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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科33巻9号

2005年09月発行

雑誌目次

The tip of the iceberg

著者: 森竹浩三

ページ範囲:P.849 - P.850

最近,ある学会誌より児童虐待をテーマに原稿を依頼され文献検索を行った.その際,目にとまったのが本文標題“The tip of the iceberg─”で始まる論文タイトルである.“tip of ice─”ときたので,まず連想したのが13日金曜日にあのジェイソンも使ったアイスピック(ice pick)である.「氷山の一角」を「アイスピックの尖端」と早とちりした.冒頭から誠に低次元な話である.しかし─,bergは英語ではなくドイツ語(der)Bergではないか,といつもの詭弁回路がswitch onした.英和辞書(研究社:リーダーズ英和辞典)をひくとbergは氷山[iceberg]とある.Concise Oxford 英英辞典で調べるとbergにはshort for ICEBERGの,またicebergにはa large mass of ice floating in the seaの訳があり,後者には -ORIGIN C18: from Du. ijsberg, from ijs‘ice’+ berg ‘hill’の注釈が付いていた.どうやら18世紀オランダ語起源のtermのようである.医学を含め出所の曖昧な言葉に出会うことがある.わが国のような島国に少ないかどうかわからないが,ヨーロッパ大陸のように国々が国境を挟んで地続きで隣接しているところでは,長い歴史の過程で交易や侵略を通して文化,言語が入り乱れ新たな言葉が生まれるのは当然のことであろう.筆者も約30年前の西ドイツ留学時代,その種の言葉の語源を調べると意外なところに辿り着いたり,迷い込んだりしたことがある.ここ10数年,医療や医学教育の現場にクリティカルパス,チュートリアルなどカタカナ用語をスローガンに含んだ改革が次々と実施されている.いかんせん,外来語を骨格としているためか,本質的な議論になるとその改革の意義や用語の意味が時折曖昧となることがある.改革が必要なのは百も承知である.しかし制度改革をはかろうとする者は,その意義を十分理解し現場の情況も把握したうえで不退転の覚悟でスタートして欲しいものである.マンパワー,時間的余裕のある(暇な),あるいは専従要員の確保できる“理想的”職場は別として,日夜業務に追われる者にとっては思いつきやトップダウンで矢継ぎ早に改革を持ち込まれてはたまったものでない.また改革の成果については長期的価値観から評価を自ら求める姿勢を示してもらいたい.

 児童虐待の防止等に関する法律が昨年10月またもや一部改正され,児童虐待早期発見の責任の明確化,被虐待児の保護,自立支援施策への協力が明文化された.通告義務については虐待の事実が明らかでなくとも,「一般人の目から主観的に虐待があったと思うであろう場合」も含まれることになり,それ以外の義務も追加された.児童虐待の約半数を占める身体的虐待のうち生命を脅かし重症化の原因をなすのが頭部外傷であることから,脳神経外科医のかかわる機会が増すことが予想される.児童虐待例に遭遇した場合,上記のような責任,義務をわれわれ医療従事者が立派に果たし得るであろうか.この問いに「否」と答えざるを得ない経験をしたのでthe tip of the icebergとして紹介する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

拡大経蝶形骨洞手術

著者: 北野昌彦 ,   種子田護

ページ範囲:P.853 - P.864

Ⅰ.はじめに

 経蝶形骨近接法(transsphenoidal approach)は,下垂体腺腫に対する第一選択の術式である.本法はアプローチに伴う脳損傷がまったくないという利点があるが,鼻腔という解剖学的に限られた空間より進入するため,術野が狭く深い欠点がある.標準的な経蝶形骨洞法では,前方や上方への術野の展開は後部篩骨洞の膨隆により制限され,左右は海綿静脈洞の下壁の一部を露出するのが限界である.このため,腫瘍の摘出において最も重要かつ危険な視神経,海綿静脈洞,内頸動脈周囲の操作が,盲目的にならざるを得ない.そして,このことが重篤な手術合併症を引き起こす原因となる.これを避けるために,上顎洞を経由する経上顎洞法や顔面を切開して篩骨洞を削除する経篩骨洞法など,多くの方法が報告されているが,いずれの方法も侵襲的なため一般化していない6).本稿では,従来の方法では手術治療が困難であるトルコ鞍近傍腫瘍に対する,粘膜下後部篩骨洞開放による拡大経蝶形骨洞法について解説する.

