icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科34巻1号

2006年01月発行

雑誌目次

今,求められる日本の脳神経外科医

著者: 小川彰

ページ範囲:P.3 - P.4

近年の医療制度改革や医学教育制度改革など欧米の制度を無批判に模した制度の導入が様々な分野で進んでいます.これが決して正しい方向とは思えません.歴史や風土,社会の制度や構造が異なる所に形式的な制度を模倣することはまさに「百害あって一利なし.」でしょう.

 日本の脳神経外科は欧米とはかなり違った歩みの歴史の中で発展してきました.日本における脳神経外科専門医数は6,000名を越え,人口当たりの脳神経外科医は世界で最も多いとされています.しかし,欧米では手術と手術前後の数日間の診療を担当しほとんど手術に特化しているのに対し,日本の脳神経外科は救急医療をはじめとしたプライマリケアや放射線診断などの診断分野から手術,血管内治療,放射線治療など治療分野,また,その後の経過観察治療さらにリハビリテーションなど後療法分野まで幅広く担当しており,手術もさることながらトータルケアとしてまさに患者中心の医療を実践しているという現状があります.事実,日本専門医認定制機構において内科,外科,産婦人科や小児科などと並んで「基本領域の診療科」の一つに挙げられています.これは脳神経外科がいわゆる2階建部分の手術の専門診療に特化したsubspecialtyの診療科ではないと位置づけられていることを示しています.その意味で日本の国民から期待されている診療領域の範囲は広く多岐にわたっているといって良いでしょう.

総説

近未来の脳血管内治療

著者: 村山雄一

ページ範囲:P.7 - P.15

Ⅰ.は じ め に

 カテーテルを用いた脳血管内治療は脳動脈瘤に対する通電離脱式プラチナ性コイル(Guglielmi detachable coil;GDC)の開発が契機となり7),その治療適応は大きく拡大した.1997年より本邦でもGDCによる塞栓術が可能となり,さらに2002年のInternational Subarachnoid Aneurysm Trial(ISAT)の報告で,脳動脈瘤に対する血管内治療は現在ほぼ確立された治療として認知されている14).また,社会的にも低侵襲治療への期待が高まり,脳血管内治療に対する関心は強くなっている.

 これまで脳血管内治療の安全性の確立が最優先課題であったが,現在はより確実性を求められており,さらに高い安全性と治療効果を高めるためのさまざまな研究がなされている.

 本稿では脳動脈瘤を中心に脳血管内治療領域の最新研究を紹介し,その近未来展望について概説する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

眼窩腫瘍の解剖と手術アプローチ―経頭蓋アプローチについて

著者: 坪井康次 ,   能勢晴美 ,   松村明 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.17 - P.28

Ⅰ.は じ め に

 眼窩病変では,眼窩のどこにどのような病変があるのか,それに加えて術者の経験に従ってどのアプローチを選ぶかを判断することになる.その手術アプローチをまとめるとFig. 1のようになる.このなかで,頻度が高いのは眼窩外側からのアプローチ(lateral orbitotomy)と経頭蓋的アプローチ(transcranial approach)である.通常,lateral orbitotomyとanterior orbitotomyは眼科医により行われ,inferior orbital approach(caudal approach)は稀に耳鼻科医と眼科医により行われる.吉本は本誌第16巻1号に外側からのorbitotomyの手技についても詳細な解説を行っているが12),われわれの施設で脳神経外科医が登場するのは経頭蓋的にアプローチする場合のみである.文献を調べると,このような眼窩に対する最初の経頭蓋的アプローチは今から80年以上も前にDandyが報告している4).以後,筆者らも含めて8,9),さまざまなアプローチが述べられてきた.初期の論文では主にどのようにして骨組織を開けて眼窩へ至るかについての議論になっているが1,3,5),microsurgeryが一般的となってからは眼窩内へのアプローチも詳細に述べられている2,6,7,11).筆者らは,20症例に対してここで述べる同一の手技を用い眼窩上壁を開放して眼窩内にアプローチし,眼窩内腫瘍を摘出してきたので,本稿ではその手技と手術成績について解説を行うことにする.

 腫瘍の直径は2~3cm程度だが,ここで述べる経頭蓋アプローチでは,皮膚切開が長く眼窩から前頭骨の開頭が複雑である.眼窩腫瘍に対する手術の第一の目的は安全に腫瘍を全摘出することであるが,その際に視力を回復または温存して両眼視機能を保ち,かつコスメティックな問題も一気に解決しなければならない.そう考えるとやはり本法は不可欠なアプローチであると言わざるをえない.ここに提示した症例は,すべて脳神経外科医と眼科医の合同手術で行った症例である.まず,眼窩の上壁の開放までは脳神経外科医が担当し,眼窩内操作は眼科医と脳神経外科医で行う.そしてその後の頭蓋および眼窩の形成と閉創は,脳神経外科医が担当している.

