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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科33巻7号

2005年07月発行

雑誌目次

『文化医療学cultural medical science』とは

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.641 - P.642

はじめに─「文化医療学」とは

 私が医学部を卒業してちょうど50年,半世紀が過ぎた.この間における日本人の倫理観・価値観は言うに及ばず,医師に対する社会の目,医師自身の価値観の変動は,激動期というにふさわしい.脳神経外科医としての私の医療通念も揺らぎに揺らぎつつこの半世紀を過ごしてきた.今,私に何ができるのか,考えてみた.

 「文化医療学cultural medical science」1,2)とは,文化(哲学・宗教など)と科学(医学など)を医療の現場でうまく融合させるにはどうすればよいかを考え,問題提起しようと立ち上げた新しい学問体系である.「医者は病気を診るが病人を診ない」という患者さんからの批判に正しく応えられ,医師自身も医師であることに誇りをもつことができ,幸せでありたいというのが,この新しい学問体系発想の根源である.

総説

骨髄間質細胞からの神経細胞およびシュワン細胞の選択的誘導と神経再生への応用

著者: 出澤真理

ページ範囲:P.645 - P.649

Ⅰ.はじめに

 変性や損傷など様々な原因で障害を受けた中枢神経系は,組織的にも機能的にも再生することは困難である.最近,内在性の神経前駆細胞あるいは幹細胞が脳血管障害後に増殖・分化する可能性が報告されているが,機能的回復をもたらすには不十分である22).障害後の急性期や亜急性期においては神経保護によって神経細胞死を最小限に食い止めることも可能であるが,慢性期においては失われた神経細胞を細胞移植治療によって補うというのが有効な解決法の1つに考えられる.細胞移植治療の候補として自己複製能があり,多分化能を備えているES細胞や神経幹細胞が注目されており,特にES細胞ではドーパミン作動性ニューロンの誘導や,ヒトES細胞からの神経分化の報告もある10).しかしヒトでのES細胞利用においては倫理問題などの制限がある.また神経細胞やグリア細胞への分化能力を有する神経幹細胞は,パーキンソン病,ハンチントン病,脳虚血,脊髄損傷などの変性・損傷疾患モデルにおいて有効性が報告されている6,12,14,15).しかし,神経幹細胞は胎児脳あるいは成体であれば脳のsubventricular zoneという限定された場所が主たる供給源であるので,治療に用いるには細胞数の確保が困難であるという問題がある.さらに,神経幹細胞からの神経細胞の分化誘導においてはグリア細胞の分化が伴うので,効率的な制御が必要である.

 骨髄間質細胞は骨髄の中に存在する間葉系細胞であり,造血系細胞とはまったく異なる.倫理的に問題なく容易に採取可能であり,培養下にて旺盛に増殖するので,患者本人の細胞を用いれば免疫拒絶のない自家移植系の確立が可能であるが,骨髄バンクも利用可能であるなどの多くの利点をもつ.この細胞は骨・軟骨・脂などに分化することが報告されており,分化転換能は注目されている16,17).われわれは倫理的問題のない効率的な再生医療の実現を目指して,骨髄間質細胞から目的とする特定の細胞に分化誘導する研究に着手した.発生分化を制御するNotch遺伝子を導入することで骨髄間質細胞が神経幹細胞様に分化転換し,さらに特定のサイトカイン刺激を加えることで極めて高い効率で機能的な神経細胞に誘導する方法を見い出した4).加えて軸索再生を引き出すことで知られている末梢性グリアのシュワン細胞も還元剤,レチノイン酸,Heregulin投与によって誘導可能である3).いずれも偶発的な脱分化に期待するものではなく,一定の推論に基づいて発生・分化にかかわる因子を順序だてて操作する方法である.これらの誘導した細胞を神経変性・損傷モデルに移植し,生体への生着と組織再構築を解析した.骨髄間質細胞の持つ臨床応用への可能性について考察する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

側脳室脈絡裂を介した大脳深部への手術到達法

著者: 詠田眞治

ページ範囲:P.651 - P.658

Ⅰ.はじめに

 脈絡裂(choroidal fissure)は側脳室内側壁における脈絡叢付着部で,脳弓と視床・間脳の間に形成される間隙であり,発生学的には胎生8週の時期にvascular pia materが終脳に陥入して形成される.側脳室は脈絡裂を介して,体部では中間帆(velum interpositum)・第三脳室,三角部では迂回槽後部・四丘体槽,下角部では脚槽・迂回槽に通じる.側脳室から脈絡裂を開放することで,これら大脳深部に到達できる.

