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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科33巻8号

2005年08月発行

雑誌目次

医学教育雑感

著者: 久保田紀彦

ページ範囲:P.747 - P.748

日本の西洋医学教育は,明治時代の医学校の開設以来,第二次世界大戦後の学制改革を経て,平成16年の国立大学の統合・法人化,非入局新臨床研修制度の導入により3回目の大改革に着手した.最近の大学入試選抜方式の多様化により,様々な経歴の医学生が誕生している.現在,多くの大学では,大学入試センター試験後の一般選抜,推薦入学,学士編入などが取り入れられている.善きにつけ,悪しきにつけ,私が40年以上前に入学したクラスの雰囲気とは,隔世の感がある.多くの大学の医学部入学生は多浪者,社会生活を経た年配者,女子学生が多くなり,高校新卒者は1~2割程度である.このクラス編成から想像するに,現在の医学生とともに語らい,教育するには,教官側として,相当の心の準備と覚悟が必要であろう.

 国家試験の出題範囲から臨床医学教育全般を見渡せば,脳神経外科に関連する神経・筋疾患,循環器疾患,救急疾患,内分泌疾患などはほぼ10%位である.この現実から,国家試験合格のためには,医学生には脳神経外科を相当必死に習得してもらわなければならない.当然,教官側にも効率の良い教育方法の努力が強いられる.最近はコア・カリキュラムの編成,Tutorial Systemの導入などで医学教育をより充実させようとする改革が進んでいる.また,試験制度にも多くの工夫が導入され,CBT(Computer Based Test),OSCE(Objective Structured Clinical Examination=客観的臨床能力試験)が行われている.CBTは平成18年度より全国一斉テストとなり,BST(Bed Side Teaching)のための臨床基礎知識習得の目安となる.臨床各科は,このテストの出題基準と傾向で全国的なカリキュラム内容の標準化と充実が図れるだろう.また,OSCEの内容を充実させ,採点を厳格にすればBST実技入門の判定基準となる.

総説

くも膜下出血に続発する正常圧水頭症とTGF-β1で誘導したマウス水頭症

著者: 多田剛 ,   本郷一博

ページ範囲:P.751 - P.757

Ⅰ.はじめに

 1965年にAdams,Hakimらが中高年の認知症患者の中にアルツハイマー病や脳血管性認知症のほかに,脳脊髄圧が正常範囲内(200mmH2O未満)で,髄液流路に明らかな閉塞がないにもかかわらず水頭症となっている患者群がいることを報告した1).これらの患者にシャント術を行うと症状が劇的に改善することから,正常圧水頭症は可逆的な認知症を呈する疾患の1つとして注目された.以来,正常圧水頭症にシャント術を行うという治療法は定着したが,現在まで診断を確定する決定的な手段はなく,その病態については依然未解明な部分が残っている.

 この病態を解明するためには臨床研究とともに動物モデルでの病態解明が欠かせない.これまで報告されている交通性水頭症の動物モデルとしてはラットの先天性水頭症の系統やvacciniaウイルスを感染させる方法があるが11,31,61),最も一般的なのはカオリン(はくとう土)を実験動物の大槽内に注入する方法である.しかし,これは第四脳室周囲の脳槽に異物反応を起こして髄液の流れを止めるいわば閉塞性水頭症のモデルで,必ずしも正常圧水頭症の病態を解析するのに適しているとは言えない23,37)

 1994年に筆者らは,くも膜下出血時に血小板より髄液中に多量に放出されるtransforming growth factor-β1(TGF-β1)が正常圧水頭症の発生に果たす役割を調べる目的でヒト型リコンビナントTGF-β1をマウスの頭蓋骨下に注入し,交通性水頭症が誘導できることを発見した55).本稿ではこれまでこの水頭症マウスを使って解析してきたくも膜下出血に続発する正常圧水頭症の病態を紹介するとともに,これまで解析されてきた正常圧水頭症での認知症の病態についてまとめてみる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Patch graftを用いた頸動脈内膜剝離術

著者: 徳永浩司 ,   田宮隆 ,   伊達勲

ページ範囲:P.759 - P.774

Ⅰ.はじめに

 頸動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy, CEA)は欧米の大規模randomized controlled trialにより症候性および無症候性の頸部内頸動脈狭窄症患者におけるstroke発生の危険性を有意に下げることが示されている12,29-32,61).最近では頸部内頸動脈狭窄症に対する頸動脈ステント(carotid artery stenting, CAS)の有効性に関する報告も多く36,76),当施設においてもCAS施行例が増加しているが,現在でも治療手段の第一選択はCEAであると考えている.今後もCEAによる治療の正当性を保つためには周術期はもとより,長期の経過観察においていても有効性を示すことが必要である.