研究

小児もやもや病脳血管造影における間歇的補助呼吸下マスク麻酔の経験

著者: 東保肇 ,   植裕司 ,   林剛史 ,   原保史 ,   原朋子 ,   細井哲

ページ範囲:P.31 - P.34

Ⅰ.は じ め に

 もやもや病は両側内頸動脈先端部を中心に緩徐な閉塞が起こり,進行すると閉塞が後大脳動脈にまで及ぶ原因不明の脳血管障害である.その代償として,それらの末梢へ側副路が発達してくる1-3,6,7)

 通常,本病について正確な診断と的確な治療を決定するためには,脳血管造影が必要となる.小児もやもや病の診断治療において過換気動作となる渧泣は,採血や放射線学的検査,特に無麻酔下の脳血管造影の際に起こり得ることで,渧泣が持続する場合は脳血流量が過度に低下し脳虚血を惹起することがあり得る.小児もやもや病における脳血管造影は,特に低年齢では挿管による全身麻酔下に行われているのが現状である.その際は,全身麻酔だけでなく,抜管後の気道刺激による分泌物増加や咳嗽が低二酸化炭素血症を惹起するリスクとなり得る.

 今回,自発ないし間歇的補助呼吸下でのマスク麻酔による呼吸管理の下に脳血管造影を施行し,その有用性につき検討した.

症例

AVM手術における術中超音波の有用性

著者: 田中禎之 ,   今井治通 ,   寺田友昭 ,   板倉徹

ページ範囲:P.37 - P.43

Ⅰ.は じ め に

 超音波は以前から脳神経外科領域で頻用されていたが9),CTやMRIに比べ解像度が劣ることから,術前診断に使用されなくなった.しかし,最近の超音波装置の発達は目覚しく,特に血行動態や血流量も解析できるcolor Doppler imagingやpower Doppler imagingなどの画像処理技術の開発により6,12),頸動脈狭窄病変の診断を中心に頻繁に使用されるようになってきている.筆者らは,超音波装置の簡便性および非侵襲性に5,7),リアルタイムに情報を得られるという特長を考慮し,AVM(anteriovenous malformation)手術の術中使用で3),その有用性について検討したので報告する.

動眼神経上枝に発生した眼窩内神経鞘腫の1例

著者: 古野優一 ,   笹島浩泰 ,   立澤和典 ,   大和田敬 ,   峯浦一喜

ページ範囲:P.45 - P.49

Ⅰ.は じ め に

 眼窩内神経鞘腫は眼窩腫瘍の1~6%2,8-10,14,15)である.発生母地となった神経が同定できた症例は限られており,多くは発生部位が明確に特定されずorbital neurinoma4,8)として報告されている.その理由として眼窩内は,その狭い空間に脂肪組織,筋,血管,結合組織とともに多数の神経が混在していること7),術前に明らかな神経脱落症状を伴わないことなどが挙げられる8).今回,眼窩内神経鞘腫の1例を経験し,術中に動眼神経上枝が発生母地であることを同定でき,術後に神経脱落症状を呈することなく摘出できたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

マンニトールの投与により高カリウム血症を来した脳動静脈奇形の1例

著者: 木村重吉 ,   小川治彦 ,   片山容一

ページ範囲:P.51 - P.56

Ⅰ.は じ め に

 マンニトールの投与により,血清電解質に変化を来すことが知られているが,血清カリウム値の変動に関して,過去の報告では低下ないしは生理的変動内というものが多く,血清カリウム値の上昇が報告されたものは少ない.われわれは,マンニトール投与後に高カリウム血症を呈した1例を経験したので報告する.

後頭葉のpilocytic astrocytoma摘出により治癒し得た片頭痛の1例

著者: 北川雅史 ,   佐藤岳史 ,   石崎竜司 ,   齊木雅章

ページ範囲:P.59 - P.64

Ⅰ.は じ め に

 片頭痛は頭痛発作を繰り返す疾患で,中枢神経系の神経細胞の興奮性亢進によって起こるとされている.臨床においては比較的頻繁に遭遇する疾患であり(本邦では8.4%22),アメリカ合衆国では女性17.2%,男性6.0%15)),スマトリプタンの出現により,一般内科においても治療されるようになっている24).通常は器質的異常を伴わないが,片頭痛と脳虚血との関連に関しては比較的多くの報告があり,その発生メカニズムが議論されてきた18,19).また,片頭痛と頭蓋内占拠性病変の合併についても報告が散見される1,5,7,11,14,16,17,20,21,23,25,26,28)が,その頻度は極めて稀である(0.2%11,27)).今回われわれは,典型的なmigraine with auraで発症した右後頭葉のpilocytic astrocytomaの1症例に対し,摘出術を行い,術後片頭痛の消失をみた.片頭痛と頭蓋内腫瘍との関連について,文献的な考察を加え報告する.