海外だより

“アルプスの国 スイスの脳血管内治療について”―チューリッヒ大学病院 神経放射線科での5年半の臨床経験から

著者: 田中美千裕

ページ範囲:P.867 - P.875

1998年10月から2004年の3月の5年半にわたり,スイス連邦にあるチューリッヒ大学病院の神経放射線科で働いていた時の経験から,欧州・スイスでの脳血管内治療の様子についてご紹介いたします.
Ⅰ.スイスまでの道のり

 【国立循環器病センター】 まずはどうしてチューリッヒ大学なのか,そのいきさつについては少し説明が必要です.私の所属していた横浜市立大学脳神経外科教室教授の山本勇夫先生のご支援により,1994年から96年の2年間,国立循環器病センターの脳血管外科でレジデントとして働くチャンスがありました.当時,部長をされていた橋本信夫先生(現 京都大学教授)には大変お世話になり,また臨床でも研究でも素晴らしい仕事をしている多くの先輩 脳神経外科医に刺激され,私のような出来の悪いレジデントにも臨床や手術だけでなく,学会発表などの機会も与えてくれて,この2年間がなかったら,チューリッヒ大学には行っていなかったと思います.

研究

高齢者頸動脈狭窄病変に対する血行再建術の治療成績

著者: 穂刈正昭 ,   石川達哉 ,   黒田敏 ,   中山若樹 ,   斉藤久寿 ,   吉本哲之 ,   寺坂俊介 ,   岩﨑喜信

ページ範囲:P.877 - P.882

Ⅰ.はじめに

 近年,平均余命の延長,並びに周術期管理・血行再建手技の進歩により,高齢者頸動脈狭窄病変に対する血行再建術の有益性が増し,その適応が拡大しつつある.70歳以上または75歳以上の高齢者は,高齢なだけで周術期合併症の危険因子との報告がある一方7,8),80歳以上でも,専門医との連携のもと慎重な周術期管理を行えば安全にcarotid endarterectomy(CEA)は行えるとの報告も多く出ている1,3,11).ただし,いまだ高齢者の定義が一致していないこともあり,今回われわれは年齢が頸動脈狭窄病変の病態・治療方法・その成績にどのような影響を与えているかを検討した.

テクニカル・ノート

Pterional approachのためのcraniotomy

著者: 金子伸幸 ,   栗田浩樹 ,   日野健 ,   永山和樹 ,   坪川民治 ,   田中奈保子 ,   藤塚光幸 ,   中村正直 ,   塩川芳昭

ページ範囲:P.885 - P.892

Ⅰ.はじめに

 Pterional approachはYasargilらによって報告22)されて以来,脳神経外科の臨床において最も頻繁に行われている基本的approachであり,orbitozygomatic approach14),temporo-polar approach16,17),extradural temporopolar approach5)などにも応用されている.当教室では,術後の合併症予防と美容的な配慮を熟慮しつつ,いかに顕微鏡手術に必要十分な術野を得るかを目標にいくらかの工夫をして本approachを用いている.そして,特に主観的な深さを軽減するためにすり鉢状の術野を得ることを重要視しており,顕微鏡下手術では160mmの短いbayonet micro scissorsを好んで用いている(Fig. 1).本稿では,われわれのpterional approachのためのcraniotomyの方法とその工夫を文献的考察を加えてステップごとに概説する.

症例

脳内出血にて発症した横静脈洞部Hemangiopericytomaの1例

著者: 白井和歌子 ,   徳光直樹 ,   佐古和廣 ,   高橋利幸

ページ範囲:P.895 - P.900

Ⅰ.はじめに

 Hemangiopericytomaは全身性に発生し得る腫瘍であるが,頭蓋内に発生するものは全脳腫瘍の約0.2%を占めるに過ぎず比較的稀である.今回われわれは脳内出血で発症した,横静脈洞部より発生したと思われるhemangiopericytomaに静脈洞再建を用いて全摘し,良好な経過を辿った1例を経験したので報告する.