海外だより

米国における脳血管内治療の現状

著者: 新見康成

ページ範囲:P.661 - P.671

はじめに

 私の“海外だより”をはじめるにあたり,まず,自己紹介を兼ねて私が米国で臨床をすることになったいきさつをお話します.私は,1983年に医学部卒業後,東京医科歯科大学の脳神経外科に入局しました.1987年にニューヨーク大学メディカルセンターで 脳神経外科の臨床フェローを1年間しましたが,その間に脳血管内治療に興味をもち,その後1年6カ月間,Dr. Alex Berensteinのもとで臨床フェローとして脳血管内治療を学びました.当時米国では,脳血管内治療はinterventional neuroradiologyと呼ばれて放射線科に属していましたが,そのころの脳神経外科主任教授だったDr. Joseph Ransohoffの強い推薦により,フェローに採用されました.Dr. Berensteinによれば,私は米国人も含めて,米国でフェローとして脳血管内治療の正式なトレーニングを受けた最初の脳神経外科医なのだそうです.

 1989年に東京医科歯科大学脳神経外科に復帰して,日本脳神経外科学会評議員,医学博士などのタイトルを取得しました.日本で脳血管内治療をしていましたが,招待講演のために来日したDr. Berensteinにスカウトされ,1994年に再びニューヨークに渡りました.ニューヨーク大学メディカルセンター,ベスイスラエルメディカルセンターを経て,現在は,マンハッタンのルーズベルト病院で,脳血管内外科のattending physicianとして臨床治療とフェローの指導をしています.この間,米国放射線学会専門医,米国放射線学会神経放射線専門医,日本脳血管内治療学会専門医および指導医を取得し,アルバートアインシュタイン大学の脳神経外科および放射線科のclinical associate professorのタイトルを持っています.現在は,日本脳血管内治療学会運営委員として,日本でも活動しています.

研究

血管内治療を施行した顔面外傷を伴う多発外傷例の検討―超緊急の外頸動脈塞栓術の意義

著者: 塩見直人 ,   広畑優 ,   宮城知也 ,   藤村直子 ,   刈茅崇 ,   徳富孝志 ,   重森稔

ページ範囲:P.673 - P.680

Ⅰ.はじめに

 多発外傷症例は治療の優先順位により転帰が左右されることが多く,初期診療の手順とタイミングの決定が極めて重要である.特に交通事故の場合には頭部,顔面外傷を伴っていることが多く,初期診療において脳神経外科医の果たす役割は大きい.

 多発外傷症例の中でも血管損傷などにより出血が持続して出血性ショックを呈している重症例は,出血源の同定と止血方法およびその時期について判断に苦慮する場合がある.顔面外傷を伴った症例においても鼻腔および口腔内から多量の出血が持続しショックとなる場合があるが,その止血方法やタイミングについて検討した報告は少ない4,8)

 近年の血管内手術の進歩により,顔面外傷による出血例に対して血管内アプローチによる外頸動脈塞栓術が行われるようになった.われわれは,これまでに顔面外傷に対して血管内手術による止血術を施行した5例の多発外傷症例を経験した.これらの症例について治療内容,治療までの時間経過,合併損傷の有無と程度,転帰などを検討することにより,多発外傷症例における初期診療の観点からみた本療法の適応および緊急性について分析したので報告する.

視床下核とその周辺構造物の3D画像の作成と活用

著者: 中野直樹 ,   種子田護

ページ範囲:P.683 - P.692

Ⅰ.はじめに

 パーキンソン病に対する外科的治療法の1つとして,慢性刺激電極を留置する電気刺激療法がある.刺激電極留置部位には視床,淡蒼球,視床下核などがあり,なかでも近年,L-dopaの減量や運動機能改善を目的に視床下核が選択されることが多い10).外科治療はどのような手術方式であっても,目標点の構造物を把握する必要がある.しかし,視床下核は体積144mm3の非常に小さな核で,その形は頭部MRIやSchaltenbrand and Wahren解剖図譜によれば,後外側下方から正中前方上方に長軸方向のあるフットボールや卵型であることがわかっている6,9,12).したがって,われわれがこのような視床下核の3次元構造を理解することは容易ではない.