 CEAの手術手技に関してはそれぞれの施設ごと,術者ごとに異なる点があり,それらが治療成績に及ぼす影響については結論に至っていない点も多い.そのような手技の違いの1つとして動脈縫合時のpatch graft使用の有無が挙げられる50,52,56,71,72).European Carotid Surgery Trial(ECST)における手術手技に関する分析では,patchの使用頻度に関しては術者ごと,あるいは国ごとにvariationが大きいとされた16).イギリスからの報告では21%の術者は常にpatchを使用し,29%では時に使用,一方50%はまったく使用しなかった57).本邦ではCEAの際,patch graftを用いた動脈縫合(patch angioplasty)を行う施設は必ずしも多いとは言えない状況であるが,われわれは術直後の急性閉塞および長期再狭窄の予防を目的としてroutineにpatch graftを使用している.通常はpatchを使用しない術者にとっても,生来遠位内頸動脈が細い症例やCEA後の再狭窄例などではpatch angioplastyを迫られる状況となり3,45,48,58),CEAを行う術者にとって本手技は必ず習得しておくべきoptionであろう1,3)

 CEAに必要な手術解剖に関しては本邦でも過去に多くの優れた論文があり28,37,40,41,64,77,78),本稿では解剖については実際の手術手技に関連したポイントを述べるにとどめる代わりに,術後の急性閉塞,再狭窄,patch graftに関する過去の論文をreviewし,同時にわれわれの行っているpatch graftを用いたCEAの手術手技について詳述したい.

研究

Radiosurgery時代の非機能性下垂体腺腫の治療―術後残存,再発腫瘍に対するガンマナイフ治療の有用性

著者: 岩井謙育 ,   山中一浩 ,   吉岡克宣 ,   吉村政樹 ,   本田雄二 ,   松阪康弘 ,   小宮山雅樹 ,   安井敏裕

ページ範囲:P.777 - P.783

Ⅰ.はじめに

 非機能性下垂体腺腫に対する治療の目的は,視神経の減圧による視機能の改善と長期の腫瘍増大抑制効果である.術後の残存腫瘍の再増大や再発予防のための放射線治療の有効性は報告されている5,18).しかし,長期の経過にて,下垂体や周辺組織に対する放射線障害も考慮する必要があり,周辺組織に対する影響のより少ない定位的放射線治療が,従来の放射線治療に比して低侵襲かつ有用と思われる.非機能性下垂体腺腫に対する定位放射線治療の1つであるガンマナイフの治療成績として,高い腫瘍増大抑制効果が報告されている 21,23).またガンマナイフ治療を行う立場からは,手術の目的は視神経と腫瘍の距離を十分保てるまで摘出を行うことであるとの意見もあるが15),手術とガンマナイフをどのように組み合わせるかは,十分検討されていない.われわれは,ガンマナイフの有用性を考えた非機能性下垂体腺腫に対する治療を行ってきたのでその治療成績を報告する.

テクニカル・ノート

慢性硬膜下血腫の手術における内視鏡の利用

著者: 塩見直人 ,   重森稔

ページ範囲:P.785 - P.788

Ⅰ.はじめに

 慢性硬膜下血腫の手術は,現在では局所麻酔下における穿頭血腫洗浄術が一般的である.本疾患は高齢者に多いため,手術に際しては合併症なく施行するだけでなく,再発を予防することが重要である.筆者らは,再発を予防する工夫の1つとして内視鏡を用いた手術を行ってきた11,12).慢性硬膜下血腫の手術における内視鏡使用についてはこれまでにいくつかの報告があり,その目的や使用する機種も様々である3,5,7,12).筆者らの内視鏡使用の主たる目的は術中の血腫内腔の観察であり,内視鏡は硬性鏡を使用している11-13).今回,内視鏡を用いた穿頭血腫洗浄術の手術手技について報告する.