頭蓋骨転移を来した肝細胞癌の1例

著者: 川原一郎 ,   堤圭介 ,   廣瀬誠 ,   松尾義孝 ,   横山博明

ページ範囲:P.903 - P.909

Ⅰ.はじめに

 肝細胞癌(HCC:hepatocellular carcinoma)は高率に他臓器転移を来すが,その多くは肺,所属リンパ節,腹腔内臓器への転移である.従来,頭蓋骨への転移は極めて稀であると報告されてきた1,2, 7-11,13,14,16,17,19,20)が,近年では原疾患の予後向上とも相まって増加傾向にあり,以前ほど稀な病態ではなくなってきている3,5,18).本論文では,最近経験したHCCからの頭蓋骨転移症例を報告し,近年における本疾患の臨床的および画像診断学的特徴について文献的考察を加える.

海綿静脈洞血栓症との鑑別が困難であった海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻の1例―Paradoxical worseningから自然治癒に至るまでの経時的血管撮影所見の変化

著者: 立嶋智 ,   秋山雅彦 ,   長谷川譲 ,   阿部俊昭

ページ範囲:P.911 - P.917

Ⅰ.はじめに

 海綿静脈洞部硬膜動静脈瘻 cavernous sinus dural arteriovenous fistula(CavDAVF)は静脈洞の血栓化により自然閉塞することがあり,それに伴い臨床症状も改善,あるいは治癒することが一般的である.その一方で,CavDAVFが閉塞しているにもかかわらず一時的に眼症状を中心とした臨床症状が悪化するparadoxical worseningという現象が知られているが,その症例報告数はあまり多くなく,正確な病態生理については不明な点も多い1,6-8)

 われわれは特異な血行動態とparadoxical worseningのために海綿静脈洞血栓症との鑑別が困難であったCavDAVFの症例を経験し,自然治癒を確認するまで複数回血管撮影を施行し得た.本症例の臨床経過と経時的血管撮影所見の変化はparadoxical worseningの病態生理を理解するうえで有用であると思われたので報告する.

小脳結核腫の1例

著者: 谷岡大輔 ,   阿部琢巳 ,   池田尚人 ,   九島巳樹

ページ範囲:P.919 - P.923

Ⅰ.はじめに

 頭蓋内結核腫は,多くは肺結核からの血行性転移により主に脳底槽や脳実質に形成される2,21, 23,25).頭蓋内結核腫は血液検査では異常を示さないことが多く,また髄液培養や髄液PCR(polymerase chain reaction)法での検出率も確実ではなく,いずれも決定的な所見はない17,20,23).先進国では比較的稀な疾患であったが,近年,後天性免疫不全症候群(AIDS)に伴う日和見感染症として注目されるようになり,今後ますます増加することが予想される2,4,22,23).今回われわれは,頭痛で発症し診断に至る特徴的な検査所見を認めず,診断に苦慮した成人小脳結核腫を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

もやもや症候群を呈したダウン症の1剖検例

著者: 渡部憲昭 ,   西野晶子 ,   荒井啓晶 ,   西村真実 ,   鈴木晋介 ,   上之原広司 ,   桜井芳明 ,   鈴木博義

ページ範囲:P.925 - P.929

Ⅰ.はじめに

 もやもや病の診断基準において,ダウン症などの特別な基礎疾患に伴う類似の脳血管病変は除外されており,それらはもやもや症候群と称される.ダウン症に伴うもやもや症候群については,これまで多くの報告がみられるが,病理学的検討はわずかに2例の報告を認めるのみであり,その病態,発生機序については,現在も明らかにはされていない.今回,もやもや症候群を呈し脳梗塞にて死亡したダウン症例を経験したので,病理学的検討および文献的考察を加え報告する.