 元来,脳深部電気刺激術のような定位脳手術は目標点を座標で決定するため,構造物の立体把握は必ずしも必要ない.しかしながら,手術シミュレーションや適切な電極留置計画のためには,その3次空間的理解は有用であると考えられる.神経解剖学書によれば,3次元構造の理解のためにはしばしば複数の画像図を用いて説明されている.ただし,紙上であるため複数の構造図から現実の構造をイメージすることは容易でない9)

 近年,脳動脈瘤の3次元構造を表現するthree-dimensional computed tomography angiography(3D-CTA)が診断や治療計画に有用なように,3次元(3D)画像は立体構造の把握に非常に役立つ画像である4).3D画像はコンピューターソフトの発達により,パーソナルコンピューターでも容易に使用でき,作成も簡単になった.古くから定位脳手術の目標点である視床でも3次元画像化が試みられ,その内部の核の区分が明確となり,解剖学的な位置関係の把握での有効性が報告されている5,14,18)

 本研究では,パーキンソン病に対する外科治療の脳深部刺激術における目標点である視床下核とその周辺部位の構造物の3D画像の作成とその活用について記述する.

脳梁近傍の末梢性前大脳動脈瘤に対するbasal interhemispheric approachの有用性

著者: 竹村篤人 ,   真鍋宏 ,   長谷川聖子

ページ範囲:P.695 - P.702

Ⅰ.はじめに

 末梢性前大脳動脈瘤(distal anterior cerebral artery aneurysm:DACAA)は比較的稀な脳動脈瘤で,全脳動脈瘤の2.5~9.1%と報告されている1,2,4-6,8-10,13-15,17,19,22).この部位の脳動脈瘤の手術手技は,①狭いくも膜下腔に存在するために周囲との癒着が強いことが多い,②生理的にくも膜下腔ではない大脳縦裂の剝離操作においては手術の指標になるものが少ない,③架橋静脈の温存,④動脈瘤の発育方向がアプローチと一致することが多く術中破裂に遭遇しやすい2-4,7,8,11,15,21,22),などが挙げられ比較的困難とされている.これらの動脈瘤は一般的に脳梁膝部を境界にして,①前交通動脈から前頭極動脈分岐部まで(infracallosal portion group:IPG),②脳梁周囲動脈分岐部(genu portion group:GPG),さらに③末梢(supracallosal portion group:SPG),の3つに区別されている3,7,8,13).SPG動脈瘤については片側傍矢状開頭による経大脳縦列間アプローチ1-3,8,10,13,17,19,25)が一般的であるが,IPG,GPG動脈瘤についてはanterior interhemispheric approach(AIHA)1-4,6,8,10,18,19)の報告が多い.

 われわれの施設では脳梁膝部近傍のIPG,GPG動脈瘤に対し両側前頭開頭によるbasal interhemispheric approach(BIHA)を行い比較的良好な結果を得ている.脳梁膝部近傍のDACAAに対する同アプローチの有用性を検討した.

症例

非イオン性ヨード造影剤により非心原性肺水腫,肺胞出血を来したくも膜下出血の1例

著者: 中嶋剛 ,   高橋俊栄 ,   梅澤邦彦 ,   清水敬樹 ,   岡田仁 ,   金子宇一

ページ範囲:P.703 - P.707

Ⅰ.はじめに

 ヨード系造影剤を用いた造影検査は,昨今の脳神経外科診療において必要不可欠な検査である.脳血管造影,3D-CT angiographyなどはもとより,脳血管内治療手法の確立および臨床現場における急速な普及に伴い,今後さらにヨード系造影剤の使用頻度の増加が見込まれる.

 今回,われわれは脳血管内治療後にヨード系造影剤による非心原性肺水腫を来したくも膜下出血の1例を経験したので,同造影薬剤の副作用に関した文献的考察を加え,その臨床経過を報告する.

三叉神経第2枝より生じた頭蓋内神経鞘腫の1例

著者: 奥野修三 ,   榊壽右

ページ範囲:P.709 - P.715

Ⅰ.はじめに

 三叉神経鞘腫は全頭蓋内神経鞘腫の0.8~8%を占める比較的稀な腫瘍である9,11,13).その好発部位は,三叉神経根やgasserian ganglionであり,それぞれ後頭蓋窩や中頭蓋窩を中心に増大する.一方,さらに末梢部の三叉神経枝より生じた神経鞘腫の症例も散見されるが1,2,4,9-12),このような三叉神経枝神経鞘腫の臨床像については不明な点が多い.今回われわれは,三叉神経第2枝より生じた稀な頭蓋内神経鞘腫を経験したので,その臨床症状,画像所見,および治療について既存の報告例と比較検討し,若干の考察を加えて報告する.