難治性神経性高血圧症に対する神経減圧術の1例

著者: 田村陽史 ,   近藤明悳 ,   田辺英紀 ,   佐々木享

ページ範囲:P.65 - P.71

Ⅰ.は じ め に

 本邦における高血圧患者は約3,500万人と推定され,成人3人に1人が罹患していることになる11).高血圧は脳卒中の最大危険因子であり,脳神経外科領域においても,血圧のコントロールは治療上極めて重要である.高血圧の成因としては,遺伝的要因および加齢,塩分,肥満などの生活環境因子や腎性高血圧症などの2次性高血圧に加え,中枢神経,特に交感神経刺激が関与している可能性が考えられている.1979年にJannettaとGendellによって左延髄外側の拍動性血管圧迫が神経性高血圧症の原因であるという概念が報告され8),交感神経活動に重要な部位として吻側延髄腹外側野(RVLM)が示唆された2).その後,実験的に同部位の刺激による交感神経機能亢進によって血圧が上昇すると証明され10,16,22),実際の臨床においても脳血管によるRVLMへの圧迫刺激が原因で発症した高血圧が,神経減圧術(MVD)により降圧できると報告されるようになった7,14).今回,われわれはあらゆる経口降圧剤に抵抗した難治性神経性高血圧症に対してMVDを行い,満足すべき長期結果を得たので症例の詳細を報告するとともに,本疾患の診断,手術適応,および問題点について考察する.

脈絡叢乳頭腫/乳頭癌7例の検討

著者: 野下展生 ,   隈部俊宏 ,   嘉山孝正 ,   冨永悌二

ページ範囲:P.73 - P.81

Ⅰ.は じ め に

 脈絡叢乳頭腫/乳頭癌(choroid plexus tumor: CPT)は全頭蓋内腫瘍の0.4~1.0%程度といわれる稀な腫瘍である3,15,22,24).その好発年齢は2歳以下が全体の70%を占めると報告されており3,5),小児に多い8,11,25).好発部位は小児と成人で異なり,小児では側脳室,成人では第4脳室で多い25).脳室内に発生することがほとんどだが,稀に脳室外発生も報告されている12,19).治療に関しては,手術による全摘出の可否が予後にかかわるといわれるが5,8,18,25),補助療法については議論が分かれている.これまで単一施設での治療成績についてはいくつか報告があるが2,3,6,8,13,15,16,18,22),日本国内においては症例報告を散見するにとどまる12,14).本稿では当施設においてMRI導入以降の1989年より治療したCPT 7症例の臨床経過について検討し,過去の文献的考察を加えて報告する.

報告記

2005 Congress of Neurological Surgeons Annual Meeting(2005年10月8日~13日)

著者: 佐藤光夫

ページ範囲:P.82 - P.83

2005年の第55回Congress of Neurological Surgeons(CNS)Annual Meetingは10月8日から13日の会期でマサチューセッツ州ボストンで開催されました.学会場はBack BayのJohn B. Hynes Convention Centerで,ここはCopley Placeの一角にあり,周辺のホテルやショッピングモールなどと遊歩道でつながっており,比較的快適な学会参加が可能となるよう設営されていました.

 ボストンでのCNS開催は今回3回目ですが,今年はEmory UniversityのOyesiku教授を会長とし,“Quo Vadis ?”をメインテーマに開催されました(写真1).今回はEuropean Association of Neurosurgical Societiesとの合同セッションもあり,欧州諸国からの参加者が例年より多かったと聞いています.10月8,9日は例年通りPractical Courseが開催されました.10日から13日の午前のGeneral Scientific SessionではそれぞれTopics,Theories,Tools,Therapiesという日替わりの主題のもと,9~15人の指定演者による一般講演とノーベル文学賞受賞者であるSoyinka教授などの特別講演がありました.日本でもお馴染みの Heros 教授が今回のHonored Guestであり,連日登壇し自身の脳動脈瘤やAVMなどの膨大なシリーズを分析し,発表していました.

脳神経外科をとりまく医療・社会環境

脳神経外科領域における医療過誤―下級裁主要判例の検討

著者: 福永篤志 ,   古川俊治 ,   大平貴之 ,   須田清 ,   河瀬斌

ページ範囲:P.85 - P.94

Ⅰ.はじめに

 医療過誤訴訟は年々増加傾向にあり,最高裁判所の調査によると,平成16年度の新規受件数は1,107件と,初めて1,000件を突破した.平成11年度が569件だったので,わずか5年間で倍増というハイペースである.