症例

くも膜下出血で発症した解離性内頸動脈瘤の1例

著者: 杉野敏之 ,   福田俊一 ,   山本一夫 ,   木戸岡実 ,   大塚信一

ページ範囲:P.791 - P.795

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内の内頸動脈の解離性動脈瘤の報告は,診断技術が進んだ現在でも少ない.また,これらの多くは虚血症状で発症することが多く,くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage,SAH)で発症する硬膜内内頸動脈の解離性動脈瘤の報告は稀である.

 われわれは,内頸動脈C1-2部に生じた頭蓋内解離性内頸動脈瘤を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

ラトケ囊胞と非機能性下垂体腺腫が合併した1例

著者: 郭樟吾 ,   田中俊英 ,   沢内聡 ,   土橋久士 ,   大塚俊宏 ,   沼本ロバート知彦 ,   村上成之 ,   小峯多雅 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.797 - P.803

Ⅰ.はじめに

 ラトケ囊胞は大部分がRathke's pouchの遺残から発生する非腫瘍性鞍内囊胞であり,以前は稀な疾患とされていたが,近年少なからず報告されている.しかしラトケ囊胞と下垂体腺腫が合併した報告は少なく,特に非機能性下垂体腺腫との合併例はわれわれが渉猟し得た範囲では過去に1例のみである.今回われわれは,ラトケ囊胞と非機能性下垂体腺腫が合併した稀な1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

急性期血腫のMRI像を呈した感染性石灰化慢性硬膜下血腫の1例

著者: 佐藤公俊 ,   山田勝 ,   清水曉 ,   宇津木聡 ,   今野慎吾 ,   藤井清孝 ,   菅信一

ページ範囲:P.805 - P.808

Ⅰ.はじめに

 1966年にBirknerら3)が初めて周囲が石灰化した慢性硬膜下血腫をarmoured brainと名付けて報告した.以来,5例6-9,11)の報告があるが,MRI所見の報告はYamadaら11)の1例のみである.今回,われわれは血腫内容の感染に伴い急速に症状が悪化した石灰化慢性硬膜下血腫の1例を経験したので,そのMRI像の特徴について報告する.

ラジオ波凝固療法を併用した経皮的椎体形成術により治療を行った転移性脊椎椎体腫瘍の1例

著者: 徳永浩司 ,   杉生憲志 ,   三好康之 ,   三村秀文 ,   金澤右 ,   伊達勲

ページ範囲:P.811 - P.815

Ⅰ.はじめに

 経皮的椎体形成術(percutaneous vertebroplasty, PVP)は,経皮的に金属針を脊椎椎体内に進め骨セメントを椎体内に注入する方法で,椎体病変由来の疼痛を除くことを目的とする.適応疾患としては骨粗鬆症性椎体圧迫骨折が代表的であるが10),椎体および椎弓根内に溶骨性変化を生じる転移性椎体腫瘍もよい適応である.

 一方,ラジオ波による凝固(焼灼)療法(radiofrequency ablation, RFA)は,ジェネレーターで発生したラジオ波を病変部に刺入した専用の電極から周囲組織に通電させ,病変の凝固壊死を得るものである.以前から不整脈や三叉神経痛,パーキンソン病などの治療に用いられてきたが,最近のシステムでは針の内部冷却やパルス式通電により電極周囲の組織を炭化,蒸散させることなく広範囲に凝固させることが可能となっている.これにより悪性腫瘍に対する治療への応用が年々盛んとなっており,放射線科領域では肝臓や肺,腎,骨等の腫瘍に対して同法による治療が積極的に行われている4,7)

 これまでにPVPとRFAを併用した報告例は少なく,今回われわれは除痛と腫瘍増大の抑制を目的として両法を一期的に行った転移性椎体腫瘍の1例を経験したので報告する.