急性リンパ性白血病の放射線治療後に発生したprimitive neuroectodermal tumorの1例

著者: 吉田優也 ,   東馬康郎 ,   新井政幸 ,   東良 ,   柏原謙悟 ,   海崎泰治

ページ範囲:P.717 - P.722

Ⅰ.はじめに

 小児の急性リンパ性白血病acute lymphoblastic leukemia(ALL)に対する頭部放射線照射は有効な補助療法の1つで,生存率の改善や再発までの期間を延長してきた8).しかし最近になり,小児ALL治療後の長期生存例が増えるに従い,二次性脳腫瘍,特に放射線誘発腫瘍が問題となってきた.われわれは,治療後8年を経過してprimitive neuroectodermal tumor(PNET)を発症した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

脳室腹腔シャント術後に生じたspontaneous umbilical fistulaの1例

著者: 高瀬卓志 ,   多根一之 ,   鈴木俊久 ,   井上剛 ,   麓佳良

ページ範囲:P.725 - P.729

Ⅰ.はじめに

 水頭症に対する脳室腹腔シャント術は確立された治療手技であるが,術後に種々の腹部合併症が起こり得ることは周知の事実であり,感染やカテーテル閉塞の他に報告例として,fibrous encasement of the peritoneal catheter2),postoperative ileus5),volvulus8)などがある.さらに髄液の腹腔外漏出を伴う合併症としては,extrusion of the tube through the incision2),perforation of the bowel13),extrusion of the peritoneal catheter into the scrotum7)などが報告されている.今回,非常に稀と思われる,spontaneous umbilical fistulaの1例を経験したので報告する.

読者からの手紙

三次元MRAによる脳動脈瘤手術―「未破裂脳動脈瘤の治療におけるMRA volume renderingの有用性」の論文について

著者: 佐藤光夫

ページ範囲:P.730 - P.731

貴誌に掲載の「未破裂脳動脈瘤の治療における MRA volume rendering の有用性(成澤あゆみ,他:No Shinkei Geka 33: 243-248, 2005)」を興味深く拝読いたしました.脳動脈瘤の治療に際し,DSA,あるいはCT angiographyを行わず,MR angiography(MRA)の情報のみでクリッピングなどの治療に踏み切るという報告はいまだ少なく2),今回の著者らの報告はその点,timelyであり,極めて有用な情報と考えます.

 当施設でも未破裂脳動脈瘤のみならず,破裂脳動脈瘤に対してもその術前検査にMRAを積極的に用いています.MRAの三次元画像処理は著者らのvolume rendering法とは異なり,surface rendering法を用いていますが,当施設ではさらに Gd-DTPA(0.2ml/kg)の静注後に撮像を行う造影 MRA を施行し,静脈系を検討しています.著者らは造影MRAについては述べておらず,脳動脈瘤の術前検査における造影MRAの有用性について若干のコメントを加えたいと思います.

連載 IT自由自在

LANを利用した患者主要データ保存,参照システム

著者: 片倉康喜

ページ範囲:P.732 - P.735

はじめに

 脳神経外科の日常業務において扱われる情報は,診断,治療モダリティの増加に伴い,その種類と量は飛躍的に増加している.従来,紙カルテとフィルム,ビデオテープに納められていた情報に加え,写真やビデオのデジタル化に伴いハードディスク,光ディスク,半導体メモリ,デジタルテープ上のデータも多く扱われるようになった.また,学会発表においてもコンピュータープレゼンテーションが主流となり,個人で管理するデータの量も増加の一途を辿っている.

 情報を保存する場所も,個人のコンピューター,メディア,医局のサーバー,医局の本棚,戸棚,実験室等々散逸しつつある.

 データがデジタルであることの有用性は,

 ①正確な再現性

 ②複写における劣化がない

 ③伝送における劣化がない

 ④情報密度が高い(保存のための空間が小さい)

 ⑤複数の場所で同時に利用可能

 ⑥データを再利用しやすい

ことが挙げられるが,複数の保管場所・様々な端末で管理しているためにこれらの利点が十分にいかされていない場合が多い.また,データの管理が行き届かず,データを紛失する危険性も増加している.山形大学脳神経外科ではこれらの問題に対処するためにデータを統合的に,効率よく保存,利用できるシステムを模索していた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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