳動脈瘤を高率に合併する6).脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血,脳出血や脳虚血発作などで発症する例と無症候性例が存在する.今回,われわれは内頸動脈形成不全に伴い形成された前大脳動脈 (anterior cerebral artery;ACA)の側副血行路から脳梁出血を起こした高齢者の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

網膜中心動脈閉塞症に対する局所線溶療法―症例報告

著者: 田川雅彦 ,   杉生憲志 ,   徳永浩司 ,   佐々原渉 ,   渡邊恭一 ,   為佐信雄 ,   小野成紀 ,   小野田惠介 ,   伊達勲

ページ範囲:P.619 - P.623

Ⅰ.はじめに

 脳神経外科領域において中大脳動脈や脳底動脈閉塞症に対し,local intraarterial fibrinolysis(LIF)は広く行われており,適応症例を厳密に選択すれば極めて有効な治療法である7).一方,網膜中心動脈閉塞症(central retinal artery occlusion:CRAO)に対して,今までに様々な治療が行われてきたが,満足のいく結果が得られていないのが現状である1,3,5,9).最近,このCRAOに対するLIFの有用性を示す報告が散見されるが8,10-12),いまだ一般的な治療法とは言い難い.今回,われわれはCRAOの超急性期にLIFを行い,良好な視力の回復を得られた症例を経験したので報告する.

連載 IT自由自在

オーダリングシステムのデータ活用―データベースアプリケーション運用のコツ

著者: 松永登喜雄

ページ範囲:P.626 - P.630

はじめに

 われわれの施設では,2003年4月よりオーダリングシステムを導入した.オーダリングシステムの採用基準として,汎用型データを用いたシステムであることを前提条件とした.その結果,例えば,Microsoft社のリレーショナルデータベースソフトAccess(R)を使ってユーザーの自由度の高いデータベースアプリケーションを作成できるようになった.われわれの施設でも種々のデータベースを作成しているが,その中でも,救急患者動向を把握する目的で作成した「救急日誌」というデータベースを紹介し,われわれの観点からみたデータベース運用のために工夫すべきポイントを述べたい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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