 一方,ハインリッヒの法則という労働災害における法則によると,1件の死亡・重症事故に対して,通常の危機は300件存在することが知られている.これを医療過誤訴訟にあてはめると,年間1,000件以上の訴訟が発生しているのだから,年間30万件以上もの医療過誤訴訟になりうる通常の危機が発生していることになる.これは,現在日本全国に約25万人の医師が働いているので,まさに「医師1人に訴訟1件」の危険が毎年存在することを意味している6)

 最高裁判所の調査では,平成16年度の医療過誤訴訟の新規受件数を診療科別にみると,内科,外科,整形・形成外科,産婦人科の順となっていて(Fig. 1),現在のところ,順位に目立った傾向はみられない.

 医療過誤訴訟の増加は,脳神経外科もその例外ではない.アメリカでは,もはや保険会社に支払う年間保険料があまりにも高額すぎて,脳神経外科を廃業してしまった医師もいると聞く.

 そこで,本研究では,平成元年度からの比較的新しい脳神経外科領域の医療過誤訴訟の実際の裁判例について調査し,その判決理由(判決の内容)について,争点や裁判所の判断などの奥深くにまで踏み込んで検討した.脳神経外科領域ではこのような報告はこれまでになく,今回の研究で新しい知見が得られたので報告する.

連載 英語のツボ 英文論文の書き方(2)

日本人に参考になる英文論文の書き方

著者: 大坪宏

ページ範囲:P.97 - P.102

は じ め に

 各論の英文論文の書き方の前に,少し一般的ですが論文を書く姿勢について実際の現場を踏まえて触れてみたいと思います.論文を書き上げる作業は基本的に協同作業です.特に若い医師たちにとっては論文はsupervisorの指導,添削,校正を享けることで完成します.ということは,若い医師たちのmotivationと,mentor(良き助言者,師)であるsupervisorの歯車が上手くかみ合っていなければなりません.Supervisorは若い人に方向性と目的意識をきちんと教え,論文の添削と校正は彼らのmotivationが持続している時期に,できるだけ速やかに,かつ着実に完了させる責任があります.Part 1で荒木先生の論文に2年以上の歳月をかけましたが,論文として完成するまでsupervisorは諦めてはいけません.つまりsupervisorが論文の舵を握っているといっても過言ではないのです.ですから今回述べることは,臨床で超多忙な脳神経外科のsupervisorと若い医師たちに参考にしてもらい明晰な論文を書き上げて欲しい私からの助言です.

IT自由自在

リアルタイムモバイルテレコミュニケーションの開発と脳神経外科救急医療体制への応用

著者: 長谷川光広 ,   東馬康郎 ,   岡本禎一

ページ範囲:P.104 - P.107

■はじめに

 脳神経外科医である読者の中で,次に述べるような状況で明瞭な診断画像がどうしても必要と感じたことのある方々は少なくないはずである.例えば,学会,出張,その他で院外にいる時に,①他科の当直医から救急患者の診察あるいは手術要請があった,②若い留守番脳神経外科医から救急患者の報告と緊急手術の許可を求められた,あるいは,③血管内手術の適応について,現在撮影中のDSA画像を提示しながら他院の専門医に技術的アドバイスをもらいたい.④出張に出かけている部長に,急変患者の最新画像を報告したい,等々.現在,院内はPHSで,院外ではモバイルで,海外でも簡単に瞬時に音声で通信できる時代である.脳神経外科救急医療における初動体勢をより迅速にかつ正確にするためには,音性通信と同時に重要医用画像もあわせて情報伝達できるシステムを構築することが切望されている.

 これまでにも,多くの遠隔画像コンサルテーションシステムの工夫が報告されてきた3-5)が,光ファイバーを用いた高画質固定通信はインフラ整備に時間と巨額な資金が必要であること,携帯電話あるいはPCにmail添付形式で静止画像を送る簡易移動型は思いのほかその操作が煩雑で時間もかかるなどの問題があり,いまだ急性期脳神経外科疾患の対応には汎用されていないのが現状である.テレビ電話機能をもつ第3世代の携帯電話FOMA(㈱NTTドコモ)の画質の向上とコンパクトな画像伝送装置の開発(㈱ナナオ)により,電話をかける操作1つで,受け手がどこにいようが,良質の医用動画画像を用いたコンサルテーション(いわゆるリアルタイムモバイルテレコミュニケーション)を瞬時に行うことを可能とした2).本稿では,最近の電子カルテと連動させることにより,システムの活用がさらに簡便となった点をふまえ,ここにそのシステムの概略と実際を紹介したい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?