報告記

第13回世界脳神経外科学会参会記(2005年6月19日~24日)

著者: 新井一

ページ範囲:P.930 - P.931

第13回世界脳神経外科学会(World Congress of Neurological Surgery)が,6月19日~24日の日程でモロッコのマラケシュにおいて開催されました(図1).アフリカ大陸で初めての開催となる今回の学会には,世界各国から約2,500人の参会者があったとのことでした.8年後に予定されている第15回の学会開催地に京都が立候補しているということもあり,日本からも多くの先生方が参会されました.モロッコはイスラム国家であり,当初は米国の会員に敬遠されるのではとの危惧もあったようですが,Dr. Rhoton,Dr. Jane,Dr. Spetzler,Dr. Heros,Dr. Laws などお馴染みの顔ぶれを含め米国からも多くの参会者があったように思います.

 学会のRegistration deskがうまく機能せず,参会者用のName Tagやプログラムを受け取るために4~5時間行列をつくらなければならないという強烈な歓迎を受けました(図2).行列が夜の10時過ぎまで続くといったこともありましたが,この状況は学会前日から2日目まで変化することなく,異なった文化の国に来たということをまざまざと実感させられました.一部のセッションが演者欠席のため中止になったというような話しも聞きましたし,Registration Deskの大混乱を含め学会運営に若干の問題ありという印象をもちました.会長のDr. Khamlichiは,会長講演のなかでモロッコを中心に発達途上国における脳神経外科の現状と問題点を述べました(図3).モロッコの人口は約2,900万人で脳神経外科医は150人,カサブランカ,ラバト,マラケシュなどの大都市ではMRIなども整備されているが決して十分といえる状況でないことを知ることができました.日本脳神経外科学会も大きく貢献していますが,World Federation of Neurosurgical Societies(WFNS)が中心となって行っている発展途上国への援助を継続して行っていくことの必要性を改めて感じました.

連載 IT自由自在

医療用業務サーバーからの全自動取り込みによる画像ライブラリ作成

著者: 藤澤博亮 ,   野村貞宏 ,   梶原浩司 ,   加藤祥一 ,   藤井正美 ,   石田博 ,   井上裕二 ,   松永尚文 ,   真田泰三 ,   岡部英洋 ,   八木英俊 ,   原田正治 ,   鈴木倫保

ページ範囲:P.932 - P.937

背景と目的

 現在の山口大学医学部LAN(local area network)は,各種オーダリングや医事会計など病院の通常業務を行う業務LAN,医学部および附属病院内のイントラネットである集学LAN,そして各研究室にある研究用端末を結ぶ学内LANによって構成されている(Fig. 1, 2).山口大学医学部附属病院では,病院業務はオンライン化され,富士通のHOPE/EGMAIN-EXというソフトによりオーダリングシステムが構築されている.このオーダリングシステム上では,現在,CTやMRIの参照画像を手軽に見ることができるようになっている(Fig. 3).この参照画像は,フィルムをそのたびに取り出すことなく所見の確認ができ,また紙に印刷してカルテに綴じることができるなど大変に便利である.しかしながら,業務LAN上の業務サーバーには全診療科の画像データが日々保存,蓄積されていくため,容量の問題からいつまでもそのデータが残されるわけではない.また,業務LANはウィルス感染防止その他のセキュリティーの関係から完全なクローズドシステムとなっており,運用上,フロッピー,MO,CD他のメディアの接続は許可されず,規定のプリンター以外は接続できない.そのため,この参照画像を医局や個人のコンピュータに移動することはできず,学会発表や論文投稿などに利用できない.この不都合を解消するため当病院では,放射線部や病理部など各部門サーバーからの各種データはいったん業務サーバーに蓄積され,その後から集学LAN上に設置された集学サーバーに送られる(Fig. 1).各診療科は(使用端末を登録することにより)集学サーバーにアクセスすることができ,各種データを後利用することが可能となっている.

 そこでわれわれは,集学サーバーから全自動で脳神経外科関連のCT・MRI画像およびCR画像を取り込み,患者の画像ライブラリを作成することを企図し,そのための専用ソフトを開発した.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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