環椎骨巨細胞腫の1手術例

著者: 土屋裕人 ,   小久保安昭 ,   櫻田香 ,   園田順彦 ,   斎藤伸二郎 ,   嘉山孝正

ページ範囲:P.817 - P.823

Ⅰ.はじめに

 原発性骨腫瘍のうち骨巨細胞腫の発生頻度は全体の約5%程度を占め,その大部分は長管骨骨端部,特に大腿骨遠位部に多く,脊椎に発生する頻度は低い(7~13%)3,5,7).そのうち,環椎原発骨巨細胞腫はわれわれが渉猟し得た限りでは4例の報告があるのみで,極めて稀である2,8,10)

 今回,われわれは環椎原発骨巨細胞腫の1手術例を経験したので,臨床所見および治療に関して報告する.

第4脳室外に発生した脈絡叢乳頭腫の1例

著者: 光山哲滝 ,   井出光信 ,   萩原信司 ,   田中典子 ,   河村弘庸 ,   相羽元彦

ページ範囲:P.825 - P.829

Ⅰ.はじめに

 脈絡叢乳頭腫(choroid plexus papilloma, CPP)は比較的稀な神経外胚葉性腫瘍であり,脳室内脈絡組織から発生する.全脳腫瘍の0.4~0.5%を占め16,17),成人では後頭蓋窩にみられ,第4脳室内に発生するものがほとんどである18).稀に第4脳室外に大きく発育することがあり,この場合術前診断が困難である1,2,7,8,10,12,13,15,18-21).術前診断に難渋した第4脳室外に発育したCPPの成人例を経験したので,文献的考察とともに報告する.

報告記

9th International Conference on Neural Transplantation and Repair in Taiwan 報告記(2005年6月8日~11日)

著者: 安原隆雄 ,   伊達勲

ページ範囲:P.830 - P.831

2005年6月8日から11日まで4日間の会期で,9th International Conference on Neural Transplantation and Repair(INTR9)が台湾,台北市のGrand Hotel Taipeiにて開催されました.このホテルは乃木将軍が建立された台湾神社跡に建つ歴史あるもので,まずその大きさと美しい夜景に圧倒されました.会長は Tzu-Chi大学脳神経外科のShinn-Zong Lin教授が務められ,250名の神経移植・再生分野の専門家が一堂に会しました.当科からは座長として招かれた伊達 勲教授のほか,日本から3人の大学院生がStudent Travel Award を頂き台湾に乗り込んでまいりました.ちなみに筆者は2005年1月より,アメリカ ジョージア州のゴルフで有名なオーガスタにある,Medical College of Georgiaにて,高名なCesario Borlongan先生のもとに研究留学中であり,オーガスタ→アトランタ→ソウル→タイペイ,と1日がかりの空の旅を楽しんで, Borlongan先生,留学中の名古屋市立大学神経内科 松川則之先生と3人で参加しました.

 学会は,31の講演の合間にポスターセッション(132演題)が組み込まれる形で進行しました.1日目は神経栄養因子,脊髄,幹細胞のセッション,2日目はパーキンソン病,脳梗塞・ハンチントン病のセッション,3日目は遺伝子,アルツハイマー病の各セッションが設けられました.特に神経幹細胞,骨髄間質細胞など,いわゆる幹細胞に関連した演題が多くみられたことが印象的でありました.台湾のグループからは,慢性期脊損症例に対する酸性線維芽細胞増殖因子と腓腹神経移植を組み合わせた治療により長期予後が改善された症例が示されました(Cheng H et al. Spine 29:284-288, 2004).プラセボ効果の検討や他施設からの報告などを待つ必要はあるものの,有用な治療につながる可能性もあるものと思われました.

連載 IT自由自在

PowerPointによるプレゼンテーション資料作成の効率化

著者: 新妻邦泰 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.832 - P.837

はじめに

 近年,コンピュータープレゼンテーションは重要性を増しており,その中でもMicrosoft PowerPointを用いる機会が増加している.PowerPointによるプレゼンテーション資料作成は時間のかかる作業であり,われわれ臨床医にとってはいかに効率よく作成するかということが重要な問題となる.今回,PowerPointに内蔵されている「マクロ」や普段はあまり使わない機能,その他ソフトウェアを用いてプレゼンテーション資料作成を効率化する手法のうちのいくつかを紹介する.なお,WindowsとMacintoshは共通する内容が多いが,基本的にはWindowsマシーンを用いることを前提として説明する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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